プラントの内部に関して、ラクスは調べ始めていた。

地球連合に関しては、ある程度軍需産業連合が裏で動かすことも可能とは分かっているが

プラントにおいても、それは同じではないかということをふと思い当たったからだ。

 

実際には、プラントを罵るのはプラントにおいてMS製造を一手に仕切る国営企業そのもののはずだった。

だが、よく考えれば独立からそう長くない。もともと連合に組していた企業のドックを利用しており、その集合体として存在する

現在の国営企業にはそれほどの権力などない。

 

なら、何か…と考え、むしろこの国家体制は独裁制に近いものだと、ラクスは感じていた。

 

よく考えれば、民主主義第一のこのご時世に、最高評議会議員はコンピュータが選出したり、民衆を無視した政治体制だ。

これも、独立のため、といえば聞こえはいいが、用はどこのソビエト連邦といいたい、と猛烈にラクスは思った。

唯一、最高評議会議長だけがその議員の選出であるから、間接民主主義ともいえなくはないのだが…

 

まあ、逆に言えば政権を取りさえすれば、ある程度のことは自由にできるわけである。それはそれで戦時大権としては

間違っていないので、まあ五分五分かな、とも考えてはいたが。

とりあえず、ラクスがするべきことはプラント国内のコネを増やすことに始まり、国外のパイプまで幅広かった。

それは彼女自身が権力を持ちえることはまず無理であり(クーデターでもしないかぎり)、それならば間接的に行動を動かすためには

やはり、ラクス派とも呼ばれるシーゲル派でも急進派の部類である派閥の強化が必要だったのだ。

そのため、毎日彼女は走った。彼女の考えに賛同してくれる政界・軍・経済界の人間は多くこそなかったが、それなりにはいる。

彼らとのコネを含めた関係強化はもちろん、新しい賛同者を集めることも含めれば、相当の苦労である。



「ラクスさま。いくらなんでも少し多忙になりすぎです。一週間後には、地球のスカンジナビア王国で大西洋連邦の

マリア・クラウス議員との会談。その次の日はオーブ連合首長国でウズミ代表との会談。

その次の日には、オーブの国営企業『モルゲンレーテ』の社長の話に、赤道連合代表との会談が続いているんですよっ!」


その訴えるダコスタの言葉に、ちょっと某『青秋桜』といわれる組織のトップにたつ男を思い出す。


(あの人、不眠不休の仕事していたけど、私でもこれで睡眠時間は一日4時間ちょっとなのに、いったいどんな

ハードスケジュールなら、幾度も寝る時間がなくなるのかしら…さすがは、執念の男。本編で死ぬだけあってそうでしょうけど…

私の生存のためにも、がんばってちょうだいね。アズラエル理事。)


さすがに、自分とこの世界で唯一同じ世界から来たと思える仕事だらけで胃が弱っている彼に多少なりの応援を送る。

『たまには幸薄美女や美少女パイロットとの甘い出会いがあっても良いじゃないか』と後に言っていたこともあって


(私が応援したら、それもかなったことになるのかしら?一応、本編で一番見た目はいいって言われていたし。)


だが、そんな彼女を待つのはアズラエルでもなければ、いい感じの男でもなく、まだ生きているはずのキラ・ヤマトでもないのであった。

 

 

       桜色の改編        第二話


 

