ユーラシア西部にある豪華な作りの西洋風の屋敷の一角に集まった人間たちは、自分達の思惑と異なる情勢を打開すべく会合を開いていた。

「ボアズが陥落したことで、戦争は一気に終局を迎える可能性が高い。これは好ましいことだが、問題は終り方だ。このままではあの忌々しい

 空の化物達が生き残る可能性が高い」

「その通りだ。あの化物を生かしておくなど持っての外だ」

ここに集まったのは、ジブリールを中心としたブルーコスモス過激派だ。アズラエルやマリアを中心としたブルーコスモス主流派によって動きを

封じられた彼等だったが、このまま大人しく引き下がるつもりはなかった。

「何としても、あの化物共を殲滅するまでは戦争を続けれなければならない」

コーディネイターは滅ぼすべき化物と考えている彼等にとって、コーディネイターと共に戦後を迎える事など絶対に受け入れることは出来ない。

彼等は何とかしてプラントを殲滅するまで戦争を継続したいと思っていた。

アズラエルから戦後の事を考えていない馬鹿連中と評される彼等だったが、コーディネイターの能力を思い知らされている彼等にしてみれば

戦後にコーディネイターを生かしておくことは、化物を野に放つのに等しい行為であった。自分達が如何に抑えつけようとも、いつか彼等は

ナチュラルに再び、牙を向く……彼はそう信じて疑わない。

「盟主は連中の能力を過小評価しすぎだ! 連中を生かしておけば必ず災いが起こる!!」

全てを奪われてきた人間達を突き動かしているのは奪ってきた者達への怨念と呪詛、そして恐怖だった。勿論、全員が全員と言うわけではない。

中にはプラントを潰すことで利益を得ようとする人間達もいる。プラントの利権獲得に乗り遅れて利益を受けそこなった企業群はライバル企業が

プラントを取り戻すのを良しとせず、プラント殲滅を掲げる過激派に肩入れしているのだ。

「その通り。プラントを叩かなければ我々としても拙い。ジブリール殿、如何なさいます?」

プラント利権からあぶれた企業の主で裕福な髭を蓄えた男が、沈黙を保ち続けるジブリールに話を振る。話を振られたジブリールは自信たっぷり

に答える。

「策はある」

この言葉にどよめきが広がる。

「確かに連合上層部はアズラエルが抑えている。だが市民や兵士の中には、未だにコーディネイターに不信や反感を持つものが多い」

アズラエルの政策変更で連合軍に参加するようになったコーディネイター達やオーブから参加したコーディネイター達から構成される部隊

が活躍するにつれて、市民の反コーディネイター感情は減じている。マスコミもコーディネイター排斥を唱える論調は控え気味だ。

しかしながら、未だにコーディネイターに対する不信や憎悪は燻っている。長い時間をかけて築かれてきた両者の溝は簡単に埋まるものではない。

「奴らが、ナチュラルにとって危険な存在であると認識させるのだ。そう、共存など出来ない存在であると」

「しかしどうやって……」

「なに、ザフトの、化け物どもの中にもナチュラルを皆殺しにすると息巻いている連中がいる。奴らを使うのだ」

「コーディネイターと手を組むと?」

「手を組むのではない。利用するのだ。全ては青き清浄なる世界の為に」









                 青の軌跡 第34話








 アルキメデスから発せられた白き光は、ジェネシスを破壊した後にコーディネイターの生存の大地たるプラントに襲いかかった。

最初に直撃を浴びたのは食糧生産コロニーであるユニウス4、このプラントはコロニーそのものを支える中央の支柱を真っ二つにに分断されて

かつてのユニウス7のように崩壊していく。だが悲劇はそれだけでは終らない。崩壊したユニウス4は周辺のプラントをも巻き込んでいく。

崩壊した大地が、他の大地へ衝突し、その地を宇宙の藻屑と化させていく。

「………?!」

