南米での蜂起をはじめ地球各地で混乱が広がっていることは、プラント本国に届いていた。尤も南米軍が勝てるとは誰も思っていなかったが。

「これだけ南米が暴れれば、地球連合は当分は足元の整理で手一杯だろうな」

会議室で報告を受けたパトリックは満足そうに肯く。これに他の評議会メンバーも追随する。そんな時に発案者たるデュランダルは釘をさす。

「現在、進行中の例の作戦がうまくいけばさらなる時間を稼げるでしょう。しかし、我々もその隙に防衛体制を整えなければ」

「分っている。例の新型ミサイルはどうなっている? この書類を見る限り、まだ生産ラインの稼動に手間取っているようだが」

パトリックの問いかけにユーリが答えた。

「新型の誘導ミサイルの生産ライン建設は先ほど終了しました。現在は24時間体制でフル稼働しています。他の情報は皆様に配った書類通りです」

ザフト軍は本土決戦に向けて準備を加速していた。ボアズがすでに陥落し宇宙艦隊の多くが消滅した今、新たな防衛線を築く余裕はなかったのだ。

この本土決戦に向けて、ザフト軍は建造に時間と資源のかかるナスカ級や3番艦以降のエターナル級の建造を中止し、あまった資源の多くをMSの

生産やパトロール艦や監視衛星の生産に当てていた。

「パトロール艦や監視衛星の生産に遅れを出すな。これ以上、プラント本国を攻撃されれば戦争継続は困難だ」

連合軍によるフェイタルアロー作戦で、プラント1基が破壊されたことはプラント市民に多大な影響を与えていた。すでに自分達が住む大地すら

守れないほどザフトが弱体化しているとプラント市民は考え始めていた。ここでもう一度攻撃を受ければ降伏を求める声があがるかもしれない。

「最終決戦までは何とか持ちこたえなければ……」

パトリックは、もう一度決戦を挑み連合軍に大打撃を与えることで、連合政府にこれ以上戦えば割が合わないと思わせて講和の席に着かせようと

考えていた。というより、それ以外に道はなかったのだ。パトリックはそう呟いた後にデュランダルに尋ねた。

「……オペレーション・クラウドは?」

「もうそろそろ隕石への爆薬とエンジン取り付けが終わる頃でしょう。別働隊の特務隊も出撃しており、あと4時間で目標に到着するでしょう」

「連合がこの作戦に気づいた様子は?」

「ありません」

「そうか……ならいい」

そういうと、パトリックは会議の閉会を宣言する。議員達がそれぞれ退出していく。そのとき、パトリックはユーリを呼び止めて小声で尋ねる。

「例のものは?」

「すでにこちらも同様の物を作ることに成功しています。制御も量子通信を使えば短時間で、細かい制御が可能です。恐らく連合のものより

 破壊力は上です」

「そうか。ならいい。あれは本土決戦で必要だからな」

「しかしここまで秘密裏にものごとを進める必要があるのですか?」

「情報はどこで漏れるか判らないからな。ジェネシスの二の舞にするわけにはいかん」

だが、彼らはまだ知らない。彼らが進めていたオペレーション・クラウドが歪曲して解釈されていたことを。





「プラントが隕石を地球に落とす?!」

エターナルのブリッジでその情報を耳にしたラクスは驚愕した。

「そんなことをすれば、プラントは地球軍と殲滅戦をするようになってしまうのに……」

ラクスはこの後に及んでも、まだナチュラル殲滅に拘るパトリックに深い憤りを感じた。

「プラントからの同志達の情報では、すでにデブリ帯で隕石にエンジンを装着しているとのことです。時間はあまりありません」

さすがのバルトフェルドも隕石落としと聞いては気が気でない。この一件で連合が本気になれば間違いなくプラントは殲滅されるだろう。

(まして連合を操っているのは、あのブルーコスモス盟主のムルタ・アズラエルだ。奴がこの隕石落としを利用しないわけがない)

