大和(Y)型戦艦建造計画、新型の噴式陸上攻撃機、噴式戦闘爆撃機の配備計画、稲荷計画、トランジスタ……わずか2日の内に立て続けに日本から発信されたニュースは大日本帝国の一般市民と世界各国を驚倒させた。
 とりわけ自国民の動揺を恐れたヒトラーは「報道管制を敷け」と命じ、新型戦艦や新型ジェット機の情報の遮断に努めた。疾風と富嶽に対抗する手段を構築している最中なのに、相手が更に次のカードを繰り出してきたなどと言えるわけがない。
 またナチスの教義的にも拙かった。いくら日本人を従来の有色人種と分けていても、ここまで差をつけられたとなると、一般国民の不信を買うこともあり得る。故にヒトラーは宣伝相に命じて報道管制を徹底させた。
 ただし本人の機嫌は、某国家元帥ご自慢の急降下爆撃機のように急降下。側近たちも独裁者の苛立ちを諸に受けて胃と精神に大打撃を受けている。

「……日本人が建造する新型戦艦『タイプY』は主砲の口径を除けばビスマルクを遥かに凌駕する、と」

 総統官邸の執務室でヒトラーは面白くなさそうに呟き、机の前をぐるぐると熊のように歩き回った後、彼の近くに立っている男たちに目を向ける。

「レーダー元帥、日本帝国海軍の新型戦艦に対抗できる艦の建造は可能かね?」
「……現状では困難としか言いようがありません。現在、我が国にタイプYに匹敵する巨大戦艦を建造できる造船所はありません」

 レーダーは苦渋の顔でそう返す。

「つまり新型戦艦を建造する前に造船所を作れ、と?」
「はい」

 ヒトラーの米神が『ピクピク』と動くのを見て、側近たちは肝を冷やす。

「仮に造船所を作ったとしよう。46cm砲を超える巨砲を搭載した戦艦の建造は可能か?」

 レーダーは喉元まで出かかった罵詈雑言を必死に押しとどめて、極めて穏やかな口調で答える。

「不可能ではありませんが、ビスマルクを遥かに超える巨大な艦となるでしょう。建造費も高騰します。そのような巨大艦を建造した場合、空母や護衛艦の整備に支障がでます」

 今のドイツ海軍はバルト海防衛と通商破壊が関の山だった。航路防衛のため駆逐艦の量産を進めているが……対空対潜能力の向上も並行して進めなければならない。さらにイラン演習の結果、ヒトラーのGoサインが出た空母の整備もある。Y型戦艦に匹敵する巨大戦艦を建造する余力はない。
 ただでさえ戦災と天災で青色吐息の他国で日本と同じことをしようとすれば、国が傾く危険があった。

「……ゲーリング、日本が繰り出す予定のジェット攻撃機に対抗する手段は?」
「各メーカーに開発を命じていますが……」

 疾風に対抗できる新型戦闘機の開発でてんてこ舞いだったドイツ空軍上層部は、日本がジェット攻撃機とジェット戦闘爆撃機の配備を行うと聞いて顔を青ざめた。
 慌ててジェット攻撃機の開発を指示することになったが、それでも形になるのは当分時間が掛かると思われた。

「それまでは、日本人にいいようにされると?」

 イラン演習の前に、散々楽観的な意見を述べて痛い目にあった経験からか、さすがのゲーリングもこの期に及んで楽観的な意見は言えなかった。
 普段ならゲーリングの醜態を見て溜飲を下げるであろうドイツ陸軍高官たちも、この問題については他人事ではない。日本陸軍と真っ向から戦えるドイツ陸軍の高官たちも、ジェット攻撃機の存在は頭が痛い問題った。何しろ制空権を取られた上で、圧倒的性能を誇るジェット攻撃機にまで襲われたら目も当てられないのだ。

(やはり制空権は奪われることを前提にして動くしかないか……地対空兵器の開発を進めなければ)

 陸軍参謀本部では「空軍の援護は期待できない」が共通認識となり、彼らは空からの攻撃から虎の子の装甲師団を守るための地対空兵器の開発に血眼となっていく。
 軍人たちが今後どのような手を打つかで頭を悩ませていた横で、これから欧州枢軸構成国や親独国家を宥めなければならない外務省関係者は一様に青ざめていた。

(疾風に対抗する手段も揃ってないのに、ジェット攻撃機? おまけに超大型戦艦の建造……どうやって各国を宥めるべきか)

