「ちょ……これはいったい、と言うか、神様、私は神信じていないけど、それでも私に国家反逆者までなったヒロインをやれってこと?」


ここは、宇宙、しかもL5、別名プラントと呼ばれる地域…アプリリウス・ワンのとある家のとある部屋。

プラントで知らぬものはいないという人物の部屋であり、その部屋にいたとある少女

(まあ、微妙なところ?)が完全に神を呪ってやる〜〜という感じで立っていた。

まあ、どう考えても、彼女を含む(?)大概の外野族(??)である人間にとって、彼女ほど

『作者サイドの不条理なまでの待遇のよさ(爆)』

というとんでもない理由で、毎回勝っている強運の持ち主に呆れている人が大半で彼女になるのはさすがにひけるものがあったようだ。


鏡を見ていた彼女・・・ラクス・クラインという名を持つ彼女に憑依してしまった女性、柊真実(ひいらぎ まみ)はその光景と

運命と言う余りにも酷く、それでいて、その話の続編の名前でもある、それに呪いどころか殺意すら抱いていた。

そして……

 

「こ、こんな…私がやってあげようじゃないですかっ!覚えておきなさいっ!M.F監督っ!」


補足まで言っておくと、この後、大声を聞いてクライン宅の護衛にいた兵士達が何事かと入ってきたのは

まあどこかに似たような話しだが余談である。

 

 

 

       桜色の改編        第一話

 

 

 

何事かと、血相変えて入ってきた警備の人に適当に言い訳をつけて帰ってもらうと真実…いや、ラクスはまず、こうなった原因を考えた。


「えっと。確か、昨日は…」


彼女は、昨日退屈ではあったものの、少し前に開催された『東アジアサミット』のため、クアラルンプールに向かっていた。

彼女は、一応記者である。

今回の会談で出来た『東アジア共同体構想』についての現地の取材等を行うために向かったのである。


「クアラルンプールで、地域テロが起きたのね。会議終了から、一週間後に。私が偶々そこにいて…まさか、死んだ?」


いや、それしか考えられなかった。

自分が死んだことに、自分の予想に反して大した衝撃も受けなかったのは、現在の状況のせい…でしょうね、と薄々感づいてはいたが。


「今はだいたい、アークエンジェルがアフリカに下りて、バルドフェルド隊を壊滅させ、モラシム隊のいるインド洋に出たことみたいね。

ふう、あの時、日本で色々とインターネットで調べていて正解だったわ。青の○跡っていう話もあったし。

とはいっても、それと同じことが自分に起きるなんて…はあ…」


と思わずため息をつく。まあ、こんな風になれば誰だってつきたくなるものである。

ちなみに、彼女が調べていたわけは、彼女の彼氏である遠藤純一がそう言った方面の熱烈とまでは言わないにせよ好きな人間であり

まあ一応一通り見ておこう…という気に彼女をさせたためである。

ある意味良かったよね、真実さん。

それに、彼女自身、記者でも軍事関係に関してはうるさい記者で、そのため『軍事評論家』という人とは毎回話すたびに口論になるほどらしい。


と、彼女はしっかり自分にラクスの時の記憶もあることを確認すると、自分のマネージャーに連絡して体調不良で三日ほど休むことを伝え

自分の部屋のベットに座ってこれからを考え始めた。


「まあ、これで最低限は記憶どおり動けば助かる、と思ったけどそうでもないみたいだし。

この世界は、どうやら本編世界というよりも、青の○跡の世界と言った方が正しいかもしれない。どう見てもMSの配備が早い。」


クライン派、穏健派といえどもプラント内外の情報には細心の注意を払っている。

むしろ穏健派だからこそ、講和などなどに大切な情報は漏らしたくなるということだ。

彼女の部屋からでも、その情報を開けたと言うことは、この当時からラクスはクライン派の中心人物の一人であった、そういうことのようだ。


各方面、特に地球でも1月ごろから活発化し、戦闘が耐えない北回帰線や、東アジア、東南アジアの一部などでは連合が史実よりも優勢となっていた。

特にインド洋にあるディエゴガルシア島を拠点として、反抗作戦をとっており、それ以外を含めて史実よりもザフト軍は不利であった。

これには、どうやら大西洋連邦が史実よりも早くMSを投入しているという情報があり、そのためにザフトは予想以上のダメージを被っているようであった。

そして、これは彼女の読んでいた、例の青の軌○という話しの通りであったのだ。

まあ、当たり前だけど…(汗)


