「・・・・・・・・・今度は、この男ですか? というか神はさっさと俺に死ねと?」

ひとりの男が鏡の前で怒りの余り震えていた。まぁさすがに死後の安息すら与えられないと知ったら誰しも怒るだろうが(汗)。

鏡の前にいる男、この世界では知将『ハルバートン』と呼ばれる名前を持つ男に憑依した青年、天城修はあまりの理不尽に

脳みその血管がぶちきれるほど血圧を上昇させていた。そして・・・・・・。

「くそ、やってやろうじゃないか! こうなりゃ何度でも歴史をひっくり返してやる〜〜〜!!!」

心の底から彼はそう絶叫した。ちなみにこの数分後、提督室からの絶叫に何事かと警備兵を連れてきたホフマン大佐の姿があった。







                青の軌跡 外伝『ハルバートンの場合』 第1話







 ホフマン大佐を退室させたあと、ハルバートンは状況を確認した。さすがに何度目かになる憑依となっては手馴れたものだった。

「そうか。今はアークエンジェルへ合流する途中といったところか・・・・・・」

手近にある書類やカレンダーで状況を確認すると、修ことハルバートンは早速状況を打破するべく、記憶を辿りつつ思考を開始する。

何せTV本編第13話で第8艦隊はあっさり敗北している。このまま史実どおりいけば間違いなく同じことが起こる。

「まずは何故、第8艦隊が敗北したかを考えないと。いきなり全滅で退場は避けたいからな」

ハルバートンはまず史実における第8艦隊敗北の原因を考え、ノートにまとめていく。

1.MS数で圧倒的に劣っていたこと(地球軍:ストライク1機、ザフト軍:G4機、シグー1機、ジン9機)

「だがこれは今更じたばたしたところでしょうがないから、無視しよう。さて他には・・・・・・」

2.艦艇の数の差を生かせなかったこと

「そういえば、艦隊決戦なのに砲撃戦もなしにいきなりMA発進させていたよな・・・・・・」

現在、第8艦隊はアガメムノン級母艦1隻、250m級戦艦10隻、130m級駆逐艦20隻が所属している。

「アガメムノン級母艦の戦闘力を3、250m級を4、130m級を1として計算すると合計して63。

 これに対してザフト、クルーゼ隊はナスカ級の戦闘能力を多きく見積もって8、ローラシア級を6と推定する。

 そうするとザフトの戦力(艦艇のみ)は20。でも、これにMSを加えないといけない」

そう呟くと彼は再度計算を試みる。

「こちらはMAが160機弱。まぁ割り切って160とする。対してザフト軍はジンが9機。戦闘力ではMAの5倍だから

 ジン9機は45機のMAに相当と。シグーは・・・・・・まぁ新型として割り切って戦闘力がMAの7倍とする。これにG4機か・・・・・・」

もはやスパロボに出てくるような超兵器となっているGを考えると、ハルバートンは頭痛がした。

「Gをジン5機分の戦力として考えると、4×5×5=100。これに他の機体を加えて航空戦力ではほぼ互角か?」

他にGの特性(ブリッツのミラージュコロイド、バスターの火力、イージスの機動性など)を加えて、こちらをやや上回る程度に

なるのではないかと修は判断した。ならば何故、敗北したか・・・・・・。

「まず挙げられるのはわざわざ相手の得意な分野で戦ったことか」

何故か、地球軍はたった3隻からなるクルーゼ隊に、長距離からの戦艦による砲撃も行わずにMAを発進させていた。

「MAがいる状態では乱戦になって主砲が使えないこれが敗因のひとつか」

艦隊全体の火力ではこちらが圧倒している、その点が突破口となるとハルバートンは判断した。

「他には旗艦が撃沈されて指揮系統が瓦解したことか・・・・・・これを何とかしないと拙いな」

最初からアークエンジェルとストライクを加えられれば楽なのだが、それをやると色々と不都合になる。

(もともとこの作戦はアークエンジェルをアラスカに降下させるのが主な目的だ)

だが、と彼は考える。

(アラスカではアークエンジェルは捨て駒にされた。ここでアラスカに降ろしても史実の二の舞ではないのか?