 ただでさえイラン演習でケチがついている。そんな中、日本が更にドイツとの差を広げていることが明らかになれば、各国の動揺は避けられない。各国をどうやって宥めるべきか……これからの苦難を考えて、関係者は頭を抱えたかった。
 そんな軍人、外交官たち以上に日本の発表に衝撃を受けたのは、ドイツの科学者たちだった。彼らは日本がトランジスタコンピュータの開発に成功していたという事実だけでも大きな衝撃だったのに、それを10年近く隠匿していたことに愕然とした。
 後にZuse Z4と呼ばれることになるデジタルコンピュータの開発を進めていたドイツ人技術者コンラート・ツーゼは、日本人の発表を聞いて「信じられん」と頭を振った。しかし優秀な技術者であるが故に、彼は日本人の発表が事実であると知ると、日本人が成したことが何を意味するか正確に理解した。

「日本の技術力が異様に伸びた理由が分かった」

 彼はかつて航空機工場で働いていた。その際、航空機開発にどれだけの計算が必要になるかを嫌というほど知った。故にこの画期的な計算機がどれほどの威力を発揮するかを瞬時に理解することが出来た。同時に彼はドイツの科学力が日本に後れを取っていることを改めて認識した。
 しかし計算機に関する衝撃はここでは終わらない。数学者たちはこの画期的な計算機が暗号解読に使用できることを悟り、それを情報部に報告した。その結果、情報機関関係者は軒並み青ざめた。そして情報部経由で学者たちの見解を聞かされたヒトラーも同様に顔を青ざめた。

「つまり、我々の行動がすべて筒抜けだったかも知れない、と?」
「可能性は否定できません」

 ドイツの軍事諜報機関のトップを務める国防軍情報部部長カナリス大将の報告を聞いたヒトラーはその意味を理解すると蝋人形のように青ざめた。
 そしてすぐにこの事実を見抜けなかった情報機関を散々に罵倒し始める。

「どいうもこいつも、大きな口を叩いて予算と資源を要求する癖に、碌な仕事をしようとしない!」

 独裁者の癇癪に、側近たちは震え上がる。
 独裁者の罵詈雑言に反論できる者も、独裁者を諌められる者も総統官邸に存在しなかった。ヒトラーの言う通り、情報部はろくな情報を祖国に齎さなかったからだ。
 プライドが高いこの男は、自分たちが道化になっていたかも知れないと思えば思うほど、怒りのボルテージを上げていく。

「情報部は昼寝でもしていたのか! それとも日本人に金でも積まれたか!!」
「そのようなことはありません」
「ならば、情報部は無能揃いの給料泥棒か!」
「戦前、我々の主な任務は米英仏ソに対する活動です。予算が無限ではない以上は……」
「煩い、言い訳など聞きたくもない! 必要なのは結果だといっているだろう!! それにも関わらずイラン演習と同様の醜態を晒すとは、何を考えている!?」

 頭に響く甲高い声でヒトラーは情報部の失態をなじる。

「これでは対日戦以前の問題だ!」

 情報戦で負け、制空権も満足に取れない。制海権は言うまでもない。これでは戦いにならない。ドイツ陸軍自慢の装甲師団も、日本軍にスコアを献上するだけの存在に成り下がりかねない。自国軍人(特に陸と空)の精強さについてはヒトラーも認めるところだが、ここまで不利な状況で戦えるとは到底思えない。
 画期的な電子計算機を有する日本との技術開発能力の差も無視できない。新兵器開発競争に敗れることが何を意味するか……それは言うまでもない。

(日本人は穀物生産能力を劇的に向上させるつもりだ。これが何を意味するか……)

 ただでさえアジア圏は膨大な人口を抱えている。これを養うどころか、人口を増やすことができるようになれば欧州にとっては大きな脅威となる。
 また安価な食糧によって国情が安定すれば、アジア圏の成長は加速していく。巨大な人口と経済、それを存分に使って軍事力を増強すれば何が起こるか……そこまで考えたとき、ヒトラーは底知れぬ恐怖に襲われた。

(我々を超える速さで進歩するであろう日本製兵器を装備したアジア連合軍が西進するようなことがあれば……)

 部下を詰るヒトラーの脳裏に圧倒的物量によってドイツ軍が次々に押しつぶされ、灰燼に帰していく西欧(特にドイツ諸都市)の幻影が浮かぶ。
 その幻影に対する恐怖が、ますます情報部への怒りを煽り立てる。しばらくしてカナリスを一通り罵った後、ヒトラーは件の工作を思い出す。

