カオシュン周辺で激戦が展開している頃、地球連合宇宙軍の最大拠点である月の周辺宙域ではある実験が行われていた。
この実験に使われている技術は既存のものではあったが、ブルースウェアが持つ航宙艦の半数以上が参加しておりその重要性が窺い知れる。
この実験が如何ほど重要なのかを理解している参加者……ブルースウェアの関係者は実験の推移を固唾を呑んで見守っている。
ブルースウェア艦隊総旗艦・アークエンジェル級戦艦『サンダルフォン』のブリッジのメンバーも同様であった。
そんな緊迫した雰囲気の中、ブリッジのシートに腰掛けているブルースウェア司令官チェスト・ハリン准将は一人もの思いにふけていた。
(この実験がうまくいけば、ジェネシス破壊どころか戦争終結への道すら開ける。尤も今のアズラエルがコーディネイターを殲滅する作戦など
実行に移すとは思えんから、即座に戦争終結とはいかないが)
この実験がうまくいけば、そしてアズラエルがプラントにいるコーディネイターを皆殺しにすると決断すれば、戦争はあっと言う間に終る。
彼らがその気になればプラントは御自慢の防衛ラインや要塞を殆ど活用できずに、切り札であるジェネシスと共に宇宙の塵と化すだろう。
何しろ今の地球連合軍には核ミサイルがある。それをフルに使えば100基のプラントを殲滅することなど容易いことだ。
だがそれが出来ないことをハリンは理解していた。そして強硬派に属しているにも関わらず、そのアズラエルの方針に納得もしていた。
(一部の馬鹿どもはアズラエルがクラウスに骨抜きにされた、穏健派に買収されたなど阿呆なことを言っているが……真実はどうあれ俺としては
今の奴の方針のほうが都合が良い。せいぜいアズラエルには頑張って貰わないとな)
元々、プラントの殲滅を大々的に掲げている過激派に近い人間と目されてきたハリンではあったが、彼が過激派に近い位置に立っていたのは己の
望みを叶えるのに効率が良いと考えていたからに過ぎない。逆に今の所は彼の望みを叶えるためには、アズラエルの方針に従いアズラエル派に
属するのが最も効率的が良いと彼は判断した。このため彼はブルースウェアの指揮を執りジェネシス破壊を目的とした作戦の立案を行っている。
(そう全ては………)
そこまで彼の思考が進んだ時、実験の成功が報告される。
『実験成功です。予定通り、全艦艇を覆い隠すことに成功しました』
「そうか……」
これで自分の望みがまた一歩実現に近づいたと思い歓喜する一方で、アズラエルに対してある提案をすることを決意していた。
(さて、あとはアズラエルにあの提案を呑んで貰わないとな)
この実験成功の報を、ハリンはローレンツクレーター基地とBWG本社の間の直接回線を使ってアズラエルへ直接報告した。
『このように、実験は成功しました』
「よし、これでジェネシス攻略作戦に取り掛かれるな」
アズラエルはこの報告を聞いて、連合軍が勝利する形で戦争が終結する可能性が高いものになると判断した。だがそんなアズラエルの楽観的な
考えに冷や水を浴びせるようなことをハリンは言う。
『ですが、盟主。現状の装備では完全にジェネシスを破壊できるかどうかは保証できません』
「……どういうことです?」
『我々が保有する兵器の中で最も破壊力を有するアークエンジェル級のローエングリンであっても、ジェネシスを破壊するにはかなりの時間と
手間を必要とします。例のシステム……盟主が開発している拠点攻略兵器の場合は発射までに時間が掛かりすぎます』
アズラエルはこの時点で、ハリンが何を求めているかを悟った。
「つまり、核兵器の使用許可を出せってことですか? さすがにそれは……」