 いや、私が生存して第8艦隊が健在であればそんなことはないはずだ)

リベラル派であるハルバートン提督は反ブルーコスモス派の派閥でもあった。

その彼が戦死したことで地球連合軍の派閥のバランスが大きく狂ったのは言うまでもない。

(それに仮にクルーゼ以外の増援部隊が存在した場合は持ちこたえられないかもしれない。

 そんなことになればアークエンジェルもろとも全滅は必至だ。それは避けなければならない)

かくしてハルバートンは史実どおりにアークエンジェルをアラスカに降下させることを決意する。

無論、何の対策もしないわけではない。彼はアークエンジェルと合流するその日まで寝食を惜しんで必死に作戦を練ることとなる。





 そして一応は艦隊を全滅させずにクルーゼを撃退するための作戦を立てて、アークエンジェルと合流した。

このときのやり取りはほぼ史実と同じ展開を辿ったわけだが、違ったのはフラガを最初から迎撃に参加させること、そして

マリューが心配そうに「大丈夫ですか?」と疲労したハルバートンに尋ねてきたことだった。

「大丈夫だ。それよりこの艦とGをアラスカに届けてくれ」

マリューの問いにそう言って、疲れを誤魔化すとハルバートンはメネラオスに戻っていった。

そしてアークエンジェルが降下準備に入った頃、彼らはやってきた。そう招いていないもない厄介なお客が……。

「全艦砲撃戦用意。いいかアークエンジェルだけは何としても守り抜くんだ!!」

そう言って、ハルバートンは第8艦隊に密集体制をとらせる。

「MA隊は出さないのですか?」

ボルマンの問いにハルバートンは首を横に振る。

「今出しても意味がない。下手をすれば主砲が使えなくなる」

そう、何故か本編ではいきなりMAを発進させてザフト軍MSと殴り合わせると言うことをハルバートンは行っていた。

だが修はそれを愚策と判断していた。

(まずセオリーに添って長距離から戦艦による砲撃を仕掛けて敵MS、及び戦艦を牽制、もしくは弱体化させるべきだ)

だいたい敵MSが艦隊に肉薄してビームを撃つのは愚の骨頂、何せ近距離になるにつれて射角は狭くなる

さらに機動力で勝るMSに肉薄されたら砲塔の旋回速度では対応できない。懐に飛び込まれればその時点で終わりなのだ。

(こんな事くらい思いついてくれよ)

情けないやら、呆れたやらで少し気分がダークになるが、気合を入れてそれを振り払う。

「MA隊は敵MS隊がイエローゾーンに侵攻したのを確認した後に発進させろ。ただし一撃離脱に徹するように伝えろ」

「確かに正面から戦って勝つ事は難しいでしょうが………」

「パイロットはど素人ばかりだ。それでは大した戦果は期待できん。

 ならば相手を引き摺りまわしてバッテリー切れを誘うほうがよいだろう?」

そうこの時点ではMSはバッテリー式なのだ。TV本編でも見られるようにバッテリーが切れればMSと言えどもただの的。

そうなればMAで袋たたきにするのも不可能ではない。

「一撃を与えたら逃げ回れ。そして相手が諦めたらもう一度攻撃させろ。幸い数ではこちらが圧倒しているからな」

要するに嫌がらせ攻撃を繰り返せとの命令をハルバートンこと修は下した。

「敵MSをMAで拘束できれば、あとは戦艦の数の差で押し潰す。消耗は大きいだろうがこれなら勝機はあるはずだ」

勝機はある……この言葉にクルーは活気付く。

何せ敗戦間違いないという雰囲気が漂っていただけに、名将のこの言葉はクルーの士気を上げる効果があった。



「敵艦隊、艦隊正面に展開。MSの発進を確認しました」

「全砲塔射撃準備完了、射程まであと20秒」

「艦首ミサイル発射準備完了。射程圏内に入り次第、発射開始」

刻一刻と変化する動きを見ながら、ハルバートンは額に冷汗が浮き出るのを感じた。

(まったく何回修羅場をくぐっても、こういうのは慣れないな)