大西洋連邦……

それは、第三次世界大戦、別名『再構築戦争』の後にNAFTA(北米自由貿易協定)の加盟国と、EUから孤立していたイギリス

それにグリーンランド(デンマークより独立)が合併して

(一部ではアメリカの併合という意見も)できた地球圏最大といわれる連邦政府である。


やっとのこと、マルキオ経由で実現したマリア・クラウス議員との会談前に、ラクスは大西洋連邦という国家の生い立ちをふと考えてみた。


「大西洋連邦か…第三次世界大戦でその富を更に増やした海軍大国みたいね。」


大西洋連邦の中心国『アメリカ合衆国』は、他の大陸から離れていて、戦争とは無関係とは言わないにせよ、関係は他国よりも薄かった。

確かに、大西洋、太平洋の海上の防衛という名目で、大西洋側にその当時存在した『EU軍(ヨーロッパ連合軍)』や

同じく、太平洋側に存在した『中華人民共和国軍』との戦争が多くあり、そのため大西洋連邦(アメリカ合衆国)は

シーパワー国家であることを改めて知らされ、その後海軍の強化に努めており、その戦力は地球圏ではユーラシア連邦や東アジア共和国

のそれをはるか凌駕する戦力であった。

もっとも、ロシアとヨーロッパ連合が合併したランドパワー国家であるユーラシア連邦と東アジアで日本を争って

領土割譲した中国、後の東アジア共和国は、同じランドパワー国家であったため、陸軍の強化に努めていたためともいえる。


「大西洋連邦のこの戦争における問題点は、日本が東アジア共和国とユーラシア連邦に領土割譲され崩壊し

東アジアにおける連邦の権限を失ったことが一つ。反EUであったイギリスを取り込んでいるため、ユーラシア連邦との仲が悪いことが一つ。

その二つが主でしょうね。後はシーパワー国家とランドパワー国家だから、この対立は必然的に見ていいわ。」


現在のところ、ユーラシアと東アジアの協力体制は、むしろ同じランドパワー国家となったからだろう。

問題は、孤立させられた大西洋連邦だ。軍事大国で、更には強力な海軍を持つこの国家は、外敵からの防衛は強力だが

現代戦は、三次元で動く。宇宙における制宙権が無くなければ、大西洋連邦は他国のランドパワーの前に押しつぶされるはずだ。


「だからこそ、制宙権確保のため、宇宙軍の強化も必死なわけね。シーパワー国家である大西洋連邦は基本的に空軍は海軍の航空隊よりも

弱い。もっとも、錬度は十分で、今まで戦闘という戦闘をしていない大西洋連邦空軍は強力でしょうけど会戦当時のユーラシアに

比べれば錬度は低いといっても良い。そのために新兵器、新型機ですからね。」


再構築戦争後、宇宙開発に積極的であった者たちは大西洋連邦国民を中心としていた。

国家の思惑に重なる形でアズラエル財団を中心とした企業体は、宇宙開発事業に着実に進行し、プトレマイオスクレーターの基地は

そもそも大西洋連邦軍のものであった。

(これに対抗する形で、ユーラシア連邦軍はL3に『アルテミス』を建造した)

また、宇宙軍の設立も大西洋連邦が最初で、自国の領空防衛のために、大西洋連邦軍は宇宙軍3個艦隊を保持する

同じ『戦艦』という意味では、海軍同様に他国の宇宙軍よりも強力な組織となっていた。


「逆に言えば、この宇宙のプラント防衛のためには大西洋連邦軍が動かないのが大前提となる。」


現在、大西洋連邦軍艦隊は第八艦隊壊滅に伴って実質二個艦隊まで低下し(第六艦隊、第七艦隊)指揮下に抑えるべく

艦隊再編という言葉を借りて、新たに新造艦隊の建造計画を『青の軌跡』では出し、第一機動艦隊としてそれは終決させられる。


「…とはいっても、大西洋連邦との講和なんて、並大抵の苦労じゃないわね……」


地上はくれてやるから、宇宙は我々のものだ…と言ってもいいたいが、そうもいかない。

それでは総人口で圧倒的不利なプラントの負けだ。更には、食料的な問題もある。

また、大西洋連邦は、そのシーパワー体制を維持しつつも、覇権国家であるのも事実だ。

強力な海軍(宇宙軍)は、相手の領地に海上(宇宙)経由で輸送することは簡単であり

それは『甲板一枚下は真空の地獄』といえるプラントにとって悪夢に等しい。本土決戦など、プラントではできない。

穴が開けば、後は自滅しかないのがプラントであり、結果としてプラントもその事実からむしろ、シーパワー国家に近い。

シーパワーとシーパワーの対立は最悪の悪夢である。

本来ならば、これらは協力し、ランドパワー国家を抑えるべきなのだ。

もっとも、シーパワー国家で厳密でないプラントは『宇宙に限定して』が入るのだが。


「プラントのザフト軍が、大西洋連邦宇宙軍と激突すれば、数の差で負けるのは事実。

大西洋連邦を敵に回さないようにして戦争を続行する、というのが大変なのね。大西洋連邦との講和、もしくは降伏?」


どうせ、降伏するなら、コーディネイター殲滅をする気の無いアズラエルのいる大西洋連邦が妥当であった。

とてもではないが、地球連合に降伏するというのは考えから削除していた。戦後処理のことも考えれば大国である大西洋連邦に降伏したほうが

良いに決まっている。

大西洋連邦としては、国防のためにもプラントを自国の保護領(もしは同盟国)として存続させたいはずだ。

なぜなら、プトレマイオスの拡張が限界となった今、プラントという存在は、地球に住む各国に対して大きな圧力を与えることが可能だ。

自国の上空の宇宙防衛の為には、艦隊が必要だが

もしもの仮定で、アルテミスを失ったユーラシア・東アジアの同盟軍が大西洋連邦本国に攻撃を開始するために月面の基地を制圧しそこから発進し

本土上空に向かおうとした場合、後方に大西洋連邦軍が駐留した、大西洋連邦の保護領(もしくは同盟国)があればそれほど面倒なことは無い。

後方の安全確保のためには、二つの要塞、ヤキン・ドゥーエとボアズの破壊が必須だが、大西洋連邦側陣営となったザフト軍に阻まれるだろう。

 

