L4宙域にある廃棄コロニー『メンデル』。そこはラクス・クラインの理想に惹かれて集まった者達が作った組織の本拠地があった地だ。

だが旗頭であり、カリスマ的存在だったラクス・クラインと、組織を束ねていたダコスタやバルトフェルドが戦死したことによって組織は

あっさり分裂する。加えてアンダーソン将軍などの支援者達がブルーコスモスと和解したことで、支援すら滞り始める始末だった。

多くの人間はラクス軍に見切りをつけて離脱をはじめ、残ったのはラクスを殉教者と崇めるごく僅かな兵士と指揮官のみになっていた。

だがそんな不遇を囲っていた彼らの元に、地球連合軍によるプラント総攻撃が行われるとの情報が入ると、状況は激変した。

  コーディネイター系兵士には、プラントに親族を持つ者が多い。彼らはプラントを守るために出撃するべきだと主張する。だが冷静な人間

は燃料弾薬が不十分な上に、ザフトからも連合からも敵視されている状況では無駄死にするだけだと主張する。

両者は互いにいがみ合うが、最終的に補給の目処がたったことで、対立は解消される。その方法とは端的に言えば海賊であった。そして彼ら

は情報どおりに現れた輸送船を襲撃し、大量の物資を手に入れることになる。それが彼らの天敵だった者の狙いであることを知らずに。

  「ふむ。予定通り輸送船団が襲撃されたそうですね。カナリス提督」

『はい。間違いなく襲ったのはラクス軍の残党でしょう。これにダミーの反連合組織を通じて傭兵を派遣して連中の戦力強化を図ります』

「それにしても手際がいいですね。まるで彼らとコネクションを持っていたかのようですよ」

アズラエルは、あまりにうまくラクス軍が動いたことから、実はカナリスがラクス軍と繋がっていたのではないかと勘繰った。

『それは勘繰りすぎというものです。単に溺れた者は藁をもつかむの典型例でしょう』

あくまでもすっ呆けるカナリス。アズラエルは若干不信感を覚えるが、盟友であるアンダーソンたちとの関係を壊してまでわざわざ詮索する

つもりはなかった。

「まあいいでしょう。それとジブリールの件はどうなっています?」

『キラ・ヤマトのハッキングによって、かなりの情報が入手できました。これによって、ジブリールの尻尾をつかめそうです。それとデストロイ

 とやらの情報についてですが、プラントに密かにリークしておきました』

「そうですか」

『ですが、エルビス発動までに間に合うかどうかは不明です』

「エルビス前にジブリールを、過激派を潰すのが無理だと?」

『無理とは言いません。キラ・ヤマトを戦場に出さずに、現在の任務を続けてさせてくだされば成功の確率はあがりますが』

「それは無理ですよ。彼との約束で最終決戦にはアークエンジェルに乗せる予定ですし」

アズラエルはそう言うと電話を切る。そしてキラが乗る予定になっている新型MSの書類を見た。

「ストライクノワールか。全く高い買い物だったな。くそ、アクタイオンめ、ぼったくりやがって……」

本来ならば、ウィンダムのカスタム機にのせるつもりだったのだが、少しでも生き残る可能性が高く、かつ乗りやすい機体ということでアズラエル

は、ストライクの改修機といえるノワールをキラに宛がった。現在、キラは地上でノワールの訓練と電脳戦の両方をこなしている。

「……なんで、あんな万能モテモテ野郎に、こんな機体を、ガンダムを与えなくちゃいけないんだろうな。ふふふふふ、これも補正って奴か?」

こちらの都合もあるとは言え、復帰してからすぐに新型機をもらえるキラのラッキー振り、さらにフレイとも縁りを戻したというプレイボーイ

振りを聞いて、アズラエルは密かに嫉妬の炎を燃やす。尤も即座に思考を切り替える。アズラエルには無為な時間をすごす余裕など無いのだ。

「キラのことは放っておこう。考えても腹立たしいだけだ。それよりも全く過激派が煩いことこのうえないな」

カーペンタリアに核兵器や生物兵器を配備していたことや南米での化学兵器の使用、隕石攻撃は地球連合の加盟国に深刻な懸念を与えていた。

自分たちの頭上にこんな危険な存在を許してしまっていいのか……そんな懸念がジブリール達過激派を支えている。

「ジブリールがまた調子に乗って変なことを言い出さなければ良いけど」

だがアズラエルの予感は現実のものとなる。

「ジブリールが第一陣の艦隊に同行する?」

サザーランドからの報告を聞いてアズラエルは眉を顰めた。

「現場の指揮を混乱させるつもりでしょうかね」

第一次パナマ攻防戦で指揮をとった人間の言葉とは思えないことを言うアズラエル。サザーランドは内心でアズラエル様が言う資格はありません

