未来人の多元世界見聞録




 第1話『遭遇』

 誰もが一度は経験したことのある歴史の授業。興味がない人間にとっては眠気との戦いとなるその時間で
一人の少年が先生の授業を興味深く聞いていた。
 少年の名は桜坂耕平。このたびめでたく志望した高校に入学した高校一年生だ。しかしその彼にはある
秘密があった。

(まさか、生まれ変わったら1000年以上も経っていたなんて、まるで浦島太郎だな)
 
 彼は前世の記憶があったのだ。彼が死んだのは西暦2010年の日本。死因は交通事故であった。

(この世界で覚醒したときには混乱したけど、いまじゃすっかり馴染んじまったな。まぁ馴染まないと
 生活できなかったからな)
 
 彼がこの世界で覚醒したのは3歳のときだ。当初はあまりの状況に混乱したが、今では何とか普通に
生活している。
 当初は昔の家族のことを思い出すこともあったが、今では完全に割り切って、今の家族を大切に思っていた。

(それにしても、まるでSFだよな。まぁ俺の存在が一番、SFみたいだけど。いやむしろオカルトか?)

 22世紀中盤に開発された超光速航行技術、21世紀のSF風に言えばワープ航法によって人類の生存圏は
拡大した。止まることのない人口の増加、そして資源の枯渇という問題に頭を悩ませていた人類はあらたな
フロンティアを求めて太陽系の外、銀河系のあちこちに進出していった。
 そして彼が今、生活しているのは地球から3000年光年離れた植民地惑星アルカディアだ。
 大航海時代の初期に日米主導の下で開発された殖民惑星であり、現在は周辺宙域の経済の中心地として機能している。
 1000年前だったら、妄想として切り捨てられるような状況が、現実として目の前に存在している。それを思うと
少年は苦笑せざるを得なかった。

(前世で長生きはできなかったけど、こういう人生というのも貴重だな。せいぜい、今を楽しむとしよう)

 そんなことを考えていると、授業が終る。
 その日の授業は歴史の授業で終わりであったので、生徒の誰もが帰り支度をする。そんな中、友人達が話しかけてきた。

「コーはこの連休、どっかいくのか?」
「特に予定はないな……お前らは?」
「家族と一緒に異世界旅行さ。この前、親父が新しく次元航行船を買って張り切っているんだ」
「へ〜、それって敷島重工の新型?」
「そうそう。親父の奴、奮発して買っちゃったんだ」

 ワープ航法が開発されてから800年余りがたち、人類の生存圏は銀河系から他銀河、さらには並行世界にまで
広がりつつあった。そして今では個人で異世界へ旅行することさえできるようになっていた。
 
「アグレッシブだな」
「まぁな。お前も少しは外に出たらどうだよ」
「俺の趣味はわかっているだろう?」
「はいはい、お前もすき物だよな。あんなやたら金の掛かる上に、マニア向けのゲームをするなんて。
 おまけにパソコンをあんなレトロな形にするなんて」
「うるせーよ」

 そういうと、耕平は教室を後にした。
 家に戻るや否や、耕平は自分の部屋に戻りPCを起動させる。だが何故か彼のPCは21世紀初期のPCそっくり
だった。

「やっぱりPCはこうじゃないと」

 昔の記憶のせいか、どうもこの時代のPCが好きになれない耕平はPCを自作して、昔つかっていたPCと同じ
形をしたものを作ったのだ。尤もその性能は段違いであったが。
 鼻歌をうたいながら、彼は最近嵌っているゲームを起動させる。同時にゴーグルのようなものを被り、さらに
水晶のような形をした機器に手をかざす。
 
