フェイタルアロー作戦で受けた損害から、ザフト、いやプラントはその継戦能力を次第に失いつつあった。
元々、プラントは宇宙でしか採掘・精錬できない鉱物資源やそれを利用した工業製品を地球に輸出する一方で、地球から食糧、水、宇宙では採掘
できない鉱物資源を輸入することで経済を回転させていた。戦争が始まってからは、親プラント国、中立国を経由して必要な物資を揃えていた。
このため地球とプラント間の航路は、プラントにとっては生命線と言える存在であったのだ。
だがボアズ要塞に駐留していた部隊を失ったことでザフトは地球−プラント間の補給線を半ば遮断されることになった。
これはプラントの大動脈が破壊されたことを意味していた。これでジェネシスが健在ならばまだ戦う術は残されていただろう。
だがその切り札、ザフトの頼みの綱であるジェネシスまでが破壊されたことで、ザフトは地球連合軍に対抗する術を失ってしまったのだ。
NBC兵器の保有量は、地球連合が圧倒的に勝っており、現状でザフトがNBC兵器を使えば己の破滅を意味していた。通常兵力では地球連合が
現状でも圧倒しており、その差は今後開く一方なのだ。つまりどう足掻いても手も足もでない状況と言えた。
そんな状況であったが、ザフト軍の将校達は何とか現状を少しでも祖国にとって好転させるために、絶望と義務の狭間で必死にもがいていた。
彼らは宇宙軍の建て直しを図るべく、関係各所と協議を続けていた。
「宇宙艦隊の再建は?」
「建造中のエターナル級が破壊されたせいで計画は大幅に遅れている。他の艦艇の建造も間に合わない」
「新兵の訓練も大幅に遅れています。さらに前回の本土防衛戦で多くの訓練生が戦死したために、計画の3割程度しか前線に送れません」
「学徒兵の訓練期間を短縮できないのか?」
「現状よりも短縮すれば、軍人として機能しません。はっきり言って前線に出してもお荷物になるだけです」
ザフト軍将兵の質の低下は著しい。これは正規の教育をせず、というか余裕がないので出来ないので、即席の教育で前線に出しているせいだ。
開戦初頭の精鋭を誇ったザフトはもはや存在せず、彼らの手元に残されているのは、僅かなベテランと多数の即席軍人だった。
「資源の備蓄量も目減りしています。破壊されたプラントの再建も必要ですし……」
今回の攻撃で、プラントは甚大な損害を受けていた。ユニウス4が崩壊。他のコロニーも外壁に穴を開けられる、必要なインフラが破壊されるなど
の被害を受けていた。これらのコロニーを修復するためにさらに予算と資材と人員が必要になっていた。
「そちらの再建は後回しにできないのか?」
「そんなことをすれば大量の国内難民が生まれます。唯でさえ国内は不満が鬱積している状態なのです」
「それに国内が混乱したままですと、ジュール議員を狙ったテロの犯人を捜すのに支障が出ます」
エザリア・ジュール議員や財界高官がテロで死亡、或は重軽傷を負ったというニュースは、ユニウス4崩壊に比べれば多少インパクトに欠けるが
重大なニュースであった。国内にテロを、それも政府高官を正確に狙える人間が潜伏しているというのは見過ごせない。
「資源についてはジャンク屋からの購入を増やすことで賄うしかありません。ジェネシスが失われた今、建造予算を購入費に回すのは可能です」
「だがそれとて量が知れているぞ」
「ですが無いよりはマシです。それにジャンク屋なら地球連合軍の通商破壊を気にしなくても済みます」
「だが兵の問題もある。こちらはどうする?」
その問に、ユーリが答える。
「我々は精密誘導兵器と学習型コンピュータを投入することで、解決できると思っている」
「精密誘導兵器と学習型コンピュータだと?」
「はい。我々はドラグーンシステムと呼ばれる量子通信を用いた遠隔操作システムを開発しています。これを用いれば精密誘導兵器を復活させる
ことが可能です。また無人兵器については、これまでの戦訓とパイロット達の戦場での行動から得たデータを入力したコンピュータを使って
パイロットをサポートすることで、ド素人のパイロットでもある程度は戦えるでしょう」
この言葉を受けて、多数の将校が勇気付けられたように明るい顔をした。
