ジャスティスに向かって猛烈な勢いで迫ってくるフォビドゥン、レイダー。

無論、これを指をくわえて見ているほどアスランは呑気でも無能でもなかった。

狙いをつけるや否やMAに変形しているレイダーに向かってビームライフルを発射する。

だが、これにむざむざ当たるほどクロトは御人好しでも無能でもない。軽がるジャスティスの攻撃を避け、反撃を行う。

「それじゃあ、滅殺!!」

モビルアーマー形態を解除したレイダーは、破砕球ミョルニルをジャスティスに向かって繰り出す。

見た目はあまりにも原始的な兵器であるが、その衝突の際に繰り出される威力は馬鹿にならないものであった。

アスランも本能的にこの鉄球が危険であるものだと理解したのか、すぐにジャスティスを上昇させ回避しようと試みる。

「…っ」

この試みは成功しミョルニルはジャスティスの遥か下のほうを通り過ぎてく。

だが死神の鎌は今だアスランの首に構えられたままであった。

「こっちを忘れてもらったら困るぜ!」

オルガは不敵に笑うとカラミティのビーム砲『シュラーク』でジャスティスを狙い撃ちにした。

慌ててバーニアをふかしてビームの直撃は避ける事ができたが、2度にわたる無理な動きによって機体に隙が生まれた。

この隙を突くようにいつの間にか距離を詰めていたフォビドゥンがジャスティスに襲い掛かった。

「この!!」

フォビドゥン目掛けてビームライフルを連射するが、そのどれもが捻じ曲げられ本体にまで届かない。

何とか距離を取ろうとするアスランだったが、下のカラミティからの精密射撃とレイダーのミョルニルでの攻撃で思うような動きが

取れず思わず歯噛みした。

「ええい!」

カラミティが振り下ろしてくる鎌『ニーズへグ』を左手のビームサーベルで防ぐ。

鍔迫り合いになるかと思ったときコクピットに警告音が響き、下から放たれたビームに気づいた2機は慌てて距離をとった。

「オルガ!」

この攻撃に怒鳴るシャニだったが、当のオルガは気にもしない。

アズラエルが危惧したとおり、彼らにコンビネーションと言う言葉はない。

「それじゃあ、次は僕の番だね」

「うっせえよ、退いてろ!」

カラミティ、レイダー、フォビドゥンがそれぞれ勝手気ままにジャスティスに襲い掛かる。

この連携の無さに助けられてジャスティスは辛うじて猛攻を凌ぐことに成功していた。

だが性能が高いGATの次世代機であるこの3機は、コンビネーションが取れていなくても十分強敵である事は間違いない。

「こいつら!」

そしてどのような技術を用いたのかは分からないが、パイロットもまたコーディネイターに負けず劣らず優秀な能力を持っている。

これにはさすがのアスランも防戦一方を強いられる事となった。




 アスランが梃子摺らされている頃、別のブロックで戦っていたイザークもまた強敵にめぐり合っていた。

「何だあいつらは?」

Eエリアにおいて次々に駆逐されていくミサカ隊を見たイザークは思わず呆然と思ったことを口に出す。

「あいつら本当にナチュラルか?」

奇しくもかつてここでソキウス達に狩られたパイロットと同じ台詞をはくイザーク。

だが彼らと決定的に違う所が彼にはあった。

