「つ、疲れた……たかが歌姫、されど歌姫ね……」
地球圏の非公式訪問と、その後の歌姫としての日程を終わらせたラクスは顔にこそ
出てはいないものの、そうとう疲れていた。
本編の彼女の役柄、とっても簡単そうに見えたのだけど…とため息混じりにそう切実に思うラクスではあったが
その苦労の末にパナマ攻略戦の反戦運動と、パナマ攻略部隊(アラスカ奇襲部隊)のラクス派の介入がある程度は完成していた。
「シルフィール隊長が正式に、パナマ攻略戦の司令官に決定して、私から情報をリークしたから
ある程度は史実より良い成果、できうる限りの消耗を抑えることができるはずね。
後、他のラクス派も過激な派閥を除いた比較的冷静な人材を探しておかないと。今後は色々と大変になるだろうし。」
本編のバルドフェルドは、地上の戦闘や戦術に関しては有能だが、戦略、大戦略レベルまで行くと
少し難がある。本編でラクス派の行動を考えれば納得いくものである。
「シンシア・シルフィール隊長だけだと心配だけど、後心当たりのある人のうち、ティア・ユリーシスさんは
カーペンタリア基地及び基地守備軍司令で動けないし、後は宇宙軍のダンレン・ドーコン隊長ぐらいね。」
ティア・ユリーシスは、第二次ビクトリア攻略戦時の司令であり、ダンレンは宇宙軍で連合第三艦隊壊滅時に活躍した隊長であった。
両者とも、クライン派、特にティアはラクス派であるが、穏健派であるクライン派に所属していることからも
戦争の早期和平しか、プラントの存続は無いと考えているものたちであった。
ザフト地上軍は、ヨーロッパ、東アジア戦線で消耗し、優秀な人材が少しずつ減っていたため弱体化し、信頼の置けるレベルの
有能な人材はシンシアとティア程度しか現状はいなかった。
元ラクス派、つまりはクライン派でも過激派分類にラクスがしている分類ではこちらのことを考えずに行動に出る可能性もあり
信用はできても信頼は置けない。
「参謀本部のユウキ隊長にも接触しておく必要があるし、最悪、アラスカ戦後地上軍の再編も必要になるわ。」
ラクスが考えていたアラスカ戦後のシナリオには地上軍の大幅な再編があり、優秀な地上軍士官は極力抑えておく必要性があった。
消耗している地上軍を再編しなければアラスカ戦の影響で総崩れする可能性があり
そのため、ラクスはカーペンタリア基地司令であるティアの環太平洋方面司令への推薦を各界に圧力を掛けるようにした。
穏健派議員、穏健派軍人、更には財界まで巻き込んで圧力を掛けることでどうにかしようとしていたのだ。
「ティアさんには少々大変でしょうが、してもらわないと。地球の安定のためにも。
宇宙軍はいまだ大々的な消耗戦はしていないですから、再編と言っても大したことはないですね。」
と、ほぼ各界への圧力の終わっているアラスカ攻略戦の方に考えが行く。
「アラスカ攻略戦は勝っても、惨敗してもいけない。敗退はいいですが、できる限り消耗率は抑えてほしいですね。
最低でもパイロットの生存率は高くしてほしいものです。」
ラクスはそういった趣旨のメールを既にシンシアに送ってあったが、ラクスの言うとおり、プラントにとってパイロットは
最優先で保護したい人材であった。今から、新しいパイロットの補給など殆どできはしないのだ。
人口的に2000万のプラントには、国家総力戦、特に消耗戦はやってはいけないことであり、パイロットの保護は最優先事項であった。
「まあ、シンシアさんに託すことしか私はできないのですけど。」
と、そういうとすぐに新しい仕事をこなし始める。
いまは、適当にキラ・ヤマトの方に関して、ラクスのいるシーゲル邸で治療中だが、仕事の多さでまったく彼に手をつける余裕はない。
というか、彼にフリーダムで出て行ってもらって困る。
ラクスとしては、スーパーコーディネイターであるキラという駒は驚異的に必要不可欠であり
不本意に手を出して、不殺の精神などもたれては困る。
戦争で死は当たり前だ。目の前の死をなくしても、味方の死でそれを償っては意味がない。
「ユーレン・ヒビキだっけ……確か、当時の科学者の生き残りがプラントにいたような…
とにかく、ザフト初の大西洋連邦領土内の戦闘になるアラスカ奇襲戦は同時にプラント本国の革命の時でもある。」
ラクスは、アラスカ戦の結果をプラントの放送局以下のマスコミに漏らす…リークする予定だった。
それでさらに反戦運動をあげようとしていた。急進派に政権、議長の座を渡すわけには行かないのだ。
そして、ラクスの思惑がひとつ絡んだオペレーション・スピットブレイクは、パトリックがそうとも知らずに発動を迎えようとしていた。
太平洋、軒並みカオシュンおよびカーペンタリア基地はあわただしかった。
オペレーション・スピットブレイクにむけて、両基地はその準備に余念が無かったのだ。
ザフト軍のパナマ攻略戦とされ、実際にはアラスカ奇襲戦であるオペレーション・スピットブレイクは
事前の下準備を『アラスカもパナマも狙える』基地であるカーペンタリア、カオシュン、ジブラルタルの三基地のフル稼働により実施される
だが、特に潜水艦隊を出すカーペンタリアとカオシュンの各基地はあわただしいのは仕方ない。
もっとも、相手にその事実がばれないように(実際にはクルーゼによってばれている)ジブラルタルからも潜水艦隊が発進する準備はされているが…
そんななか、ラクスからの情報を託されたシンシアは、カーペンタリア基地の司令室である人物と話していた。
「ですから、あなたからお姉さまにお願いしていただけませんか?」
シンシアが頼んでいた彼女は、カーペンタリア基地、及びカーペンタリア基地防衛艦隊司令ティア・ユリーシス…
もし、大西洋連邦にいたならばの仮定でポストから批准すれば、少将であろう…彼女は、シンシアから渡された資料を
既にすべて読み終えて、少し息をついたところであった。