よと突っ込むが、決して口には出さない。

『恐らく自分がいかに勇猛なのかを見せ付けるつもりなのでしょう』

「やれやれ、最初から勝つ気満々ですね。いえ、最初から勝利は確定事項と思っているといった方が正解かもしれませんね」

『いかがしますか?』

「まあ良いでしょう。奴がいない方が後方が静かになります(ついでに前線で死んでくれたら言う事無いな)」

中々腹黒いことを考えるアズラエルだった。だが、このあと国防産業連合、いやロゴスからとんでもない要請を出されることになる。

「何で僕が前線に出ないといけないんです?」

アズラエルは内心の動揺を必死に抑えつつモニタの向こうにいるロゴスの幹部達に理由を尋ねた。そしてその返答は簡素なものだった。

『簡単なことですよアズラエル理事。それが国防産業連合理事会、いやロゴスそのものの意思だからです』

「……どういうことです?」

『昨今のジブリールの暴走は、理事がブルーコスモス盟主時代に適切な措置を怠ったことが原因のひとつ。それなら理事が責任をとるのが当たり

 前というものでしょう。我々としてはプラントは何とか残しておきたいものですから』

「そんな無茶苦茶な」

『だがジブリールを早めに潰しておけば、少なくとも南米動乱はなかったかもしれない。そうでしょう?』

「ぐっ」

アズラエルとしては痛いところを突かれて、口を噤まざるを得ない。そして暫くの沈黙の後、アズラエルはこの要請を呑んだ。

「分りました。私が第二陣の艦隊、第2連合艦隊に同乗しましょう。ですが指揮権については」

『分っています。理事の指示があれば従うように口添えしておきましょう。第1連合艦隊についても命令権を与えます』

『それに理事はパナマ戦で見事な指揮を取っています。そう心配する事はないのでは?』

そんな言葉と共に会議は終わった。そして会議が終わった後、アズラエルは気が治まるまで人には聞かせられないような罵詈雑言を吐いた。

「くそったれが。連中は、俺が魔法でも使えるとでも思っているのか!?」

だがこれまでのアズラエルの功績は非常に大きいと言わざるを得ない。確かに幾つかの失点はあるが、戦争の趨勢を決める戦いにおいて多大な

貢献をしている。ロゴス幹部はそんな実績を見込んでアズラエルの出撃を要請したのだろうが……本人にとっては迷惑以外のなにものでも無い。

「しかしこうなると、俺ってマジで死にかねないのでは……」

最近の原作に似た動きと、TV本編でローエングリンによってアズラエルが吹き飛ばれた光景が、修に冷や汗を流させる。

「くっここで死んでたまるか。何としても生き延びてやる!! あ、でもクラウスに言って政治工作やメディア工作のことを頼んでおかないと」

アズラエルはそう呟くと、マリアに電話をかけた。



 アズラエル自ら出撃すると言う情報はジブリール達の元にも齎された。

「あの男が?」

月基地にいたシアは、地球にいるジブリールからかかってきた電話の内容に驚いた。

『そうだ。奴は我々が独自に動くことを警戒しているのだろう』

「お兄様が前線に出なければ、アズラエルも動かないのでは?」

『何を馬鹿なことを。あの忌々しいプラントが砕け散るシーンを直に見ないでしてどうするのだ。私が、いや我々が待ち侘びた光景なんだぞ』

「それはそうですが、戦場に絶対はありません。戦死する可能性も」

『そのためのデストロイ、そしてピースメーカー隊だ。あれがあればすぐにケリがつく。それに私はアークエンジェル級戦艦のキュリオテテスに乗る』

アークエンジェル級の防御力と速度には定評がある。恐らく地球連合軍の主力艦では最も沈みにくい船だ。

『私はあの化け物たちが滅びる瞬間、そしてアズラエルがそれを悔しがる顔を見たいのだ』

「それは……」

シアもそういわれては引き下がらずを得ない。

『誰もが、ブルーコスモスの思想を持つ者なら一度は夢見た光景なのだ。お前もそうだろう? お前を捨てた両親を、夢を奪った妹を思い出してみろ』

シアはそういわれただけで暗い情念がわきあがった。彼女はもともと、ある良家の長女として生まれた。彼女はそれなりの才能のある少女として

育った。彼女は自分なりに優れた人間であると自負していた。だがそれはコーディネイターとして生まれてきた次女によって粉々に砕かれた。

全てにおいて優れていた妹は、両親の歓心も、自分の夢も何もかも奪い去っていった。そして彼女はその現実に耐え切れずに逃げ出した。