サンダルフォンのブリッジにいるハリンも、この光景には絶句せざるを得なかった。目の前の光景、プラントが崩壊して行く様はコーディネイター

に何かしら恨みを持っている人間からすれば、喝采を挙げたくなるような光景だが、ハリンほどの人間となるとそうはいかない。

「あ、アーノルドは何をしている?!」

ハリンはプラントを破壊したアーノルドの行為に激昂した。だが同時に頭の片隅でチャンスであることも理解していた。これだけ派手にプラントが

破壊されればザフトの目はアーノルド隊に向くだろう。そうなれば彼が率いる主力部隊への追撃も和らぎ、周辺の支援部隊と連携すれば目の前の

所属不明の敵艦隊を撃破してこの宙域を離脱することも可能になる筈だ。

「くっ………前方の敵艦隊へ攻撃を集中しろ! トライデントは?」

「トライデントは全機が補給中です。再出撃にはあと20分以上はかかると」

トライデントは火力は圧倒的であるが、その分だけ弾薬の消費も激しい。搭載する弾薬の補充と兵装の整備には時間が掛かるのだ。

「遅すぎる! 仕方ない。トライデントなしでいくぞ。くっそれにしても……」

ハリンは帰還後のことを思い歯噛みしながら、まずは生き残ることを優先する。彼には彼に率いられている部下達を一人でも多く生きて帰れる

ように努力する責務があるのだ。しかし同時にハリンは今後に行われるであろう追求を和らげるべく、平たく言えば保身の方法も考える。

(あとで責任を追求されるな……ここで俺のキャリアも終わりか。いや、根本は目の前の所属不明の艦隊だ。何とかうまく切り抜けるには)

連合製の戦艦や駆逐艦、ザフトのエターナル級やナスカ級など多種の艦艇が入り混じっている正体不明の艦隊、彼らこそ、軍内部の人間がこの

作戦の情報を漏らした相手に違いない、ハリンはそう考えてある命令を下した。

「ヘンダーソンか、フラガ少佐に捕虜を確保するように命じろ」

この宙域から無事に脱出するには敵部隊の包囲網を短時間で打ち破る必要があり、捕虜を確保するために時間を割きたくは無いのだがハリン

としてはそうは言っていられない。正体不明のテロリストの正体を探ることは連合にとっても、彼の保身にとっても重要だった。

「くそ。一体、連中は何者なんだ?」



 ジェネシスとユニウス4が崩壊していく様を見ていたパトリックは暫く茫然自失となっていた。いや、他の司令部のメンバーも同様だった。

「ジェネシスが、ユニウス4が……」

特に衝撃を受けたのはパトリック・ザラだったが、彼は持ち前の強い精神力で状況を理解すると状況を確認する。

「この攻撃は?」

「ジェネシス周辺に出現した新手の艦隊からです! モニターに出します!」

ザフト軍司令部のモニターに映し出されたアルキメデスシステムと、20隻以上の新手の艦隊、アーノルド隊の姿を見てパトリックは唸った。

「20隻以上の艦隊と………あれは、極薄の鏡の集まりか」

「恐らく太陽光を使った兵器でしょう。それにしても凄まじい破壊力です」

「感心している場合か!」

パトリックは参謀を叱責すると、アーノルド隊への攻撃を命じる。

「これ以上、プラントを攻撃させてはならん。何としても撃破しろ!」

「敵主力は如何します?」

「あれは陽動だ。ラクス・クラインと潰しあいをさせておけ」

パトリックは地球軍艦隊と交戦中のラクス艦隊、正確にはその中心にいるエターナルを見て忌々しげに吐き捨てる。

「あの小娘がエターナルとフリーダムを盗み出さなければ、このような事態は避けられたものを………忌々しい反逆者め」





 ユニウス4の崩壊をエターナルのブリッジで見ていたラクス・クラインも、パトリック同様に茫然自失となっていたが、即座に頭を切り替える。

「今の攻撃は?」

「ヤキン・ドゥーエ周辺の地球軍艦隊からの攻撃のようです。恐らく情報にあった新兵器かと」

ラクスはこの報告に顔を顰める。

(私たちは間に合わなかったのでしょうか……このままでは憎悪の連鎖によって戦争は果てしなく続いてしまう)