「まぁどちらでも良い。このイザーク・ジュールの相手には不足ない」

自分がライバルだと思っているストライクに匹敵すると思われる戦闘力を見て、彼は満足げに呟いた。

このときイザークは戦士として強敵とめぐり合えたことに高揚感を憶え、体中に流れる血が滾っている様に感じられた。

つい先ほど援軍のバクゥも到着しており、一対一のサシで勝負が出来る環境が出来上がっている。

「いくぞ」

イザークの呟きと共にバクゥが戦場に踊り出た。



 バクゥ4機が戦場に乱入して来たために、シフトを崩されたソキウス達は苦戦を強いられていた。

何せバクゥは足を4つ持つため、かなりトリッキーな動きが可能なのだ。

生まれつき戦闘能力が高く、二足歩行タイプの機体相手に訓練したことのある彼らも四足歩行兵器の相手をするには経験が不足していた。

「速いし、何より動きも良い。手強いな」

バグゥのパイロット達がかなりの経験者であることを、イレブンは直感的に感じた。さらに厄介なことに辛うじて生き残っていた

ジンが攻撃を仕掛けてくるようになったのだ。ジン部隊は、一応、味方のダガーが抑えに掛かっているので、深刻と断言するほどの

脅威ではないが、それでも完全に無視はできない。真正面のバクゥを先に叩くか、とイレブンが考えたとき彼は本能的な直感で

乗機を横に向けて飛ばした。

「ビームライフル? まさか」

自分がわずか数秒前にいた場所を通り過ぎるビームの光に、イレブンはザフトに奪われた同型機があったことを思い出す。

そして、すぐにその直感が当たっていることを知る。

「あれを避けたのか。最もそうでないと面白くないか」

必殺のビームを避けられたにも関わらず、イザークは悔しさを全く感じていなかった。

いや逆に高揚感は強まっていた。まさしく目の前の敵は自分の相手に相応しいとの思いを強める。

「このデュエルの相手はこちらがする。そちらはバスターとデュエルの相手を頼む」

バグゥのパイロットが戸惑った声を上げているが、今のイザークの頭の中には目の前にいる強敵と戦うことしかなかった。

「く、これは手強い!」

イレブンのデュエルはかなり正確にライフルを放っているのだが、イザークはそれを全て避ける。

いや避けるだけではない。イザークはデュエルのライフルを避けつつ、逆に正確にライフルを撃ち返して来たのだ。

「甘い!」

イザークの攻撃を受けて回避しようとするイレブンだが、それを見逃すイザークではない。

アサルトシュラウドによって向上した機動力に物を言わせてイレブン機に接近しつつ肩の小型ミサイルを放った。

「ち!」

イーゲルシュテルンでミサイルを次々に撃墜するイレブンだが、その僅かな隙にイザークは一気に接近した。

ビームライフルをアタッチメントに固定してビームサーベルを抜く。

ビームライフルを固定する暇はない、そう判断したイレブンはライフルを捨て自分もビームサーベルを抜いた。

そしてわずか数秒後、両者のビームサーベルが宙で激突し火花を散らした。






          青の軌跡 第5話






「各部隊指揮官に今後はコレヒドールが臨時司令部だと伝えろ! 暗号化はいらん!