そんな彼女を拾ったのがジブリールの両親であり、そして彼女の才能を認めたのがジブリールだった。だからこそ彼女はジブリールに絶対の忠誠を

誓っていたのだ。彼女はジブリールに忠誠を誓ってからというもの、血反吐を吐くような努力でその能力に磨きをかけた。全ては兄に報いるため、

そして自分から全てを奪っていたコーディネイターを皆殺しにするために。

「判りました。私の全力をもってあの忌々しい砂時計をひとつ残らず砕いて見せましょう」

『期待している』



 地球連合軍がプラント本国を攻略するべく動き出した頃、プラントでは生き残りを図る為のクーデター計画が進められていた。

エザリアは一連の作戦指導の失敗を咎められて左遷されたユウキを含む数名の指揮官を仲間に引き入れた。だが彼女の仲間はそれだけだった。

有能な指揮官は多くがこれまでの戦いで戦死していた。加えて現状に不満を持つ人間はラクスについていき、これまた戦死していたのだ。

「これでは到底、実力行使で政権奪取は難しい」

病室で同志のリストを見たエザリアはそういって溜息をつく。そこでデュランダルはすかさず耳打ちした。

「こうなっては仕方ありません。議長には戦場で退場していただくというのは?」

「暗殺する気か?」

「戦場では、不測の事態も起こりえます。そうなれば政権No2の貴方が合法的に議長になります」

「………」

さすがのエザリアもこれには即答できなかった。自分のしようとしていることは、同志であったパトリックを後ろから刺す行為なのだ。

だが彼女は同時に政治家であり、プラントを、いやコーディネイターを存続させる義務があった。



 多くの人間の思惑が交差する中、ついに地球連合軍最高司令部はプラント本土攻略作戦『エルビス』の発動を決定する。

この決定に従ってプトレマイオスクレーター基地から大艦隊が出撃していく。まず第一陣の艦隊である第1連合艦隊が姿を現す。総司令官は

パナマ攻防戦の功績から昇進したキャメル少将だったが、実際には同行しているロード・ジブリールが指揮権を掌握している。

第1連合艦隊が出撃した翌日、第二陣の艦隊として第2連合艦隊が出撃した。この艦隊の総司令官は第7艦隊司令官のバークが兼ねているが

実際には第1連合艦隊と同様に実際の指揮権は同行しているアズラエルが掌握している。といってもアズラエルは自分で指揮するつもりは全く

なく、ブルースウェア主力艦隊を含めた総指揮を有能なバークに任せた。

「餅は餅屋です。僕がするのは政治的判断だけで十分ですよ」

一方のジブリールはアズラエルが来るまでに、プラントを殲滅するつもりであった。アズラエルの第2連合艦隊がくれば、圧倒的兵力差を見た

コーディネイターが怖気づいて降伏する。そうなればコーディネイターを抹殺する機会は失われる。彼はそう考えた。

そしてその考えが彼を焦らせることになる。









              青の軌跡 第46話








 地球連合軍第1連合艦隊はプラント本土のある宙域で、自軍の前方に立ちはだかるように展開する多数の光点を確認した。

48隻の艦隊が展開している事を確認している。その内訳はナスカ級戦艦16隻、ローラシア級戦艦32隻であり、立て続けの敗北で弱体化した

ザフト宇宙軍の懐事情を考慮すれば、かなりの規模と言えた。

「ふん、コーディネイターどもめ、あちこちから船をかき集めたようだな」

第5艦隊旗艦キュリオテテスのブリッジで、ザフト軍の陣容を見たジブリールは、ザフトの悪あがきをあざ笑う。

「ですがMSの数については、侮れない数でしょう。ここはコーディネイターどもの本拠ですから」

キャメルはそういってジブリールに進言した。

「加えて、デブリが多数あります。フェイタルアロー作戦で崩壊したコロニーや、戦艦が漂っているのでしょうが、これらの物体は大きな障害です」

「ふん、そんなもの大した障害にはならん。こちらは奴らの3倍弱はいるのだ」

この言葉にキャメルは沈黙した。彼個人としては5倍以上の兵力で押しつぶしたいというのが本音だったが、そんなことは言えなかった。

これを察したのか、自分も不安に思ったのか、シアはとりあえずブリッツを含めた偵察部隊だけでも派遣することを提案した。

「伏兵によってプラント殲滅が邪魔されたら、お兄様としてもお困りになるのでは?」

「……ふむ。まあお前がそこまで言うのなら良いだろう」

一方のキャメルはこのやり取りを見て多少不安に駆られた。

(この男は、デスクワーク向きだな。こんな男が指揮に口を挟むとは……まあ切り札であるデストロイがあるから問題ないか)