アズラエルがいたら激怒して訂正を要請しそうな考えを抱くバルトフェルド。そんな彼にラクスは自軍の再建状況を尋ねる。

「こちらの兵力はどれほど回復していますか?」

「プラントでの戦闘でかなりの深手を負ったので中々再建は難しいのが現状です」

ブルースウェアにプラント宙域で深手を負わせることに成功したが、ラクス達も少なからざる消耗を強いられていた。艦艇の1割を失い、MSの

消耗率は3割に達していた。生き残った艦艇も大なり小なり損傷しているために、現在動けるのは半数程度だ。

さらに兵士の補充も難しくなっていた。アンダーソンはすでに回せる兵士はいないといっており、逆に連合軍の再建のためとしてラクス軍に

よこしていた兵士を呼び戻す始末だった。

「キラとフリーダムがいてくれればもっと楽が出来たのですが……」

「彼は今どこに?」

「マルキオ導師に頼んで探してもらっていますが、消息は不明です」

「そうですか」

だがここでないものねだりをしても仕方ないとして、ラクスはその話題を打ち切る。

「苦しいのはいたし方ありません出撃準備を。このまま戦争を拡大させるわけにはいきません」

「ということは隕石落としを妨害すると?」

「そうです。最低でも隕石の軌道をそらして地球への直撃はさけなければ」

かくしてラクス軍は出撃準備に取り掛かった。










            青の軌跡 第42話












 司令部の破壊によって指揮系統が混乱していた大西洋連邦軍は、コレヒドールと頂点とした指揮系統が回復するや否や猛烈な反撃に出ていた。

南米軍やザフト軍は体制を立て直した連邦軍の前に敗北、後退を余儀なくされていた。そんな状況で、シアはザフト軍の追撃に加わった。

「さっさと死になさい」

彼女の105ダガーのパックから多数のミサイルが放たれる。標的であるザフト軍のジンやゲイツのパイロットは、遥か遠くからミサイルを放つ

105ダガーを見て鼻で笑った。

「ふん、そんな距離で放たれたミサイルが簡単にあたるかよ」

彼らは余裕をもって回避に移る。だが、それは甘い判断だった。ミサイルは彼らの機体に吸い寄せられるように方向を変えたのだ。

「馬鹿な?!」

NJによって誘導兵器は使えないはずなのに・・・・・・彼らが当然の疑問を抱いた直後、シアが放ったミサイルはすべて標的に命中し、それらをただ

の鉄くずと肉片に変えた。この様子を見てシアはザフト軍のパイロットの思考を嘲笑う。

「本当にコーディネイターって馬鹿よね。ナチュラルがいつまでも同じ戦法で戦うと思っているんだから」

彼女が装備しているミサイルは有線による誘導が行えるものだ。これはもともとはガンバレルの有線誘導を応用したものだ。勿論、有線ゆえに

誘導できる距離には限りがあるものの、これまでのミサイル以上の命中精度を期待できる品物だった。

「この世界は、あなた達のような化け物たちがいてよい世界ではないのよ」

他にも誘導ミサイルを搭載した105ダガーによって、ザフト軍のMSはアウトレンジから撃破されていく。この損害に怯んだザフト軍の隙を

着くようにダガーLが次々にザフト軍に攻撃を開始していく。加えて連邦軍の爆撃機が次々に飛来して、ダガーLを支援しはじめる。

戦場は一方的な虐殺の場になろうとしていた。

「何と言うことだ……」

自軍が次々に突き崩されていく姿を見て、クルーゼは悔しげに臍をかむ。体制を整えた大西洋連邦軍による反撃は、彼の予想の範囲を大きく超え

ていた。彼の目の前にあるのは鋼鉄の濁流、圧倒的な数の暴力だった。

『ゴメス隊全滅しました!』

『ハッシュ隊、戦線を維持できません!!』

『クルーゼ隊長、もう持ちません!! どうすれば良いのですか!!?』

クルーゼのコックピットには引切り無しに悲鳴のようにしか聞こえない報告や指示を求める声が入ってくる。このままでは脱出するどころか全軍が

包囲殲滅されかねない。しかしここまで圧倒的な数の差があるとなると、クルーゼにすら打つべき手はなかった。

(くっこれまでなのか、いやまだだ、まだ死ぬわけには……)