 それと苦戦しているエリアの友軍の援護を急げ! 海軍の連中に支援爆撃を要請!」

そのころコレヒドールに乗る地球連合軍ブラットレー少将は守備軍の掌握を急ぐ一方で手持ちの予備部隊投入して前線を支えていた。

司令系統を失ってまともに動けない部隊が多々ある中、彼の苦労は相当なものだった。だがその努力が実り、指揮系統をある程度

立て直すことに成功する。彼は指揮下に入れた部隊を投入して、今までのお返しとばかりに反撃を加えさせた。

「砲身の寿命は気にするな、徹底的に撃て!」

陸上戦艦2隻と南米から増援に来た砲兵部隊による砲撃はまさしく鉄の雨をザフト軍に浴びせ、これの直撃を浴びた者は文字通り

叩き潰された。特に2隻の陸上戦艦とは言え、放たれる40センチ砲弾18発はとてつもない破壊力を有しており、直撃を受ければ

消滅を余儀なくされ、至近弾でも衝撃波と破片の影響でMSは擱坐を余儀なくされる。

これに加えて増強された砲兵陣地からも雨霰と砲弾、対地ミサイルが放たれている。

さすがのザフトご自慢のMSと言えども、これだけの攻撃を受けてはたまらない。

本来ならディンで陸上戦艦の排除を行う所なのだが、それはザフトは地球軍の多数の戦闘機に阻まれて不可能になっていた。

何せアズラエルによって集められた航空兵力は史実を遥かに上回っている。

何せ戦闘機の数だけでもディンの約8倍に及び、質の差においてもスカイグラスパーが配備されていることで縮まっている。

尤も指揮系統が混乱し、効率的な迎撃がされていないのが幸いしてか完全に制空権を喪失することは免れているが、

逆に言えば完全に制空権の確保にはほど遠い状況だ。

そのために鈍重な爆撃機や地上攻撃機によってジンやグーン、ゾノが次々に撃破されると言う失態を演じていた。

友軍は何とか降下ポイント周辺に接近しつつあったが、先ほどから始まった艦砲射撃によって身動きが取れなくなっている。

「地球軍も粘りますな」

クルーゼは母艦の指揮所で冷静に戦況を見つめるが、他の指揮官達は気が気でなかった。

すでに2つの地球軍艦隊がそれぞれ南北から艦隊を挟み撃ちにすべくこの海域に向かっているとの情報もある。

ザフトにとって時間は敵なのだ。

「ウガイア隊は右翼のリー隊を援護。いいか何としても時間までに降下ポイントを抑えるんだ!!」

クルーゼを除いた他の多くの指揮官達は決して満足とはいえない兵力でベストを尽くす。

己の祖国、そして自分の部下達に対する責務を果たすために。




 ジャスティスが3機に梃子摺っているころ、ダガー隊はブラットレー少将の指示によって、前線へ投入された。

「第16戦車大隊と第24戦車大隊は第2防衛ラインまで後退。補給と修理を受けろ!

 第13独立部隊で戦闘行動が取れないものは基地で修理を受けるか、予備機に交換して前線へ!」

主砲の九門の40センチ砲が絶えず火を噴き、その発射時の振動が伝わってくる艦橋でブラットレー少将は指示を出す。

「しかしあの新型を抑えられるのでしょうか?」

スクリーン越しに見える3機の連携の悪さに、副官が心配そうにバークを見る。

「ブルーコスモス連中ご自慢の玩具だ。それなりに戦えるだろう」

「確かに性能もパイロットの腕も良さそうですが……あまりに連携がとれていないようです」

「今のところはまともに戦えているんだ。今は1機のMSのことより前線を立て直すことを優先する」





 前線にダガー隊が投入され、友軍が駆逐されていく様を見たアスランは何とか友軍の援護に行こうとするが

3機のGによって悉く邪魔されてしまい、全く援護に行くことが出来ずに舌打ちを隠せないでいた。

「くそ!」

ビームライフルを放ち、目の前のフォビドゥンを撃破しようと試みるがその全てがゲシュマイディッヒ・パンツァーに全て曲げられる。

「何て装甲だ」

苛立つアスランだったが、彼には苛立つ時間すら与えられない。

フォビドゥンはお返しとばかりにフレスベルグを放つ。これを避けようとするアスランだったが、

「ビームが曲がった!?」

誘導兵器であるフレスベルグから放たれたプラズマはジャスティスが避けた方向に向けて正確に突進してくる。

避けられない、そう判断したアスランは慌ててシールドでそれを防ごうとするが、注意がそれた隙に背後から影が忍び寄って来た。

「必殺!」

レイダーの破砕球が背後からジャスティスに向けて放った。

「しまった!」

迫り来るミョルニルを回避する手段はない。直撃を受けて背中から吹き飛ぶジャスティス。

しかしこれが幸いとなったのか、プラズマ弾の直撃を受けることはなかった。

「クロト!!」

思わぬ邪魔をしたクロトを怒鳴るシャニ。しかしこの怒声にクロトはしれっと言い返した。

「あんなのが直撃したら、あれが吹っ飛んじゃうよ。バ〜カ」

「!! わかってる!」

「うっせえぞ、お前ら」

オルガは言い合う2人を冷めた目で眺めつつ、ジャスティスに正確な攻撃を加え続ける。

シュラーク、トーデスブロックから次々にビームと砲弾を撃ちだされる。

これを目まぐるしく機体をさばいて回避して、アスランはジャスティス自慢の推力に物を言わせて攻撃圏内から離脱しようとする。
しかし今度はレイダーがその恐るべき鍵爪で襲い掛かる。