プラントは今後の安全保障の要になることは必須であるのだ。



管理は連合が、軍備は大西洋連邦が、政治は大西洋連邦寄り、というのがラクスとしての理想だが、確かにそれはプラントの一番ベストな方法なのだ。

ただ、ここの国民がそれを現在、容認するわけが無い。だいたい、大西洋連邦はブルーコスモス思想が広まっているのだ。


「そのためには、マリア・クラウスの手助け、つまりは反コーディネイター感情の打消しが必要か。

反プラントになっても降伏や現政権総退陣なら問題は無いはずね。

ふふ、大西洋連邦軍とザフト軍が並んで動く光景はちょっと面白いかもしれないですね。」



もっとも、それはもっと後のことになるだろう、それが実現することも可能性的には薄いと考えられるとラクスは読んでいた。

穏健派全体会議で、パナマ攻略戦への全面反対運動を展開することを強くラクスは推し進めているため、余計に反パナマ攻略戦の機運を強め

同時に一時的にだが、反穏健派の国民が増えつつあった。


「ラクス・クライン。よく分かっているのかもう一度尋ねさせてもらうぞ。

このまま、反パナマ攻略戦の宣伝を穏健派がすれば、攻略がされたとき、穏健派の勢力はほぼすべてなくなるに等しい。

それでは、その後、急進派の力を強めてしまう。」


かれこれ、一週間前、穏健派の議員や幹部が集まった会議で、ラクスにそう言ったのはアイリーン・カナーバ議員であった。

だが、攻略ポイントは実際にアラスカであり、更には失敗する事実を知っているラクスからすれば、確実に容認できることでは無かった。

確実に当たる賭けに反対される、確かに相手は確実に当たることを知らないとして、どうやって納得させるかが問題であった。

だが、ここで勝負に出れば、穏健派の力が史実において何もしなかったよりも強められると確信しているラクスは

抑えるわけにはいかなかった。それこそ、少し高圧的な言葉遣いになっても説得する必要があると考え、発言をした。


「では、このままにした場合に何の利益が上げられるのですか?」


「うっ……」


「世論が急進派に傾いているときだからこそ、強い反対勢力が必要なのだとわたくしは考えておりますわ。

急進派の言うことを真に受けられて、無意味な戦争を続行するほど、プラントに余裕などありませんこと。それは最高評議会議員の

カナーバ様なら、お分かりかと思いますわ。」


「だが、実際問題。このまま殲滅戦になるときに穏健派がなくなっていたでは済まされないぞ。ラクス。」


この話し合いの中心人物であるはずの、シーゲル・クラインがその内容の抜けている部分を指摘する。

どうやら、もう直ぐ歳であることから、将来はラクスに政治のその後を託すつもりだったらしい。

もっとも、種本編でそんなことが起きれば、東西冷戦でもおきるんじゃ、と真実(ラクス)が思ったのはここだけの話である。

 

「お父様。まず落ち着いてください。勝てば、それはそれで良いじゃないですか。最低でも宇宙への反抗そのものは抑えられますし

その間に講和も可能かもしれません。それに、結局のところ最高評議会は国民の中でも有能な人が選ばれるのですから

すべて急進派になることは滅多に無いと思います。それをまずはお考えください。

血圧が上がるにせよ、銃弾に撃たれるにせよ、お父様に倒れられるのは困りますわ。」


もっとも、血圧が上がって倒れた場合は、乳酸菌とってね、と言おうかと思ったが、何か悪漢に襲われてやめた。

どこはかとなく、自分の声でそれを言うと恐ろしいことが起きそうな気がした…としかいえなかったが。



「それに、これはチャンスなんですから、チャンスは十分に利用するべきです。たとえ勝利しても大量の屍の上の勝利となるでしょう。

それで、国民が熱狂から醒めてくれるのを待つしかありませんわ。」



その言葉で、少しずつではあるがラクスの意見に賛同する穏健派議員が増え、シーゲルも確かに、という風に肯定の意見を取る。

これで勝利するにせよ、負けるにせよ、多数の屍が産まれる…

悪い言い方だが、これで国民が熱狂から醒めてくれるのならば、大々的に反対運動を起こすべきだろうということで、話はまとまったのであった。



(あの会議で、穏健派の仲で私の位置も大体取ることが出来た。ラクス派形成には時間は掛からないと見ていいわね。

にしても、熱狂的な人間は時として危険だから、早く醒めてもらわないと。)