「さてさて、急いで宇宙艦隊を編成しないと」

 ゲームの名は『航空宇宙軍の興亡』。10年ほど前にでたゲームでたもので、当時はそれなりに流行ったゲームなの
だが、今では廃れてしまい、プレイヤーの数も大幅に減少している。
 ゲーム内容はいたってシンプルだ。プレイヤーは与えられた物資と資金をもちいて惑星を開拓し、工場を建設する。
そして工場で宇宙戦艦を建造して宇宙艦隊を編成。そのあと対戦相手のプレイヤーの根拠地を攻め落とすというものだ。
 ただしこのゲームは仮想空間で戦うのではなく、ゲーム会社が構築した並行世界の人工の宇宙空間で実際に宇宙艦隊を
PCから操作して戦い合わせるのだ。実に豪勢なゲームと言える。
 無論、豪勢な分、ゲーム会社に支払う金も高い。さらに昨今、数え切れないほどの娯楽があるために、このゲーム
に熱狂的にはまるプレイヤーもそう多くはない。
 だが桜坂はその数少ないゲームプレイヤーの一人だった。そして彼はそのプレイヤーの中では懐古主義者として
有名であった。
 何しろ彼は自前の宇宙艦隊を20世紀から21世紀のアニメや漫画、小説に出てきた兵器で編成していたからだ。
他のプレイヤーはあまりのセンスの古さに、桜坂が本当に高1なのか疑っている。
 しかしそんな疑惑の視線や声にめげるほど、彼はへタレではなく、今日も今日とてお気に入りの兵器を量産して
宇宙に浮かべては悦に浸っていた。

(これぞ未来世界の醍醐味だよな〜。ふふふ、色々とアルバイトした甲斐もある)

 ゲーム代金が高いために、彼はアルバイトをして小遣いを稼いでいた。
 自分が遊ぶ金を親にせびるほど、彼の性根は腐っていないのだ。
 彼が今勤しんでいるのが、宇宙戦艦ヤマトに出てきた地球防衛艦隊の再現だった。
 現在、戦艦ヤマト、アンドロメダ級戦艦2隻、主力戦艦36隻、巡洋艦81隻が就航してプレイヤーの根拠地
惑星上空に遊弋している。
 宇宙艦隊総旗艦・アンドロメダの艦橋のメインモニターには、堂々たる宇宙艦隊が映し出されている。
 この光景をみた一人の老人がニヤリと笑いながら言う。

「ああ、やっぱりアンドロメダ級は良い。それに主力戦艦も。ヤマトもいいけど、やっぱり量産型戦艦って
 いうのは軍オタの浪漫だよな〜」

 この老人、いや老人に見えるアンドロイドは、この人工的に構築された世界における桜坂の代理人であった。
 このゲームではプレイヤーは総司令官として用意されたアンドロイドと五感をある程度リンクさせる
ことができる。このためこのゲームではまるで自分がその場にいるような臨場感を味わうことが出来るのだ。
 勿論、老人のモデルは土方艦長だ。アンドロメダに乗るのはこの人物以外にない。
 ちなみにヤマトならば沖田艦長、バーミンガムに乗るときは、ワイアット大将と、乗る船によって彼は
アンドロイドの外見を変えている。マニアなりのこだわりと言えよう。

「どうせ、連休前に対戦相手なんて現れないだろうし、今日も今日とて艦隊整備と工場建設、それに資源惑星
 の探索に勤しむとしようか。はやくヤマト完結編の戦艦を作りたいしな」

 そういうと、彼は指揮下の宇宙艦隊から偵察艦隊を編成して周辺宙域の探索に出撃させた。
 それは普段と何ら変わることのない作業。そう思っていた。偵察艦隊が『それ』を発見するまでは。