「と言うことは、このままだとアズラエル理事、いえ天城 修だったっけ。彼に私が殺される…

見ているときは、いい気味だと思ったけど、それでも自分となると話しは別。死ぬわけには行かないし

死んだ後の世界が『また同じだった』なんてことが無いように、悔いが無いように死にたいのよ。」


彼女は、どうやら自分が死んで変な世界のよりにもよってこんな人に憑依してしまったことを

『自分に前世に悔いがあったせい』と思っているようである。

そして、ここでアズラエルに殺されれば、やっぱり悔いが残りそう、とそういうわけである。


「まあ、これは私がクライン派を方向転換して、ブルーコスモス穏健派と同調すればどうにかなる可能性もある…か。」


そもそもクライン派…ラクス・クラインは別として、シーゲル・クラインは

コーディネイターとナチュラルの緩やかな回帰に関して積極的な人間であった。

彼の考えは、クライン派の根本をなすものであって、これらは○の軌跡の世界におけるブルーコスモス穏健派との考えと同じと考えて良い。

なんせ、わざわざ南米にコーディネイターとナチュラルが共に暮らす村まで作ったほどだ。

それが彼の考えがそう言ったものだと分かる最もな理由であろう。


「本編はクライン派というよりも現実には『ラクス派』になっちゃっていたし。まあ、美化して言えば完全自由民主主義の考え?」


と、彼女は本編におけるラクス・クラインについて考え始めた。

本編において、彼女はほぼ完全にナチュラル、コーディネイターを一つとして、それでいて

完全に民衆の意思に添いつつも自由でないとダメという変な主義を掲げていたように感じていた。

まあ、なんでも開放して、争いの種の根源をどうするかを考えていなかったともいえる。

そんなことで、世界は続編であんな目にあっているのだ。

戦後処理を弁えろ、とは青の○跡において大西洋連邦大統領が考えていたことを要約する言葉だが、彼女にはそれが『まったく全然』無かった。


はっきり言って、テロリストと同等、いや下手すればたちの悪い宗教主義者である。

自分の考えが正しいなとど、自己神格している、と言った辺りでちょっと頭を打ったかと疑いたいほどである。


「確かに彼女の言った考えも間違えとはいえない。けど、世界にはあらゆる考えがある。自分達だけ正しいというのはちょっと変。

むしろ、すべて正しいのよ。

要は歴史がどう動くかで決まるわけだけど、万人が熱烈に支持する考えが一般的には全体として正しい考えなのね。」


それだけを言えば、コーディネイターの危険性を説いたアズラエル、ブルーコスモスの考えは間違っていない。

ただ、それはコーディネイターの基本的な人権すら無視された内容でもあった。

だが、確かにコーディネイター側から譲歩するべきところで譲歩しなかったためこのような戦争が起きたと言っても良い。


「さて、とすると私は死にたくもないし、このままバカみたいに国家反逆罪でつかまるのも嫌だから

基本的にはフリーダムの奪取をさせるわけにはいきませんね。」


実際には、させるのは『彼女=ラクス』であるのだが、まだその自覚が無いためにさせる

つまり受動態、要は受け身で話してしまった。

フリーダムさえ、奪わなければ最低でも穏健派を裏切り者に仕立て上げる手は使えなくなる。

それは、急進派のイメージを下げ、同時に穏健派のイメージをあげることになる。


そもそも、評議会議員の穏健派はあのオペレーション・スピットブレイクには消極的賛成であったし、直前に目標を変更されたため

これはパトリック=急進派の急ぎすぎた行動と民衆は捉える。

もともとパトリックが急進派であることは民衆は知っていたし、だからこそ彼は評議会議長になれたのだ。

とすれば、運がよければ政権を穏健派に戻すことも可能になるだろうし

最低でも穏健派がプラントで勢力を強め、急進派はそれに反比例して小さくなるのは見えていた。


「私としては、ブルーコスモス穏健派、マリア・クラウス上院議員と会談もしておきたいんですよね。どうやら、完全に青の軌跡の世界みたいですし…」


最新の情報がそのコンピュータにメールとして届き、開いてみると

『足付き(アークエンジェル級一番艦)がインド洋、ディエゴガルシア島で補給を受けた模様

ここを出て統合アラスカ作戦司令部に到達するまでにザラ隊を中心として、足付き殲滅戦を開始する模様』というメールであった。