クルーゼはゲイツを操って自分だけでも戦場から離脱することを決意する。卑怯者と言われるかもしれないが、すでに撤退命令を出している以上は

そこまで追求されないと彼は考えていた。そんな時、ディンを駆ってザフト軍の脱出を支援していたナギ・ミサカから通信が入る。

『ちょっと隊長、指示は?』

「……すでに出したはずだ。撤退だとな」

『細かい指示は?』

「この混戦で出せると思うか? それに前線の細かい指揮をするために中級指揮官がいるのだ」

『大まかな指示は出せるでしょう。それに自分だけ逃げようとしているように見えたけど?』

「気のせいだ。それに私が指揮系統を維持するためだ。指揮官が死ぬわけにはいかないだろう?」

『連合のGを取り逃がして、この苦境を作った挙句に、パナマで二度も負けた指揮官がザフトに必要とされるかしら?』

あまりに強烈な皮肉であった。クルーゼは一瞬頭が沸騰するが、すぐに冷静になる。

「それは上層部が判断することだ」

そういって通信を切ると、クルーゼは直属部隊のいくつかを率いて脱出していく。しかしイザークだけはそれについていかなかった。

「貴方はいかないの?」

森を遮蔽物代わりにして前線に踏み留まるデュエルを見て、ナギはそのパイロットであるイザークに問い掛けた。

イザークは上官であるとわかると口調を改めて答える。

『味方を見捨てるような真似はしません!』

「おやおや、隊長さんと違って律儀なのね」

『俺は強くはないかもしれません。だが卑怯者でも、臆病でもありません!』

「そう、それなら手伝って頂戴。こちらも人手が足りないの」

『了解』

イザークはミサカは協力して、友軍の脱出に全力を尽すべく積極的に戦場に出る。だがそれゆえに彼らは最強クラスの敵であるシア達と遭遇する

ことになった。尤もシアは頑強に抵抗を続けるイザークやナギ達を見て、真っ向から勝負を挑まず、まず真っ先に砲兵に支援を要請した。

「支援砲撃を要請する」

『味方が近くにいると思うが』

「退避命令は出しておく。まあ間に合わなかったら運が悪かったということで」

『……しかし』

「このままだとザフトが逃げる。それに強行突破しようとすれば被害が大きくなるだけ」

『……了解した』

このあとさらに空軍による支援も要請した。彼女は圧倒的物量で目の前の敵をもみ潰す気だった。彼女は卑怯だといわれようが、楽な戦いをする

ほうを選ぶ主義だった。彼女が支援を要請して数分後、砲兵部隊は一斉にイザーク達のいる場所に砲撃を浴びせる。連邦軍の友軍は退避命令を

出されていたものの、巻き込まれた者も存在した。だがシアにとって有象無象の新米兵士が多少死んだところで大したことではなかった。

(森ごと吹き飛んでいるのなら僥倖、大ダメージを受けていれば幸運、ダメージが少なくても森を吹き飛ばしたからあとは正面から潰せば良い)