アズラエルはこの提案に難色を示した。民間の軍事組織が核兵器を使うことを連合政府が許容するとは思えない。地球連合に影響力を持って
いるといっても、アズラエルにも出来ることと出来ないことがある。
『それは分かっています。ですから、次善の策として核を使う部隊に同行してもらうのです。撃つのはあくまでも軍です』
「つまり軍を動かして核攻撃にGoサインを出せと?」
『はい』
アズラエルは尚も渋い顔をした。もし今、核攻撃を認めるように進言すれば、間違いなく過激派が図に乗るだろう。何しろ核を使うとなれば
その使用目的を明らかにしなければならない。もし今、ジェネシスの存在が明らかになれば過激派、強硬派ともにプラントの殲滅を強行に主張
する可能性がある。只でさえ、カーペンタリアに配備された核兵器の存在に神経質になっているのだ。ここでジェネシスの存在が明らかになった
時の軍の反応など想像するまでもない。
「………」
さすがのアズラエルも即答できなかった。完全な板ばさみ状態だった。しかし答えは出さなければならない。
必死に考えるアズラエルに対して、ハリンはある提案を行った。まるで悪魔が人を誘惑するかのように……
『このような手があります。盟主……』
アズラエルはハリンの提案を聞いて絶句した。だがそれしか手がないことも同時に理解せざるを得なかった。そして……彼は決断する。
「………わかりました。その手でいきましょう」
苦々しさを隠しきれないアズラエルの言葉だったが、ハリンは満足げに礼を言った。
『ありがとうございます。盟主……』
このときアズラエルは一瞬だけ、悪魔の哄笑が聞こえたような気がした。
かくして地球連合軍、ザフト双方が与り知らぬ所で、今大戦の戦局を大きく左右しかねない作戦の準備が刻一刻と進められることになる。
青の軌跡 第24話
カオシュン宇宙港周辺に降下したエド達は、手始めにザフト軍守備隊のジン部隊から血祭りにあげていった。
TP装甲を筆頭に性能差で優位に立つソードカラミティに対して、旧式化したジンでは成す術がなく、ソードカラミティが両手に持つ対艦刀を
振るうたび、まるで装甲が紙で出来ているかのように、ジンはその装甲を切り裂かれて撃破されていく。
「ちくしょう、まともに近づけん!」
ジンのパイロット達は宇宙港の施設を遮蔽物代わりにしながら必死に重突撃機銃で弾幕を張る。無論、殆ど通用しないことは分かっていたが
彼らにはそれ以外に執り得る戦術がなかった。だがその戦術も連合の物量の前に脆くも崩れ去ることになる。
「うわぁああ!!」
悲鳴と共に爆発する1機のジン。周りにいたジンは一瞬、何が起こったのか理解できない。
「な、何が・・・・・・」
そう呟いたジンのパイロットも次の瞬間、ビームによって焼かれる。立て続けに2機のジンが破壊されたのを見て、やっと他のパイロット達は
敵の正体に気付いた。遥か遠く離れた位置からこちらに攻撃を加えて来る敵機を確認したのだ。
「バスターに、バスターダガーだと・・・・・・」
戦艦の装甲をも一撃で打ちぬく火力を持つ2機種の前では、彼らが盾代わりに使っている建物などダンボール以下だ。
そしてこの絶望的な状況をさらに悪化させる存在を彼らは確認した。
「デュエルに、ストライク、ブリッツだと・・・・・・ちくしょう、ここはGATシリーズの展示会場じゃあないんだぞ!!」
降下して来たMS部隊にはデュエル、ストライクも多数配備されており実弾兵器しか装備していないジンは一方的な殺戮の目にあった。
このように頼みの綱のジン部隊が撃破されていくと、守備隊はあっけなく総崩れとなった。元々ザフトは人口の問題からMSに偏った編成を