熱狂的な人間ほど危険なものは無い。冷静な判断が出来ないからだ。



「プラント内部は、アラスカ攻略戦の後、大混乱になり、その混乱に乗じて…パトリック・ザラには死んでもらおうかしら?」



ラクスは、速めにパトリックには政治的に退場してもらうつもりであった。

危険な賭けとされるかもしれないが、これにはこれなりの理由もある、またその混乱をおいて他に彼の暗殺など無理だろうと予想したからであった。

ただしそこまで考えて、過激すぎる自分の考えを振りほどく。

 

「ダメダメ。早期にパトリックを排除した場合、急進派が分裂するとも限らない。もっと過激な人間が中心人物になる可能性もある以上

無茶な行動ばかりとるのは問題。そもそも、穏健派なのになんで国内で過激なこと一杯しないと…極右なんかにはさすがにごめんだわ。

そもそも、私中道右翼のつもりですし。」

 


本編ではパトリックが死んだ後、急進派は総崩れしている。これなら、パトリックの死=急進派崩壊を意味するとも考えられる。

だが、彼女はその後の話も知っており、結局暴走の可能性が否定できない。それを制御する意味でのパトリックの存在もまた必要だ。

とにかく、ラクスとして動く以上、そんな過激なことばかりするわけにもいかないし、パトリックの必要性を考えて、暗殺は控えることにラクスはした。



「さてと。大西洋連邦とプラントのアラスカ作戦までの行動その他を考えて、マリア議員との会談ね。」



現在、彼女はスカンジナビア半島、つまりスカンジナビア王国に来ていた

この国は、現在のところ栄えている国の一つだ。

前時代的だが、石油の埋蔵量がある程度はあり、そのため連合などの各国に売りさばいているのだ。

かの国も、また戦争で利益を得ている国の一つであった。

 


「ラクスさま。マリア・クラウス上院議員が到着され、会談の用意が整ったそうです。」



 


 

 

この部屋は、王国の持つ貴賓室の一つであった。


「お待たせしました。ラクス・クライン。議会の会議が遅くなりまして。」


「いえ。マリア・クラウス上院議員、わたくしも色々とありまして、到着自体は遅れましたから。」


さすがは、国家元首クラスが会談に使うとされる部屋は違う、イスのすわり心地が…なとど少々場違いなことを考えながら

先にマリア議員が座るのを見て、イスに触るラクス。

こう言った場は、勿論新聞記者であった真実も始めてである。


「それで、さっそくですが、この後、私も用がありますので用件はお早めにお伺いしましょう。」


さて、ラクスはまず、新聞記者としての真実の経験から、の人物が相当な政治家であると判断した。

無駄な会話をする人ほど、こういう場ではあまり良い政治家ではない。誤魔化そうとしている節があるということだからだ。


「そうですね。まずは、ダコスタさん。この部屋から出て行ってくれませんか?」


横で警備をしているダコスタにそう言って、ほとんど強制的に部屋の外に出て行ってもらう。

と、部屋の中にあると思われる盗聴器の類をすべて無効にするため、ポケットから小型のNジャマーを取り出しておく。


「では、お話に……私から、マリア議員にお願いがあるのです。

大西洋連邦内部をまとめていただけませんか?」


「無理です。大西洋連邦は国であり、プラントの独立を容認する…」


「いえ。まずは、ブルーコスモスの現状について少し。大西洋連邦内部が政府と軍部、しかもブルーコスモス派の影響を受けている…

これは事実でしょうか?」


いきなりのラクスの質問に、マリアは肯定を示す。


「大西洋連邦政府内部は、ブルーコスモスを冷ややかな目で見ておりますが、その影響を受けているのは事実です。

彼らは、コーディネイターの撲滅を訴え、一歩の譲歩もするつもりはありません。」


それは、彼女がいたころのね…とラクスは思った。青の軌跡と類似すれば、この後ブルーコスモスは過激派を押さえ込み

急進派も、コーディネイターをプラントに封じ込めることで納得している。

だが、ラクスからすれば『それも自由ではない』と考えていた。最低限の交流は認めてほしいものなのだ。


「なるほど……この時点で、大西洋連邦に講和を突きつけた場合、私たちはどのような条件を突きつけられるでしょうか?」


「ザフト軍の武装解除。最高評議会への監視員派遣…がオルバーニの譲歩案ですが、大西洋連邦単独となると話は別でしょう。

ザフト軍の保持は許可し、最高評議会への監視員派遣をやめてほしいというのならば……」


「『プラント政府は、直ちに親大西洋連邦陣営について、反大西洋連邦の国家群と戦争せよ』と言ったところでしょうか?