「私からは、お姉さまに頼む余裕があるか、わかりませんが……できる限りのことはしてみますわ。」
大きな緑のリボンで抑えた髪は、淡いブロンド、いや、むしろ銀色といえるもので、もし彼女がラクス側陣営にいることが
アズラエルに知られれば『うらやましい過ぎるっ!』ということ、間違えなしの美少女であった。
そう、少女…ザフト軍最年少の司令でもある、彼女はその能力だけで別にここにいるわけではない。
能力主義のザフト軍でも、何の理由もなしに彼女がカーペンタリア基地司令などになれるはずもない。
彼女の姉、ユリア・ユリーシスは、プラントにおける産業で最大シェアを持っている企業連合の会長をしている。
ちなみに姉は、23歳。彼女は17歳である。
姉からの圧力が無かったといえば、嘘になる。
そんなことはとっくの昔に彼女は知っており、またそれ以上に姉に迷惑はかけられないと考えてもいた。
と、ワインレッドの瞳をシンシアに向けると、その容姿はおとぎ話から出てきた
まるで不思議の国のアリスのアリスかと言われても仕方なかった。それほど『小さい』わけである。つまりチビだ。
「ありがとうございます。ですが、作戦全体に左右する恐れもありますので、できるだけ最終段階での
『緊急避難的措置』としてでしか使えません。最初から使用すれば、最高司令部から叩かれるし。」
最後に少しため口が入るシンシアだが、別に彼女とティアの関係は何にも無いわけではない。
25歳の隊長であるシンシアからすれば、妹のように見えるティアを可愛がらないはずも無く、彼女とティアの関係は
それなりに良好だ。作戦上、できるうる限り相手に最大の被害を与えようとするシンシアと自軍の被害を考えて行動を起こす
ティアは、両極端な作戦指揮を行うのだが、それと関係にはそれといった問題は起こしていない。
シンシアにしてみれば、それも軍人として必要なことであると考えているし
また、ティアはそもそも企業に姉を持つ経済家でもある。
最小費用の原理(一定の成果を最小限の費用で行うこと)
と最大効果の原理(一定の費用で最大限の成果をあげること)は両方あって成り立つものであり
戦争でも、最小費用を考えるティアと最大効果を考えるシンシアは、実質的にはひとつの戦争の方法でまとめられると考えているからだ。
「そうですの。何時見てもため口ばかりなのですね。シンシアさんは。」
「ええ。まったく、司令部も前線の司令である私にぐらい情報を提供すればいいのよ。
だいたい、司令部の軍人教育もあまり分からないわ。シナリオがあって、それに沿って作戦を考えていくっていうのは確かに必要かもしれないけど
実際に戦闘時にシナリオが決まっていると思っているのか、バカ。」
民兵上がりのプラント軍、つまりはザフトがここまでできたことは、シンシアとティア無しでは無理であっただろう。
シンシアのカーペンタリア攻略戦や、ティアの第二次ビクトリア攻略戦は両極端な戦術ではあっても、結果はそこの占領であり
この作戦無しに、現在のザフトは存在していない。
特に、ほとんどザフト側に被害なく攻略された第二次ビクトリア攻略戦では、攻略という内容よりも
ザフト軍の損耗率がほとんど一桁台という事実が、それを物語っているといえる。
そのため、このままなら大西洋連邦以下の地球連合に勝てると思い込んでしまったのが史実や青の軌跡のザフト軍であった。
だが、ここにいる二人にとって、現状ですら地球連合に負けているといる考えだったのだ。
「大西洋連邦をなめてはいけませんわ。あそこは、地球圏の経済の中心国。連合の軍産連合の本拠地なのですから。」
「歴史上、いつも戦争の理由は実際には経済戦争だったのと同じってわけね。
特に20世紀以降の現代史はそうだわ。第一次・第二次大戦、そして再構築戦争。すべて経済戦争といって過言ではないわ。
そして、これもそれを演出した軍産連合とそれを利用した私たちとの対立ってね。」
「お恥ずかしいことながら、私の父がその発端ですわ…お父様は、確かに言っていらっしゃいました。
世界の経済を制したものこそが、本当の世界の支配者だと…」
この世界の覇者になろうとする軍産連合と狭義のプラント…大規模生産施設…は、そのままそれを保持する国家の対立となった。
つまりは、軍産連合を有する大西洋連邦以下の地球連合と、大規模生産施設を有するプラント政府との。
イデオロギーの対立、とは言ったもので、実際にはイデロオギーを利用した対立…それがこの世界の基本的な構図であった。
「その親父さんは既に他界し、世界はその二大勢力の争いか…だけど、このままなら仕掛けた軍産連合の勝ちね。
今の会長、つまりはあなたの姉はカリスマ力やその手腕は認めるけど、問題はプラント本国よ。
急進派では、そもそもファクトリー(プラント最大の企業)が考えていた戦争終結ができやしない。」
当初、ファクトリーが予測していた戦争終結は、圧倒的なプラントが宇宙における制宙権を維持し、その際でプラントの自治権を
認めさせ、そのまま連合盟主国である大西洋連邦との同盟関係で二大勢力の協調政策へ転ずると考えていた。
現代戦は、やたらとお金がかかる。
それを長期間も行うほど、大西洋連邦には余裕が無いはずだった。特に、連合ご自慢の宇宙艦隊が壊滅でもすれば
その打撃は、天下の大西洋連邦でも耐えられるものではない。
だが、予測を超えたブルーコスモス運動や、国内の反連合主義である急進派の成長により、それはできず父親は70年末に死亡
現在では、そのひび割れが急進派政権という最悪の形で維持されていた。
「とにかく、この要請はお姉さまに頼んでみますわ。それと、その兵器へのミラージュコロイドはすぐに手配しておきます。
私の名義でよければ、お使いください。プラントの経済が後ろにいれば、パトリック議長も早々手は出せませんから。」