そのため、この世界を完全にラクスは青の軌跡の世界と捉えた。

とするなら、ブルーコスモスは無害とは言いがたいが、クライン派の考えに近い。

特にブルーコスモス穏健派に至っては、考えが基本的に一緒なのだ。はっきり言って、これでなんで敵対していたのか…


(本編も青の軌跡も、ラクス・クラインが死んでシーゲル・クラインが生きていれば、まだ良かったのかも…まあ、そんなことを考えるだけ無駄か。)


そんなことを考えながら、やはりマリア・クラウスを通じてブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエルへの交渉

出来れば講和条約と戦争終結後の戦後処理について話しておきたいのが彼女の思惑であった。

さすがにラクス・クラインの記憶にプラスして、真実自身の経験を含まれたためか、考えがスムーズに纏まるようだ。

これも、コーディネイターの特権かな…と思いながらも、アズラエルさえ味方に出来ればどうにかなる…とそう言った結論に到達していた。

 


「問題は…まあ、『あのアズラエル理事』疑惑、動かないほうがいいラクス・クラインとしては、今は様子見が一番か…

第一に、単なるアイドルの私にそんな軍や政治を動かす権限はない…まあ、お父様…もとい、シーゲル・クラインら穏健派政権を成立させる意味でも

オペレーション・スピットブレイクは失敗してもらう必要性があるでしょうし…」


 

史実は、あまりにも単なる原理主義なアイドル、ラクス・クラインが動きすぎた。

そして、この世界が普通にいけば、あっけない最後まで約束されている始末だ。そんな現状で、ラクスができることはそれこそ限られてくるだろう。

 

「『私』では、軍事はおろか、政治にすら発言力がありませんし…シーゲル派として、あらゆる人と接点を持つことぐらいはできるでしょうけど…

アズラエル理事は元から、権力ありますけど、私はないんですよねぇ…やっぱり、様子見ですか。」

 


とにかく、ラクス・クラインとして生きていかなければならなくなったのは事実であった。

そして、彼女の生活は予想以上に大変だと言うことを、まだ彼女は理解していなかった。

 

穏健派であるラクス・クラインとシーゲル・クラインには思想に若干の違いがあった。

上記で述べたそれらは、二人がそれぞれ集めた同志が団結するのに少し問題があったのは確かだ。


方向転換をメンバーに伝えてから次の日、シーゲル・クラインの意見に続くことになったラクス派の一部が、極秘にシーゲル邸を尋ねてきたのであった。


次々に『我らの理想はっ!』なとど唱えるラクス派でも積極的なメンバーの白熱した意見を聞いて

『ブルーコスモス急進派か、あなたたちは?』と彼女が心の中で思ったのは秘密である。

と、一通り意見が終わったところでラクスが切り出した。


「では、ここで同じ穏健派で内部分裂を起こしますか?それこそ問題だと思いますわ。

それに、議長が進める作戦の反対運動には、両者の連携が不可欠なのです。

同じ反急進派であるのですから、理想は戦後にかなえれば良いのです。

ここで理想を唱えて、急進派に押されるほうがもっと危険なのです。」


「ですが、まず、理想無いとすべてかないませんといったのはラクス様ですっ!」


なおもエキサイティングするラクス派の同志に『ブルコス過激派、またはウズミ代表みたいなことを…』

と内心あきれ果てながらも、一応は同志であるため、丁寧に説明を続けた。


「理想は持っておくべきです。ですが、戦争とは別ですわ。利益が渦巻く戦争の世界で戦争終結も

我々と相手側両方に利益がないと終わりませんもの。

穏健派をまとめ、急進派を打破し、プラントと地球との和平を願うのは変わりませんし、理想である両者の共存はぜひともしてほしいものです。

ですが、理想と現実の違います。今から直ぐにとはいきません。

結論を急ぐのは私たちの悪い癖だとこの頃私も思うようになりましたの。どうです?」


そのまで親切丁寧に説明されると、さすがにエキサイティングしていたラクス派も落ち着きを取り戻す。

それを見て、少し手元にあったミルクコーヒーを飲みながら一息つく。


(これで、無駄な穏健派内部の意見割れも表面的には押さえられるか・・・

穏健派が力を一つに纏めれば、それなりに巨大な勢力になる。後は地球側でもバックが必要か。)