そう内心で苦笑しつつ、目の前の戦況を写したスクリーンを見つめる。そして……会戦の火蓋が切って落とされた。

第8艦隊に所属するすべての戦艦からビームが放たれる。さすがに130m級駆逐艦は射程圏外なので撃つ事はできないが、

それでも10隻もの250m級戦艦とメネラオスの放ったビームは3隻からなるクルーゼ隊に襲い掛かる。

無論、クルーゼはビーム撹乱幕を展開しているので、一撃で沈む事はないがそれでもかなりの密度の砲撃を浴びる羽目になっている。

この際の戦力は地球軍がメネラオスの戦力3、10隻の250m級戦艦の戦力4×10として43。

これに対してクルーゼ隊は戦力8のヴェサリウス、戦力6のローラシア級2隻として20。ざっと見て2対1。

ランチェスターの定理を当てはめると4対1にもなる。尤もクルーゼ隊はそう簡単にはやられてはくれない。

「敵艦隊発砲!! 高熱源体接近!」

クルーゼの乗っていると思われるヴェサリウス、さらに脇に居る2隻のローラシア級が第8艦隊に砲撃を浴びせる。

しかもその砲火の多くはメネラオスに降り注いだ。ブリッジから視認できるほどの距離の空間にビームが切り裂いていく。

「至近弾か」

「どうやら相手の狙いはこの艦のようですな………」

冷汗を流しながら言うホフマン。この言葉にクルー達に動揺が走る。

「うろたえるな、一撃でこの艦は沈みはせん!!」

余計な事を言う副官に本気で殺気を覚えつつ、ハルバートンは士気を鼓舞する。

「敵MSはどうした!」

「先ほどの攻撃で敵MSのうち2機を撃破を確認しました。残存機の接近を確認。後15秒でイエローゾーンに侵入します」

「MA隊を発進させろ!」

ハルバートンの命令に従って、メビウスが次々に発進していく。さらにアークエンジェルからもフラガのメビウス・ゼロが発進した。

尤もアークエンジェルはメビウスゼロを発進させるだけに留まらなかった。

「フラガ大尉だけに任せるわけにはいきません。ゴットフリート照準、目標敵艦隊右側のローラシア級!」

「艦長!?」

マリューの命令にナタルは目をむくが、これをマリューは黙らせる。

「地球への降下が最優先だと言うことは判っています。でも降下までもう少しの余裕はあるわ!」

マリューのこの時の脳裏にはアークエンジェルを訪れたハルバートンの姿があった。

師弟の関係だったからこそ判ったハルバートンの疲労……それを普段の心労から来るものと見たマリューは何とか師を援護

しようとしていたのだ。マリューの表情を見たナタルは仕方ないとマリューの命令を補足する。

「ゴッドフリート照準。ただし発射後、敵艦が回避した方向に向けてバリアント1番2番を発射!」

ナタルは軍人らしく、保険をかける作戦にでた。ある意味独断なのだが、この程度は許容範囲とナタルは割り切った。

このとき狙われたのはローラシア級の戦艦『ツィーグラー』だった。ツィーグラーは艦長の機転で辛うじてゴットフリートを

回避する事に成功したが直後に110cmと言う馬鹿げた口径を持つレールキャノンの直撃を受けた。

さすがにこの直撃を受けては、戦艦といえどもただではすまない。しかも運悪くその一撃は第8艦隊の攻撃で破損した部分に命中。

レールキャノンの砲弾は戦艦を覆っていた装甲を軽々と突き破って艦の重要部分に飛び込んだ。