「何だ、これは?」

 偵察艦隊から寄せられた映像に、桜坂は眉を顰めた。

「ブラックホール? まさか。そんなものがでるって情報はルールブックにはなかったぞ。
 それにそんなものが出たなら、ゲーム会社から障害メールが来るはずだし」

 ブラックホールと思われた『穴』。しかし詳しく調査するとブラックホールとは異なるものが明らかになった。

「……何なんだ、これは?」

 ゲーム会社に異常ということで報告するべきかどうか悩んだものの、彼は自分でこの穴の向こうがどうなって
いるのかを調べてみることにした。

「まぁこの人工宇宙そのものが古くなっているからな。でも、人工宇宙が古くなったらどうなるかは興味深い」

 そういうと彼は早期警戒機仕様のコスモタイガー2を穴の中に突っ込ませた。
 
「さてさて、どうなることやら」

 うきうきしながら待つ桜坂。だが、10分後に寄せられた映像に彼は絶句することになる。
 映像には穴の先に、さらに多数の穴が存在している光景が広がっていたのだ。

「……ええい。一番右の穴に突っ込ませるか」

 彼はそう指示した。

「さて鬼が出るか蛇が出るか」

 ひさしぶりに味わう緊張感と気分の高揚。彼は偵察機から何が齎されるかを楽しみにして待つ。
 そしてさらに20分後、待望の映像がメインモニターに映し出される。

「赤い星……?」

 赤い星。だがそれはどこかで見たことのある星であった。それも前世の、1000年前の世界で。
 だがどこかは思い出せない。

「惑星にもっと近づかせてみるか」

 コスモタイガー2はさらにその赤い惑星に近づき、惑星地表の映像をアンドロメダに送る。
 その映像の中に、彼は信じられないものを目にすることになる。

「あ、あれは……まさか、そんな馬鹿な」

 思わずよろめく桜坂。目の錯覚かと頭をふり、目をこするがその光景は変わらない。

「何故だ、何故ハイヴがある?」

 かつて前世でプレイしたことのあるゲーム。あいとゆうきのおとぎばなし……マブラヴ。
 そのゲーム世界に存在した敵、BETAの巣窟ハイヴ。それがメインモニターに映し出されていた。








 第2話『史上最短の作戦』

 コスモタイガーUからの報告によって、その星が火星であることが確認されると、耕平はこの世界が
マブラヴ、いや正確に言えばマブラヴ世界に類似した世界であることを悟った。

「何と言うことだ……」

 メインモニターに映し出される映像から目を背けて、耕平は思考をまとめる。

「落ち着け、俺。実はこれもゲーム会社のイベントかも知れないじゃないか。何しろ俺は数少ないお得意様
 だからな」

 そういうと、桜坂はメールボックスを確認する。だがそこには何の告知メールも無かった。
 見落としがないか何度もボックスを見渡すが、結果は同じだった。
 
「……ということはゲーム会社は、このことを関知していないということか。
 しかしこんな大きな異常があるのに、何も言ってこないなんて……ゲーム会社の怠慢のような気がするな」

 だがこれはある意味、好機でもあった。自分の手元には地球防衛艦隊だけでなく、マクロスやガンダムと
言った作品の艦隊もある。これらを送りつければBETAを撃破することは難しくないだろう。
 むこうの世界が何年かはわからないが、仮に月にBETAが進出していない時代なら、これから起こる
悲劇を食い止めることができるだろう。もし地球にまで攻め込まれていても、第5計画が発動されていなければ
人類を救うことは出来る。彼の手元にはそれを可能にするだけの軍事力が存在する。
 しかし問題もあった。 

「連休明けには、学力テストがある。あんまり長々と遊んで、いや介入していたら勉強時間が削られて成績が下がる……」

 切実な問題だった。
 いくらマブラヴ世界の人間からすれば、神に等しい力を持っている耕平とは言え、リアルでは一学生に過ぎない。
 そして学生の本分は勉強なのだ。
 異世界救いに行って赤点とりました、何て洒落にならないのだ。

「それに幾ら、軍事力や科学力で圧倒していても、俺に魔女と交渉ができるとは思えん」

 前世では幾ばくかの社会人経験もあった。しかしながらそんな経験だけであの悪名高い横浜の魔女とやりあえる
と楽観できるほど彼は愚かではなかった。交渉には才能以上に経験と度胸が必要なのだ。
 あの魔女と遣り合うには、少なくとも老練な外交官クラスの交渉術が要るだろう。しかし一介の学生に過ぎない
彼にそんなスキルはない。
 確かに原作知識と圧倒的軍事力があれば多少はやりあえるだろうが、最終的には出し抜かれる可能性があるし
色々と痛くもない腹を探られるかも知れない。美女との歓談は大歓迎だが、そんな精神が蝕まれる会話は御免だった。
 