キャメルは自分の不安をそういって内心の不安を押さえ込む。

「それではいきますか」

「いきたまえ。存分にな。第2連合艦隊が、アズラエルが来る前に終わらせればいいのだ」

キャメルは不吉な予想を振り払うと目の前の問題解決に集中する事にした。椅子から立ち上がり、良く響く声で命令を下した。

「全艦前進、我々は正面に展開するザフトを殲滅する!」

ヤキン・ドゥーエで130隻を超える連合軍艦隊を確認したパトリックは1人呟いた。

「遂に来たな」

事前の情報から戦力差は理解していたつもりだが、こうして見るとその心理的な圧迫感は拭いきれない。それは幕僚たちを見れば一目瞭然だった。

ヤキン・ドゥーエやプラントから出した物も含めればMSの数も400機に達する大兵力だが、これでも第1連合艦隊には劣っていた。おまけに目の

前の第1連合艦隊を撃破しても、連合軍には二の矢である第2連合艦隊がいるのだ。加えて衛星軌道と月には合計して3個艦隊がいる。

はっきり言って笑いたくなるような兵力差であったが、ザフト軍将兵は自分の祖国を守るべく不退転の覚悟で戦場に身を投じていた。

「それにしても、1日遅れでプトレマイオスを立った第2連合艦隊と合流してから攻撃を仕掛けてくると思っていたが」

「第2連合艦隊は月基地出撃後の足取りが掴めておりません。どうやら第1連合艦隊と同じ航路を通っている訳ではないようです」

オペレータの言葉に釈然としない思いを感じたものの、今それを考えても仕方がなかった。

「プラント防衛隊に告ぐ! プラントの、ひいては人類の未来は諸君の双肩にかかっている。人類の未来は我らコーディネイターが作るものなのだ。

 未来の担い手はナチュラルではなく、我々なのだ。祖国は諸君らの健闘を期待する!」

この言葉のあと、各艦が行動を開始した。





 前進してくる130隻を超える連合軍の大軍から、プラント本国を守る壁を作るように、約50隻のザフト艦隊が横列陣を敷いている。

パトリックの見ている前で遂に両軍は激突した。両軍の戦艦は敵を射程に入ると同時に砲門を開く。強力な艦砲射撃のビームが宇宙空間を次々と駆け

抜けて双方の艦艇を襲う。両軍ともにビーム撹乱幕を散布していたことで、一撃で轟沈する艦艇はいないが、艦の数の差は火力の差となってザフトを

苦しめた。数で圧倒的に劣るザフトには最初から攻勢に出るという選択肢は無い。このために守りのザフト、攻めの連合という構図がすぐに出来上がる。

ザフトは火力の差によって少なからざる艦が撃沈、或いは戦闘不能になり離脱する。火力の弱体化を見た連合軍は一気にザフトを叩くべく距離を詰める。

そして双方の距離が詰ってくると、両軍はMSを発進させた。地球連合軍の主力MSはダガーとダガーL、ザフト軍の主力はゲイツ、ゲイツRで

あった。性能的にはゲイツRはダガーLと互角に戦えるが、残念ながらザフト軍側は熟練パイロットが枯渇した状態であり、その性能を十分に

活かすことができない。一方の連合軍はブルーコスモス系軍人が多いものの、その能力は復讐という暗い情念によって支えられてきただけ卓越している

者が多かった。このためにザフト軍の中にはゲイツRに乗っているにもかかわらず、ダガーに苦戦するパイロットが続出した。

加えてザフトは少数ながら新型のザクを配備していたが、こちらは連合軍のウィンダムとの戦いに苦戦を強いられており期待通りの成果を挙げる

ことが出来なかった。核エンジンを搭載した試作型や先行量産機については獅子奮迅の活躍をしているものの、バッテリー式の量産機については

ウィンダムと戦うとなるとやや歩が悪かった。本来なら核エンジン搭載機を量産したかったが、プラントの窮状がそれを許さなかったのだ。

だがそれでも奮戦していると言える。何しろパイロットの半数は素人パイロットであり、その錬度は恐ろしく低い。

ユーリが開発した学習型コンピュータの補助がなければ虐殺すら起きていただろう。尤もこの苦戦はザフト軍首脳部にとって驚きを隠せないものだった。

「ザクやゲイツRが押されているだと?」