一方で、砲撃を受けたイザークのデュエルはかなりのダメージを受けていた。

「くっ………」

イザークはうめくと、すぐに機体の状況を確認した。そしてすぐに絶句する。

「……こいつは酷いな」

辛うじて貫通された箇所は無いが、駆動系各所に受けた被害は馬鹿にならないレベルになっていたのだ。いくらPS装甲でも衝撃までは防ぎ切れない。

『大丈夫?』

「大丈夫です……くそ、物量にものを言わせてやりたい放題だな」

『金持ちの戦いかたってやつよ。まったく、これだけ潤沢な物資を揃えられるなんて反則ね』

「そうですね。それに……」

『それに?』

「どうやら追撃隊のお出ましのようです」

105ダガー1機とダガーL2機は、デュエルの前に現れるや否やいきなりビームライフルを発射した。イザークはバーニアを噴かして一気にその場を

離れて攻撃を回避する。シアはこの反応を見て相手が尋常ならざる相手であることを悟る。

「砲撃を受けた直後でこの反応……こんなところでミサイルを使いたくはないんだけど、やむを得ないか」

シアは部下に支援するように伝えると、8発のミサイルをデュエルに向けて放った。デュエルはミサイルを撃ち落そうとするが、彼女はミサイルが撃墜され

る前に、すばやくミサイルを分散させる。さらにダガーLのビームライフルから放たれるビームがデュエルの動きを封じ込める。

「くそ、何でNJが効いているのに誘導ができる!?」

ビームライフルでの迎撃は無理だと判断したイザークは、頭部のイーゲルシュテルンでそのミサイルの迎撃を始めた。これによって8発のうち4発まで撃墜

することに成功する。だが残り4発が相次いでデュエルに直撃する。

デュエルはPS装甲のおかげで完全に破壊されることは免れたが、ミサイルの爆発によって弾き飛ばされる。デュエルは2ダース程度の木々をなぎ倒して

からやっと止まる。

「くそ、よって集って袋叩きにしやがって。連中の性根は間違いなく腐ってやがるな」

デュエルを何とか立ち上げるが、これ以上の戦闘は困難だった。そんな時、イザークのデュエルを庇うようにディンが降り立つ。

『撤退しなさい。支援するわ』

「ですがミサカ隊長……」

『いいから。あとは大人の私たちに任せなさい』

「了解しました」

イザークのデュエルが撤退していくのを見たシアは、そうはさせじと攻撃を続ける。

「逃すか!」

シアは止めとばかりに4発のミサイルを放つ。またダガーL2機にディンの足止めを命じる。しかしその直後に彼女は信じられないものを見る。

ディンはダガーLの射撃のタイミングを見切っているかのように、避けてみせたばかりか、デュエルに向けて放ったミサイルを重突撃銃で全て

撃墜してみせたのだ。

「何?!」

シアはこの光景に絶句する。しかしすぐに彼女は立ち直り、攻撃を再開する。だが僅かながらディンのほうが早かった。

ナギの乗ったディンは、ディンにしては珍しく腰に重斬刀を装備していた。これは彼女が接近戦も得意にしていたためだ。

ナギのディンは重斬刀を右手に握るやいなや煙幕を張りつつ、ディンの機動力で一気に1機のダガーLの懐に入り込むと、重斬刀を右から思いっきり

ダガーLの首に叩きつけた。MSの構造上、弱い部分といえる首はあっというまに叩き切られてしまい、そのダガーLは戦闘不能に追い込まれた。

「早い!!」

この動きに、さすがのシアもついていけない。危険を感じた彼女は残ったダガーLとともに何とか距離をとろうとする。だがディンは即座にその距離を

つめて中近距離戦に持ち込もうとする。だがダガーLのパイロットがこれを黙ってみているわけがなかった。

「シア様から離れろ!」

ダガーLのパイロットはディンに向けてビームライフルを撃つ。ディンのすぐそばを掠ったために、ディンは動きを掣肘される。ナギは思わず舌打ちした。

「ちっ、じゃあ次はあなたよ」

彼女は狙いを残ったダガーLに向ける。彼女は重突撃銃を撃ちつつ、6連多目的ランチャーからミサイルをダガーLに向けて放つ。ダガーLは

突撃銃の攻撃をシールドで防ぎつつ、ミサイルをバルカンで落とそうとする。だが全てを落とし切れない。ダガーLは慌てて回避しようとするが

そこで隙が生まれる。それこそが彼女の狙いであった。

「落ちなさい!」

がら空きになった胴体部に全力で銃弾を撃ち込む。ダガーLもさすがにこれには耐え切れず、敢え無く破壊されてしまう。この光景にシアは絶句した。

「型落ちのディンで、ダガーLを2機も?!」

彼女は目の前の敵が厄介きわまる敵であることを悟る。かといってこのまま負けるつもりはなかった。