「では、それらを用いた新兵器の開発を頼みます」
ザフト軍の将校達は、何とか現状を打開しようと必死に足掻き続ける。
青の軌跡 第37話
ザフト軍高官が必死に事態打開を図るには理由があった。パトリックはすでに現状では勝ち目がなく降伏するしかないことを理解していたが
現状で降伏すれば、プラントは戦前よりもさらにひどい状態に陥ると考えていたのだ。実際にアズラエルは戦前の体制に戻して搾取することを
目論んでおり、この点ではパトリック・ザラの懸念は当たっていたと言える。
「降伏するにしても、何とか少しでも有利な形にもっていきたい」
それがパトリックの偽らざる本音だった。しかし願うだけで上手くいくのなら、世の中に不幸なことは無い。パトリックは乏しい手持ちのカードを
上手く使うことで地球連合から譲歩を引き出さなければならなかった。
負傷したエザリアが欠席したまま開かれた最高評議会では、議員達は如何にして地球連合を譲歩させるかを討議する。
「軍事的に攻勢にでることは難しいのか?」
「現在、地球連合軍は月基地に5個艦隊を集結させています。衛星軌道にも軍事ステーションを建設して防備を固めつつあります」
「つまり月と衛星軌道の防備は万全だと?」
パトリックの問いかけに、評議会に出席していた情報部の人間は渋い顔で答える。
「万全といえるかどうかは分かりませんが、その防御は非常に厚いものになりつつあります。パナマ基地では宇宙艦隊の再建が急ピッチで進め
られているようです」
パナマ基地では第5艦隊に続けて、第8艦隊の再建を急ピッチで急いでいた。パナマ基地はMSや宇宙戦艦をすべて基地内部の施設で建造できる
非常に大規模な軍事基地であり、宇宙港としての機能もあった。そのおかげで艦隊を迅速に再建し、宇宙に上げることができる。
はっきり言ってザフトからすれば目の上のたんこぶのような存在だった。彼らはパナマ攻略が失敗したことがここまで響くとはと頭を抱える。
「……つまり最終的には5個艦隊以上の艦隊が宇宙に出現すると?」
「はい。加えてカオシュンのマスドライバーの再建は急ピッチで進められているようで、1、2ヶ月で使用可能になります」
「だがカオシュンの主要軍事施設は破壊したはずだ。そう簡単に使えるとは……」
「大西洋連邦からの支援と、無傷の日本列島の工業地帯がフル稼働しているせいで、回復は迅速に進んでいます。遅くて3ヶ月程度で軍事拠点と
してカオシュンは復活すると思われます」
この言葉に多くの議員は絶句した。パナマ基地から宇宙に上げられる物量だけでも、ザフトは苦戦を強いられているというのに、さらにカオシュン
からも物資が宇宙に運び出されるとなればどうなるかは明らかだ。地球連合軍はさらに物資の備蓄をスムーズなものにし、各地で攻勢を強めること
ができるだろう。そうなればザフト宇宙軍は戦線を支えきれない。議員達は必死に打開策を練る。
「連合の動きを妨害することは出来ないのか?」
「無理だ。宇宙軍は当分は攻勢に出れんし、無理に攻勢に出て本国の守りが薄くなれば、市民が動揺する」
ブルースウェアの襲撃で、プラントはユニウス4を失っただけではなく、多数のコロニーが損害を受けた。民間人の被害は死傷者だけで30万人を
超えている。この事実は、プラントが如何に外からの攻撃に脆弱であるかを証明するものだった。それゆえに一般市民は非常に臆病になっていた。
彼らは自分たちの安全を確保するためとして、本国防衛隊の強化を求めていた。そんな状況で本国の守りを薄くすることはできない。
「ではどうするというのだ? 時間を置けば連合はますます戦力を回復させる。そうなれば戦力差は開く一方だ」
議員達は焦りの表情を隠せない。そんな時、オブザーバーとして参加していたデュランダルが、誰もが予想しない発言を行った。
「地上軍を使うと言うのはどうでしょう?」
この言葉に、多くの議員が驚いたような顔をする。彼らはこの発言を受けて協議を始めた。
「地上軍はすでに半壊している。それに補給も途絶気味だぞ?」
「だが、宇宙で反攻にでるのは難しい。今回の被害を回復するにはどうがいても半年近くはいる。即座に反攻に出れるのは地上しかない」