採用していたので他の兵科は貧弱であった。特に人員を必要とする歩兵などは連合軍とは比べるべくも無いほど数が少ない。
このためMS部隊を失うと、あとはMSの支援を受けた連合軍の歩兵部隊によって袋叩きにされていった。さすがにコーディネイターでもMS
の支援を受け、さらに潤沢な弾薬と高い練度を誇る相手に粘り続けることなど出来はしなかった。
「何とか確保に成功……と言った所か」
エドの言う通り、奇襲を受けた宇宙港はそのほぼ全域を制圧されていた。一部のエリアではザフト軍兵士が必死に抗戦しているが、彼らが全滅
するのも時間の問題であった。だが彼らとて安穏としていられる立場ではない。
宇宙港をほぼ制圧したとは言え、彼らは敵のど真ん中で孤立していると言っても過言では無い。時間が経てば四方の敵から袋叩きにあう。
「早くしてくれよ。そうしないとこっちが全滅しちまう」
エドの言葉は、この場にいる部隊の人間の共通した意見であった。
勿論、ノアを含めた指揮官達がそれを理解していないわけが無かった。彼らは宇宙港をほぼ制圧したとの報告を受け取ると即座に増援と補給を
送り出すと同時に湾口に橋頭堡を確保するべく行動を開始した。
「水中用MS部隊で橋頭堡を確保するように。あと第5任務部隊に合流するように命じなさい」
この言葉を聴いて他のスタッフ達は眉を顰める。この第5任務部隊とは、新規に連合に参加したオーブ海軍の部隊であり、連合軍に多大な損害を
与えた彼らを未だに良く思っていない者が多いので、この反応は当然のことと言えた。
「第5任務部隊は別働隊としてカオシュン南方を強襲する予定だったはずでは?」
「ザフトの潜水艦隊は兵揃いよ。このままだと各個撃破されて大損害を受ける可能性があるわ」
彼女はそう言うと第5任務部隊司令官に本隊に合流するように命じた。無論、独断専行なのだが、臨機応変と言うことで反論する人間を全員
黙らせた。
「先の戦闘の借り、兆倍にして返すわよ」
一方、一連の連合軍の素早い攻勢によってザフトは大混乱に陥っていた。
「宇宙港周辺に敵空挺部隊だと?!」
「はい。突如として出現した輸送機から多数のMSが宇宙港周辺に降下。現地守備軍はほぼ壊滅状態とのことです」
カオシュン基地司令部は敵空挺部隊出現の報告を受けてパニック状態に陥っていた。さらに降下した敵空挺部隊によって自爆用に設置していた
グングニールが次々に破壊されているとの報告を受けて彼らは顔面蒼白となる。だが司令部の長であるクライスラーはいち早く混乱から
立ち直ることに成功した。
「こちらの警戒網に引っかからないということは……ミラージュコロイドを使った輸送機か。小癪な真似を……それにしても…・・・」
彼は連合軍の戦術を見抜くと同時に増援を出すことを幕僚に命じた。
「ミサカ隊を救援に向かわせろ。彼女の隊なら並大抵のことでは負けないはずだ」
「しかしミサカ隊はパナマ戦の消耗から完全には立ち直っていません。インカール隊も向かわせるべきです」
「それでは司令部の防衛に支障をきたす。指令系統は何としても保全しなければならないのだ」
「………判りました」
ミサカ隊を派遣するように命じた直後、クライスラーは信頼できる部下達だけを司令室の近くにある何も置かれていない空室に集めた。
そしてカーテンを締め切り、盗聴器がないことを確認すると、これまで彼が疑問に思っていたことを話し始めた。
「諸君に集まってもらったのは他でもない。何故こうも地球軍がこちらの弱点をついてくるかだ」
「どういうことでしょうか?」
「奇妙だとは思わないか? 今回の連合軍はまるでこちらの弱点を知り尽くしたかのように的確に攻撃している」
「それはナチュラルの情報収集能力が高いからではないのですか? 実際に諜報戦では彼らに分がありますし」