MS部隊の予期せぬ苦戦に、ヤキン・ドゥーエの人間達は焦りを隠せない。

「馬鹿な。あれは理論上は連合のGを相手にしても互角以上に戦えるもののはずだ!」

技術畑の将校はそういうが、目の前の現状が覆るわけではない。パトリックはヤキンに移っていたユーリを隣に呼び寄せると小声で尋ねる。

「現時点での照射は無理か?」

「不可能です。敵の発見が遅すぎたので、ミラーの展開が遅れています」

「あとどの程度で可能になる?」

「せめてあと35分の猶予を」

「………判った」

パトリックはユーリにそういった後、管制官に指示を出す。

「フリーダムとジャスティスにミーティアを装備して出せ」

「投入が早すぎます」

幕僚の一人が反論するが、パトリックは持論を押し通す。

「MS戦でこれまでのような優位を保てないとなると、数で圧倒されるのは時間の問題だ」

この指示を受けて、ヤキン・ドゥーエから切り札であるフリーダム2機とジャスティス1機が出撃した。それもミーティアを装備して。

だがこのとき、連合軍もまた切り札の投入を決意していた。ジブリールの都合によって時間をかけることができないことが理由だったが。

「キャメル少将、このまま一気に押し込め。デストロイとMS隊の第2波の準備は?」

「すでに出来ています」

心の中で忌々しさを感じながらも、キャメルは恭しく答えた。ジブリールはそれに満足すると命じる。

「うむ、ならば迷う必要は無い。全艦前進!」

第1連合艦隊は、一気に速度を増してザフト軍を叩き潰そうとする。それはまさに巨大な濁流が押し寄せていくかのような光景だった。そしてその

濁流の中には一際目立つ存在があった。そう、デストロイだ。

この巨大なMAを見たザフト軍将兵は最初面くらい、そして動揺してしまった。プラントの防衛ラインを叩き壊した謎の巨大MAの存在は聞いた

ことがあったが、やはり聞くだけと、実物を見るのとでは格段にインパクトの差があった。そしてその直後に行われた無差別攻撃に度肝を抜かれた。

デストロイは、戦場に投入されるや否や、いきなり強力なビームの掃射を行って戦場を薙ぎ払ったのだ。

20門もの熱プラズマ複合砲によって、デストロイに攻撃を仕掛けようとしていたMS部隊は、その大半が消滅した。ただし近くにいた連合軍部隊も

ビーム攻撃をもろに受けたので、かなりの数の連合軍機が撃墜された。

誤射で被害を受けたことから、デストロイのコックピットには友軍からの罵声のような声が響く。しかしながらパイロットたちは無視する。

「全ては青き清浄なる世界のために」

そういうと、デストロイは次に4門の高エネルギー砲で正面に展開していたナスカ級戦艦2隻と、ゲイツR、ザクあわせて20機をなぎ払った。

アークエンジェルのローエングリンを上回る破壊力を持っているビームの直撃を受けては、ナスカ級では一溜まりもなく、2隻とも轟沈する。MSなど

まるで装甲が紙でできているかのように、一瞬で消し飛ぶ。

「上々ね、でもちょっと味方を吹き飛ばしすぎね……」

殲滅戦用ゆえに、無茶苦茶な火力を持っているが、その分だけ味方の被害も馬鹿には出来ないことにシアは頭を痛める。予想はしていたが被害は

それ以上だったのだ。

「といっても裸で、デストロイを前線に出すわけにもいかないし。全く」

ちょっと愚痴りつつも、彼女はデストロイに近寄ろうとするゲイツRやゲイツを次々に撃墜していく。

「まあいいわ。ここで一気に敵の防衛ラインを抜くとしましょうか」

そういうと、デストロイを中心としたMS部隊はザフト軍の防衛ラインを切り裂きながら押し進んでいく。この様子は即座にヤキン・ドゥーエ

でも察知できた。

「フリーダムとジャスティスを回させろ! あのでかブツは機動戦や近接戦には向かない!」

情報部が入手した情報(実際にはリークされた情報)に基づいて、ザフト軍はミーティアを装備したフリーダムとジャスティスを向かわせる。

本来なら対艦攻撃に用いたいものの、すでにデストロイは防衛ラインを突き破りつつあり、このままではプラントが危険に晒される状態だった。