ラクス達は、自分達の手でプラントで戦争継続を唱える強行派を粛清し、アンダーソン将軍によって地球連合内部の強行派を失脚に追い込む事で

戦争の終結を狙っていた。だがそれには、地球連合とザフトの軍事バランスが大きく崩れていないことが必要となる。一方が圧倒的有利な情勢なら

わざわざ講和をしようとする人間はいない。相手に無条件降伏かそれに近い条件を突きつけるのが普通だ。

ラクスはブルースウェアを撃破してアズラエルの発言力を低下させ、さらに地球連合軍の戦力を消耗させることでザフトが戦力を回復するまで

の時間を稼ぎたかったのだ。だが今回はハリンやアズラエルの決断で、その思惑を外された。ボアズは陥落。さらにプラント自体も被害を受けた。

この被害は戦争の趨勢そのものを決めかねないものだった。

(何とかしないとりません……このままではプラントは滅ぼされてしまう)

重ねて云うが、アズラエルはプラントを破壊するつもりも、コーディネイターを殺し尽くすような気もない。しかしラクスはブルーコスモス=悪と考えて

いるので、アズラエルがそのようなことを思っているとは想像できない。まあ戦前にテロを煽り、ユニウス7に核攻撃さえした連中が改心した

と言っても信じられる輩は少ないので、余り酷いことは言えないが……。

だが彼女の思考はすぐに中断することになる……そう、ハリン率いるブルースウェア主力艦隊が最後の力を振り絞って突撃してきたのだ。

「迎撃を!」

「分かっています!! エターナルを含む中央部隊は下がれ、左翼と右翼の部隊は前進、敵艦隊を半包囲するぞ!」

この指示を受けてラクス軍艦隊は陣形をV字型に変化させ、ブルースウェア主力にありったけの火力を撃ちこみ始める。それはブルースウェアに

多大な出血を強いることとなる。







 ラクス艦隊の中央部隊の後退によってラクス艦隊はV字を描くようになり、中央に来たブルースウェア艦隊に集中砲火を浴びせた。

前方と左右から殺到する砲火に晒され、直撃の閃光に彩られていくブルースウェア所属艦艇。だがそれでも突破しなければ生き残れない。

彼らは必死に前進を続ける。この戦いの中、最もブルースウェアに被害を強いているのはラクス達の切り札であるゲイツ改であった。

元々はジャスティス、フリーダムの火器運用試験のためにゲイツを回収した機体に過ぎなかったのだが、フリーダムとジャスティスを手に入れられ

なかったラクス達は替わりに、この機体を強奪して運用していた。勿論、強奪した当初のままの機体では戦闘時間が短すぎたので独自に入手した

新型バッテリーで強化していた。このため攻撃力に関してはフリーダム、ジャスティス並、戦闘可能時間はダガー並の機体となっていた。

「ラクス様のために!」

ゲイツ改を操るパイロットの一人であるヒルダ・ハーケンは、己が心酔するラクスのためにブルースウェアに大いに破壊を振りまいていた。

彼女がビームライフルやレールガンを発射するたび、何機ものブルースウェアのMSが宇宙の塵と化していく。

「くそ、化け物が!」

ヘンダーソンは数機のゲイツ改が、ブルースウェアMS隊を良いように叩き落している光景を見て思わず舌打ちする。そして同時に自分で目の前の

敵を少しでも叩く必要があると判断した。彼は自分の乗るアヴァリスの付近にいるフラガにある指示を出す。

「フラガ少佐、俺はこいつらの相手をする。そっちは指令どおり先に捕虜を確保してくれ!」

『良いんですか?』

「構わない。そちらの腕なら、数名の捕虜をとるくらいはそう時間は掛からないはずだ」