「カナリス提督、これまでの度重なる失態、目に余るものがある」
「……」

 ドイツ海軍大将ヴィルヘルム・カナリスは国防軍情報部部長から解任されることを覚悟した。だがその直後に出てきたヒトラーの言葉は想像とは違うものだった。

「だが余は提督のこれまでの功績も評価している。故に最後の機会を与えよう」
「最後の機会、ですか?」
「君も知っているだろうが、我々は環太平洋諸国会議に関して外交工作を進めている。そこで君が十分な功績を残せば……これまでの失態にも目を瞑ろう。どうだね?」

 それは実質的な命令であった。

「仮に今回の件でも失態を犯すのなら、国防軍情報部には深刻な問題があると見なし、改革に着手せざるを得ないだろうな」

 カナリスとしては悪戯に日本を刺激しかねない工作に反対だったが、国防軍情報部を守るためにも「否」ということはできなかった。



              提督たちの憂鬱外伝 戦後編24



 ナチスドイツ首脳と同様に頭を抱えたのは、イギリス政府首脳だった。
 辻経由である程度の情報は渡されていたため、事前情報がなかったドイツ人ほど衝撃は受けなかったが、それでも日本だけが次のステージに歩みつつあることを知って心穏やかではいられない。

「Y型戦艦に対抗できる戦艦の建造は困難。疾風に対抗する手段もない現状で新型機『天山』は一部の部隊では配備済み。加えて日本側はトランジスタを熟した技術と考え、すでに次世代の技術の開発中。稲荷計画も成功する可能性が極めて高く、今後アジア圏の経済成長は確実。日本が投下している膨大な資本も回収できる見込みか……」

 円卓会議の席でモズリーの話を聞いたお歴々は軒並み頭を抱えた。

「ははは。ここまで差をつけられると笑えてくるな……」

 モズリーはやけくそ気味にひとしきり笑った後、円卓を思いっきり殴りつけた。

「どうしてここまで日本人に差をつけられたのだ! 彼らは近代化を開始して100年も経っていない。30年ほど前には我々が造った戦艦を購入していたのだぞ!!」

 怒鳴った後、肩で息をするモズリー。
だがそれを咎める者はいない。誰しも似たような思いを抱いていたからだ。

(世界を指導するために、神は我ら白人を作り給うたのではないのか?)

 日露戦争まで白人は絶対的な存在として世界に君臨していた。だが日本が日露戦争でロシアに勝つとその優位性は大いに揺らぎ、2度の大戦と日本の躍進で白人の優位性は打ち崩された。今や有色人種、特にアジア圏の黄色人種は「軍事力と科学力さえあれば、白人に勝てる」と思い始めている。
 片や白人たちは日本人を「突然変異種」とすることで、己のプライドを守っていたが……内心では自分たちの立場が急激に低下していることに恐怖も感じていた。キリスト教徒にとっては『黙示録』といわれても否定できない大西洋大津波以降の天災の数々も、「白人の世界」の終焉を匂わせるものであったことが恐怖を助長した。
 そんな状況で行われた今回の発表。東南アジア各地では日本の新たな軍備と食糧計画に期待が集まり、「これからはアジアの時代だ」との声さえ挙がっていると聞けば誰しも心穏やかではいられない。

(極東の帝国の発表に、ここまで振り回されるとは……)

 頑迷でプライドが高いイギリス紳士たちでも、今の世界の命運を握っているのは日本、より正確に言えば夢幻会と言わざるを得ない。
 しかしこのまま黙っている訳にもいかない。円卓会議の面々は冷静さを取り戻すために口を開く。

「……やはり日本人はアジア圏ではなく、独自の生存圏で進化を遂げた民族と考えたほうがよいかと」
「ふむ。日本列島は昔から多くの災害に襲われていると聞く。逃げ場のない狭い島国でその災害に耐え文明を維持できるように、日本人が独自に進化したと考えれば納得できるか。一部の人間だけで国家があそこまで隆盛するというのは無理があるからな」
「日本研究は技術面だけでなく、文化面、歴史面からも進めていく必要があるでしょう。幸い、今の大使はその手の研究を厭わないですし」

 円卓会議の面々は日本列島で頻発する災害、そしてそれに柔軟に対応する日本政府と日本国民を見て、「災害列島とも言うべき領土が日本人を形作ったのでは?」との見解を示した。尤もそのうち、モズリーをファシストと嫌う者は「日本の異常な発展が、すべて夢幻会(モズリーが提唱した『集会』のような組織)の功績ではない」と遠回しに告げ、議院内閣制を廃止しようとするモズリーをけん制する。
 しばらく肩で息をしていたモズリーは、そんな円卓会議の面々を見て何とか冷静さを取り戻す。