だが、シンシアからすれば、そのパトリックがラクス派、つまりは穏健派第一派によって暗殺されるだろうと予測していたため
そんなことは別にどうでも良かった。
自らを過信しすぎているプラントのコーディネイターには、いいお灸になるのがこのアラスカ戦だろうと考えているラクスの考えに
基本的にはシンシアは賛成するし、わざわざこの事実を最初に教えたのがティアではなくシンシアであったのも分かる。
ティアでは、人道的な面から賛成することではないだろう。
『わざと、ある程度の大負け戦をする』という、この作戦の穏健派だけが知る隠れた目標のためには
効率的な後退戦術でシンシアを上回る能力を持つティアはいいかもしれないが
勝てるかもしれないにもかかわらず、負けるというこの作戦は、むしろ死者を多く作るという意味でティアが納得するものではない。
だが、あまりにも多くの生存者を残しては、急進派に打撃が与えられないのも事実であり、ちょうど良い負けがシンシアには
要求されていた。
「…そうね。とにかく、ティア。例の件もよろしくお願いね。私は今から行かないといけないから。」
「分かりましたわ。シンシアさん。私もご用意させていただきます。」
この誰も知らない会談が、史実ならあった歴史的敗退を少し変えたのだから、歴史とはえてして分からないものである。
桜色の改編 第三話
一気に連合軍中枢を叩く趣旨を持ったオペレーション・スピットブレイクが始動されるに当たり
大西洋連邦参謀本部では、アラスカに"敵を誘い込み”殲滅すると言った趣旨の考えがサザーランド大佐から提案されていた。
「…というわけで、この情報からするに、大西洋連邦の連合に対する影響力を強めるため
この事実は、ユーラシア・東アジアの各国には伝えず、大西洋連邦軍主力はパナマにて"予測されている”敵迎撃という
名目でアラスカより移動させます。」
サザーランドの言った内容に、多くの将校は、この情報の信憑性を疑っていた。
なぜなら、そんなことでユーラシアの連中らの支援も無いパナマに攻撃を受ければ、迎撃こそ可能でも大損害の可能性があり
さらには、戦後の大西洋連邦の影響力にも影響を与えかねないからだ。
そのため、反ブルーコスモス派の軍人たちがサザーランドの出した内容に異見を唱えた。
「しかし、それでは地球連合の最高司令部であるアラスカが陥落する可能性もあるということではないのかね?」
「防衛戦力は、ほぼ連邦の保持する余剰戦力の役半数を集結させますし、それでも防衛できない場合
アラスカ基地地下に搭載したサイクロプスを起動。基地ごと、ザフト軍を全滅させます。
指揮系統に関しては、司令部をグリーンランドの新最高司令部に移行させますので問題ありません。」
この言葉に、反ブルーコスモス派は驚いていたが、先ほどの驚きよりは十分弱かった。
彼らは大西洋連邦の軍人であり、後方要員はいるが、主力戦力の大半がパナマにあり、ユーラシアの連中がいくら死ぬだろうが
どうでも良いと考えているものが多いからだ。
だが、反ブルーコスモス派が懸念しているのは、これによってできるユーラシアとの溝でもあった。
「だが、それではユーラシア連邦との仲が悪くなる。戦時中にユーラシアとの同盟が切れるといったほうがよっぽど危険なのだよ。
確かにあまり好き好めないロシア熊だが、それでも一応同盟国だからな。」
「そのためのジャベリン、そのためのダガーを主力とするMS隊。そのためのMS空挺部隊です。
さらには、念には念をという考えから、第四洋上艦隊を連中の作戦発動とともにミッドウェーから北上させますし、さらには大西洋連邦だけでなく
ユーラシア連邦、東アジア共和国の各国にも航空隊の追加支援要請を出します。
サイクロプスはあくまでも最終手段であり、これだけの防衛戦力があれば、アラスカも十分に防衛できると考えます。」
もっとも、敵に防衛戦力を壊滅されれば、使いますが…と続けるサザーランドの言葉は反ブルーコスモスも納得した。
結局のところ、大西洋連邦本土であるアラスカに敵の前線基地ができれば、困ってしまうのだ。
最悪、基地の放棄もかねたサイクロプス使用は確かに納得できるし、それだけの被害を被って敵戦力が残っているぐらいなら
サイクロプスごとすべて消し飛ばしたほうが、ユーラシアの溝よりも優先であったからだ。
これは、ユーラシア並びに北米のアラスカ周辺の防衛のため…という口実で、ユーラシアも納得できる内容であり
使用しても、実際溝は最小限でするはずであるという考えもできる。
そう考えると、反ブルーコスモス派の将校も納得し、彼らさえ納得すればアズラエルの力が史実よりも強いため
その案はすぐに通り、アラスカには大西洋連邦のMS隊の余剰戦力を、洋上艦隊他の主力戦力はパナマに展開
その穴は、ユーラシア連邦極東日本列島方面軍、及び東アジア共和国 日本列島方面軍より抽出されることとなった。
また、アズラエル盟主の予定通り、アリューシャン列島の各航空基地にはジャベリン、MSステルス輸送機が用意され
さらには、ミッドウェー基地に第四洋上艦隊がザフト側のスピットブレイクに連動してアラスカ基地支援のため待機することとなった。
だが、そういった行動は、完全に青の軌跡本編を見ていたラクスにとって予測範囲の行動であることを誰も知らなかった。
北太平洋の海上に今までに類を見ないほどの多数ものザフト軍潜水母艦が集結していた。
北太平洋方面軍と南太平洋方面軍を中心に、インド洋艦隊も含めた総勢数十隻にも上る潜水母艦群は
ザフト軍第一潜水艦隊と暫定的に決定され、その第一潜水艦隊旗艦『ライン』ではシンシアが命令は今か今かと待っていた。
戦闘がしたいわけではないし、彼女にとって戦争は『究極の大量消費』としか思っていない。
ただ、彼女は命令を待っていただけであった。
「司令ッッ!!オ、オペレーション・スピットブレイク発動されましたッッ!