「こうなったら私だけでも」

彼女は、自分で残っていた12のミサイルを全て発射する。12のミサイルはその一つ一つが命を吹き込まれたかのように、回避行動をとりつつも

ディンに向けて殺到する。さすがのディンも12のミサイルをすべて撃ち落す余裕はないようで、空中に離脱しようとする。

「逃がすか!」

彼女はミサイルすべてを同時に操り、ミサイルをディンの全周囲から襲うように操作する。それはあまりに高度な技術であった。

ナギは重突撃銃で半分を撃墜し、さらに5発を回避してみせるが、残り1発が命中する。ディンは右足が吹き飛び、バランスを失ってしまう。

そこにシアは一気に落とすべく必中を期してビームを撃ち込む。だがナギはバランスを崩しながらも、シアの射撃のタイミングから何とか避けて

みせる。それどころか、チャンスを狙っては重突撃銃で反撃を加える。勿論、バランスが崩れているので命中精度は低下しているものの完全に

無視できるものでもなかった。シアもまた回避を強要される。

「くっ」

決め手に欠け、さらにこれまでの戦闘の消耗でバッテリーの残量が厳しくなるのを見て、シアは撤退を決意した。一方のナギも潮時であること

を理解していた。彼女のディンはすでにボロボロだった。彼女は味方に援護されて撤退しつつも、今回の戦闘を振り返った。

「それにしても誘導兵器が開発されるとはね……」

中長距離の誘導兵器が復活すればMSはミサイルの標的に成り下がり無用の長物になる。それは大艦巨砲主義が復活することを意味した。

「MSパイロットが花形であるのもあと僅かか」

彼女はそういってため息をつくと同時に、遠くない将来でプラントが敗戦することを痛感した。すでに地球連合、より正確にいえばその中心たる

大西洋連邦はザフトを圧倒する物量を戦場に送り込むばかりか、ザフトの兵器を上回るものさえ送り出しているのだ。質と量の両面で圧倒され

ればどうなるかは明らかなのだ。ナギがそんな暗然たる思いに浸っていた頃、クルーゼもまた補給拠点で暗然たる思いにかられていた。

「バッテリーの充電を急げ!」

整備員にそういうと、クルーゼはゲイツのコックピットのシートに身を沈めた。

「くっなぜだ、何故ここまでシナリオが破綻したのだ? もうプラントと連合は殲滅戦に突入していたはずなのに」

自分を生み出した世界への復讐、長い年月をかけてやっと実現しようとしていたそれは、何者かの手によってあっさり頓挫した。何とかシナリオ

の再構築を図っているものの、その実現性は高くはない。

「何者なのだ、私のシナリオを打倒したのは?」

地球連合の穏健派の台頭、さらに先を見通したような妙手の数々……それはクルーゼが入手していた情報からは起こりえないものだった。

「いや何者が相手だろうが、私は必ず勝つ。見ていろ……」

だがクルーゼがそう呟いた直後、彼のいた補給拠点は、連邦軍の戦闘攻撃機に発見されて猛爆を受けた。5発の1000ポンド爆弾が相次いで

命中し、あたり一帯はなぎ払われた。勿論、クルーゼはこの攻撃を悟り脱出しようとしたが補給中であったがために機体を満足に動かせずに

爆撃に巻き込まれた。クルーゼの乗っていたゲイツは爆撃で吹き飛ばされた挙句に手足をもぎ取られた。さらに破片がコックピットにいた

クルーゼにあたった。その破片は仮面を割り、さらに彼の左眼をも貫いた。

「うがああああああああ!!」

あまりの痛みに絶叫するクルーゼ。普通なら気絶してもおかしくないのだが、彼はその精神力で何とか耐えしのぐと彼は外に出た。

「こ、こんなところで死ぬわけには……」

彼はボロボロになったゲイツから辛うじて脱出したが現実は非情であった。クルーゼが何とか脱出しようと歩き出したゲイツの傍にあった弾薬が

火災のために誘爆したのだ。それはクルーゼを巻き込まなかったものの、爆発で飛んできた鉄片がクルーゼの右足を貫いた。

「ぐおぉおおおおお!!」

クルーゼは崩れ落ちた。さすがの彼も、右足をやられては満足に動くことはできない。

「誰か、誰かいないのか?!」

見渡すかぎりあるのは死者と瓦礫と残骸の山……彼が夢見ていた破滅した世界の光景であった。だがそれは皮肉にも、彼が現在最も望んでいない

光景だった。

「こ、こんなところで、私一人だけで死ぬのはごめんだ」

彼は誰にも祝福されない生を受け、そして誰にも看取られることなく、望みを果たすこともなく死のうとしている。それは彼にとって受け入れ

難いことだった。

「認めん、認められるか。私が、この私がこんなところで死ぬなど。望みを果たさず死ぬなど」