「的確すぎるのだ。いくらナチュラルが諜報戦に長けていたとしてもここまで正確に我が軍の弱点を探ることなど出来るわけが無い」
「……それは味方から情報が漏洩しているということですか?」
「その通りだ。それも地球軍の攻撃の巧妙さから考えるとカオシュン基地司令部、或はそれ以上のところから情報が漏れている可能性が高い」
「裏切りものがいる……ということですか」
「そうだ」
クライスラーの腹心達は彼の言葉に信じられないと言わんばかりの表情をする。
「同胞を売るような輩がいるとは信じられません」
「あのラクス・クラインやバルトフェルドも裏切り者だったんだ。誰が裏切っていたとしても驚くことではない」
クライスラーは幕僚達の言葉を冷たく切り捨てる。
「だがやられっぱなしと言うのも面白く無い。奴らにはビクトリアの時と似たような思いをしてもらう」
彼はニヤリと笑うと司令部の手元にあるグングニールの幾つかを使ってマスドライバーの破壊を行うように命じた。これらのグングニールは
元々は基地施設を放棄する際に地球軍部隊を行動不能にするために基地の各所に設置される予定だった物なのだが、連合軍の攻勢が予想以上
に早かったので設置が間に合わず倉庫に保管されたままになっていたのだ。そのために、破壊を免れていた。
「これから急いで設置できるグングニールの数は精々3個程度。恐らくマスドライバーを完全には破壊はできん。だが、それでも長期間の修理が
必要になる位は破壊できるだろう」
彼はそう言って急いで準備に取り掛かるように命じる。命令を受けて幕僚達が慌てて出て行く中、彼はザフト内部に巣食うスパイについて考えた。
(ここまで細かい情報を流出させるとなると、かなりの階級の人間がスパイとして内部にいるということか……この獅子身中の虫を退治しない限り
ザフトが勝利することは出来ないな)
如何にしてスパイを炙り出すかが問題か……と思いながら彼は防衛戦の指揮を執るべく司令室に向かった。
(地球軍は宇宙港で持久戦といったところだろう。揚陸艦に打撃を与えることが出来れば何とかなる筈だ・・・・・・)
しかし地球連合軍の動きはザフトの、いやクライスラーの予想を更に超えるものであった。
カオシュン宇宙港周辺の敵部隊をほぼ駆逐した空挺部隊は、補給と増援を受け取ると宇宙港周辺に展開していたザフト軍部隊への攻撃を開始し
それと連動するように軍港に連合軍の水中用MS部隊が上陸して橋頭堡を確保するべく侵攻を開始した。
宇宙港周辺には降下して来た地球軍を叩き潰すべく、かなりの数のザフト部隊が集結していたのだがエド達の猛攻を受け、次々に撃破されていく。
その激戦の中でも、エドの活躍は目覚しい物があった。
「まるでゴキ○リだな・・・・・・」
まるで台所に良く出る黒い害虫のごとく現れるザフト部隊を見て、かなり失礼な感想を抱くエド。
「まぁ良いさ。こんな仕事はさっさと終らせるに限りる」
まず彼は建物の影から身を乗り出してソードカラミティに攻撃を浴びせる1機のジンに向けてマイダスメッサーを投げつけ、これを撃破する。
これによって些か弾幕が薄れた隙をつくように、エドは建物の頂上伝いにザフト軍部隊の集結地に突入した。無論、これには彼の部下達も度肝を
抜かれる。
「た、隊長!」
「余り広がると各個撃破されます!!」
しかしエドはそんな意見など全く耳に入っていない。
「俺達の仕事は宇宙港周辺の掃除だ。あとは第三波以降の連中が何とかしてくれるさ」
そう言うと、彼は強引に敵の弾幕を突破して敵陣に躍り出た。エドは建物の頂上からジンの前に飛び降りるついでにジンの重突撃銃を持つ右腕を