そこで作業していたザフト軍兵士達を殺傷しつつ、艦内を蹂躙し……わずかな時間の後、炸裂した。

「敵戦艦轟沈!!」

「よし!!」

アークエンジェルからの砲撃で敵戦艦が轟沈したことを確認したメネラオスのブリッジは喝采を挙げた。

一方でザフト軍はこの短時間で戦艦が沈められたことに動揺したのか、動きが一瞬だが鈍くなる。そこを見逃すフラガではなかった。

ツィーグラーを母艦にしていたパイロットは母艦のあっけない最後に集中力を失っていた。そこにフラガが襲い掛かる。

「もらった!!」

四方八方から襲いかかるガンバレルのリニアガンに襲われたジンは必死に回避していたが、如何せん動揺によって

集中力が欠けていたせいか、一発につかまって吹き飛ばされた。それで動きが止まったところに他のメビウスの集中砲火を浴びて

ジンはあっけなく爆発四散した。他にも何機かのジンがメビウスの一撃離脱を浴びて損傷する。

この不甲斐ない光景に憤怒、激怒する者も大勢いる。特にクルーゼはこの事態に歯軋りしていた。

「くそ、ここまで粘るとは……」

ツィーグラーをいきなり撃沈され、あまつさえ初期の砲撃戦でMSを2機失っている。戦力の低下は明らかだった。

焦るザフト軍に対して地球軍は手持ちのMA160機を全機投入して応戦していた。

ツィーグラーは乗せていたジンをすべて発進させ終わってから撃沈されたためにMSの数は低下していないが、

パイロット達の動揺を考えると、戦力の低下は明らかだった。それは圧倒的数を誇る地球軍に押されると言う事態を引き起こす。

「ええい、何なんだよ、この数は!!」

160機ものMAがたった11機のMSに取り付く様はある意味で異様な光景であった。

しかもメビウスは絶対に密集せず、さらに接近戦に巻き込まれることを避けるように一撃離脱を繰り返すので数を減らせない。

ディアッカはこの事態に舌打ちする。こうなっては彼のバスターご自慢の火力を使えない。1機、また1機とジンが落ちていく。

MSが拘束されているのを見て、ハルバートンは決死の砲撃をクルーゼ隊に浴びせる。

彼らからすれば、仮にGが防衛線を突破すれば敗北するのが目に見えているので当然の戦法だった。

圧倒的といってよい火線がたった2隻となったクルーゼ隊に襲い掛かる。

「ええい、こうなっては仕方ない! ハルバートンの首だけでも持っていくぞ! 私も出る!!」

そう言ってクルーゼは自分のシグーで出撃していった。

この母艦の苦境を見たアスランとニコルはその性能にものを言わせてイージス、ブリッツで次々に防衛線を突破した。

「イージス、ブリッツが防衛線を突破しました!」

「く!」

だがイージスはMA形態に変形すると、その機動力で一気に第8艦隊の懐に潜り込み、スキュラを浴びせる。

さらにブリッツはミラージュコロイドで姿を隠しながら、艦艇に接近。至近距離からトリケロス、グレイプ二ールを浴びせた。

このたった2機の攻撃で、わずか6分で4隻もの艦艇が戦場から消えることになる。

「セレウコス被弾、戦闘不能! カサンドロス沈黙!!アンティゴノス、プトレマイオス撃沈!」

「MA隊、戦力の30%を喪失!!」

「たった6分でか!!」

(スーパーロボットにも程かあるぞ!!)