ジャスティスはシールドを突き出して防ぐが、続く短距離プラズマ砲アフラマズはそのシールドを融解させた。

「ちぃ!!」

力ずくでジャスティスからレイダーを引き離す。核動力炉を搭載しているからこそできる力技だが被害は大きい。

シールドは大きく損傷し、次に攻撃を受ければどうなるか判らない。アスランにとって厳しい戦いは続く。






 アスランが3機の集中攻撃で苦戦を強いられているころ、イザークはイレブンと激しい戦いを繰り広げていた。

「こいつ、なかなかやるな」

ビームサーベルによる鍔迫り合い。同じ機体であるが、アサルトシュラウドを装備した分、出力が上がっている

イザークのデュエルのほうがやや押していた。

無論イレブンの苦戦を見て、他のソキウス達は援護しようとするがバクゥの攻撃で思うように攻撃できない。

「くっならば」

イレブンはイーゲルシュタインでイザークのデュエルに攻撃を加える。

PS装甲の為に実体弾は効かない。しかしアサルトシュラウドは話は別だ。

数秒間の射撃を受け続けた箇所が炎をあげる。

「なっ!」

イザークはこれにやや慌てた。もしミサイルポッドが攻撃を受ければ誘爆をしかねないのだ。

この一瞬の隙を見逃すイレブンではない。右半身をやや後ろに下げ……渾身の蹴りをイザークのデュエルの左腹にぶち当てた。

PS装甲は実体弾によるダメージを防げても、衝撃までも緩和できるものではない。

蹴り込まれた物理エネルギーの量に従ってイザークのデュエルは大きく右に吹き飛ばされた。

そして吹き飛ばされたイザークにトドメを刺すべく、イレブンはビームライフルを拾い上げて必殺の思いでビームを放った。





 ブラットレー少将の命令によって前線にストライクダガーが投入され始めると戦況は一気に連合側有利になった。

何せ圧倒的な航空兵力と地上部隊の火力によって消耗を強いられてきたザフト軍は押し寄せるダガーに対抗する程の力はない。

MSの殆どがバッテリー、弾薬の消耗が著しく到底満足に戦える状態ではないのだ。

交代させようにもアラスカの消耗によって予備兵力など全く用意できず、疲労した部隊はズルズルと消耗していく。

南方の艦隊が健在であれば、もう少しは粘れたかもしれないがそれも無いものねだりに過ぎない。

ジャスティスで司令部を破壊し指揮系統を混乱させ、それに乗じて短時間でグング二ール降下ポイントを制圧する

と言う短期決戦が根幹だった作戦だけに、この事態は最悪とも言えた。

しかしザフトにとって最悪なら、それは地球連合軍から見れば最良とも言うべき状況だった。

物資に余裕があり、補給と整備を済ませたダガーが次々に疲弊しているザフト軍部隊に襲い掛かる。

各地でザフト軍は後退しはじめる。

「一気に海に押し戻すぞ!!」

ブラットレーの指示によって陸上戦艦コレヒドール、アラモは相次いで前進を開始した。

「あいつを潰せ!」

事態を打開すべくザフトのMS隊の指揮官達は敵将の首を取ろうとするが、濃密な射撃によってその試みは悉く阻止される。

すでにザフト軍部隊に陸上戦艦を撃沈できる力は残っていなかったのだ。

『畜生、味方はどこにいるんだ!?』

『救援を、救援を!!』

『た、助けてくれ!!』

  相次ぐ攻勢に各地に展開していた部隊が悲鳴を放ち、それはザフト軍の通信網を占領した。

そしてそれはますます前線の兵士達の士気を下げ、悲鳴が増々悲鳴を挙げさせる原因となる。

この悪循環はザフトのパナマ攻撃軍全体を覆っていった。

「作戦失敗……ですな」

すでに戦局は決した。そう呟くクルーゼの言葉に多くの指揮官は同意せざるを得なかった。

もはや作戦の遂行は不可能であり、これ以上傷を深めないために一刻も早く撤収することが重要だ。

「……全軍に告ぐ。作戦は中止。総員撤収せよ」

作戦指揮官のクルーゼの決断を受け、多くの部隊は急いで撤退を開始する。


  