そ、それが目標が…」
慌てる参謀連中たちに呆れたシンシアは呆れつつ、ためいき混じりに話す。
「アラスカなんでしょう?あわてないで頂戴。あんたたちも本気でパナマ攻略するとでも思っていたわけ?
情報駄々漏れでパナマ攻撃すれば、確実にうちの負けだから、それは陽動っていうぐらいは思いついてほしいわ。」
「司令は知っていたのですか?」
「当たり前よ、どうせ、クルーゼ指揮下の別働隊は既に動いているはずだから、他の全部隊に通信回線を開いて頂戴。」
現在、水中音波で潜水艦隊全軍は通信回線が繋がっており、それを利用して全艦にシンシアは通信を入れた。
「ザフト軍アラスカ奇襲作戦司令で第一潜水艦隊司令のシンシア・シルフィードよ。
全軍聞いてちょうだい。アラスカ攻略はほぼ無謀の極みだわ。だけど、司令部が攻略しろっていうからにはしないといけないわ。」
いきなりの軍法会議ものの発言に、各艦の司令が呆然となるなか、シンシアは続ける。
「保障はできないけど、私も全力を尽くすわ。プラントの国民のために、全力を持ってアラスカへの攻撃を掛けてちょうだいね。
各艦発進、目標地球連合軍統合作戦本部『JOSH−A』ッ!!」
プラントのためにという掛け声で多くの混乱していた兵士たちは、冷静を取り戻し、士気が上がり
同時に発せられた命令は、各艦全体の士気と、ザフト軍の底力見せてくれる…といったところであった。
「各艦コンディション・レッド発令、コンディション・レッド発令ッ!ディン隊以下のMS隊発進用意初めッ!」
その士気で、艦隊はすぐにアラスカまで移動を開始する。発動から実際の攻撃開始まで若干のタイム・ラグがあるところも、この作戦の
大きな問題点ではあったが、それでもわずか12時間程度で全潜水艦隊以下の部隊は予定の作戦開始ポイントに到着した。
各艦が、アラスカの海に顔を出す。
「各艦に伝達。搭載しているできる限りのミサイルによる第一次攻撃を友軍の宇宙軍増援降下ポッド
に連動して行うわ。直ちにミサイル装填してちょうだい。同時に上陸部隊はディン隊を専攻して、ザウートは後方支援に徹しさせなさい。」
砲兵はおとなしく砲兵に徹しれば良い。戦車程度で破壊されるザウートにザフト軍は何を考えていたかシンシアは
さっぱりだったが、後方支援に徹することを命令すると宇宙軍のポッド射出時に出す合図の信号を出させた。
その合図と同時にザフト宇宙軍の投下艦からポッドが次々と投下されていく。
それが潜水艦隊からも確認されると全軍はまとめて顔を出し、一斉にミサイルを発射した。
一隻あたり、搭載していたミサイルの三分の一である20発を発射し、それがこの本隊で潜水艦30隻の大部隊は
600発という桁外れのミサイルの雨となって連合軍のレーダーに映し出される。
「バーク司令っ!宇宙から多数の降下ポッドを確認、同時に敵潜水母艦確認しましたが、同時に
目測でも数百はいくと思われるミサイルが一斉に発射されましたっ!」
連合軍アラスカ最高司令部司令バーク准将はその報告に先手を打たれたことを痛感したがすぐに命令を下す。
「迎撃ミサイル、及び対空隊に迎撃を命令。降下部隊にまでミサイルは割けられないッ!