今の親プラント国家が許すとは思えませんわ…ただし、ユーラシア、東アジアとの戦争に関しては、まだそちらの意思に近づけることは可能でしょう。」


大西洋連邦は世界の超大国であり『世界のリーダーたらんと欲し』と言うほどの国ではあるものの

経済状況はお寒い限りであった。原子力発電のストップ。更には戦争の敗退に次ぐ敗退はその権限をゆるがせてしまった。

彼らとしては、戦後の支配権を得るためには、プラントの保持が最優先であるのだ。

もっとも、一国だけでプラントを独占するようなことになれば、各国がうるさいだろうが…


「プラント擁護をさせるのは大変でしょう…ですが、同盟国であるユーラシア連邦軍が国際的に非難されるようなことをされれば話は別でしょう。

例えば、中立国への侵攻とか。」


「中立破りは何時の時代でも起きています。ですが、確かに大西洋連邦とプラントが同じように非難声明を発表すればユーラシアは独立運動も

一部では起きていますし、付け入る隙はあるでしょうね。」


ラクス(真実)は大西洋連邦との協調体制をとりつつ、大西洋連邦内部が『プラントとの講和賛成』となってくれるのが一番うれしい。


「今は急進派ですが、穏健派になった後、最後には大西洋連邦にブルーコスモス急進派を徹底的に抑えることを条件にプラントという国家を

現在の最高評議会以下の組織を引き継ぐことを条件に地球連合プラント自治区としての再編を容認するつもりですわ。」


「……本気で言っていますか?」


一瞬、ラクスの言っていることが『反逆者』と捕らえられても仕方ないことを言っていることでは無いか、実際にはそうなのだが

そう感じたマリアは呆然としなながらそう言った。

地球連合プラント自治区…連合の搾取にあわなければ、正確にはプラントに住むコーディネイターへの圧力が無く

基本的人権を地球連合、軒並みその盟主国たる大西洋連邦が認めてくれれば、ラクス(真実)はザフト軍の大幅縮小

(地球からの大規模撤退、二つの要塞とプラント本土防衛艦隊と予備戦力のみの保持)は問題が無いと考えている。

自治区なので、その中の行政は行うが、外交に関しては地球連合の共同管理とし、あくまでもプラントは連合との交渉だけを行う。

更にはその盟主国たる大西洋連邦との仲を重視した形をとりつつも、基本的には『地球連合所属特別行政区』という形をとりたいと考えていた。

国家ではないが、ほぼ国家と同じ体制をとり、もちろん連合に対しての関税を少なくすることを確約する、ただし連合の所属なので

特別行政区としての予算は連合に請求し、またザフト軍の保持に関しては関税費を当てることを定めればどうにかなるというのが彼女の予測である。


これは、プラントという『土地ではなく、すべてを連合の出資で作られた生産群』という特別な形を配慮した形であり

更には、地球連合所属なので体面を大切にする大西洋連邦の保護下に置かれることも同時に意味していた。


「まさか、プラントがこのまま独立をし続けることは無理でしょう。その『プラント』というなんとも甘い蜜に

住んでいる私たちの宿命といっていいでしょう。そして、この方式ならプラントにも利益が、大西洋連邦にも東アジア共和国にも

ユーラシア連邦にも利益が渡りますし、親プラント国家も基本的に地球連合に加盟すれば、この利益に預かることができるのですから

地球圏の国家をプラントによって統一できるという利点もありますよ。

確かに一国あたりの利益は減りますが、もし一国が利益優先の行動をとった場合、プラント特別行政区が地球連合に要請する形で

その国以外の国が動けば…もちろん、彼らもプラントの利益奪われたくないですからね、戦争となり一対多数では勝てませんから

ある程度の戦争抑止にもなりますわ。」


「もっとも、大西洋連邦とユーラシア連邦との決着がつけば、が抜けていますね。その言葉。」


話を冷静に聞いてからのマリアの指摘に思わず『さすが』と思ってしまったラクスであった。

この話には『中心国はひとつではなければならない』という条件がある。なぜなら大国が二つだと二つの大国の圧力をその行政区は受けることなり