「まさか………そう来るとは」

イレブンは呆然とし、一方のイザークは汗だくになっていた。

「はぁはぁ……くそ」

イザークはイレブンの放つビームを避けられないと見て、とんでもない行為に出たのだ。

「追加装甲を利用してダメージを軽減させるなんて……」

そうイザークは追加装甲であるアサルトシュラウドを機体前面に、しかも着弾する可能性の高い部分の前にパージしたのだ。

追加装甲を捨てるなどととんでもないことのように思えるが、アサルトシュラウドでもビーム攻撃は防げない。

ならば、アサルトシュラウドを前面にパージして直撃を避けるそしてこのアサルトシュラウドが爆発したその瞬間に

生まれるであろう相手の隙を狙って距離を取ってライフルを放つ……それがイザークの取った起死回生の策であった。

しかしこの策はアサルトシュラウドでは防ぎきれず貫通したビームによって左腕を持っていかれたために

狙いを完全につけることが出来ず、こちらと同じく左腕を潰すことしか出来なかった。

左腕を失った二機がにらみ合う。

周辺では連合のGとダガー隊とザフトのMS部隊が激闘を繰り広げているが、2者の周りだけは静寂を保っている。

同型機同士のにらみ合いが暫く続くが、それはクルーゼの撤退命令によって終わりを告げる。

撤退命令を聞いたイザークは追撃を警戒しつつ後退する。

他のジンやバクゥが撤退する中、イザークは自分と同じ機体を使っているだろうパイロットに通信を入れる。

  「こちら、ザフト軍クルーゼ隊所属のパイロット、イザーク・ジュール」

こちらの声が聞こえたのか、向こうから戸惑った声が返ってくる。

『……一体、何の用?』

「………お前の名前は?」

しばしの沈黙。

「答えろ!」

『ソキウス……イレブン・ソキウス』

「『戦友』か……なかなか洒落た名前だな」

イザークはそれが本名でないと考えた。確かに人の名前としては変り過ぎているので無理も無かった。

「まあいい。良いか、お前は俺が倒す。だから他の奴にはやられるな」

そう言ってイザークは一方的に通信を切る。

敵に通信を入れるのは軍法違反だが、イザークはそんなことを気にするつもりもなかった。

「そうだ……お前は俺が倒す。ストライクのようにアスランに倒させはしない……ソキウス、お前の名前は憶えておくからな」

力強く、そして満足げにイザークは呟いた。



 相次いで撤退していくザフト軍。だが、それを見逃すほど連合は無能でもお人よしでもない。

卑怯だろうが、人でなしと言われようが叩けるときに敵を叩いておくのが戦争の原則だった。

敗走するザフトのMS部隊に容赦のない追撃が行われる。

特に指揮系統を回復した空軍による組織的な攻撃はザフト軍部隊に手痛いダメージを与えた。

本来、彼らの頭上を守るはずのディン部隊はすでに今までの戦闘で消耗しきっており、出撃できる機体などほぼ皆無。