とにかく、全軍に総員戦闘態勢を通達しろ、同時に洋上艦隊と航空隊で各ゲートの防衛を開始させろっ!」
バークの命令で、アラスカ基地から多数の迎撃ミサイルが発射されるが、そもそもNジャマーで命中精度が著しく落ちている
迎撃ミサイルにそれをとめることなどできない。大半はそのまま所定のポイントに誤差範囲内で命中する。
第一波攻撃は、主に各ゲートの洋上艦隊のドックと航空隊の基地に集中されており、それはアラスカ基地にとって
防衛隊の行動を著しく制限させるものであった。
「第二ゲートのドックにミサイル15発命中、駆逐艦『オレーグ』『ロロ』大破、残存の艦艇も発進不可能ですっ!」
「第一と第二の航空基地が破壊され、航空隊の約半数が消失したとの報告ですっ!」
「メインゲート、ミサイル命中したものの、二隻の駆逐艦の大破だけで、出港は可能とのこと。直ちに防衛させますっ!」
次々と飛び交う悲惨な報告に、ザフト軍でも優秀な司令官がこの作戦に従事しているとバークは直感的に感じた。
緒戦で、あえて前線である第一次防衛ラインなどではなく、後方のドックと航空基地を破壊したということは後方の予備戦力の
攻撃を恐れたということである。
より中心に向けられるほどミサイルの迎撃率は上がるが、最初の一発目ということで迎撃体制が完全ではなかったとはいえ
80%以上のミサイルが命中してしまったという事実は、連合軍の兵士の錬度低下も含めて失態であった。
「第一次防衛ラインの連中には無理な戦闘はせんように言え。やつら、やれるぞ。」
「敵潜水母艦群、ディン及びザウート隊を発進させていますっ!位置はスワード半島東部ですっ!」
「敵別働隊と思われる潜水母艦群ロマンヅフ岬付近に確認しましたが、偵察隊ごとディンの攻撃を受けて全滅。
また、バグゥ隊も上陸した模様ですっ!」
追手追手と連合軍が、押されているころ、ザフト軍側のシンシアはとにかく、ディン隊とザウート隊を利用して敵の主要戦力を押さえ込んでいた。
連合軍航空隊は、最初のミサイル攻撃で発進が鈍っており、その隙に次々とディン隊が戦車隊を攻撃したのだ。
それだけではない。使えない、戦車でも破壊できるといわれ、連合軍から雑魚扱いされていたザウートが後方からのしつこいほどの
制圧砲撃を実施し、徹底的に対空陣地を攻撃したのだ。
また、それ事態を止めようとする特科部隊は、上空から投下されたジン隊によって近距離戦を行わされ次々と破壊されていた。
「まあ、奇襲作戦だからこれぐらいは当たり前だわ。ただ、連合軍航空隊が出てくれば負けよ。グーンやゾノには地上にはでないで
まず、敵洋上艦艇を徹底的に叩くように言ってちょうだい。
別働隊はどうせ上陸したはずよ。バグゥ隊はもっと後でいいわ。とにかくディンとザウートの上陸を最優先して。」
このような、砲撃力を局地的に集中させる戦法で、連合軍は総戦力ではザフト攻撃隊を圧倒していたのにもかかわらず
有機的に利用できず、前線の部隊は何もできないまま、制空権をザフトに奪われて消耗していた。
「第一次防衛ラインはズタズタです。司令。」
「第二次防衛ラインまで戦力を後退させろッ!総力では我々が圧倒的なはずだ。特科部隊をそのままに
戦車部隊を後方の部隊のものから引き抜いて攻撃させろっ!
航空隊はどうなっているっ!」
「はっ、既に第14、第15航空隊が敵主力のいるところへ攻撃を開始しました。
また、予備の第16航空隊も敵別働隊の方面に攻撃を開始しました。」
このアラスカ基地本隊には二個航空隊が待機していたが、それ以外にも合計すれば二個航空隊を超える戦力が待機していたはずであった。
一回のミサイル飽和攻撃で一個航空隊に一匹するだけの戦力が消耗してしまったのも痛かった。
更に、ユーラシア連邦本国と大西洋連邦のアリューシャン列島の航空隊の支援も時期に来るだろうが、だとしても厳しい痛手であったのは事実だ。
「カラミティ、フォビドゥン、レイダーはどうした?」
「はい。既に戦闘を開始しております。ですが、その部分は優勢でも敵が後方に回り込み、後続の部隊にまで続きません。」
ザフト軍は、カラミティなどの新型連合MSに対して、切り札はあったが、まだ到着しておらず
そのため、あえて迂回路を通って、彼らを無視していた。
そのため、ザフト軍もそれなりの消耗をしていた。
「敵砲撃型新型により第14MS中隊が全滅、更に第16のMS中隊が損耗50%との報告です。」
「空でも、敵の変形型MSにより、ディン隊が大打撃を受けております。更に連合軍航空隊も入ってきており…」
このダメージはザフト軍には痛いものだったが、なんとも押さえ込みつつ進撃は続いていた。
フォビドゥンによって、前線の水中MSにも損害が目立ってでいたが、それでも局地的に敵軍と同数の戦力を集めることで
ザフト軍は瓦解せず、各防衛ラインを叩いていたのだ。
「…例の三体を集めて敵前線を突破させろ。」
バークとしては、このまま総崩れされては意味がない。
これだけの戦力を集中させたのだ、連合軍は敵軍の主力部隊ではおされ気味であるものの、その他の部隊は十分な防衛をしている。
とくに、第二、第四ゲートに関してはほぼ敵軍の追い返しに成功していた。
もっとも、メインゲートと第三ゲートは相手側に押されており、特にメインゲートの洋上艦隊は最初の攻撃の直接的な被害を
受けていないのにも関わらず、フォビドゥンの支援が無いせいもあって、ザフト水中部隊に遊ばれており
既に洋上艦隊の30%が大破などの戦闘行動不能の状態に陥っていた。
「よろしいのですか?」
「いくら、戦闘で勝ってもアラスカが落とされては意味が無いっ!
敵主力部隊に例の三機と第十五独立部隊に無人の戦車隊をつけて支援させろっ!
もちろん、航空支援も忘れるな。敵主力の押し返しをなんとしても行うのだっ!