心の中であまりに強すぎるGに歯軋りし、『絶対、リアルロボットじゃないだろう』と毒づくハルバートン。

だがこれまでの攻勢でジンが5機撃墜されたこと。他の機体も消耗していることを聞くと、努力は無駄ではなかったと判断する。

尤もメビウスの被害もバカには出来ないレベルであったが。

そんな時、アークエンジェルから通信が入る。

『提督、アークエンジェルはこれより地球に降下します!』

「なんだと!?」

『敵の狙いは本艦です。本艦が離れない限り、敵は諦めません!』

これにハルバートンは頷かざるを得なかった。先ほどにMA隊は30%を失ったとの情報が入ってきている。

これ以上粘れば勝てるかもしれないが、仮にイレギュラーが混ざればどうなるか判らない。

これまでの経験で嫌と言うほどイレギュラーを味わった彼は彼女の提案に頷かざるを得なかった。

「・・・・・・分かった。行きたまえ!」

そう言って通信を切り、難民を乗せたシャトルを射出する。そして無事に降下を開始するのを確認すると彼は全艦艇に命じる。

「全艦艇に伝達! 総攻撃に出る!!」

「で、ですがそれではアークエンジェルが無防備になります」

「敵はジン五機を失い、他の機体も多くは補給のために戻らざるを得なくなっている。

 ここで敵母艦を叩けば残っているXナンバーも無力化することは出来る!」

そのXナンバーは暴風のように暴れ回っており、無視出来ない損害を第8艦隊に与え続けている。

「ロー轟沈!!」

「バーナード沈没!! 敵機、接近してきます!」

接近してくるイージス、ブリッツをハルバートンは自分の目で確認した。

「全艦に伝達! 敵艦を何としても叩き落とせ!!」

第8艦隊は戦闘可能な艦が18隻に減っていたが、まだMAは80機は戦闘可能であった。

MAはジンとデュエル、バスターを決死に拘束しており、ブリッツとイージスも暴風のように暴れてるがバッテリー切れも

そう先のことではない。

「地球軍の底力を見せてやれ!!」




 ハルバートンはその巧みな指揮で艦隊を再編、残っているクルーゼ隊2隻に猛砲火を浴びせる。

これを邪魔しようとしたブリッツとイージスだったが、これをメビウス・ゼロと遅まきながらアークエンジェルから発進した

ストライクがこれを妨害する。イージス、ブリッツはともにバッテリーの残量が危険なレベルにまで落ち込んでいた。

「……パワーが!!」

メビウス・ゼロのガンバレルのリニア砲の攻撃を回避しつつ、アスランは焦った。

二コルはキラのストライクによって拘束されており、救援に向かえる状態ではない。完全に孤立した状態だった。

だが、そんな彼らに幸運が転がり込む。アークエンジェルが地球へ降下する最終段階に入ったのだ。

『フラガ大尉、キラ、もう限界です、早く帰艦してください!』

この帰還命令によって、2機はアークエンジェルに帰還していった。

だがそれを追撃する機影があった。

「何をしている、引き返せ!」

『煩い! ストライクは俺が落とす!!』

比較的バッテリーに余裕のあったデュエルとバスターがストライクを追撃したのだ。

『このまま逃がすわけにもいかないだろう!』

ディアッカはそう反論して通信を切る。両機は重力に引かれて地球に向けて落下していく。

だが彼らはこのとき、ストライクに拘らずに第8艦隊を叩くべきだった。何故なら……。

「もはやこれまでか!」

MAを叩きまくっていたクルーゼだったが、いまだに60機のメビウスが戦闘可能であり、自軍のジンは戦闘不能になっていた。

「アデス、撤収するぞ! MS隊に撤退命令を出せ!」

そう言ってクルーゼはヴェサリウスに帰艦していく。そのあとヴェサリウスにイージス、ブリッツも撤退していく。

だがそれを易々許すほど、地球軍は甘くはない。敵は二度と立ち向かってこないように叩きのめしておく必要がある。

第8艦隊はこれまで散々に痛めつけてくれたお礼とばかりに、容赦のない火線を2隻に叩きつけた。

ビーム撹乱幕だけでは防ぎきれるレベルのビームではなく、さらに護衛艦のミサイルまで降り注ぐ始末。

ヴェサリウスはあちこちに被弾しており、戦闘能力は著しく落ちていた。

「くそ、まさかこんなところで敗北する事になろうとは………」

自分の隊がズタボロに叩かれているのを見て、クルーゼは歯をかみ締めた。

「ハルバートンの能力を侮っていたとでも言うのか……」