根元から一気に対艦刀で切り落とす。慌てた他のジンが銃を向けるも、発砲する暇など彼は与えない。
「うぉおおおお!」
左右、両手に持った対艦刀を振るい残ったジンを切り捨てる。ソードカラミティの余りの戦闘力に脅えたのか、その場から逃げようとしたジンと
装甲車だったが、まもなく彼らはやっとエドに追いついてきた他の連合軍部隊によってあっけなく退路を塞がれる。
「司令部、増援を回してくれ! このままじゃあ全滅しちまう!!」
彼らは生き残るために必死に司令部に要請を出す。
『こちら司令部。現在、そちらにミサカ隊が向かっている。それまで何としても持たせてくれ』
「航空支援はないのか?!」
『その余裕はない。地球軍艦隊が接近している。恐らく地上軍主力を揚陸するためだろう。すでに連中の水中用MS部隊の上陸を確認した。
さらに空挺部隊も新たに海岸地域に降下しているとの報告がある。彼らに橋頭堡を築かれる前に叩かなければならないのだ』
兵力においてザフトを圧倒している連合軍に橋頭堡を築かれればザフト守備軍の勝機はまず無い。それが判っている故にザフトは必死にこれを
防ごうとしたが、基地に接近した連合艦隊から繰り出される圧倒的な数の航空隊とミサイルの前に手も足も出せなかった。
幾ら強力なディンとは言え、常に自分達の2〜3倍近くの数で反復攻撃を繰り返してくる連合軍航空隊と戦っては消耗を免れなかった。
そんな状態で、ディンや戦闘機を回せるわけがない。
これに加えて戦闘の序盤で主だった砲台が破壊されたのも痛かった。本来は海岸で敵軍を消耗、足止めさせる最も安価な兵器が殆ど失われたこと
がここに来て響いていた。
こうなると地球軍がカオシュンに上陸する前に輸送船ごと海に沈めるしか方法はないのだが頼みの水中用MS部隊と潜水艦隊は、先ほどの消耗を
全く感じさせないほど充実した陣容を誇る連合軍の対潜部隊の歓迎を受けてまともに揚陸母艦や空母に近づけなかった。
「何という数だ……ナチュラルの兵力は底なしか?」
フリゲート艦や対潜哨戒機を次々に撃破しているものの、一向に勢いが減る気配の無い連合軍にディアスは畏怖を覚えていた。
何しろ海の8割が連合軍の水上艦に、空の5割が対潜哨戒機や攻撃機に埋め尽くされているのだ。この光景は歴戦のディアスから見ても驚愕に
値するものだった。
『駄目です。隊長、どう足掻いても近づけません!!』
反則といっても過言ではないほどの敵の数に、ディアスの部下達は悲鳴を上げる。先ほどの戦闘で少なからざる機体が未帰還、或は再出撃不能
とされた彼らに、これだけの相手を敵に回すのは些か酷であった。少なからざる数の護衛艦艇や航空機を撃破しているものの、ジリ貧を余儀なく
されている。尤も彼らの奮闘振りに連合軍、特に正面に立たされた第5任務部隊の面々は驚愕を隠せないでいた。
「これがザフト軍の戦闘力か・・・・・・」
第5任務部隊旗艦・ヤブキのブリッジで任務部隊司令官トダカ一佐は、圧倒的少数でありながら奮闘するザフト、そして彼らと戦い続け、ついに
戦争を互角の状態に持ち込んだ連合軍の底力に畏敬の念を感じていた。
(我々は井の中の蛙だったと言う事か・・・・・・)
彼は当初こそ、オーブの理念に反するこの戦いに参加するのに消極的であった。だが今では連合軍のスムーズな指揮系統や戦訓に基づく兵器の
数々を目の辺りにして大きくその意識を変えていた。
オーブ軍の能力は戦前から定評があった。オーブの高い技術力に支えられた強力な兵器や兵員の質、そして指揮系統の強さなど様々な強みが
あった。だがそれに胡坐を掻いていては時代から取り残されるのも事実。実際にMSに苦しめられ、その戦術を身をもって体験した連合と中立を