「その地上軍はカーペンタリアに封じ込まれている。北はポートモレスビー、東はオーブ、西はセイロンを拠点とした地球軍が圧力を掛けている。
これでどのように攻勢に出ると言うのだ?」
「そうだ。特に最も近いポートモレスビーには地球連合軍の大部隊が配備されている。また後方拠点としてラバウルも存在している。これらの
基地を叩くのは現状の戦力では不可能だ」
ポートモレスビーは度重なる戦闘で被害を受けていたが地球連合軍は大量の物資と人員を送り込んで基地を維持していた。ザフトも地球連合軍の
補給線を遮断しようとしたものの、アラスカやパナマで受けた潜水母艦の被害が大きすぎ、効率的な攻撃ができなかった。
「それに大洋州連合は、スレッジハンマー作戦で海軍力と空軍力を大きく失っているので協力は期待できん」
多くの議員は地上での反撃は非現実的だと結論を出し始めたころ、デュランダルは己の考えを披露した。
「別に大軍を動かすというわけではありません」
「なにをするつもりなのだ?」
「各地の反地球連合派を利用するのです。特に南米での反地球連合機運は強いものがあります。これを利用しない手はありません」
「南米で騒乱を起こすと?」
「はい。加えて東アジア共和国、ユーラシア連邦では体制の疲弊、混乱につけこんだ少数民族の蜂起の機運が高まっています。これらを利用して
地球連合の足元をかく乱することが出来れば、我々が受ける地球連合の圧力を減らすことが出来ます」
「だが各地のゲリラを支援すれば、こちらに向く敵意も激しくなる。比較的穏健だった国も強硬派に鞍替えしかねない」
「そうだ。最悪の場合、テロ支援国家としてプラントが殲滅されかねない」
「ですが各地の反連合派を利用しない限り、地上での反撃は絶望的です。このまま現状を維持していても、いずれはカーペンタリアが陥落する
のは確実。そうなれば地球軍は全力で宇宙で攻勢に出る可能性もあります。そうなれば我々に残された道は無条件降伏かそれに準じるものだけ
となるでしょう。そうなれば、良くてもプラントは戦前の状態に戻され、悪ければ戦前を上回る搾取と弾圧を受けるでしょう」
「「「………」」」
「座して死を待つよりも、積極的に打って出ることで事態を打開するべきです」
「それが、死を早める事になってもか?」
パトリックはデュランダルを試すように尋ねた。
「死を早めるかどうかは定かではありません。確かな事はこのまま持久戦をしても死しかないことです」
「僅かな可能性に縋るしかないと?」
「成功する可能性を1%でも高めることが最高評議会の、いえ我々全員の仕事です」
「……なるほど、確かにそのとおりだ」
パトリックは嘆息するように呟くと、再びデュランダルに尋ねる。
「あそこまで細かく提案したということは、君はすでに私案をもっているのか?」
「はい。荒削りですが……」
「ではそれを使わせてもらう。各議員、異論はないな?」
代案をもたないほかの最高評議会議員たちは、パトリックの質問に首を縦に振る。かくしてデュランダルの提案は細かい修正を賭けられた後に
正式にザフトの戦略として採用されることになる。
最高評議会の会議が終了した後、デュランダルはパトリックの執務室に足を運んだ。
デュランダルがパトリックの机の前に立ったあと、パトリックは彼にまず今回の作戦についてのことで礼を言った。
「今回の作戦案の原案だが、あれはなかなかの出来のものだった。君の努力に感謝する」
「いえ、プラント政府に奉職している者として当然のことをしたまでです」
「……君のように、プラント住人全員がプラント政府やザフトに忠誠や協力をしてくれればここまで事態は悪化せずに済んだろうな」
パトリックの言葉には、ラクス・クラインに対する憎悪と怒りが多分に含まれていた。表向き、というよりプラントでは地球連合軍にNJCを売り
渡したのはラクス・クラインとされていた。はっきり言って彼女は売国奴扱いされていたのだ。勿論パトリックもその例に漏れない。
(連中がNJCを地球に売り渡したせいで、我々は、いやコーディネイターは生存の危機を迎えている……あの馬鹿娘め!)