「……まぁ地球の様子を確認してからでも遅くは無いか」 

 取り越し苦労かも知れないし、そう自分を説得するかのように呟くと、彼は偵察艦隊を地球に向けて送りつけた。
パトロール艦3隻、駆逐艦6隻の9隻から構成される小艦隊はただちに地球に向けてワープを行った。
 ただし地球人類に発見されたら攻撃されかねないので、彼は慎重に艦隊を地球に近づけて情報収集に当たった。
 光学観測から通信傍受と様々な方法で情報を収集する。そしてそれらはタキオン通信で人工宇宙のアンドロメダに
届けられる。アンドロメダではそれがコンピュータによって解析されていく。
 そして1時間後、すべての情報の収集と解析が終了し、その結果が艦長席にある端末に表示される。

「……西暦1997年。日本本土がBETAに侵攻される前で、状況はほぼ原作と同じか」
 

 さてさて、どうするかと彼は悩んだ。
 このままなにもしなければ、何も見なかったことにすれば彼は日常を続行できる。
 普段どおりに艦隊を浮かべて悦に入り、時折やってくる対戦相手を相手に大会戦を繰り広げ、華々しい宇宙戦争
を満喫できる。
 彼からすれば、たとえマブラヴに似た世界であったとしても、そこに多くの人間がいたとしても仮想上の存在と
変わらないのだ。そこで人類が滅亡しようと自分は痛くも痒くもない。映画を見る感覚で要られるだろう。
 頭の片隅で囁く声がする。見捨ててしまえ、恋愛原子核もちのリア充野郎に任せておけば良い、と。
 しかし前世でお気に入りの作品とそっくりの世界を、史実(?)準拠にするというのも面白くなかった。 

「……ふむ。あの魔女や、オルタネイティブ5推進派の度肝を抜いてやるというのも一興かも知れないな」

 まるで悪戯を思いついたような顔をした耕平は、如何にして介入するかと考える。
 そして暫くの熟考の末、とんでもない方法を思いついた。

「金も掛からないし、手間も掛からない。時間も要らない。それにあちらの人死も少なくて済む。
 まぁ先生が涙目になりそうだが、良いだろう」

 そういうと彼は軍需工廠の管理AIに幾つかの兵器の改良とその生産を命じた。

「俺は極力無駄なことをしない主義でね。一気に勝負を決めさせてもらうぞ」

 西暦1998年の元旦に耕平は動いた。
 戦艦アンドロメダ、主力戦艦3隻、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、戦闘空母1隻を中心とした打撃部隊が
地球からやや離れた位置に展開していた。地球環境を考えなければ、これらの艦隊だけで地球にあるハイブを
すべて潰すことが出来る破壊力を持っていた。
 しかしながら今回の作戦では、これらの艦隊は脇役。真打の護衛にしか過ぎなかった。

「宇宙用BETAなんて出てきたら厄介だと思って、護衛艦隊を連れてきたが、杞憂だったか」

 耕平は周辺に敵影なしとの報告をオペレータ(アンドロイド)から聞いて安堵の息をつく。

「さて、敵がいないのなら、さっさと始めるとするか」

 そういうと、彼は横を見た。そこには何とデスラー艦(二代目)があった。
 
「作戦開始」
 
 彼がそう命じるや否や、デスラー艦は艦首に装備している瞬間物質位相装置を作動させ、デスラー艦の
前方に布陣していた物体群を次々にワープさせる。

「『この一撃が世界を変える』とでも言えば良いか? いやそれには風情がないか」

 だが彼が行おうとする攻撃は、まさに世界を変えるものであった。
 位相装置によって地球の衛星軌道周辺にとばされた彼らは、事前に組まれたプログラムどおりに目標に向けて
突き進んだ。 
 これに慌てたのは、BETAではなく、地球人類であった。何しろ対宙監視システムには直前まで何も不審な
物体は映っていなかったのだ。
 国連軍、アメリカ合衆国軍首脳部は突然現れた物体に大混乱に陥った。あわてて迎撃しようとするもそれらの
物体はその巨体に似つかぬ高速で地球に落下していく。