『……まあそりゃあそうですが』

「そちらの任務が終わるまでは持たせる。まあ出来るだけ早めに来てくれればありがたいが」

『……了解。御武運を』

そう言って離れていくフラガのストライクと強化人間ののった3機のGを見送ると、ヘンダーソンはゲイツ改を睨みつける。

「やれやれ、厄介な仕事だ。帰ったら特別ボーナスでも貰わないと割が合わないな」

そう言ってヘンダーソンはゲイツ改に襲い掛かった。最も正面から襲い掛かるのではなく、ゲイツ改が友軍機に気をとられているうちに背後から

ビームライフルで攻撃すると言う結構卑怯な戦法だった。まあ戦争に卑怯もくそも無いが……。

「何者だ?」

しかしヒルダは、コックピットに鳴り響く警報を聞いて咄嗟に攻撃を察知。機体を右に逸らして攻撃を回避する。

「ち、さっさと当たればよかったものを」

ヘンダーソンはプラントでの戦闘で、腕の良いパイロットと正面きって戦うのが如何程面倒なことか理解していたので、何とかゲイツ改の背後を

とろうと機体を操る。ゲイツ改は火器を満載しているだけ、機動力に劣る。このために中々背後に回ったヘンダーソンの機体を振り切れない。

「く、卑怯者が!!」

ヒルダは、ヘンダーソンの戦術に苛立つが、そのようなことを言っても埒があかない。

「ラインハルト、シメオン来い!」

ヒルダは事態を打開するべく部下であるヘルベルト・フォン・ラインハルトとマーズ・シメオンが乗るゲイツ改を呼び寄せる。

「まだ居やがるのか……勘弁してくれ」

彼はやってくる2機のゲイツ改を見て心底嫌そうに呟いた。




 ゲイツ改とアヴァリスが戦闘状態に突入した頃、ブルースウェア艦隊の被害は洒落にならないレベルに達しようとしていた。

「戦艦スターク大破落伍します」

「軽空母サイパン、ブリッジ被弾戦闘続行不能!!」

「MSの損耗率が20%のラインに達します!!」

相次ぐ凶報にハリンは奥歯をかみ締める。何しろプラントでの戦闘で味方は疲れており戦闘力は落ちている。自然と被害は大きいものとなる。

「くそったれが、見た目は寄せ集めの癖に動きが良い。それに周辺の支援部隊の目を掻い潜って来たとなると……連中の指揮官はかなりの奴だな」

「如何します?」

参謀長の質問にハリンは即答する。

「被害に構わず、正面から突破して脱出する。ただし敵将の首は貰っていくぞ。敵の旗艦は?」

「傍受した通信から判断して敵艦隊後方にいるエターナル級かと思われます」

「投入できるソキウスを向かわせろ! 連中が全滅しても構わん!」

「判りました」

この命令を受けて、ブルースウェア主力艦隊に所属していたソキウス達は根こそぎ艦隊前方の激戦区に配置されることになる。

ソキウス達はそれぞれ、Gかそれに準じる性能を持つ高性能機が与えられており、優勢なラクス艦隊に対して対等の戦いをするようになる。

ソキウスの乗ったバスターが350ミリガンランチャーと94mm高エネルギー火線収束ライフルを両手に構えて撃ちまくり、その砲撃を浴びたラク

ス軍の深緑色に塗装されたシグー、ジン、ダガー、MAが次々に撃破されていく。

この攻撃で戦線に穴が開くと、MA形態へと変形したイージスが艦隊に一気に接近してスキュラを至近距離から浴びせていく。スキュラを浴びた

ラクス軍の戦艦は弾薬が誘爆したのが、あっという間に炎が艦全体に広がった。そして次の瞬間、派手な爆発を起こして宇宙の塵と化す。