維持して来たオーブには大きな差が存在している。
(この戦いを利用して、オーブ軍のハードだけではなく、ソフトも変革しなければならない・・・・・・二度と国土を蹂躙されないためにも)
オーブ軍は大西洋連邦軍によって解体されていたが、戦後にオーブの独立が約束されると再度結成された。勿論、オーブ攻防戦で壊滅状態で
あったので殆ど装備などなかった。このため彼らは連合軍の装備を供与されていた。当初はこの処置に反発したオーブ軍将兵だったが連合軍の
対MS戦闘を想定し、戦訓を活かした装備の性能に次第に感心させられた。これはトダカも同様だった。
彼は今のオーブのあり方については疑問を持つものの軍人としてその務めを果たそうとしていた。
「対潜哨戒機の再発進急がせろ。飽和攻撃を仕掛けて一気に蹴りをつける」
オーブ軍は高い練度に基づく命中率と連合軍との連携攻撃でザフト軍を封じ込める。撃滅こそはできなかったがかなりの戦績と言えるだろう。
このオーブ軍の奮闘振りは、連合艦隊旗艦のノアの元にも届いていた。
「それにオーブ軍の連中も頑張っているようだし、中々の出来ね」
旗艦のCICに映るモニターを見ながらノアは満足げに呟く。先程の戦闘からザフトが未だに強力な潜水艦隊を展開させていると判断した彼女は
別働隊としてカオシュンの南方に向かっていたオーブ艦隊を動員して、数でディアス達を圧倒することにしたのだ。
無論、この作戦変更でカオシュン南部への陸軍部隊の上陸はお流れになるのだが、ディアス達を封じ込められたことを考えれば十分に見合うもの
と言えた。
「提督、湾岸に橋頭堡を確保したとの報告が入りました」
「揚陸準備を急がせなさい。そんなにもたないわよ」
「わかりました」
連合艦隊が地上軍の主力を上陸させる準備に取り掛かった頃、ミサカ隊が宇宙港周辺に展開する地球軍を殲滅するべく現地に急行していた。
ミサカ隊は所属機の大半が現地改修を受けたジン、それもアサルトシュラウドを装備した強化型であり、少数だがゲイツも配備されている。
パイロットの腕も考慮するとカオシュンでも屈指の戦闘力を持っていると言える。しかしそんな精鋭部隊であっても、不満の種は存在した。
『補充も完全に済んでいないのに、全く司令部の連中は何を考えているんだ?』
部下達の不満にミサカ隊隊長のナギ・ミサカは苦笑した。彼女としても兵員の補充は必要不可欠と考えている為に彼らの不満には頷く点が多い。
「まぁ無いものねだりをしても仕方が無いわ。今は現状の戦力でベストを尽くすのよ」
だが部下の不満を抑えながら、現地に急行した彼女はやっぱり司令部に殴りこんででも補充要員を確保するべきだったと後悔した。
「よりにもよって切り裂きエド……相手が悪すぎるわ」
高台から宇宙港周辺で吹き上がる黒煙と炎の中、ザフト軍MSを次々に切り捨てているエドのソードカラミティを確認して彼女は己の不運を呪った。
「アラスカ、パナマと言い、どうしてこうも強敵にぶつかるのかしら……」
普段から運が悪いと自覚している彼女だったが、自分達の相手を見て思わず嘆いた。しかし相手が強敵だからと言って逃げることは許されない。
「……生きて帰ったら賃上げ要求してやるんだから!」
実際にはパイロットの給料は他の兵科に比べても高めなのだがその事実は彼女の考慮の範囲外のようだ。尤も彼女の相手となるエドも似たような
考えを抱いていたが。
「おいおい、また敵か? 給料にあわないな」
通算11機目のジンを切り捨てた直後にミサカ隊を確認したエドはいつもの軽口を叩く。相変わらずの上司の態度に部下達は溜息をついた。
『隊長……』
「分かっているって。で、増援のザフト軍部隊に対応しているのはどの部隊だ?」