そのうちに、他の方面の部隊からいくらか抜いて防衛ラインの再編と再攻勢に出る用意をさせろ。」
バークの命令によって、三機は別々の場所で行動をしていたのだが、ザフト軍主力の存在するスワート半島から
アラスカ基地に続く行路に集結する。
だが、三機はまったく、連携のれの字も無いまま、個別にその周辺で戦闘を開始する。
それでも、ザフト軍はPS装甲、更には彼らの無茶苦茶な操縦もあってなかなか戦線突破ができなくなっていた。
「ちっ!連合の新型、やれるなっ!いいか、全機、やつらに単独で戦闘を行うな。
やつらはやれるぞッ!」
古株のパイロットには、今までの経験で連合軍の底力は凄いものであることを知っており
コーディネイターといえども、自分の能力を過信することがいかに戦闘では甘いことかわかっていた。
ましてや、このアラスカ戦に投入された部隊のうち、精鋭部隊の数は1割を軽く超える。
中でも主力部隊の第一線で活躍しているこのシレーカー隊長指揮下のシレーカー隊は
三機で一チームとして連携した攻撃を行うため、シンシアがわざわざ前線に出して、連合軍の消耗を強いていた。
彼女が軍に進言して、まだ十数機しかない、専攻試作型ゲイツを彼らの部隊に配備させたのもそのためである。
「隊長っ!ですが、奴ら、連携のれの字も無いように見えますが…」
「ばか者っ!あれは連合のXナンバーだ。一機でクルーゼを悩ませたという奴の同類機だぞ。
油断が敵だと何度もいっていたはずだ。いいな、各機一チームごと一機を連携して攻撃しろ。わかったな?」
「了解っ!」
このゲイツのほかにも、とにかくシンシアのつてでこのアラスカ戦にはディンの一部にビームライフルを持つ部隊もあり
Xナンバーの破壊のため、精鋭部隊が彼らとの戦闘に入っており
連合軍の精鋭部隊は各地でザフト軍の精鋭部隊と激戦を繰り広げることとなった。
こういった精鋭部隊同士が戦闘をしていると、結果総戦力で不利なザフト軍は次第に雲行きが怪しくなっていった。
「よし、俺たちが一番乗り…」
そういったパイロットの乗るジンがビームの一撃で破壊され
隣にいた友軍機は一瞬行動を止めてしまう。
「なに、ビームだと…」
連合の量産型MS『ストライク・ダガー』隊が行動を開始すると、それは更に濃厚になる。
ザフト軍のジンを超える能力を持つダガー隊は、ザフト軍前線に投入され、精鋭部隊を欠いたザフト軍は脆くも崩れていく。
その報告を聞いてシンシアは激怒する。
「なんですって?!ジンよりもいくらか性能が良くても、コーディネイターとナチュラルよ。
その差で埋めることぐらいできるはずでしょうが!」
「ですが、連合のMS隊は、必ず二機以上で行動し、単独で行動している…」
「アホ。直ちに全軍に『単独行動』を禁じなさい。まさか、本当にアホなのかしら、自分の力を過信してるんじゃないわよ。」
前線で、精鋭部隊以外のザフト軍は、単独行動で多数撃破されていた。
特に、今まで戦闘をあまり経験していなかった後方の予備戦力であった部隊ほど損耗率が高い。
第二次防衛ラインにまで到達していたザフト軍だが、そこで予想外の消耗を追い始めていた。
「そのまま押せると思う?」
「難しいといわざるえません。報告によると、既にユーラシア北東部、アリューシャン列島の各基地から空軍の出撃
及び、ミッドウェーから第四洋上艦隊の北上も確認されています。」
制宙権を維持しているザフト軍は、上空から敵軍の行動をある程度監視できるため連合軍の増援部隊が多数
アラスカ基地に向けて発進していることを確認していた。
もっとも、彼らは知らないことだが、それ以外にもジャベリンと呼ばれるステルス爆撃機も発進しており
仲間を回収して撤退するためには、これ以上戦闘をすると危険な状況となっていた。
「わが軍の損耗率は?」
「既にディン隊の20%、ジン隊に至っては35%に達する勢いです。ザウート、バグゥ隊も15%を超える損耗率であり
前線の精鋭部隊にも損耗が目立ち始めました。」
奇襲こそ成功したものの、連合軍の後退と精鋭部隊の投入によって、こちらの進撃スピードはほぼ停止していた。
しかも、敵軍の再編が完了したのか、戦車隊が特科部隊による砲撃や、航空隊の組織的な攻撃が開始され
これからザフト軍が優勢になる確率は、時が経つほど少なくなる一方であった。
さらに、増援部隊が多数集まっている…ということは……
「連合軍にはめられたわ…ラクス様が知っていたのはこういうことね…
私やラクス様だけでなく『連合軍』も、またアラスカが攻撃目標と知っていた…そうでなきゃ、こんな部隊編成や用意周到な作戦などできないわ。」
ここでシンシアはその事実に気づき、直ちに全軍に後退命令を下す。
連合軍がこの戦闘を『用意』していたのなら、徹底的に攻撃するはずだ。
主力がパナマに展開していたかも怪しいほどだ。
実際には、パナマにもこれに引けを取らない大部隊が展開されており、連合の物量恐ろしや、といった状態なのだが、シンシアが知るところでは幸い無かった。
同時に空軍の支援は多数であると彼女は考え、別のある命令も下した。
撤退命令を受けてザフト軍は総崩れとは言わないものの、各地で混乱を含めて大きく揺れた。
一部では、撤退命令を無視して戦闘を続行する部隊もあったが大半は撤退を開始した。
精鋭部隊が支援をし、後方支援のザウートや既に艦隊というのも無理があるほど減り
それは、グーンやゾノが上陸せず、徹底的に洋上艦隊を攻撃した結果だが…