これに続いて、MA形態のレイダーがラクス軍のローラシア級に両翼に吊り下げた対艦ミサイルを発射し撃破する。

ただしこの派手な活躍で、ソキウス達はラクス軍の集中攻撃を受けるはめになり、1機、また1機と少しずつ確実にすり減らされる。

しかし彼等ソキウスはやられるとしても、必ず何機かを道連れにしていく。

「連中、やるねえ」

捕虜を採るようにという命令を受けたフラガは横目でソキウス達の活躍を見て感心する。まあ彼らの活躍ぶりはプラント本土での疲弊を考慮

すれば特筆に価するものだ。実際に強化人間以外のナチュラルの乗った機体はやや動きが鈍い。フラガ自身も連戦で疲弊していた。

「それにしても、一体どこの誰だ。こんな無茶なことをしてくれたのは?」

フラガは目の前のテロ集団を本気で呪いながら、自分に与えられた捕虜確保と言う仕事に取り掛かった。彼は自分達を攻撃してくるラクス軍の

機体を何機か見繕い、そのうち最も錬度が低く拿捕しやすい機体を選ぶ。

フラガはステラ達がのる3機のGで他のラクス軍機を牽制しつつ、自分はガンパレルを巧みに操り、ダガーの頭部、腕部を破壊し戦闘能力を奪う。

そしてあっさりと深緑に塗装されたダガーを拿捕した。

「よし、引くぞ。援護を頼む」

捕虜確保の報告は、このあと直ぐにハリンの元にあげられた。

「そうか」

ハリンは一瞬安堵するが、彼の乗るサンダルフォンの近くで発生した爆発で、すぐにその安堵は吹き飛ぶ。

「何としても目の前の艦隊を突破しないとな」

ハリンはフラガ達を正面に投入する指示を出す。彼は強力なMS部隊を一点に集中して一気に突破することを目論んだ。

「ヘンダーソンは?」

「新型のゲイツと思われる機体に苦戦中です。しかしあの3機を拘束したおかげで他の戦線は幾分か楽になったそうです」

「そうか。なら今がチャンスだな」




「ふ、ふざけるな! こんな連中を1機で相手をしろと?!」

ヘンダーソンはフラガが艦隊正面に回されたと聞いて、戦闘中にもかかわらず激怒した。

「お偉方は俺たちを駒としか思っていないのか!!!」

ゲイツ改3機に執拗に攻撃されているヘンダーソンとしては、一機でも増援が欲しかった。期待していたフラガ達が来ないと知らされて怒るのは

当然だった。

「くそ、帰ったらあの司令官に一発決めてやる!」

絶対無理だろうなと思いながらも、ヘンダーソンはそう言わずには居られない。

「こうなれば生き残るのを優先しないと……撃墜するのは無理だしな」

彼はアヴァリスの機動力に物を言わせて相手を撹乱する戦術を取った。幸い、アヴァリスはゲイツ改より機動力と防御力が優れている。

この長所を利用すれば対等に戦うとはまではいかないが、簡単に撃墜されない戦いは出来ると彼は判断した。

ヘンダーソンはゲイツ改に胸部のスキュラで砲撃を一回浴びせた後、即座に逃走にうつる。ゲイツ改は攻撃しようとしても、ヘンダーソンは

自分に持ちうる操縦技能を駆使して攻撃を避ける。

「右か、いや左!!」

コックピットに鳴り響く警告音。耳鳴りがするほどの警告がなされる。普通のパイロットなら恐慌状態になりそうなものだが、彼は無理やり冷静さ

を保って何とか避け続ける。勿論、全てを避けれるわけがないが、高い防御力を誇るアヴァリスは一発や二発の被弾で落ちはしない。

ヒルダはアヴァリスの頑丈さと、何より相手の操縦技能に苦々しさを隠し切れない。

「これほどのパイロットがブルーコスモスにいるとは……全く惜しいことだ」

同時にヒルダはヘンダーソンのようなパイロット達が協力すれば、ラクスの理想が実現すると思うと、やるせなさを感じえなかった。