『第5、第6小隊です』
「……なら大丈夫か」
第5小隊、第6小隊は共に貴重なGとデュエルダガーで編制されており、パイロットも相応の実力を持つ。噂のゲイツでも簡単には負けない。
だがこの2個小隊が相手にするのは、普通ではない相手であった。そしてそのことをすぐにエドたちは知る事になる。
ミサカ隊とまず衝突したのは第5小隊であった。第5小隊はデュエル1機とデュエルダガー2機で構成されており、今まで5機のジンと4両の戦車
を火力に物を言わせて撃破していた。これまでの戦果から、彼らは従来どおりミサカ隊を確認するとビームによる弾幕を張った。
だが、今回の相手はこれまで撃破してきた部隊とは格が違った。
「まったくただ撃てば良いってもんじゃないでしょうに」
巧みに建物を盾にして弾幕を凌ぎながらミサカは連合のパイロットをあざ笑う。
「私が先陣を切るわ。突撃のタイミングはそちらに任せる。いい?」
『了解です』
「援護、頼むわよ」
その直後、彼女のジンは空高く飛び上がった。
「な、何だ!?」
突如として勢い強く建物の影から、空中に飛び出した機影に連合軍パイロットは度肝を抜かれた。だが経験豊富な彼らはすぐにその正体を掴む。
「ブースター付きのジン?!」
ミサカのジンは一回きりの使い捨てのロケットブースターが背中に取り付けられていた。これはパナマ戦の際に連合軍の分厚い防衛ラインを
突破するにはジンの機動力では不足だったと言う事実から、現地の軍人達が独自に改造して取り付けたものだ。尤もこの装備が完成したのは
ジブラルタル攻防戦が始まる前日だったので、今回の使用がはじめての実戦での使用であった。
「驚くのはまだ早いわよ」
彼女は即座にロケットブースターを制御して、ジンを地上に、いや第5小隊に向けて急降下する。
慌てた第5小隊のパイロットは今まで地上にいたジンに向けていたビームライフルを彼女のジンに向けなおそうとする。
だがそうはさせないとばかりに、地上にいた他のミサカ隊のMS部隊が攻撃に出る。この中にはビームライフルを装備するゲイツの姿もあったの
で、第5小隊もGがあるとはいえ、無視する事など出来ない。このため彼女への攻撃は緩み、必然的に彼女のジンの接近を許す。
「いけええええええええ!!」
加速をつけたまま、彼女は重斬刀をデュエルの、いやビームライフルを持つデュエルの右腕の間接部に向けて振りかぶった。
不快な金属がこすれる音と共に、デュエルの右腕は根元から切り落とされる。これに動揺する連合軍パイロットをあざ笑うかのように彼女は言う。
「昔から、言うでしょう? スーパーロボットの弱点は関節部って」
そんなことはない、とスーパーロボットマニアの諸君から言われそうな台詞だったが、Gの場合は否定はできなかった。いくらPS装甲を装備
していると言っても、関節部の隙間まではさすがにカバーしきれないのだ。このためにその部分はGにとっても弱点と言える。
かと言って関節部を狙って攻撃するようなことなど、普通のパイロットでは出来はしない。もし出来ているのなら、ザフトはG相手にここまで
苦戦する事はなかっただろう。この点を見ても、彼女がいかに優秀なパイロットであるかがわかる。
哀れにも右腕を切り落とされて動揺するデュエル、だがミサカはそれに情けをかけるような女ではなかった。
「はああああ!!」
さらに彼女は右手で独自に腰に装備させたナイフを抜くと、デュエルの首に目掛けて勢いよくナイフを突き刺した。
普通ならナイフごときではデュエルにダメージを与えられなかっただろう。だがこの場合、さすがのPS装甲も意味を持たなかった。