制空権のない彼らはそれこそ哀れな獲物として次々に地上攻撃機や戦闘攻撃機に狩られていく。

いやそれだけではない。制空権が無いと言うことは自分達の行動が相手に筒抜けになってることも意味する。

上空に偵察機が飛び交い、戦場の動向を報告するたびにザフト軍部隊はダガー隊から側面や背後から攻撃を受けた。

制空権を完全に失ったが故の悲劇。現在のパナマではザフト軍MSは格好の的に過ぎなくなっていた……たった1機を除いて。

「作戦は失敗か、くっ!」

撤収命令を聞いたアスランは自分自身も撤退を試みるが、3機のGがそうはさせじと追撃する。

「くそ!」
  
通信回線から入ってくる悲鳴のような救援要請。そしてその悲鳴も次々に消えていく。

「……もう、誰も殺させはしない」

悲鳴を聞きながら彼の眼下では次々に味方が一方的に駆逐されていくのを見ていたアスランは自分の中で何かが弾けるのを感じた。

この直後、ジャスティスは急激に動きが良くなる。

「何なんだよ、こいつは!?」

レイダーの破砕球を軽々とよけ、カラミティ、フォビドゥンの攻撃すらも軽々と避ける。

あまりの動きの変化にさすがの生体CPU達も一瞬対処が遅れる。

「あああああああああああ!!」

その遅れを突くようにジャスティスは前面を飛行していたフォビドゥンに向かって突撃する。
  
「! こいつ!!」

フレスベルグを放つが、ジャスティスはそれを軽々とこなして肩のビームブーメランを投げつける。

「うわぁああああ!!」

ビームだけでなく実体弾すら偏向できるシールドもゼロ距離で発せられるビームを偏向することは出来ず、切り刻まれる。

シールドが大きく損傷し、機能が低下したと見たアスランは全火力をフォビドゥンに集中する。

幾つものビームがフォビドゥンに突き刺さり、シールドを、腕を、足を吹き飛ばして戦闘能力を喪失させる。

憎しみの視線を向けるシャニだったが、それもごく僅かの時間であった。

「これで終わりだ!!」

ビームサーベルがフォビドゥンを真横に両断し、その機体は数秒後に四散した。




 味方の新型機が戦っている地域で一際大きな爆発が発生したのを陸上戦艦コレヒドールは確認した。

そしてその数十秒後には、それが増援の新型機が落とされた証拠であることも確認した。

「そうか、増援の新型が落とされたか」

「はい。ですが彼らは良くやってくれました」

「そうだな」

そう、すでに戦況は完全に連合有利の状態であった。ザフトは雪崩を打って敗走しており、万が一にも逆転はありえない。

南北の海域に展開していた艦隊もいずれ沖合いのザフト艦隊を攻撃圏内に入れるだろう。

「あともう一押しすれば戦いは終わる。それまでは気を抜くな」

ブラットレーは幕僚の気を引き締めさせるようなことを言ってはいたが、このときすでに勝利を確信していた。

(アラスカ、パナマ戦の二会戦でザフト軍は、地上軍の余剰戦力の過半を失っただろう)