そのため、空いたグーンやゾノが火力支援を行いつつ撤退を開始する。
クルーゼも、この行動に己のシナリオも含めて抗議はしたものの
シンシアの『なら、あんただけ残りなさい。別にいいわよ。名誉の戦死と議長には言っておくわ』という言葉には下がるざぬえなかった。
もっとも、その行動を一番不思議がったのは連合軍であった。
自ら奇襲しておきながら後退するザフト軍は、その光景も怪しいものながら
自らが優れていると思っている連中が、ナチュナルに負けたと考え撤退を開始したことに驚きを隠せなかった。
「ザフト軍が撤退しているだと?」
確かに、もしバークが相手側なら予定時間内に作戦ポイントの占領ができなければ撤退するが
それにしても、この鮮やかな撤退…まるで、自らが敗北することを予測したかのように後退するのは相当な決断力が必要となる。
「はい。ゾノやグーンが撤退部隊の支援を水中からのミサイル攻撃で行い、連合軍戦車隊は前進が止められており
更には、航空隊はザウートの対空砲撃とミサイル、残っているディンの攻撃でなかなか前進できずこちらも押し込めておりませんが。」
その報告を聞き、更に鮮やかな撤退にバークは理由も無い不信感を持ったがそれを押し込めると
再編が済んだ部隊を順次追撃に回すように指示する。
数が圧倒的に多い連合軍は、現在追撃している部隊も、全軍の2〜3割程度である。
主力隊は最初のミサイル攻撃と、ザフトの電撃戦で分断、各個撃破され、再編が必要であった。
「ジャベリンと空挺部隊の到着までまだ、時間があるな…まるでそれを知っているかのような行動だ。
後少しでも、撤退が遅ければ奴らは全滅すらありえたはずだ…さすがだな。」
彼は、その見事な撤退の手際に賞賛をしたが、にしても、その心の奥にある理由の無い不信感に何かがつっかえていた。
彼も、また前線のザフト軍や連合軍も含めて、シンシア以外はその詳細を知らない兵器が衛星軌道上から
投下されたのはそのときであった。
投下された兵器は、撤退中のザフト軍と連合軍の戦闘地域へと降下をはじめ、通常のMS降下ポッドではあるものの
そのスピードは人が乗っていると考えるには早すぎるスピードであった。
「シンシア司令。投下部隊より最後の宅配物の投下を完了した。との報告ですが?」
それが何か知らない参謀の一人がそう尋ねると、シンシアは投下されたカプセルを眺め続けていた。
「あれは、姉さんの秘策ですよ…ほら。」
連合軍の防空ミサイルの迎撃範囲内に入ると同時に、その投下ポッドはいきなり消えた。
「なっ!き、消えた…」
監視していた連合軍司令部、及びザフト軍もその異様な光景に呆然していたが一部の人間にはそれが何か分かっていた。
「ミ、ミラージュコロイド…やつらも、実戦配備しただと…」
バークは投下されたものがミラージュコロイドで隠蔽されたものだと直感的に感じた。
彼の秘策…ステルス輸送機、ステルス爆撃機『ジャベリン』に搭載されているものと同じものなのだ。
作戦を考えるとき、何度も見たその機能を忘れるはずがない。
だが、本当の悪夢はそれからであった。
投下されたものは地上に着陸すると同時にカウントが開始され、それはすぐに0となる。
それと同時に、そこから強力な電磁波…EMPが放射されたのだ。
グングニール…シンシアが極秘裏に投下したものは、ファクトリーとのつてでミラージュコロイドを搭載し
更には、自動起動装置を搭載したものであり、一発ではあったものの連合軍追撃第二陣の真っ只中で爆発した。
距離的にも離れており、編成完了していた部隊や元々ユーラシアとの核戦争を考慮しており
協力で、核でもびくともしないほどの対EMP対策をされていたアラスカ基地ではその影響は少なかったが
バークの命令で、前線部隊の支援に向かっていた航空隊と増援部隊はその直撃を受けた。
すべてのシステムが停止し、行動できなくなった追撃部隊、更には前線部隊も増援部隊がなくなったことによって
制空権が奪われると、その前線を維持することだけで精一杯となり、追撃などできる余裕はなくなっていた。
「し、司令ッ!あ、あれは…」
旗艦ラインの艦橋でそう叫ぶ参謀を尻目に、MS隊の収容率を確認するシンシアはバグゥとザウートのほぼ全軍
ジン隊の約半数の収容状況を見ると、すぐに命令を下した。
「あの程度の秘策で勝てるはず無いわ。追撃が少し伸びた程度よ。連合軍の航空隊が…4つもこっちに向かっているわ。
ディン隊だけじゃあ、どうにもならないわ。後、精鋭部隊の回収はできるわね?」
精鋭部隊は、最前線で敵のXナンバーと対決しており、そのために連合軍精鋭部隊もEMPの直撃を受けていた。
だが、バークのすばやい命令で、予備の航空隊すべてと残存艦艇、更には上空待機していたダガーの空挺部隊を投入する構えを見せていた。
ジャベリンなどのステルス機に関しては、強力なEMPで一部システム不調がおきており、攻撃が難しくなっており
前線の敵に向けてミサイルを挑発的に発射する程度に収まっていた。
そのため、連合軍は消耗をしたのにも関わらず、即時戦力だけでザフトに再攻勢するだけの余裕がまだあった。
その事実をある程度、相手がこの攻撃を予測していたら…と考えていたシンシアは分かっており
このままでは、大打撃を受けかねないと考えていた。
「ジン隊については、MSを捨ててパイロットだけでも回収しなさい。もちろんジンはすべて自爆させておいて。