這いずりながら、彼は助けを求めるが返事はない。彼は何とかして逃げ延びようと這いずりながら味方のいそうな場所を目指す。だが現実は非情

であった。クルーゼのいた場所に、さらなる爆撃が行われたのだ。実際には単に拠点の近くにいた残存部隊を叩くために投下された爆弾の流れ

弾だったのだが、生身のクルーゼには一発で十分だった。上空で黒い物体が破裂したあと、視界が急速に真っ白になっていく……それがクルーゼ

がこの世で最後に知覚した光景であった。クルーゼが戦死したことでザフト軍の指揮系統は崩壊し、ザフト軍は各地で包囲殲滅されることになる。





 ザフト軍が苦境に立っている頃、南米軍も苦難の撤退戦の最中だった。彼らは突出したザフトを囮にして撤退を続けていたが、体制を立て直した

連邦軍の反撃によってボロボロにされていた。加えて南米軍の部隊は各地で分断され、各個撃破されつつあった。

「畜生、次から次へと!!」

エドやジェーンはその名声通りの活躍をしていた。しかし戦車を撃破したかと思ったら、次はダガーが、ダガーを撃破したかと思ったら次は

ダガーLやツヴァイが現れるとなるとさすがに疲労が溜まり、ソードカラミティやフォビドゥンブルーの動きが少しずつ鈍いものになっていた。

「俺達はとんでもない勘違いをしていたんだな……」

緒戦で勝ったからといって得意げになっていた自分達を思い出して、エドは急速にやるせない気持ちになっていた。

「戦争って奴は、ひとりの英雄でひっくり返るものじゃあないってことか。判っていたけど、こうも無力だと、やりきれないな」

『ここで諦めてどうするの!』

そんなエドを、ジェーンは叱咤激励する。彼女もまた各地で戦線を支えていた。

『まずは生きて帰りましょう!!』

「……わかった。おまえも、俺も、ここで死ぬわけにはいかないからな」

しかしそんな彼らに容赦のない追撃が行われた。そう、強化人間部隊がついに彼らに襲い掛かってきたのだ。

「おい、オルガ、ヒルバード。おまえらの色違いの機体がいるよ? 2Pキャラって奴?」

「うるせえよ」

「私語をするな。あれは、切り裂きエドと白鯨だ」

ステファン・ヒルパートは2人の強化人間に釘をさす。しかし全く2人は意に介さない。

「何でもいいよ、さっさと倒しちまおうぜ。仕事は立て込んでいるからな」

「へえ、オルガは真面目なんだ。知らなかったよ」

「うるせえ。さっさとしないとまた薬が切れるだろうが。また苦しみたいのか?」

「……私語をやめろと言った筈だ。聞こえなかったか?!」

ステファンはついに切れた。さすがの2人のこの怒気に当たられ渋々とだが黙る。

「3対2だがエースパイロットが相手だ。下手に接近するなよ」

「「はいはい」」

「『はい』は一度で良い!」

「「はい」」

「オルガは友軍機と共同でソードカラミティを牽制しろ。その隙に私とクロトはフォビドゥンブルーを仕留める」

「そして最後は皆でソードカラミティを袋叩きにすると?」

「そうだオルガ。分ったならさっさと仕事に取り掛かれ。味方ごと撃つなよ?」

「わかってる」

オルガは、近くにいたダガーやバスターダガーと一緒に、ソードカラミティに向けて散々に砲撃を浴びせはじめる。その破壊力は森林など通常は

遮蔽物になりえるものを根こそぎ吹き飛ばす。さすがのエドもこの砲撃を受けては身動きが取れない。

その隙にジェーンの乗るフォビドゥンブルーに、レイダーとフォビドゥンが襲い掛かった。まずフォビドゥンがプラズマ砲とレールガンを撃つ。

フォビドゥンブルーは両方を避けたが、その直後にプラズマ弾はその向きを変える。

「ちい!」

さらに回避しようとするフォビドゥンブルー。だがその瞬間に僅かな隙が生まれる。

「隙あり! 滅殺!!」

レイダーから破砕球が繰り出され、それはフォビドゥンブルーの胴体部に吸い込まれるように命中した。この一撃でフォビドゥンブルーは大きく

弾き飛ばされた。

「ぐぅ……」

普段なら避けられたかもしれない一撃だったが、疲労を重ねていることが仇となった。そして身動きが取れなくなったフォビドゥンブルーに

レイダーとフォビドゥンは止めを刺す。レイダーは弱ったフォビドゥンブルーに接近するとエネルギー砲ツォーンとプラズマ砲アフラマズダを

撃ち込む。エネルギー弾は次々にフォビドゥンブルーの装甲を貫き、機体を破壊していく。そしてトドメをさすべくフォビドゥンが迫る。

フォビドゥンブルーはフォノンメーザー砲で攻撃するが、フォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーによって尽く弾道を捻じ曲げられる。