現状のプラントがどれほどの苦境に立たされているかを、最高指導者ゆえに良く知っているパトリックの怒りは激しいものがあった。
だがいつまでも怒ってばかりではいられない。彼は早速気分を切り替えると、本題を尋ねた。
「それで用件は?」
「戦後のことについてです」
「ほぉ?」
「我々は何とか講和条件をプラントにとってマシなものにするべく動いています。ですが如何に動いたところで我々に対する締め付けを完全に
なくすものにすることはできないでしょう」
何を当たり前のことを……そんな考えをもつパトリックだったが、彼は続きを促す。
「我々が完全に地球連合の楔から解き放たれるには、今回の戦争で地球連合に『プラント』の独立を認めさせることが必要でした。しかしそれは
不可能になりました。このままでは仮に講和を結べても地球連合はコーディネイターの絶滅政策を推進し、我々にそれを拒む術はありません」
「そんなことは君に言われなくても分かっている。さっさと言いたまえ、君の意見を」
「私が望むのはコーディネイターという種族の温存です」
「だがそれは不可能になったと……」
「確かに今までのやり方では不可能です。しかしやり方を変えれば決して不可能というわけではありません」
「やり方だと?」
「はい。今までは、我々はこのプラントをコーディネイターの生存の地として国家の建設を推進していきました。これを転換するのです」
「ではどこにするというのだ? 地上には我々の国家を建設できる土地もなければ、それを認めるような状況でもない」
「我々の生存の地は地球圏を離れた位置、出来れば木星圏が望ましいと私は思っています」
「木星だと?」
パトリックはデュランダルの提案を聞いて、思わず席から腰を浮かした。
「馬鹿な。木星への進出など……」
「できるはずです。元々、我々コーディネイターは宇宙に出る能力があります。決して絵空事ではありません」
「………」
「木星圏での生活となれば非常に苦しいものがあるでしょう。ですが地球圏でコーディネイターが自立できない、いえ自立することを認められない
以上は、木星に生存圏を得ることは必要となります。コーディネイターが、コーディネイターとして生きるために」
「………確かに一理あるな」
パトリックの気持ちが傾き始めるのを見たデュランダルは、一気に畳み込むように言った。
「それに加え、木星と地球は大きく離れています。地球連合とはいえ、木星にまで大軍を派遣することは困難なはずです」
「つまり木星と地球に広がる空間そのものが防壁になると?」
「そのとおりです。また木星圏は幸いエネルギー資源が豊富です。これを利用すれば木星圏に国家を建設するのは決して不可能ではありません」
「木星と地球の間の距離を防壁にして時間稼ぎを行い、その隙に木星に国家を打ち立てる……それが君の考えか?」
「はい」
「……確かに魅力的な提案だが、可能なのか? 唯でさえ、我々は資源も予算も人もない。この中でそんな大規模な事業など」
「移民船は、廃棄コロニーを使えば問題ありません。幸い、地球側が建設したコロニーを使えば楽に星間航行用の宇宙船に仕立てられます」
「核パルスエンジンを使う気か? まあ確かに君が先の計画で使うために幾つかを発注する予定だが、追加するのかね?」
「はい。ですが、プラント住人全員を木星に送ることは不可能です。船の問題もありますが」
「プラント住人全員が木星圏に脱出しても、そこで自活させるための資源は即座に手に入らないだろうな」
「加えて我々が大挙して木星圏に逃れたと、地球連合が知れば、彼らは死に物狂いで木星圏に軍を差し向けてくるでしょう」
「確かに。我々が木星圏に独自に国家を作ろうとしているなどと知れば、連中はそうするだろうな」
「はい。これらの理由からコーディネイターが生き残るためには、この計画を極秘に、そして速やかに実施する必要があります」
「ふむ……判った。早速専門の委員会を作るとしよう。君には委員会に加わってもらう」
「判りました」
かくしてプラントは少しでも講和条件をよいものにするべく最後の抵抗を試みる一方で、コーディネイターという種族が存続し続けるために
木星圏への移民計画『アークプロジェクト』の発動が承認され多くの資材と予算が投じられるようになる。
プラントは最高評議会が決定した戦略に基づいて本格的に動き出し、まずは地上軍の再編成が始まった。
地上軍司令部は数少ない潜水母艦から、状態が良い艦を各部隊から抽出し、新たに任務部隊の編成を行った。これによって低下する各部隊の
戦力については、輸送船を改造して作った特設空母で穴埋めを行い、護衛艦は大洋州連合海軍から政府を説得(半ば脅迫)して確保した。