「また新たなハイヴが築かれるのか」

 誰もが悲惨な結末を思い浮かべて悲観にくれた。
 しかしその落下ポイントが、ユーラシア大陸各地にあるハイヴであることが算出されると、それは戸惑いに
変わった。

「何が起こっている?」

 人類に続いてBETA側もハイヴに落下してくる物体に気付いたのか、重光線級、光線級が迎撃に出る。
人類から空を奪った光線属種がハイヴを未知なる災害から守るべく、大量のレーザーを物体に浴びせる。
だがそれらはレーザーをすべて弾いて尚も落下を続ける。
 あ号標的と呼ばれるソレは、未知なる災害としてさらに多くの光線属種を迎撃に向かわせた。
 しかしそれでも尚、彼らは落ちない。すでに弩級戦艦でさえ蒸発させることができるほどのレーザーを浴びせ
ているにも関わらず、それらは落下を止めない。
 その様子を見て桜坂はニヤリと笑う。
 
「それにレーザーは効かないよ」

 物体の正体、それはヤマト第1期で出てきたガミラスの超大型ミサイルだ。
 かつてヤマトを地上で撃破しようとして、ガミラスが冥王星から発射したそれは、ハイブに向かって落下を
続けていた。しかしさしもの超大型ミサイルでもレーザーの集中攻撃を受ければ撃破されるのは確実。
 このために桜坂は反則ともいうべき改造を行ったのだ。

「そのミサイル表面は空間磁力メッキをした装甲で覆った。波動砲でさえ弾けるものを、たかがレーザーで
 抜けると思うなよ」

 空間磁力メッキ。あまりの反則振りに原作では無きものにされた対レーザー防御兵器だ。
 ヤマトの決戦兵器である波動砲さえ無力化してしまうのだから、いかにチートな存在かがよく判る。
 
「さて、第二段階の用意だ」

 そういうと、彼は先の超大型ミサイルとは違って、スマートな形の物体をデスラー艦の前に並べる。
 それらこそがハイブ攻略の切り札とも言うべきものだった。

「地表部分や深度の浅い領域のBETAを、超大型ミサイルで潰す。そしてこれで反応炉や大深度の
 生き残りを潰す。うん、まるで無駄がない作戦だな」

 そう言って自画自賛すると、彼は艦橋のメインモニターに視線を向ける。

「さて、もうそろそろ着弾の時間だな」
 
 BETAの必死の抵抗も空しく、1998年現在の時点でユーラシア各地に点在するハイブに次々に
超大型ミサイルが命中していった。
 直撃さえすれば、あのヤマトでさえ沈めうる力を持ったミサイルの破壊力に無傷で耐えうる耐久力をもった
ハイヴなど存在するはずがなかった。
 一瞬のうちに、地上のモニュメントは崩壊。さらに地表部分や浅い深度にいたBETAたちは纏めて根こそぎ
蒸発していった。かのオリジナルハイヴには念のために3発もの超大型ミサイルが撃ちこまれ、巨大なクレーター
が空くことになった。
 それは第5計画を発動しない限り、この世界の人類ではなしえない大戦果であった。
 しかしそれで終わりではなかった。
 地上やその近くにいたレーザー種が消滅したために、BETAの鉄壁とも言えた対空防衛網に大穴が開いた
状況を桜坂が見逃すはずが無かった。
 彼はBETAが体制を立て直す前に、とどめの一撃を放ったのだ。

「7gfaga0u0gahugfthaogtiaht8953045930dfagaagaga」

 自身がいるハイヴどころか、この星中に置いたすべてのハイヴのユニットが甚大な被害を受けたことを理解した
あ号は、作業を再開するために何をしたらよいのかを検討した。 
 そこには動揺も恐怖もない。彼にそんな感情はなかったのだ。
 だがその演算の最中、さらなる異変が彼(?)を襲った。
 