ジェーンはせめて一矢報いようとトライデントを突き出す。だがその動きはあまりに緩慢であった。少なくとも強化人間にとっては。

「貰った!!」

ステファンは軽く機体を左に捻ることでその突を避けると同時に、ニーズヘグを水平方向に向けたまま一気にフォビドゥンブルーに切りかかった。

ニーズヘグはフォビドゥンブルーのコックピット部分を切り裂いていき、そして最後にはフォビドゥンブルーそのものを両断した。

「ジェーン!!」

爆発四散するフォビドゥンブルーを見て、エドは絶叫した。

「お前等ああああああああああああ!!!」

恋人を目の前で殺されたことで、エドは我を忘れた。彼はその怒りに身を任せたまま、恋人を殺したフォビドゥンに切りかかる。

しかしステファンは正面からエドのソードカラミティと切り結ぶ趣味は無かった。フォビドゥンはレイダーと共に一旦、ソードカラミティから

距離を取ると中長距離戦闘に終始したのだ。さらに辺り一体の南米軍を潰し終わったバスターダガーも加わり、文字通りソードカラミティは

十字砲火を浴びる羽目になった。

左から、右から、前から、後ろから放たれるビームがミサイルが相次いでソードカラミティを打ちのめす。右腕が吹き飛び、さらに頭部も粉々に

砕かれる。しかしボロボロになったとしても、まだソードカラミティはフォビドゥンへの接近を止めなかった。

「お前だけは、お前だけは許せねえ!!」

だが現代の戦闘はそんな心意気で覆せるものではなかった。

「畜生、何でまだ倒れないんだ!」

オルガはあまりのしぶとさに辟易として、ついに全力射撃を浴びせた。

放たれたビームやプラズマ弾は、吸い込まれるようにその全てがソードカラミティに直撃した。機体の防御性能を遥かに超える攻撃を受けた機体は

次の瞬間、爆発四散した。そして爆発が収まったあとには残骸すら満足に残っておらず、文字通り消滅していた。

クルーゼ、エド、ジェーンの相次ぐ戦死により、南米軍、ザフト軍は総崩れとなる。特に南米軍は士気の支柱であったエドの戦死によって急速に

自壊していくことになる。






 パナマ防衛に成功したとの情報は即座にアズラエルの下に送られた。だが同時にパナマで南米軍とザフト軍が化学兵器を使ったとの情報も

飛び込みアズラエルは文字通り頭を抱える羽目になる。

「くっ、やっぱりパナマ戦そのものを引き起こすべきじゃあなかったか」

アズラエルは南米軍を一まとめにして一撃で叩き潰すことで南米の情勢安定化を狙っていた。このためアズラエルは南米にいた部隊をパナマに

引き上げるように提案したのだ。だが彼はそのことを激しく後悔した。

「あの連中め、殲滅戦争をやりたいのか?」

各地で広まる反連合運動の影にザフトがいるとの情報は、各国政府を反プラントに傾けるのに十分なものだった。それに加えて化学兵器の使用で

ある。もはやザフトは気が狂ったのではないかとさえアズラエルは思った。そんな彼をさらに混乱させる報告が月基地と地球の天文観測所から

齎された。

「隕石が?」

地球に向けて隕石が接近しつつあり、さらにそれをザフトが護衛している……その情報は連合政府に激震を走らせることになる。












 あとがき

 青の軌跡第42話をお送りしました。

シアは最初はガンバレルを使うつもり予定だったのですが、あまりに強くなりすぎるので、ミサイルに変更しました。

それでも十分に強いですが。それにしてもクルーゼ、エド、ジェーン戦死してしまいました。殺しすぎたか(苦笑)。

次回はザフト軍による反撃です。さらに南米での化学兵器使用は強硬派を勢いづかせ、連合政府に重大な決断を強いるようになるでしょう。

それでは駄文にも関わらず最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第43話でお会いしましょう。