無論、インスタントの空母と旧式護衛艦では潜水母艦の穴埋めにはならない。それでもある程度の働きは出来ると司令部は踏んでいた。
ただしこれまでの戦闘で消耗し、加えて補給線を圧迫されていたザフト地上軍の物資の備蓄はかなり乏しいものになっていた。食糧や水について
は大洋州連合から調達することが出来たが、工業製品については調達できなかった。
何しろ大洋州連合は基礎工業力も低く、プラントが技術を供与してもそれを即座に大量生産する能力がなかったのだ。このためにザフト地上軍
は必要な工業製品の不足が懸念されていた。
「物資不足は深刻か………」
会議の席上で、寄せられた報告を見たカーペンタリア司令官は溜息をついた。
「はい。プラント本国から供給される物資は日に日に目減りしています。今は何とかもっていますが、これからは保証しかねます」
補給部門の士官の報告に、多くの隊長たちは顔を顰める。MSは元々高度で精密な工業製品である。このためその性能を100%発揮させようと
すれば、常日頃から整備を欠かさないことが肝心だった。
「なんらかの形で補給を受けなければ出撃することなど不可能だ」
「そのとおりだ。はっきり言って現状では南米への進出など無理だ」
ザフト地上軍は南米の地球連合軍の撹乱を命じられていた。南米は戦争初期に大西洋連邦によって併合されたために、反地球連合機運が強い
地域であった。加えてパナマのマスドライバーも元々は南米合衆国と大西洋連邦が共有していたものにも関わらず、大西洋連邦が現在その利益を
独占していることも反感を買っていた。
宇宙で窮地に立たされているザフトとしては、うまく南米軍を蜂起させパナマ基地を制圧、或は破壊できれば宇宙で戦線を立て直す時間が稼げる。
実際にパナマ基地を制圧できると思っている人間は少数であるが、いずれにせよ大西洋連邦の裏庭といえる地域で騒乱が起きれば大西洋連邦は
その収拾に力を入れざるを得なくなる。それこそが彼らの最大の狙いだった。
だが肝心のザフト地上軍は補給の途絶、ポートモレスビーからの断続的な空爆で消耗を重ねており、本国の期待どおりに動くことは難しかった。
「1個師団どころか半個師団程度の派遣が手一杯なのでは?」
そんな暗い議論が続けられていた。だがその数日後、クルーゼが齎した報告によって事態は一転することになる。
「補給の目処がつく? そんな馬鹿な」
カーペンタリア基地司令官は、クルーゼの顔を見ながら疑心暗鬼の表情で言った。
「南米には我が軍を支えるだけの軍需工廠はないだろう?」
「工廠はありません。ですが外部から我々に物資を売る人間はいます」
「ジャンク屋から買うのか?」
「いえ、地球連合内部、正確に言えば旧南アメリカ合衆国軍の人間です」
「旧南米軍だと? だが連中にはそんな物資はないだろう?」
「地球連合、そして大西洋連邦ですら一枚岩ではありません。中には戦争継続を目論むものもいます。理由は人それぞれですが」
「つまり地球連合の戦争継続派が南アメリカ軍の背信行為、いや反乱を支援していると?」
「そのとおりです。連中もこちらを利用するつもりのようですし、利害が一致するのならこちらも積極的に利用するべきです」
「その連中は信用できるのか? 下手に裏切られれば一網打尽だぞ?」
「裏はとってあります」
そう言ってクルーゼは書類の束を司令官に手渡す。手渡された司令官はそれを読み進めていくうちに顔色を変えた。
「こ、これは……いや、まさか…………わかった。信用しよう」
「ありがとうございます」
「あと、今回の作戦の現場指揮は君に任せる」
「判りました」
かくしてザフト地上軍は動き出す。南米に1個師団程度の兵力を派遣すると同時に各地の反地球連合勢力に携帯用の武器を供給しテロを煽った。
さらに反連合機運を高めることも積極的に行い始める。最初こそはあまり大した成果を見せなかったものの、第三次世界大戦の結果、力ずくで
押さえ込まれてきた様々な対立が、今大戦の混乱に乗じて少しずつ芽吹くようになっていく。
あとがき
青の軌跡第37話をお送りしました。次回からは南米動乱となります。ある意味で史実に近い展開です。
これまで足元の問題を先送りにしてきたツケを払う破目になるでしょう。
デュランダルは史実でも、ディスティニープランを練っていたので、今回はコーディネイターの種としての存続を図るアークプロジェクトを
提案してもらいました。まあ木星圏にコロニーで移住した人はアストレイでもいたので、現実味はあると思います。
それでは駄文にも関わらず、最後まで読んでくださりありがとうございました。
青の軌跡第38話でお会いしましょう。