どちらかにつけば、その特別行政区としての均衡は破られる。

分かりやすく言えば、100円毎日分けられるプラントにユーラシア、大西洋、東アジアの三国がそれぞれ受け取るのだが

ここでユーラシアと大西洋が圧力で増やせという。これで大西洋につけばユーラシアが、ユーラシアにつけば大西洋がそれぞれ戦争を吹っかけてくるだろう。

それを抑えるには、その盟主国はひとつでよい。これはまがいなりに

『世界をひとつの大国にまとめる』ということを意味し、ラクスはそれは大西洋連邦がふさわしいと

暗黙のうちに言っているのだ。


「ええ。ですが、地球連合軍需産業連合としても、この案が一番連合各国に多額の利益を均等に分けられますし

これ以上、殲滅戦争続けるほどプラントも連合も余裕はありませんわ。」


「確かにこのまま殲滅戦争をされると厳しいのは、両者とも同じですね…今年には大西洋連邦でも餓死、凍死者が出る可能性がありますし。」


Nジャマーキャンセラーが無い以上、大西洋連邦以下の地球連合各国が抱えるエネルギー問題も深刻化していた。

さらには、長期の戦争で経済が徹底的に叩かれ、一部ではお金の無い人たちが路上で餓死することも度々起こるようになっていた。


さすがに、まだ地球連合の盟主国たる大西洋連邦ではそんな事態にまで悪化していないが、それでも今年には

凍死、餓死者が出るのは既にわかりきっていた。


結局、両国とも戦争継続能力など、元から存在しないのだ。

大西洋連邦を初めとする地球連合は、プラントの安価な工業生産品が無ければ、経済を支えられなかったわけであり

また、プラントも食料や、その工業生産品を売る国が無ければ支えることはできない。また、プラントはこれに加えて

人口の問題もある。こんな情勢でまともな戦争ができるはずが無い。


気がついたときには、全世界の生活レベルが旧20世紀にまで後退していた、なんていうことすらなりかねないのだ。



「そのためには、マリア・クラウス女史の大西洋連邦内部への工作が大切なのです。できる限り、国民と政府を講和に向けられませんか?」


この頼みに、正直マリアは悩んだ。

大西洋連邦が地球連合の盟主国となることでなければ、国の平和、正確にはコーディネイターの平和を行えないのがあのプランの欠点である。

ユーラシアでは、おまけの東アジアがついてきてしまい、そのバランスが更に難しくなるであろう。

しかも、もし特別行政区とし、その盟主国が大西洋連邦ならプラントに宇宙軍を置き

更には、プラントの技術、軒並みMSの技術を受け取ることも可能かもしれないし

最低でも盟主国としてのアドバンテージは大きいものになりうるだろう。

政治家とすれば、国民の生活第一に考えるとして、その案は大西洋連邦を世界の盟主国とする意味で有益である。

大西洋連邦と、それと安全保障条約を結ぶプラント特別行政区、それはほぼ地球連合という体面を借りるだけで大西洋連邦の一行政区として

連邦の州軍のように、特別区の区軍を持たせるというレベル、とマリアは考えを導き出した。


「実質的には、親大西洋連邦の新しい一国とでもなるつもりですね?」


「あら、分かりましたか?大西洋連邦が盟主国となったらですが…最もそれが実現するのは数十年後。かつての冷戦のようにですわ。」


ゆっくり持久戦に持ち込み、ユーラシアと東アジアよりも莫大な富を大西洋連邦が得た後にプラントを親大西洋連邦国家とし更にはユーラシアや東アジア以下の

地球の各国を経済で押さえ込みつつ、連合を発展させるように地球連邦を設立させる…確かに、それは数十年、数百年後ではあったが夢では無い…

ラクスもマリアも、その案にその未来を感じていた。

それがたとえ『圧倒的武力を持った恫喝』だったとしてもである。

マリアもラクスも『平和』などという安直な世界を目指す気は無かった。

平和でなくても良いので、戦争の無い時代が長続きすればよいと考えている。それには時には圧倒的な武力による恫喝や経済的な締め付けも辞さないのだ。