国内の政治が安定すれば、国外、外交が大きな比重を占めるとラクスは考えていた。

なぜなら、軍事力では到底生産能力的に不利なプラントが勝てるはずが無い。

核を使えるようにするNJCも、ラクスが渡すにせよ、クルーゼが渡すにせよ、いずれは連合も使えるようになる。

そうなれば、その莫大な生産施設を利用して、宇宙艦隊の再生も直ぐに行うだろう、そう予想されるからだ。

なら、外交ルートで戦争の落としどころを見つめて講和したほうが得である。

 

(講和交渉としては、反ブルーコスモス派のアンダーソン将軍だけど、将軍は、私たちを利用するつもりでしょうし

ブルーコスモスとも手を繋ぐとなるとそれほどの中にはならないでしょうね。

でも、それなりに講和に関しては考えもあるし、外交ルートは多いほど良い。

アズラエル・マリアの二大地軸が出来るまでは、アンダーソン将軍から大西洋連邦の方の考えを聞ければよいか。)


外交ルートを複数作る、それを目標にラクスは動くことにしていた。

と、憑依したためか少し疲れてきたため、休息が必要かなと思っていると、目の前にいるラクス派の同志がふと尋ねてきた。


「そういえば、ラクス様。この頃お変わりになりましたね。」


「えっ、そ、そうですか?どんな風に変わりましたかしら?」


尋ねられて、内心(ミーヤ・キャンベルってこんな気持ちだったのかしら?)と思いながらとにかく、ラクスらしく話しを聞き返しておく。

彼女の記憶を持っているからならではの、ラクスらしい言葉づかいであったが、ラクスは基本的に『かしら?』などと使わなかったりする。


「ええ。前よりも明るいような気が。いえ、前も明るかったですが、今はこう、笑みが時々こぼれますし。」


まるで、口説きたいのかと思う言葉であったが、それでもまあ、その程度でしか思われていないのだと安心した。

(その程度ね、良かった…偽者だ、なんていわれたら話にならないし。)


「ありがとうございますわ。私もかんばっていきたいと思いますから、皆さんもがんばっていただきたいのです。御願いします。」


しっかりと、礼をして、同志達は再びラクスへの忠誠という、なんとも昔らしいことをして帰っていった。

帰った後、ラクスはダコスタを呼びだした。既にこちらに配属になっており、冒頭の大声で最初に来たのも彼だったりする。


「外交ルートを作っておきたいと思いまして。少し頼まれてくれますか?」


「アンダーソン将軍がいますが、新たに作るつもりですか?」


「はい。アンダーソン将軍だけだと、情報が一元的になりがちですから。他からの情報、多少違った視点のものが必要ですわ。」


と、ラクスは元ブルーコスモスであったマリア・クラウスとの外交ルートを作って欲しいことを伝えた。

しかし、ダコスタはそれに猛反対する。


「元ですが、ブルーコスモス議員ですよっ!いくらなんでも…」


「ブルーコスモスでも穏健派ですわ。ダコスタさんも、ブルーコスモスが単なるテロ組織だとお考えですか?」


不意にそう言われて、ダコスタが「違うんですか?」と答えると、はあ、とため息をついて頭を抱えた。

(なんで、こう考えが単純なんですかね?この世界の人間は。)