「gaite;taei853969e0wurao?!」

 突然壁を突き破って現れたもの。人がみたら間違いなくいうだろう「ドリル」と。
 しかしそんな表現方法を知らないあ号は速やかにそれを排除しようとする。だがそれが適うことはなかった。
 あ号が動き出した直後、それは内部に溜め込まれていた波動エネルギーを解放した。 
 慌てて防御しようとするあ号であったが、波動砲の50分の1程度のエネルギーを前にそれは徒労であった。
 50分の1、たかが50分の1かも知れないが、戦艦級の波動砲はその一撃でオーストラリア大陸を消滅させ
る威力をもつのだ。それを間近で受けて耐えられるわけがなかった。
 かくしてあ号は消滅。さらに反応炉もまとめて吹き飛んだ。 
 この光景は地球上にある全てのハイヴでも起こっていた。

「作戦は成功だな」

 すべてのハイヴと反応炉が消滅したことを確認した、耕平は満足げに頷いた。
 彼が最後のトドメとして放ったのは、ドリルミサイルだ。かつてヤマトの波動砲を潰し、ヤマトを撃沈寸前に
追いやった兵器を、彼はハイヴを潰すためのバンカーバスターに使ったのだ。
 この兵器は惑星内部に打ち込むこともできるので、この用途はもってこいと言えた。
 さらに確実にハイヴの奥深くにある反応炉を潰すために、ドリルミサイルには波動エネルギーを溜め込ませて
いた。このため各地のハイヴは超小型の波動砲の直撃を受けたような状態となったのだ。
 いくら頑丈さがとりえのハイヴとは言え、恒星間戦争で扱われるような大破壊兵器の直撃に耐える力がある
わけがなかった。
 
「すべてのハイヴは潰えた以上、オルタ4もオルタ5も中止。
 それに横浜が落ちていないし、G弾もおちていないから、あの武が来ることもない。原作蹂躙ってレベルじゃないな。
 しかしわずか8分で介入終了って、ある意味爆笑ものだな。さて、さっさと戻るとするか」

 そういって笑いながら、彼は自分の世界に艦隊を引き上げさせた。
 こうして1998年1月1日をもって、地球上での対BETA戦争は終結することとなる。
 勿論、この世界の人類が何者が、どのようにハイヴを全て消滅させたのか知る由も無かった。
 このため、不審物体が発見されて全てのハイヴが消滅するまでの8分間のことを、人類史上最大の謎として扱う
ことになる。







 第3話『The Day After』  
 
 マブラヴに似た並行世界で、地球上に建設されていたハイヴをわずか8分で片付けた後、耕平は再び宇宙艦隊の
整備に没頭した。彼にとっての重要性は『ぼくのかんがえたさいきょうの宇宙艦隊の整備』>『マブラヴ世界』で
あった。ゆえに問題が片付いたと感じたら、彼はその後の世界の情勢など目もくれなかった。

「『しゅんらん』の建造は順調。それに新型の戦闘空母も建造開始。
 何も問題ないな。あとは永遠編の無人艦と完結編の戦艦、巡洋艦の整備を進めないと……ふっふっふ。
 いや、ここは空母群の整備をもっと進めるべきか? 何しろ原作では空母の出番があまり無かったからな」

 原作のヤマト世界では地球防衛軍の空母というのは活躍の機会が少なかった。
 彗星帝国との戦いでは活躍の機会があったものの、他の作品では出番がなかった。これはかの世界で地球が
受けた人的被害が影響していると耕平は考えていた。 

「あれだけ短期間の間に侵略者にボコボコにされたら、いくら人的資源があってもすぐに枯渇するよ」
 
 ガミラス艦隊によって地球防衛艦隊は一度壊滅。さらに地表には雨霰と遊星爆弾が降り注ぎ、100億以上の
人口を誇ったはずの人類は瞬く間に激減した。そんな状況で防衛軍、とくに宇宙艦隊を再建するとなれば人的資源が
苦しくなる。
 さらに言えば短期間で何度も強大な侵略者を敵に回した結果、防衛艦隊は戦役のごとに壊滅的打撃を受けている。
これでは箱物である軍艦を建造しても、それを操る将兵(作中では宇宙戦士)が絶望的に足りないのは間違いない。
そんな状況ではマンパワーを必要とする空母の整備など難しいだろう。 