「来たわね」

シアはミーティアを装備したフリーダムとジャスティスを確認すると、即座に部隊を散開させ、同時にデストロイに全力射撃を命じる。

衛星軌道での戦いから、この2機種はとんでもない機動力と火力を持っていることが明らかになっている。だがビームに対する防御力はそこまで

高いものでもない。このためビーム兵器主体のデストロイでも十分に相手ができると踏んだのだ。接近さえ許さなければ。

シア達が散開した直後、デストロイは接近してくる3機に全力攻撃を加える。まず円盤に設置された4門の高エネルギー砲が放たれる。

次に6連装多目的ミサイルランチャーからミサイルが次々に発射される。だがフリーダム2機とジャスティス1機はそれを軽々と回避してみせ

逆に攻撃を仕掛けてくる。だが彼らが発射したビームやミサイルは悉くがビームシールドに弾かれた。

3機は長距離からの砲撃が無意味であると判断すると、接近してデストロイを仕留めようとする。これに対してデストロイは有線制御の、両腕部

飛行型ビーム砲で牽制する。なおも近づこうとするフリーダム1機に対して、シア達護衛部隊は集中砲火を浴びせるが逃げる気配はない。

「しぶとい」

シアは3機の手強さにウンザリするものの、この強力な部隊を拘束できれば核攻撃が可能になるとも判断していた。そしてそれはジブリールも

同様であった。

「ピースメーカー隊を発進させろ」

「了解しました」

この指示を受けて、アガメムノン級母艦4隻から相次いで核ミサイルを装備したメビウスが出撃していく。狙いはプラント。




 フリーダムやジャスティスが拘束された事、そしてデストロイが暴れたせいでザフト艦隊の防衛ラインはついに突破されてしまう。

だがそれはザフト軍の首脳部からすれば、ある程度は予想できたことであった。そして彼等はその事態に対する備えも用意していた。

「プラント本土方面に、メビウス多数接近。核攻撃部隊と思われます!」

「プラントに核を落としてはならん! 何としてもすべて撃墜しろ!!」

「了解しました」

パトリックの命令を受けて防空部隊司令官は新型誘導ミサイル『ブリューナグ』の使用を許可した。

「全兵器使用自由だ! あらゆる手段を用いて接近中のナチュラルどもを殲滅しろ!!」

これを受けて、プラントやその周辺に設置された砲座からミサイルが次々に発射された。連合軍MS部隊は、メビウスが被弾するのを避ける為に

これらのミサイルを撃ち落しはじめる。彼らの攻撃によって少なからざる数のミサイルが撃破されていく。

「この程度で、防げると思っているのか!」

ダガーのパイロットはそう言って嘲笑する。だがこのあと彼等は信じられないものを見る。

「ミサイルが曲がった?!」

そうミサイルがまるで自分の意思を持ったかのように、その進路を変えたのだ。そしてそれらはまるで何者かに導かれるかのようにメビウスの

隊列に突っ込んでいく。大型の核ミサイルを搭載したことで機動性が低下していたメビウスにこれを避ける手段は存在しなかった。

ミサイルの直撃を受けて何機ものメビウスが核ミサイルを放つことなく撃破されていく。

「馬鹿な、無線の誘導ミサイルだと?! NJが効いている中でどうやって操っているんだ!?」

誘導ミサイルによって第一波攻撃部隊が多大な被害を受けているとの報告を受けたジブリールは激昂した。

「おのれ、小ざかしい真似を!!」

吐き捨てるように言ったあと、ジブリールは第二波攻撃部隊の発進を命じる。

「何としてもあの忌々しい砂時計を叩き落せ!」

「で、ですが相手の誘導ミサイルは高精度です。下手に近づけても的になるだけです!」

「ならば数で押せば良いだけだ。それとデストロイを出せ、あれの火力ならば突破は可能だ!!」

この命令を受けて一番びっくりしたのはシア自身だった。何しろ彼女達は2機のフリーダムと1機のジャスティス、それもミーティアを装備した

連中を相手にしているのだ。

「くっどうする?」