と、そこでグリーンティーをラクスが少し飲む。

さすがは、日本の玉露はおいしい、けどなんでここに、と思いつつ、マリアさんの場合、これに甘さなんて感じないでしょうね

と思いながら、更に話を続けた。

そして、時には対立し、時には納得しながら4時間に上る会談で両者はある一致に達した。


「戦争の長期化はできる限りなくしたいですね。」


「そうですわ。プラントも大西洋連邦も。戦後の世界統治を考えれば、できる限り国力の消耗はうれしくありませんもの。」


両者の一致。それは両国の国民を第一にすることであった。

国民のために、講和をするならば、国内の工作で国民の意見を講和に持っていくべきだという考えでまとまったのだった。

もっとも、マリアとしてはラクス以下の穏健派が政権を得るまでは、実際に動くつもりはない。

今のラクスは単なる、プラントのアイドルであり、それ以上の何者でもない。少し意見のあう女友達がいいところである。

そして、ラクスとしては、マリアにできるだけ早くそれを行ってもらうため…もっと言えば、大西洋連邦の被害をアズラエル理事が

行った場合よりも更に弱めるためにあることをした。


「できれば、プラントも擁護してほしいですが、最低限はコーディネイターの生存権ですから、仕方ありませんわ。

それと、ひとつ小耳にはさんだことなのですが、ザフト軍はアラスカに実際には攻撃する可能性があるそうです。」


ここで、ラクスは手持ちの情報でもトップレベルの情報を開示することにしたのだ。

この情報、いやすべての情報は鮮度が大事である。別にアズラエル経由でアラスカ奇襲作戦は軍内部では

知られていることのはずなので、政府の方にも知らせておいても問題は無い、とラクスが考え、さらにこの話でマリアなら

その情報が漏れたことも隠蔽できるだろうと予測したからであった。


その情報を聞き、マリアは一瞬、言っている意味が再びわからなかった。

こうも、衝撃の真実を何度もたたき出してくれるものである。


「ほ、本当ですか?」


「事実です。嘘でも言えば、私の信頼度がなくなります。」


希しくも、青の軌跡でマリアが言ったようなことを言うラクスではあったが、そんなことはもちろん気づいていない。


「それに、本当にパナマ攻略戦を行うなら、相手にばれるようなことなどしません。

用意などせず、即時戦力だけで、防衛戦力の乏しくなったパナマをすぐに陥落させますわ。」


「それは、確かにそうですね。そうでなければ、今までのザフト軍の進撃から見ておかしいといわざる得ない、そういうことですか。」


今まで、ザフト軍は、連合軍に対応するだけの時間を与えないように次々とMSを投入し

反抗するまでの余裕を与えないまま、艦隊をいくつか壊滅させ、地上においていくつかの拠点を押さえていた。

つまりは、電撃戦である。逆に言えば、現在はその電撃戦をしていないため、各前線では兵器的に優秀であるはずの

MS隊が進撃できないという状況に陥っている。

もっとも、連合の戦力が天文学的な数の戦力を持っているのも、そのひとつだが。


「はい。ですから、ザフト軍は今回の電撃戦をするつもりと考えると、この情報が真実だと確信できたでしょうか?」


「ええ。これも、後で連合軍に送らせてもらうわ。でも、本国を売っていいの?」


「私が売ったのは、急進派の政権でプラントではありませんわ。あの方々には政権を降りてもらわないとプラントの運命を

バカな…いえ、急進派に持たせるには少々危険すぎますから。」


ついつい、本心で言ってしまいそうになるラクスだったが、そこは抑えて話を続けた。


「わかりました。ラクス嬢の言うとおり、大西洋連邦でも講和に向けて私は活動を開始しましょう。

この情報が本当のようですから、私も色々と工作を始めます。」


「ありがとうございます。マリア・クラウス議員。あなただけが頼りでしたので。」


かくして、プラントと大西洋連邦との大きなパイプがひとつ、プラント首脳陣、大西洋連邦首脳陣の両方の知らないところで完成したのであった。


 


 

 