「だがこの世界は違う。そんな制約はない。ふっふっふ。最強の空母機動部隊を整備してやるぜ……工廠を建設
 するたびに金が取られるのは痛いけど」

 銀行口座の残高を思い浮かべて、少し遠い目をする耕平。

「小遣い、節約しないとな」

 世の中、金だった。  
 そんな世知辛いことを思いつつも、彼は趣味に没頭。その後、連休明けにあるであろう学力テストの勉強に
取り掛かった。さらに勉強の合間を縫ってバイトにも励んだ。遊ぶ金くらいは自分で稼がなければならないのだ。
 そして学力テストである程度の手応えを感じたあと、彼は久しぶりに『航空宇宙軍の興亡』にログインした。
 それまでの疲れを癒すため、アルバイトで稼いだ金を費やして新たな工廠を購入することを考えていた。

「さぁ〜張り切って新しい工廠を買うぞ」

 このゲームでは保有できる艦隊の規模は工廠の数に影響される。
 何しろゲーム世界(人工宇宙)で作ったとはいえ、実物の宇宙戦艦なのだ。その整備には細心の注意が必要だ。 
 このためプレイヤーは工廠の整備能力を超える数の宇宙船を整備できないとされている。現状でさらに新たな宇宙戦艦を
多数建造したければ、既存の艦を廃棄するしかない。
 しかしそんなことをするつもりは耕平にはさらさらなかった。
 
「親に棄てられる心配がないコレクションを、自分で棄てるか!」

 1000年前の前世で、勝手にコレクションを棄てられたことを未だに根に持っているのか、まずゲームで使うことは
ないであろう艦隊(例:ガンダムのバーミンガム級戦艦、マゼラン級戦艦、サラミス級巡洋艦で構成される連邦艦隊)を
いまだに後生大事に保管している。
 
「さて、次はどんな工廠を買うか。連休中に頑張って稼いだからな……やっぱり、超大型の工廠を買うか。 
 すべて全自動の船もいいけど、やっぱり軍艦っていうのは人(ゲーム中のアンドロイド)が操作してなんぼだし」

 アンドロメダの艦橋の艦長席でニヤニヤしながら、画面に映し出される工廠の情報を眺める耕平。
 ただし外見は土方なので、違和感が凄いと言える。第三者がいたら『違和感、仕事しすぎ』と言うに違いない。
 そんな中、彼はふと『マブラヴ』世界のことを思い出した。

「そういや、結構時間が経っていたよな」

 ゲーム世界と現実世界では時間の流れが異なる。このルールをそのままマブラヴ世界に当てはめるなら
6年以上は経っているはずだった。

「ふむ。地球上からBETAは完全に駆逐されているだろうし、うまくやれば今は月奪還作戦の最中かも知れない。
 ひょっとしたらオルタ5の移民船団が宇宙空母に改造されて、戦術機をのせて月に向かっているかも……」
 
 暫く黙り込む耕平。

「戦術機なんて、俺達からすれば超旧式の骨董品だけど、あれが宇宙で戦う姿にはロマンはある。観戦するのも一興か?」

 そう考えると、彼はとりあえず現状を確認するためにパトロール艦と駆逐艦をマブラヴ世界の地球に向かわせた。 
 
「さてさてどうなっていることやら」

 耕平個人としては、あの世界はどんなに諸外国がアメリカを毛嫌いしても、アメリカを頼らざるを得ず、史実以上の
アメリカ一極支配体制が構築されるだろうと思っていた。
 まぁ原作とは違って本土が健在な日本ならある程度は張り合うことが出来るだろうが、それでも地力が違いすぎる。

「TOPがアメリカ、それに日本、ソ連、EUが続くって感じかな?
 まぁユーラシア解放後に、人類同士で戦争をしているってことも考えられるけど……まぁ人型兵器同士の戦いを
 眺めるのも一興だろう」