目の前の3機を拘束するのは他の部隊が有利に戦うのに役に立っている。しかし核攻撃が成功しなければ意味が無い。

しばらくして彼女はある決断を下し、デストロイとダガーLのパイロット達に作戦を伝えた。

「きついとは思うけど、やれるわね?」

『任せてください、シア様』

「頼むわよ」

そういうと彼女は、自分が乗るウィンダムの最も近くにいたフリーダムに狙いを定めてビームライフルを発射する。これと同時にデストロイは

両腕を射出。右腕がシアの近くにいたフリーダムを回り込むような軌道を辿りつつ、指からビームを撃ちこむ。フリーダムは何とか逃れようと

するがフリーダムが選択可能な回避方向を予測して背負っているミサイルパックから有線誘導ミサイルを発射する。唯一とりうる上方向を除いて。

フリーダムはミサイルとビームがこない、意図的に開かれた上方向に逃れようとする。だがそれこそがシアの狙いであった。

「今よ!」

シアの言葉と前後してデストロイの左腕が急上昇、急旋回をする。そしてフリーダムは左腕とデストロイ本体をつなぐワイヤーによって雁字搦め

にされて身動きが取れなくなる。勿論、時間があればワイヤーを焼ききって動きが取れるようになっただろう。だがその時間が無かった。

シアは身動きが取れなくなったフリーダムに一気に接近するや否や、ビームサーベルをコックピットに突き刺して戦闘不能にした。

「これで一機! さて次!!」

味方がやられたのを見た他の2機は動揺して動きが鈍る。そんな彼らのうち、ジャスティスに向けてフリーダムをワイヤーに絡ませたままで

左腕が向かう。慌ててジャスティスは避けたが、右腕と左腕の連携攻撃で中々距離が取れない。そんな状態の時、シアはワイヤーに絡まったまま

のフリーダムに向けて3回ビームを撃った。ウィンダムから放たれたビームが刹那の時間の後、フリーダムに、いや正確にはフリーダムが装備

していたミーティアに立て続けに命中した。そしてそのビームはミーティアの装甲を貫通すると、その内部に搭載されていた弾薬や推進剤を

誘爆させ、最後にはデストロイの左腕を巻き込むほどの大爆発を引き起こした。さすがのジャスティスもこの爆発をもろに受けてしまい大きな

ダメージを負う。ダメージで動きが鈍ったジャスティスに向けて、シアは一度に撃てるだけのビームとミサイルを撃ちこんで撃破した。

「これで2機!! さて、あと1機!!」

残された1機のフリーダムは何とかデストロイだけでも撃破するべく、その推進力にものを言わせて護衛部隊の突破を図る。シアはフリーダム

とミーティアが持つ火力から、正面きっての戦いを困難と判断する。

「デストロイ正面に誘い込みなさい!」

この指示に従って護衛部隊は、デストロイ正面に意図的に火力密度の低いエリアを作る。フリーダムはこの領域を突破して、一気にデストロイに

接近しようとする。それが罠だと知らずに。

フリーダムはミーティアのビームソードを突き出したまま直進した。情報どおりならば、接近戦になれば勝てる、そう踏んでの判断だった。

だがフリーダムが護衛部隊を突破した直後、デストロイはMA形態からMS形態に変形する。そして残った右腕を使って巧みにフリーダムを牽制

し始めた。加えて背後からは護衛部隊がしつこく攻撃を加えてくる。このためフリーダムはデストロイの真正面に追い込まれることになる。

その結果、フリーダムはデストロイの胸部の3門のスキュラと顔面のツォーンの集中砲火を浴び、爆発・四散することになる。

「フリーダムとジャスティス3機が全滅しただと、15分もたたずに!?」

パトリックは虎の子の3機が全滅したと聞いて思わず目をむいた。

「くっ、あとどのくらいだと?」

パトリックの問いにユーリは渋い顔で答える。

「あと5分程度は必要です」

「それでは防衛ラインを突破されるぞ!!」

「これ以上の短縮は困難です」

そしてパトリックをさらに焦らせるかのように、ピースメーカー隊の第二波が、デストロイと共に防衛ラインを突破していく。誘導ミサイルで