ブラットレーは一連の戦闘で補充能力の低いザフト軍が今後苦境に立たされるだとうと思った。

そして今後の戦いの主導権がこちらの手に渡る・・・・・・そこまで考えたとき、突如として入った報告が彼の思考を遮った。

「し、司令。敵の新型がこちらに急速接近しています!」

「な、何だと!? 味方の新型機は何をしている!?」

慌ててブラットレーはオペレータに尋ねる。

「どうやら敵機に振り切られた模様です!」 

「ちっ、弾幕を張れ!! アラモ、及び周辺の部隊にも攻撃命令を出せ!」

「了解しました」



 猛スピードで接近するジャスティスを迎撃すべく、陸上戦艦2隻は猛烈な弾幕を張る。いや、それだけでなく、旗艦を守ろうと

近くに居たダガー隊やヘリまでもが猛烈な弾幕をジャスティスの前面に張る。司令部を強襲された際に張った弾幕よりやや

濃度も精密さも低いが、それでもたった1機のMSを潰すのには十分な量であった。しかし、それはあくまでも普通のMSを

潰すのには十分すぎる量であっただけで、機体性能が桁違いのジャスティスを止めるには不十分だった。

「何!? 馬鹿なあれだけの弾幕を易々と!!?」

砲術長はあまりの非常識すぎるジャスティスの回避行動に目を見張る。

「これでも喰らえ!」

ジャスティスから放たれたビームはコレヒドールの右舷に次々に突き刺さった。

「第3砲塔大破!」

「第7ブロック大破! 周囲に延焼中!」

「第2格納庫で火災発生!」

「機関室より報告。今回の被弾で速度が60%に低下!」

相次いで艦橋に飛び込んでくる被害報告。それはコレヒドールが深刻な損傷を受けたことを端的に示していた。実際に艦のあちこち

から黒煙が上がり、場所によっては炎が吹き出ている。だがジャスティスはコレヒドールに対する攻撃を緩めるつもりはなかった。

   撤退している友軍を助けるためには、追撃している連合を出来るだけ叩く必要があるのだ。

そして最も効率的なのは将軍クラスを仕留めることだ。コレヒドールが狙われたのは少将旗を掲げているからに他ならない。

(こいつを沈めれば!)

更なる攻撃を加えようとするアスランだったが、アラモが傷ついたコレヒドールを庇うように前進する。

「邪魔だ!!」

アラモは艦橋、機関部に次々にビームを撃ちこまれて爆発炎上する。

しかしこの爆発でアスランはライフルで攻撃するタイミングを逃した。そしてこれを見逃すバークではなかった。

「主砲1番、2番、対空砲弾装填! 目標はアラモ上空!」

ブラットレーの言葉に耳を疑う幕僚達は聞き返した

「一体何をするつもりですか!?」

だが艦長はこのときのブラットレーの意図を理解し命令を伝えた。

「砲術長、撃て!!」



 アラモの脱落で、アラモが担当していた領域、特にアラモの上空で弾幕の濃度が急速に薄くなる。

アスランはこの穴を利用して、一気にコレヒドールに迫ろうとする。無論、これを座視する連合ではない。

ジャスティスの進路を塞ぐように多数のヘリがジャスティスの前面に布陣する。だが……

「邪魔だ!!」

必死に攻撃を仕掛けてくるヘリは次々に蹴散らされる。だがヘリ部隊の防衛網を抜ける際、アラモからあがる黒煙がアスランの視界を奪う。


アスランはそこまで気にしなかったが……それが彼にとっての命取りだった。コンピュータの警告音がした直後、強烈な衝撃が

ジャスティスを襲う。

「なっ何だ!?」

ブラットレーが命じた対空砲弾が至近で爆発し、内部に仕込まれていた榴弾がジャスティスに襲い掛かったのだ。

戦艦の主砲、しかも40センチクラスの砲弾となれば榴弾とは言え、その破壊力は脅威の一言に尽きる。

例え、実体弾を防ぐことの出来るPS装甲と言えども、完全に防ぎきれるものではない。

この一撃でジャスティスの右腕が根こそぎ吹き飛ばれた。そして爆発のエネルギーによってその場から吹き飛んだ。

「滅殺!!」

そしてこの絶好の好機を逃すまじとジャスティスを追いかけてきたクロトが破砕球を投げつける。

この攻撃は不意をつかれよろめいていたジャスティスにクリーンヒットする。

「ぐあ!」

さすがのジャスティスも大きく吹き飛ばされて、そのまま地面に叩きつけられる。

「ぐ……が……」

  様々な痛みによってアスランが気を失う寸前に見たもの……それは復讐に燃える多数のストライクダガーであった。