マリア・クラウスを味方につけたラクスは、その後予定された日程で各国を渡り歩き、プラント本国に帰ってきていた。

今回、アラスカ攻略戦(正規ではパナマ攻略戦)において、作戦指揮を任されているのは、比較的穏健派の隊長であった。

名前は、シンシア・シルフィールという名で、ザフト軍には珍しい、いやザフト軍だからこそというべきであろう

女性の隊長で、指揮に関しては少々ガサツで、大西洋連邦軍ならノア・オルブライト少将といったところだが、彼女…シンシアは

むしろ、元がファクトリーの技術部長という役柄、新技術を利用した戦法が得意であった。


本来、種本編や青の軌跡ならアラスカ戦で死亡してしまった人間であった。


そんな彼女に、ラクスはことの詳細を載せた手紙をダコスタ経由で渡していた。


「そうか。実際にはアラスカ奇襲作戦だったのね…」


カオシュン基地でダコスタから渡された手紙を見て、シンシアは、まるでちょっとよみ過ぎた、とでも言いたいような顔で手紙を読み続けていた。

そんなことを迷惑するのは、彼女の補佐官でもあり、姉弟でもあるフライヤー・シルフィールであった。


「いったい、どうしたっていうの姉さん?」


「なんでもないわ。それにしても、ザフト軍の情報部も愚かよね。

こんなだから何時まで経ってもザフト情報部は見掛け倒しだなんていわれるのよ。

ハードが良くても、ソフトの面でのザフト軍は、地球連合、軒並み大西洋連邦軍に比べて落ちるわ。」


当初、彼女はパナマ攻略戦は囮だと見切っており、本当の攻略ポイントは大西洋連邦首都ワシントンか

ユーラシア連邦首都ベルリンかと予測していた。

どちらかが落ちれば、縄張り意識の高い大西洋連邦とユーラシア連邦はこの情勢で、著しく弱った相手国を一時影響下にいれるなどと考えるだろうからである。

どちらにせよ、仲が悪くなり、後はどちらかにプラントがつけば、それで終わりであったはずだ。


もっとも、彼女はよみすぎており、それが本編では痣となり、戦死してしまったのだが…


「にしても、ラクス嬢の情報網おそろしや。私ですら分からなかった本当の目標をすばり指摘しているというところは

むしろ、正規軍の情報部よりもラクス嬢の私的な情報組織のほうが凄い?まあ、いいわ。それならそれで

私にも考えがあるし。」


何かとってもやばいことを考えている…

直感的に、フライヤーはそれを感じたが、それは自軍にとって毎回有益なことだから仕方ない。

例えば、MSの開発者の一人であり、そのためMSを利用したドクトリンもほかの誰よりも早く生み出し

さらには、かのカーペンタリア基地の一日建設や、地上における各種局地戦用MSは彼女の知恵なくして存在していなかった。


「な、なにを考えているの…姉さん?」


「いや、どうせなら、アラスカ基地奇襲攻撃時に、まず指揮系統を分断する必要性があると思ってね。

例の新兵器にミラージュコロイドの搭載を要請して…いえ、このまま極秘で使用するか。どうせ極秘任務だし、現場の指揮官は

私なのだから、問題ないわね。」


フライヤーは、事前にラクスから『負けることを覚悟で作戦を練るように』と言われていた。

だが、このままだとなんとなく勝ってしまいそうな気がしてしまった。

この人の考えることは、時に猪突過ぎて危険である。だからこそ、そう思ってしまったのだった…


「ね、姉さん…まさか、勝つつもりじゃ……」


「多分、これだけのことをしても勝てないでしょうね。でも、少しぐらいの時間稼ぎにはなるし、多分どんなに早くしても

これを投入するのは、戦闘も末期になることでしょうから、勝っていれば勝てる。負けていれば、完敗せずにすむ、程度ね。

後は、アラスカにある戦力次第ね。それについては大西洋連邦製のMSがある可能性あり程度だから、実際に戦ってみないと分からないし

極秘任務だから、直前まで私には詳細が知らされないから、自軍の戦力も分からない。

まあ、こんなむちゃくちゃな作戦を立てる、国防委員会もいい加減、年貢の納め時なのかもしれないわ。」


次々と、プラント上層部の悪口を口にするシンシア。もちろん、フライヤーにそれを止めることなどできるはずも無い。

姉弟なのだ。そんなことはとっくの昔から分かっている。

無駄口を出すだけ無駄だ…と分かっているだけ、ノアの艦隊の参謀長であるヒラガ大佐よりは、いいのかもしれないが

どっちもどっちといわれれば、十二分にそうなのだろう(笑)


「オペレーション・スピットブレイク…心に刺激を与えられるのは、むしろ議長の方でしょうね…

さて、ファクトリーに私は色々と要請することがあるから、フライヤーは適当に表向きのパナマ攻略戦の作戦立てながら

しっかりと、アラスカ攻略戦の概算を立てておきなさい。現状のパナマ攻略戦の戦力と自軍も相手もほぼ同等の戦力と仮定してね。」


「それだと、相手がラクス様のデータだと余剰戦力であり…」


「あんたねぇ?そんなことだから、敵が予測と違うと混乱するのよ。多少はお釣りだと思って考えておきなさい。」


お釣りって…とそう思うが、心の中だけにしておく。

目の前にいる女性を怒らせるほうがよっぽど危険である。整腸剤は欠かせないのだ。

彼女と一緒にいるだけで消化器官系がやられる…コーディネイターにもかかわらず、彼は彼女のせいでここだけは弱かった(汗)


「はあ……」


「もっと、ピシッとしなさいっ!ピシッと!それじゃあ、よろしく。」


そういうとさっさと出て行くシンシア。ある意味でもっとも自由気侭に生きている女性なのかもしれない。

とにかく、彼女も、また歴戦の戦士であり、彼女の予測の変更と、入念な用意で、アラスカ奇襲作戦はその全容を変えようとしていた。

 

 

 

あとがき

実は、長い間止まっていたのには…特に理由がありません(汗

今回、1話と2話を入れ替えてもらいました。今までの、初期のラクスさん(真実)が過激だったのに大して

あまりにも動きすぎの感じがあったことと、過激すぎる、種の設定がこれを書いていたころより集まっていることもあり修正することとなりました。

えっと、元のラクスさんと違うところだけいえば、積極的行動をしてません。パトリックの暗殺やら、今後のプラント展望も修正されてます。

後は、各種組織そのもの(サクラ・ディスティニー)を消滅させました。彼女にはすでにラクス教…もとい、クライン派がバックにありますし。

 

真実(しんじつ)と書いて真実(まみ)と読む、ラクスの憑依した人は、日経の方だったのか、右派を自認してますw

国家優先主義、というかそもそもこの種シリーズは右派ばかりだ、と思ったり…まあ、戦争反対と叫ぶだけの左派がいてどうなるいうのもありますが。

さて、傍観と講和に徹するラクス(真実)にとってはひとつの行動視点の契機になるアラスカ攻略戦。

本家とは違う道を進みつつ、砲火は収まるところを知りません。そして…キラ君は…ww