今回の敗北の原因を色々と考えるクルーゼだったが、その思考は次の瞬間の出来事によってあっけなく途切れることとなる。

何故ならクルーゼが帰艦しようとしたヴェサリウスは、彼の目の前でビームに貫かれたからだ。

「なっ!?」

ブリッジを撃ちぬかれて炎をあげるヴェサリウス。だがこの戦艦の受難はこれからだった。

さらなるビームが振り注ぐ。このうち、メネラオスの放ったビームがハッチ部分に命中し格納庫を蹂躙、さらに機関部にまで達した。

そして大爆発を起こしてヴェサリウスは消滅する。勿論、爆発の際に生じた破片はクルーゼのシグーに容赦なく降り注ぎ、

彼の機体に甚大なダメージを負わせてしまう。

「お、おのれ……」

コックピットにまで届くダメージで、負傷したクルーゼは痛みにうめく。

「仕方ないガモフはに着艦する……」

ガモフに着艦するとクルーゼは一目散に戦場から脱出していく。もはやMS隊を待つ時間んどなかった。

見捨てられたイージス、ブリッツ、それにジン4機は全機ともバッテリー、弾薬の消耗が激しい。

残されたイージス、ブリッツとジン4機は機体の消耗が激しく戦いようがなかった。

おまけに母艦が全滅したとあっては、どうしようもなかった。彼らは死に物狂いの抵抗をしながら1機、また1機と駆逐されていく。

「うわぁあああああああああああああああああああああ!!」

アスランは怒り狂っていた。彼の仲間は殆ど殺された。母艦は沈み、生きて帰れる見込みはまずなかった。

母を殺し、親友のキラを利用して連れ去ったナチュラル供は、今度は気の合う仲間まで殺してしまったのだ。

最後の最後まで粘ったニコルも、最期はアスランを庇って、火球の中に消えた。そしてクルーゼは自分達を見捨てて逃げ出した。

その怒りは、史実より速い彼の覚醒を促した。ほとんど弾薬も、バッテリーもないにも関わらず超越的な操縦技能で

攻撃を回避しながら、アスランはメネラオスに突貫した。

「撃て、何をしている!」

ホフマンの怒号に答えるかのように、残った艦艇が濃密な対空砲火を浴びせる。たった1機のMSに18隻が集中砲火を浴びせる。

あまりに濃密な弾幕に、右足を、左腕をもぎ取られていくイージス。だがその突貫は止まらない。

「まさか種割れでも起こしたというのか?」

早過ぎる覚醒にハルバートンは冷や汗を流す。だがそれを拭うと即座に命じた。

「密集しろ、対空砲ごときで味方の艦は落ちはしない!!」

密集してその弾幕の濃度をさらにあげる第8艦隊。これにはついにイージスはその弾幕に捉われた。

メインカメラが潰され、残った手足が根こそぎもぎ取られる。そしてその数秒後、コックピットをビームが貫いた。

実体弾に対しては強大な防御力を誇るPS装甲もビームの前では無力だった。

イージスはどのMSよりも派手に爆発、四散した。その光景を見て、多くの第8艦隊将兵は喝采をあげる。

何せ開戦以降、負け続けた地球連合軍が始めて大勝利を収めたのだ。これに湧き上がらない兵士は居ない。

「やりましたな、提督」

「ああ」

だがハルバートンはうかない顔だ。

「やはりアークエンジェルですか?」

「ああ。彼らはどうやらアフリカに降下するようだ。何とかアラスカに辿り付けれれば良いのだが」

「確かに」

第8艦隊は12隻の艦を失い、残った18隻も損傷している艦が多い。MAも半数が未帰還と言う大損害を受けている。

これだけの大損害を受けて、地球圏に降下させたアークエンジェルが味方の勢力圏に辿りつけなければ無駄骨だ。

「だが、もうどうしようもないだろう。速やかに撤収するぞ」

クルーゼ隊以外のザフト艦隊が来れば、全滅は間違いないだろう。

散々にイレギュラーと言う奴に悩まされ続けた修にとってみればこの判断は当たり前だった。

生き残った艦艇を纏めて、ハルバートンは迅速に撤収させようとする。もはやこの場に残る意味はないのだから。






 かくして、史実では第8艦隊の壊滅で終わった低軌道会戦は、一転して第8艦隊の勝利で終わった。

この戦いでクルーゼ隊はガモフを除いた2隻の戦艦を喪失。MSもバスター、デュエル以外をすべて失うという大敗北を喫した。

この戦功をたたえられ、ハルバートンは数日後に少将に昇進。さらにハルバートンの提唱したG計画は一気に推進されることとなる。

「もう、ここまで歴史が変るとは」