 そういって報告を待ち侘びる耕平。しかし30分後、アンドロメダの艦橋に信じられない映像が寄せられる。

「何なんだ、これは……」

 アンドロメダの艦橋のメインモニターには、変わり果てた姿で本来の軌道を外れている月と、分厚い雲に覆われた
地球の姿があった。

「一体、何が起こったんだ?」

 慌てた耕平は、周辺の情報収集を急いだ。すると大まかながら原因が推測できるようになった。

「月周辺で常識では考えられない規模の重力異常。それに砕けた月。そして大量のBETAの死体。
 まさか、アメリカ軍の連中、月を攻略するのにG弾を大量に打ち込んだのか?」

 耕平の考えはあたっていた。この世界の人類は月奪還のためにG弾を大量運用したのだ。  
 だがそれは耕平がやったBETA駆逐作戦も大きく影響していた。 
 1998年1月1日に行われた大気圏外からの攻撃によって、すべてのハイヴは根こそぎ消滅した。
 何者かがどのような兵器を用いて行ったかは判らないが、大量破壊兵器を用いてハイヴを叩くという戦略が
妥当であるということが証明されたとアメリカ合衆国首脳部、特にオルタ5派は判断した。
 ゆえに彼らはG弾の整備とその運用を強力に推し進めていった。勿論、すでに地上にBETAはいない。
G弾を使うとなると同じ人類に向けてということになる。
 しかしBETA大戦が終って間もない状況で、アメリカがG弾を同じ人類に向けて使うのは些か問題が
多く、さらに汚染の問題もあり地球上での使用は難しかった。
 かと言ってG弾の運用を進めていた派閥、特にバビロン作戦を推進していた人間達がG弾の使用を諦める
ことはなかった。
 彼らはアメリカの力、いや正確に言えば自分達の力を見せ付けるための場を求めた。
 それが2004年に行われた月奪還作戦だった。
 彼らはユーラシアをG弾で焼き尽くす代わりに、月をG弾で焼き尽くすオルタネイティブ6を立ち上げた。
 そしてオルタ5で建造された移民船団を宇宙艦隊に仕立て上げたあと、月に攻め込んだ。多数のG弾を携えて。
 彼らの目論見は当初、的中したと思われた。月にいたBETAはアメリカ戦略宇宙軍艦隊が撃ちこんだG弾に
よって大打撃を受ける。
 これによって同行していた国連軍も勢いづいた。彼らは一気に月を奪い返そうとした。
 しかし悲劇はそこで起きた。原作のオルタ5発動後に起こった悲劇が、月で形を変えて起こったのだ。
  
「ユーラシアが水没する代わりに、月の一部が砕け、軌道から逸れた。そしてその破片が地表に降り注いだと
 いうわけか」

 月の破砕と軌道の変化だけでも地球環境に甚大な影響がでた。そこにさらに少なからざる数の隕石が降り
注いだのだ。人類は溜まったものではなかった。
 もはや地球は人間が生存可能な環境ではなくなりつつあった。
 人類はBETAではなく、激変した地球環境によって滅びようとしていた。






 あとがき
 拙作ですが最後まで読んでいただきありがとうございました。
 この話は投稿掲示板に投稿していた主人公最強物の実験SS『未来人の多元世界見聞録』です。
 実験SSかつ気分転換で書いていたSSなので、1話あたりの量が少なく、このように何話か纏める
 形にしています。 
 色々と主人公最強ものSSというのを読んでみて、自分なりに主人公にチートな能力をある程度合理的
 に与えるにはどうしたらよいかを考えた結果、このようなSSとなりました。
 主人公はバイトで稼いだ金で他世界に介入します。しかも介入したらそれだけ金もかかり、勉強時間も
 減ってしまい、成績が下がれば親から怒られるというトンでもない設定になりました。
 世知辛いにも程があるだろうに(笑)。
 最新話が読みたい方は投稿掲示板をご覧ください。
 それではここまでお付き合いしていただき、ありがとうございました。




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