PSは機体の全てを覆っているわけではない。関節部と同様に首は弱点と言える。この弱点を突かれたデュエルのパイロットは全てのセンサーの
機能を奪われて盲目の状態に陥った。しかし、彼にとっての悲劇はそれで終わりではなかった。
「ザフト特製のナイフの味、しっかりと味わいなさい」
彼女が右手をナイフから離して僅かな後、ナイフが爆発してデュエルの首から上が吹き飛ぶ。実はこのナイフは彼女の提案の産物であった。
従来のナイフでは十分な破壊力がないことから、彼女は使い捨てでも敵機を撃破できる性能を持つナイフを欲して司令部に上申した。
その結果がこの炸裂式ナイフだった。尤も効率的に使用できるベテランパイロットが少ないので量産は見送られていたが……。
右腕が切り落とされ、続けて首が破壊された事による内部機構へのダメージでデュエルは彼女の狙い通り行動不能に陥った。
彼女は動けなくなったデュエルを盾代わりに出来る位置にすばやく機体を滑り込ませると、腰に装備していた右手で重突撃銃を抜いて
デュエルダガーに向けて放つ。デュエルダガーのパイロットがデュエルごと彼女のジンを撃破しようとすれば、勝てたかも知れない。
だがデュエルダガーのパイロット達は瞬時にそこまで判断出来る人間ではなかった。そしてこの事実が勝敗を分けた。
ミサカ機が発射した銃弾は、寸分たがわずデュエルダガーのコックピット部分に直撃し、2機のデュエルダガーを撃破したのだ。
第5小隊壊滅との情報は即座にエドの元に報告された。
「何だって?」
さすがのエドも第5小隊がこうも短時間であっさり撃破されたことに驚きを隠せなかった。彼は即座に部下に詳細な情報を求めた。
「敵の構成は?」
『報告によれば改造が施されたジン4機、ゲイツ2機とのことです。さらにそのやり口から、かなりの熟練兵と思われます』
「……仕方ない。俺が出る。あと第6小隊にこっちと合流しろといってくれ。各個撃破されかねない」
『解りました』
だがその直後、第6小隊も壊滅したとの情報が入る。この驚くべき報告にさすがのエドも余裕の表情を消す。
さすがに、立て続けに2個小隊が壊滅したことは、彼らにとっても大きな痛手だった。
『隊長、如何します?』
「……第1、第3小隊と俺が出る。第2、第4小隊と歩兵連中は宇宙港周辺に立て持久戦を行う」
『第3小隊もですか?』
第1小隊、第3小隊は所属機がGで固められていると言うかなり反則的な部隊であり、パイロットも他の小隊とは一線を画している。
このため宇宙港の防衛を第一に考えるなら宇宙港にいる第3小隊も回すべきだと部下は進言する。だが……
「犠牲を少なくするにはこのほうが良い。下手な連中を連れて行っても無駄死にするだけだ」
彼はそう言って進言を退けると、無線を通じて2個小隊を急いで集結させる。
「第1、第3小隊集結!!」
この呼びかけに応じて2個小隊がソードカラミティの周辺に急いで集結した。
「これから第5、第6小隊の仇をうちにいく。だが2個小隊を簡単に壊滅させたことから分かるように連中はかなりの強敵だ。
今までのようにはいかない事を覚悟しておけ」
『『『了解です』』』
「……それじゃあ、行くぞ!」
エドの命令に従って、第1小隊、第3小隊がミサカ隊目指して進撃を開始する。
地球連合を代表するエースとザフトの猛者が激突する瞬間が迫っていた。
あとがき
青の軌跡第24話をお送りしました。さて次回でミサカVSエドです。
バトルが苦手な私が書ききれるかどうか非常に微妙なところですが……頑張ります。
あとジェネシス破壊のために、色々とアズラエルが動きます。さて彼の疲労はどこまで増えることやら(汗)。
駄文ですが、最後まで読んでくださりありがとうございました。
青の軌跡第25話で御会いしましょう。