だが、とにかく説明しなければ話しにならない。仕方なく彼女は説明を始めた。


「ブルーコスモス穏健派の思想は、私たちプラント穏健派とほぼ同じものですわ。ナチュラルへの緩やかな回帰。

どちらにしても、コーディネイターはいなくなりますもの。

ブルーコスモスといっても、テロをしているのは全体の1割にも満たない、他はすべて単なる自然愛護をうたっている方々です。

ですから、ブルーコスモスといっても色々と派閥があるのです。分かりましたか?」


「あっ、はい。しかし、ブルーコスモス穏健派は本当に我々と考えがほぼ同じなのですか?」


「現在のブルーコスモス盟主が、急進派で莫大な財力を持ち、ブルーコスモスの後ろ盾になっているアズラエル財団の総帥

ムルタ・アズラエル氏ですから、私も少し前まではそう勘違いしていました。

ですが、穏健派の思想と私たちの思想は似ています。ただ、現在はその財力から力を持っているアズラエル氏が全体を支配していて

穏健派の意見も黙殺されているのです。もっとも、アズラエル氏もプラントの破壊は願っていませんから

いずれはアズラエル氏が穏健派のマリア・クラウス辺りをブルーコスモスに戻すと思いますが。」


「なぜですか。急進派のアズラエルなら、プラントを破壊したいはずですが?」


「分かりやすく言えば、そのプラントを立てたのもアズラエル財団を中心とした財界ですわ。それを自分で破壊したらもったいない。

戦後もプラントの恩恵を受けて利益を上げたい。そういうことですわ。

そうすれば、マリア・クラウス氏経由でブルーコスモスの現状が分かる可能性もあります。

ですから、それを御願いしているのです。ブルーコスモスに戻る前に。」


あまりにも、ラクスが熱意を込めて言うため、折れたダコスタは『やれるだけやってみます』とだけ言って部屋を後にし

マルキオ経由での交渉が可能かマルキオ本人に聞きに向かった。

こうして、彼女の元、プラントは少しだが動き出していた。

 

 

彼女がそんなことで、クライン派の方向をシーゲル・クライン、つまりは父の路線にすべて戻したころ、地球某所では…


「なに、シーゲル・クラインとラクス・クラインとの間にあった、思想の違いが元に戻った?」


ここは、地球、北米と呼ばれるところ。別名アズラエル財団会長室。総帥と言ってもよいかもしれないが。

ここにいるのはムルタ・アズラエル。プラントでは『地球連合の罵るブルーコスモスの盟主で戦争急進派の中心人物』

と考えられている人間だが実際には天城修という青年であることを知るものは、プラントに一名いるだけであったりする。


『はい。プラント内部に潜入させていた諜報部の情報です。信用は置けます。』


内部のことほど、内部の敵対勢力のことを知らないパトリックと違い

連合は多数の諜報員を動員して、プラント、更には地球連合内部の情報を収集していた。

それも、パトリックすら知らない情報の一つであった。


「そんなバカな。シーゲルがラクス・クラインの思想に寄ったのではなく?」


通信をしている連合参謀本部のウィリアム・サザーランド大佐との話でその話題がでたとき、アズラエルは耳を疑ったほどである。


(あのラクス・クラインが方向転進だと。そんなバカな。あの想いだけでどうにかなると考えている人間が…)


アズラエルは、既にブルーコスモス穏健派を持って急進派、軒並み過激派を抑えるためにマリア・クラウスとの会談も考えていたときであったから

なおさらラクスの方向転進に不信感を持った。

本編では一貫した理想で、無駄に戦火を拡大した人間が、シーゲルの考え

つまりはブルーコスモス穏健派と同じナチュラルへの緩やかな回帰を願うとは予想外だったのだ。


『どうやら、裏でアズラエル様も知っての通り、スピットブレイクとかの作戦で連合がパナマに戦力を集中していることから

ザフト軍が敗退する可能性が高いことを理由に、反戦、講和を訴える作戦に出たようです。

そのため、二人の考えを統一する必要性があったと情報部では予想しております。』


「もし、それが成功すれば、もしかしたら政権がまたひっくり返る可能性も出てくる…と?」


『要約すると、そういうことと。同時に完全に合併したクライン派は連合政府には積極的に交渉を進め、いくつかのパイプを作っているようでもあります。』


アズラエルも、もし穏健派に政権が変われば、連合優勢で停戦、並びに降伏についてもスムーズに進むと考えた。

降伏というのは、別にプラントを連合は正式な国家と認めていないため

『講和』という国家同士の交渉は形式上無理ということを考えてである。


(だが、あのラクス・クラインのことだ。フリーダムなりなんなり、直ぐに奪取して無駄にする可能性もあるな。)