時間が無いわ、すべてのMSを潜水母艦に搭載できるわけでもないし。
後、残ったミサイルを一斉にメインゲートと前線司令部と思われるところにぶち込んで…発射!」
3割を超える損耗を既に受けていたザフト軍MS隊だが、投下された戦力を含めれば十分に
今ある潜水母艦だけでは収容不可能であった。
それは、生産力的にも勿体無い行動ではあったが、パイロットの方がよっぽど大切であるため仕方ない。
残っていたジンはほぼ捨てられ、ディンや水中MSが収容されると、時期早々に撤退を開始した。
それとほぼ時を同じくして、潜水部隊から残っていた艦対地ミサイルの残りが発射される。
不幸なことに、EMPの影響を多くが受けており、満足な迎撃の出来ない連合軍は、そのミサイルの最後の矛を止めるすべもほとんど持ち合わせてなく
命中精度が悪いのにもかかわらず、その多くが目的地に到達する失態を連合軍側に与えてしまっていた。
「なっ…メインゲートが…」
「メインゲート崩壊!ミサイルの命中位置が悪く、本部内に一部が浸水を開始!」
最悪の状態、そう呼ぶにふさわしかった。最低でもバークにとってはこの上ない、失態だった。
メインゲートが崩壊し、結果本部内に水が入るなど、最悪の事態としかいえなかった。しかも、敵は撤退しようとしているのにかかわらず
司令機能維持のための対応に司令部は集中しなければならなくなる。なんとも上手い戦術であり、その辺は正直、バークも認めざる得なかった。
「メインゲート周辺のすべての隔壁を閉めろ!このままではメインゲートだけでなく司令部を含む本部内も使えなくなるぞ!前線部隊と増援部隊の方は!」
「前線部隊を指揮していた、第161任務部隊は壊滅した模様。結果、指揮が完全に混乱しております。回復には時間がかかるかと…」
「なんという…失態だ…これでは巨人が小人に遊ばれているようなものだ…
ただちに第四洋上艦隊に追撃の全指揮権を渡せ、アラスカ基地は指揮能力を一時的に消滅させられた、よって指揮権をそちらに渡すとな」
しかし、バークはどうせ第四洋上艦隊でも相手を捕まえられるとは思っていなかった。
あれだけのカリスマ的な指揮、というよりも奇策に部類するもの…を持つ指揮官が本気で逃げに徹すれば、簡単には捕まらないとわかっていたのだ。
結局、連合軍は、航空隊や北上していた第四洋上艦隊、第四洋上艦隊航空隊も動員して追撃をしたものの
対した結果は得られないまま、アラスカ攻略戦は終わることとなった。
この戦闘は、ザフト軍が優勢ではあったものの『連合軍が予測していた』と言う点でザフト軍の敗北の原因ともなった。
連合軍は、アラスカ基地に待機していた全陸上戦力のうち、3割以上を結果的に失うこととなった。
航空隊はほぼ7割が破壊され、洋上艦隊に至っては8割という目も当てられない状況だった。
MSも、撃破それたものは少なかったが、EMPによってやられた機体が多数あり、ジャベリンも新型機特有の弱点をさらけ出す結果となってしまった。
一方、攻勢側であったザフト軍はジン隊が約5割を筆頭に損耗率こそ低いものの
この戦闘で、ザフト軍が余剰戦力のすべてを集結させた戦闘で敗北した、という事実は大きかった。
ディン隊を含めて、ザフト軍MS隊の約4割強が破壊され、6割を超えるMSが結果的に使用不可能なったため
以後、ザフト軍は大規模な侵攻作戦をする余裕は無くなっていく。
もっとも、アラスカ基地の防衛という面からは、ザフト軍の敗退だが
統合的な内容を考えれば、アラスカ基地の戦力は半数以上が損失し、最高司令部としての能力は失われたに等しかった。
メインゲートの崩壊に伴う浸水は、司令部が直接当たったため、すぐに回復しただが
グングニールのEMPによって、アラスカ基地周辺のシステムが徹底的にダメになったため、結果として指揮能力の喪失となってしまったのだ。
ザフト軍としては、その影響で追撃が弱まっており、助かったと一息ついていたが。
とにかく、無謀なスピットブレイク作戦はザフト軍に無視できない程度のダメージと教訓を与えつつ終わることとなる。
後書き
第三話の修正版です。
一部加筆して、修正もしました。ファクトリーの重要度を下げているので、あまり大きく出ていないことなど。
さて、青の軌跡本編では、要塞すら落としたバークが敗退してしまいました。もっともザフト側が若干有利というだけで
基礎戦力差が離れていますので、一概にはいえません。それこそ、次から次へと来る連合軍増援部隊たち。どこのロシア軍だ…
って、ユーラシアや東アジアだからむしろ納得な連合軍の物量なのかもしれません。
そういう意味で存在こそしたものの、戦術レベルではどっちが勝ったかはいえないのかもしれません。
戦闘が後1時間続いていれば、アラスカの指揮権を第四洋上艦隊が引き継いで回復し
圧倒的な物量でザフト軍は文字通り消滅していたかも…
そういう意味での『よみ』で、シンシアは運が強かっただけであり、バークにとっては不幸なことに
必要なときに必要な場所に部隊がいなかったのが痛点なのかもしれません。この時点では数だけが頼りの連合軍なので
どうしてもバークは正攻法(数、物量で攻める)をしようとし、シンシアは奇策の部類で対抗しようとした、といったところなのかも。
本編と違い、見た目上には失態をしてしまったバーク。実際にはサイクロプスを使わないで防衛を出来たので手腕はすごいはずですけど。
さて、次は戦闘ターンが終わって、セオリー通りの内政ターンです(ゲームかw