「ラクス様の理想が実現すればナチュラルもコーディネイターも平等に暮らせるというのに」

『隊長、もうそろそろ別のターゲットを探すべきだ。あれ一機に気をとられていては』

「そうだな」

シメオンの進言を受けて、ヒルダは目標を変えようとする。だがそのとき、アヴァリスは急反転し、ゲイツ改3機にビームライフルを向けた。

「何?!」

ヒルダは慌てて回避したおかげで被弾を免れたが、何発かは装甲をかすめ、焦げ目を作る。また内部機構にも何かしらの打撃を与えた。

他のゲイツ改2機はアヴァリスが親の仇のように、ビームライフルとレールガンを連射するものの、アヴァリスはその大半を避けてみせる。

「くっ、確実に落とすぞ!」

ヒルダは目の前の敵を生かしておけば、後々面倒になると判断し全力で撃墜するべくビームライフルの銃口を向ける。

ゲイツ改3機がアヴァリスに集中したこと、ソキウス達が決死の攻撃でラクス軍の陣形に穴を開けたこと、そしてフラガ達がその穴を広げたことで

戦場の天秤は、ブルースウェアに傾く。さらに……

「艦を前に出せ!! ローエングリーン用意!」

ミナカタはセラフィムの火力で友軍の支援を目論む。勿論、艦を前に出すと言うことはラクス軍の集中砲火を浴びることを意味するのだが、彼は

躊躇しなかった。

「撃たせるな!」

バルトフェルドの指示で、セラフィムに集中砲火が浴びせられる。だがセラフィムはアークエンジェル級持ち前の強靭な防御力で耐え抜く。

さらに他の友軍艦艇がこれを支援する。セラフィムの周りの駆逐艦はセラフィムをラクス軍からの砲火から守るべく己をセラフィムの盾にする。

駆逐艦ゆえに、数発のミサイルの直撃で落伍、或は撃沈される。だがその抜けた後を他の駆逐艦が埋めていく。

「そんなことをする必要は無い!」

ミナカタは慌てて通信をつなげるが、駆逐艦の艦長たちは首を横に振る。

『俺たちの任務はセラフィムの護衛だ。それにあんたらには友軍の命が掛かっている』

「しかし……」

そう言いつつも、ミナカタは正面のスクリーンに映る艦長の目を見て言うべき言葉をなくす。そんな様子を見て駆逐艦の艦長は敬礼して言った。

『貴艦の武運を祈る』

駆逐艦の艦長がそう呟いたあと、彼のいたブリッジは炎に包まれ、通信は途絶える。

「くっ、チャージを急げ! 彼らの死を無駄にするな!!」

さらに1隻の駆逐艦が炎に包まれた直後、ローエングリーンのチャージは終わる。

「目標、敵艦隊中央のエターナル級。発射!!」

セラフィムの陽電子砲から放たれた陽電子ビームは、ラクス軍の艦隊を次々に突き抜けていく。護衛のために正面に居た駆逐艦やローラシア級が

撃ちぬかれる。そしてついにそのビームはエターナルに迫る。

「緊急回避!!」

エターナルはバルトフェルドの咄嗟の指示で、これを回避しようとするが完全に回避しきれない。エターナルの右舷に着弾する。

陽電子ビームはエターナルの装甲を突き破り、その内部を蹂躙する。爆発で乗組員が吹き飛ばされ、生き残った人間は宇宙に放り出される。

「くぅう!!」

ラクスは衝撃でシートから飛ばされそうになるが何とか凌ぐと、被害状況を尋ねる。

「エターナルの被害は?」

「右舷に被弾! 右舷側のミーティア消滅! 機関部周辺で火災発生!」

「右舷の対空火器壊滅! 5番、7番隔壁緊急閉鎖!」

オペレータの報告にバルトフェルドは苦い顔をする。

「現在出せる速度は?」