そう考えたアズラエルであったが、次の言葉に思わず飲んでいたブラックのコーヒーを出しそうになってしまった。


『それに加え、ラクス・クライン自ら、大西洋連邦上院議員、マリア・クラウスとの会談をするようで。

現在、スカンジナビア王国を仲介に会談の準備がなされているようです。どうやら、マルキオ導師経由でクラウスとクラインは関係があるようで…』


「なにっ!……………………本当ですか?」


元ブルーコスモス、しかも彼がブルーコスモスに戻そうかと考えている人物と会談する、それを聞いて彼女の変わりように思わず

『まるで、俺がやっているアズラエルと同じみたいだな。』と思ってしまったのだが、実際にそうであったことを知るのはもっと後であった。


『はい。確率は高いかと。ですが、ザフト側にもJOSH−Aに攻撃を受けることを我々が事前に知っていることを知っている様子はありません。

議長自ら情報を一部のものにしか知らせていないようで、シーゲル・クラインやあの娘もザフトはパナマに攻撃をすると思っているようです。

ですが、どちらにせよ、ザフト軍攻撃隊が壊滅するのは変わりありません。

となりますと、穏健派復権の可能性が高いというアズラエル様の考えも高いかと。』


「そうですか。穏健派復権はこちらにとってもプラスですしね。」


サザーランドはそれを『連合とプラントとの交渉が容易になる』と受け取ったが

アズラエルはむしろ穏健派復権によって、ジェネシスに関してある程度の安心をもてるようになった。


(まあ、あのバカなパトリックよりはましか。ラクス・クラインだと、逆に不安な要素があるがシーゲルがいれば問題はないしな。

とにかく、ジェネシスが直接地球に討たれることが無くなれば、最低でも人類滅亡なんていうシナリオはなくなる。だが、講和が予想より早いと

プラント独立を容認しかねないな。速めに、地球における反抗作戦をスムーズに進むように軍需産業連合の爺に頭下げないといけないか。

これで、余計に睡眠時間が少なくなる…誰か、休みをくれないかな?)


だが、アズラエル財団、ブルーコスモス、軍需産業連合において頂点に立つ男に休みなどあるはずも無い。

今日も彼は、働き三昧なのは決定であった。


「でも、既にブルーコスモスから抜けたとはいえ、元ブルコスのマリア・クラウスにクライン派が何のようなんでしょうかね?」


『確かに。ですが、大体の予想はつきます。アズラエルさま。』


「そうですけどね。まあ、穏健派が復権した後の講和条約等のパイプの一つにするつもりなんでしょう。

彼女は大西洋連邦史上最年少の上院議員ですし。

なにより、大西洋連邦上層部のコネが多いわりには、あまりコーディネイターを差別していない人ですからね。」


でも、元ブルーコスモスっていうだけで、差別の目でプラントでは見れているんだよな

あの人…とマリアに少し同情するアズラエルであった。

ブルーコスモス急進派末端の起こした事件が増える一方で

ブルコス穏健派や大西洋連邦以下の地球連合各国からはブルーコスモスのテロを抑えろという苦情が相次いでいた

アズラエルには、ブルーコスモスを出た彼女の自由さが羨ましかったようだ。

だが、彼がブルーコスモス盟主を引退できるのは、ずっと後である。


『はい。オーブ以下の中立国にも立ち寄るようであり、どうやら中立国からの支援を要請するつもりのようです。

まったく、アイドルがそんなことを出来るとは、プラントとは恐ろしいものです。あのような本来、自然の摂理から……』


「あの国のね…」


中立国を回ることを聞きつつも、アズエラルはオーブという言葉だけが気になっていた。

無論、サザーランドがその間に喋ったコーディネイター脅威論は適当にスルーしている。


(基本的に原理主義者のウズミと、ラクスが手を結ぶってこともありうるな。面倒だな、あの二人が手を結ぶと。

進路変更しても、あの予想不可能な娘だからな。今後は今までよりも警戒が必要になったな。)


「それじゃあ、サザーランド大佐。彼女の行動に細心の注意を払うように要請してくれるかな?

僕の方の情報網でも前にも言ったけど手に入らない可能性があるからね。」


『既にそのように命令を出しております。ご安心を。では、私もアラスカで作戦の細部を詰めますので。』


そう言ってサザーランドとの通信が切れると、アズラエルは予想外のラクス・クラインの行動に少しの不安を

募らせながら、引き続きアズラエル財団の仕事をこなすこととなった。