必死に迎撃しているものの、デストロイが放つ圧倒的弾幕の前にその大半が撃ち落されてしまう。

前線から戻ってきた一部のMS部隊が必死に核ミサイルを撃墜しようとしているが、こちらも護衛部隊に阻まれて成功していない。

「ここまでなのか……」

絶望感がパトリックの心を覆う。だがそのとき予期せぬ情報がオペレータによって報告された。

「所属不明機多数接近!!」

「どこの部隊だ?」

「分りません! 陣容はM1が6、ゲイツが4、ジンが3、後方にナスカ級2!!」

「M1とゲイツだと、まさかラクス軍の残党か。いまさら何をしに来たというのだ!」

ラクス軍残党が現われた直後、ピースメーカー隊は搭載していた核ミサイルを相次いでプラントに向けて放った。

「青き清浄なる世界のために!」

メビウスのパイロット達はそう言って次々に、発射ボタンを押していく。プラントやその周辺からは必死に迎撃が行われているが、その大半が

デストロイによって潰されてしまう。このままいけば、プラントは終る……誰もが、そうシアすらもそう思っていた直後、突如としてビームや

ミサイルが核ミサイル降り注ぎ、少なくない数の核ミサイルを撃破した。

「なっ!?」

シアは慌ててビームが飛んできた方向を見る。そこにはザフト軍と旧オーブ軍のものと思われるMSの小集団と2隻のナスカ級がいた。

「あともう少しのところで!!」

シアは尚も攻撃を加えてくる小癪な小部隊に対して、まずデストロイの高エネルギー砲を浴びせた。これによってナスカ級2隻はあっさり撃沈。

残ったMSは護衛部隊の一部を向かわせて文字通り殲滅した。彼女は知らなかったが、ここに現れたのがラクス軍の最後の戦闘部隊だった。

そしてその彼らが、シアたちによって殲滅されたことで、ラクス軍は短い歴史に完全に幕を下ろすことになった。

だが彼らの犠牲は無駄ではなかった。護衛部隊の注意が一時的にプラントからそれたことで、ザフト軍は生き残っていた砲座と、前線から戻って

きた一部のMS部隊による特攻同然の攻撃で核ミサイルの大半を撃墜することに成功したのだ。だがそれでも尚も数基の核ミサイルは生き残り

最終的に5つのプラントに命中した。そしてそれはユニウス7の惨劇を再現した。

「たったの5基か!」

デブリを撒き散らして崩壊していく5つのプラントを見て、シアは不満そうに言った。だがその直後、彼女は別の報告を聞いて舌打ちする。

「デブリに敵艦隊? やはり伏兵が」

このころ偵察部隊からデブリに、ミラージュコロイドを張って敵艦隊が隠れていることを知らされたジブリールは直ちに迎撃準備を命じた。

だが彼らはそれが遅かったことを思い知ることになる。

そのころ、ザフト軍首脳部はこの光景に衝撃を受けていた。

「何ということだ……」

ユニウス7の再現といえる惨劇を見て、多くの人間は絶句する。だがその中でパトリックは唯一怒気を放っていた。

「許さんぞ、ナチュラルどもめ!! プロメテウスを照射しろ!!」

このとき、彼らのもとには、地球軍に発見されたとの報告も入っていたが、すでにそれは意味がないものであった。

「照射後に敵艦隊を徹底的に叩け! プラントに手を出したことの代価を払わせるのだ!!」

この指示の直後、デブリの中で、さらにミラージュコロイドによって擬装されていた数十万枚のミラーと、20隻の艦隊が姿を現す。

そして射線上の友軍を脱出させるや否や、数十万枚のミラーは白色に輝く光を第1連合艦隊に向けて放った。

















 あとがき

 earthです。青の軌跡第46話をお送りしました。え〜史実にかなり似たような展開になりました。

次のプラント本土決戦後編でアズラエルの出番が回ってきます。でも大活躍はしないでしょう(笑)。

最後の最後まで影の薄いキャラだったような気が……まあ上に立つものはそんなものと思うしかないですが。

それでは駄文にもかかわらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第47話でお会いしましょう。