「推進部にも打撃を受けているために、最大速度の半分以下です!」

「応急修理をしてもか?」

「判りません。ですが、回復したとしても全速は無理です!」

「くっ、一時後退する!」

このまま戦闘を続行すればエターナル級が沈むと判断したバルトフェルドはエターナルを後退させる。だがこれによってラクス軍の綻びはさらに

大きなものとなる。それはブルースウェア艦隊からすれば突破のための絶好の機会であった。

ブルースウェアはエターナルが後退したことで、混乱するラクス軍艦隊を一機に突破していく。ヘンダーソンやフラガもこれに合わせて帰艦する。

「やれやれ、酷い目にあった」

空母レイテに帰艦したヘンダーソンはゲイツ改3機に追われてボロボロになったアヴァリスを見上げる。だがさらに憂鬱なのはハンガーにいる

MSは出撃したときの半分程度、それも無傷のMSは皆無だという光景だった。

「生きて帰ったのは何機ほどだ?」

ヘンダーソンは近くに居た整備兵に尋ねる。

「だいたい、半数程度です。ですが、損傷の酷い機体もありますから、恐らく最終的な損失は6割を超えると思います」

「そうか、酷い戦いだったな」

態勢を立て直したラクスは直ちに追撃を試みるも、周辺から駆けつけてきたブルースウェア支援部隊によって阻まれ、結果として主力艦隊の

捕捉殲滅には失敗することになる。主力艦隊と前後してアーノルド隊もすばやく脱出しており、ここにプラント本土宙域における戦闘は終了した。






 最終的にブルースウェア主力は所属艦艇の3割、MSの5割を損失すると言う大損害を被ることになった。失った艦艇の補充や遺族への手当て

などを考えれば、アズラエルが卒倒するような被害総額となるのは確実だった。

さらに問題なのは表向きは誤射とは言え、ユニウス4を破壊してしまったことだ。ユニウス4は完全に崩壊し、30万人近くの犠牲者を出した。

これはユニウス7の悲劇の再現であり、ブルーコスモス穏健派との火種になるのは確実だろうと現時点では思われた。

ちなみにユニウス4を誤射したアーノルド隊はアルキメデスシステムの運用システムを全て爆破して放棄。さらに鏡も念入りに破壊して脱出した。

彼らは目だった被害こそ出なかったものの、アーノルド自身は基地到着後に事情聴取を受けるはめになる。

だがこのように頭の痛くなる問題が続発したものの、ついに地球連合軍はザフトの切り札であるジェネシスを破壊することに成功した。これは

パトリック・ザラの考えていた戦略が瓦解したことを意味した。さらに本土防衛戦でザフトは出撃した機体の30%以上を失い、残りの半数も修理を

必要とするほどの被害を受けた。訓練生も多くが帰らぬ人となり、ザフトは本土周辺の制宙権の維持も難しくなりはじめる。

これらの軍事的問題に加えて、食糧供給地であったユニウス4が崩壊したことで、プラントの食糧自給率はさらに低下するはめになる。

これにより唯でさえ物資不足だった状況に拍車をかけ、ユニウス4崩壊と言う悪夢と相成って大きな影響を出すようになる。














 あとがき

 earthです。ついにフェイタルアロー作戦終了です。

主人公のくせにアズラエルの出番がなく、他の面々ばかりが出ていますが、次からは彼の出番です。

今回の後始末で大忙しになります。まあまずは艦隊再建と穏健派の説得かな(汗)

恐らく色々とマリアに譲歩を強いられるでしょう(爆)。

駄文にも関わらず、最後まで読んでくださりありがとうございました。

青の軌跡第35話でお会いしましょう。