地球にアークエンジェルが降下してから暫くして、プトレマイオス・クレーター基地にストライクダガーが配備され始めた。

ストライクダガーは現在、プトレマイオス・クレーター基地とパナマ基地、アラスカで順次生産が開始されている。

だが史実との違いはそれだけではない。北アフリカでの戦いで、アークエンジェル隊が単独で砂漠の虎を打ち破ったことから

その原動力となったストライクを筆頭にしたGシリーズを量産に適したタイプに設計しなおし、順次生産を開始したのだ。

「デュエル、バスター、ストライクか……まぁやり方によっては随分とやりやすくなるな。

 ブリッツは戦闘ではなく、偵察か、特殊作戦にでも使うとしよう。何せコストが高いからな……」

ちなみにブリッツはミラージュコロイドなどの装備が高すぎるとして、生産台数は限られていた。

さらにイージスに至っては変形機構が複雑で整備が難しいことからあっけなく量産は断念され、現在はイージスのデータを基に

イージスよりは変形機構が単純なレイダーの開発が推し進められていた。

「さて、これだけ戦力が揃うんだ。次の手を考えなければ………」

MSの生産が早期に開始されたことで、戦況は異なるものになろうとしていた。

この時期、ザフトにはビーム兵器を搭載したMSは少なく、多くは実弾兵器が主流であった。

このため実弾兵器に対して圧倒的な防御力を誇るGが少数だが実戦に投入されはじめると、ザフトは各地で苦戦を余儀なくされる。

(このままいけば地球連合軍は遠からずザフトを地球から叩き出せるだろう。だが、この戦況がどう歴史に影響する?)

史実では比較的有利(?)な状況に置かれていたザフトは余裕を持って、スピットブレイクを発動した。

だが今回の歴史では、史実以上に地球連合軍はMSの投入を早めた。これによってザフトがどう出るかが予想しにくくなった。

(最終的にはザフト強硬派、ブルーコスモスともに撃破しておくのがベターだな。だが歴史は難儀なものだからな)

散々、経験させられた幾多の苦難。それを思い出して修は苦笑する。

(まぁ精々俺が生き残って、かつ連合が勝つことを目標としよう。出来れば犠牲者を最小限にして)




 ハルバートンが次に行ったのは、地球〜プラント間の補給線の寸断だった。

プラントは食糧生産のために多くのコロニーを改造しているが、それでも全人口を養えるほどの食糧は賄えない。

そのために大洋州連合やアフリカ共同体から食糧を輸出してもらっている。その食糧の輸送を妨害できれば、かなりの影響を生む。

さらに地球に展開しているザフト軍の補給物資はすべてプラントから送られている。

ジャンク屋なども利用しているが、やはり必要な物資はプラントからの輸送に頼らざるを得ない。

この物資の輸送を阻止できれば、地球に展開するザフトは立ち枯れすることとなる。

ハルバートンはこの通商破壊の効果を月基地の司令部で散々に説明し、さらにアラスカの許可を経て作戦を実行することとなった。

「今回の作戦は本大戦の行く末を左右する重要なものである。各員の奮闘を期待する」















 あとがき

 青の軌跡外伝『ハルバートンの場合』をお送りしました。

いえ、本編の第13話の展開にどうしても不満がありまして、書いてみました。

宇宙空間の戦闘では普通は『戦艦の射程』>『MSの行動半径』だと思うんですよ。

ファーストの時もMSの行動半径はそう大きくないですし、ましてバッテリー式のMSの場合だとそれより劣ると思いますし。

というわけで書いてみたら、クルーゼの敗北で終わってしまいました。

まぁ船の数が31対3ですから、普通はクルーゼの戦艦狙ったほうが良いと思うんですよ。的も大きいですし、当りやすいはずです。

……しかしアスラン、ニコル戦死……どんな展開になることやら(汗)。

今回は短め、恐らく3話か4話構成になると思います。本編たる青の軌跡の完結が先ですし。

ちなみに現在、種とは違うジャンルの現実世界からの乱入ものSSを書いています。

こちらのほうも相変わらずとんでもないお方に憑依します。こちらは短編になる予定です。

(本編再構成もののSSもありますが、暫く時間が掛かりそうです)

駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

それでは。