「……まぁ良いだろう。起きてしまったことを悔やんでも仕方ない。まだゲームは終わっていない。大英帝国が健在である限り、巻き返しの機会はある」

 主義主張に隔たりがあろうとも、彼らは不屈のジョンブル魂の持主であり、諦めることを知らない者たちだった。彼らは仕切りなおして会議を再開する。

「ここまで差がついている現状では産業界の再編と技術開発の促進と並行して、『イギリス軍を相手にするのは骨が折れる』と日本側に思わせる程度の軍事力を整備するしかないかと」

 国防大臣であるジョン・フレデリック・チャールズ・フラーの意見に、軍人たちは渋々だが頷く。

「ああ、それと暗号も色々と手を加える必要がありそうです。戦時中の件から何か切り札があると思っていましたが……」

 そう言ってフラーが視線を向けた先に座っていたイギリス秘密情報部長官スチュワート・メンジーズは渋い顔をしていた。
 何しろ10年近く、英国情報部は日本の切り札を見抜けなかったのだ。円卓会議の面々の中ではメンジーズの肩書はすでに『前長官』となっていた。
 これまでの功績もあって、社会的に首が飛ぶ程度で済むのが幸いといえる。仮に失態続きだったら……物理的に首が飛んでいても不思議ではなかったのだから。

「まぁ今回の発表で、日本の技術力が急速に発達したことに『ある程度』納得はいった。我が国も電子計算機の開発を進めたいところだが……」

 モズリーはそう言った後、ため息をつく。

(ここで公開したということは、特許対策なども十分だということだからな……くそ、日本がアメリカの黄金に目もくれなかった理由がこれか。油断も隙もない)

 極東のプレイヤーが如何に恐ろしい存在であるかを、モズリーは改めて思い知る。

(日本人からすれば、ワシントンやニューヨークの黄金など泡銭でしかなかったという訳か)

 そんな考えがモズリーの脳裏によぎる。だが彼は慌てて思考を切り替える。祖国にとって時間は黄金並に貴重なのだ。

「とりあえず軍備についてだな。本来なら、さらに軍備に国力をつぎ込みたいが……現状ではそれも難しい。国防相の言う通り、日本に対英戦を躊躇させるものを揃えるしかないだろう」

 『日本軍と互角に戦える』のが望ましいのだが……本気でそれを目指そうとすれば国が傾く程度では済まない可能性が大であった。かつてのインドのように搾れる植民地があればもう少し話は違っていたのかも知れないが……現状ではそこまで搾れる植民地がある訳がなく、日本に対抗できるように軍備増強を進めようとするなら……復興予算を削ることになる。そして仮にそんなことをしたら国民の不満が爆発して革命が起こる。

「……我が国はソ連のような政策は容易に取れないからな」

 モズリーは少しだけソ連が羨ましく思えた。
 ソ連は先の大戦で2000万人以上の国民と国を支えていた重要拠点を多数喪失していた。国防を担う赤軍も熟練の将兵を多数喪失しており、軍は崩壊寸前。経済も軍需に偏りすぎて民需は壊滅状態だった。トドメにウクライナを奪われた上に異常気象で、食糧生産能力も激減して多くの餓死者を出すなど、普通の国なら崩壊していても不思議ではなかった。
 しかしソ連政府は強力な統制力で、国家崩壊をかろうじて防いだ。民主主義国家なら、崩壊してもおかしくないほどの打撃を受けながら、彼らは何とか踏みとどまったのだ。日本やイギリスとの取引があったとはいえ、これは十分に評価できるものだった(ちなみに夢幻会の一部は「1年戦争時の地球連邦並のタフさ」と謎のコメントを残している)。
 ただしその功績の陰には、多くの犠牲があることは言うまでもない。
 特に各地の少数民族、アジアから輸入された奴隷の惨状は目を覆わんばかりのものであった。当然、円卓会議の面々にもその情報は届いている。この惨状を知った日本人の反応と共に。

「まぁアフリカの植民地人の扱いについては日本もあまり煩くない。多少磨り潰しても構わないだろうが……」

 モズリーの言うように、イギリスは露骨な奴隷制は採用していないものの、日本の目が届きにくいアフリカの鉱山などでは、英国資本は現地住民を徹底的に酷使している。窮している英国がインドを手放してからは、アフリカ現地住民の労働者の待遇改善などまず考えられなくなった。
 国家再建のためなら、黒人をある程度磨り潰しても問題ないのだ……彼らの主観においては。
 日本政府や日本の情報機関はこの手の情報をある程度は察知していたが、イギリスを批判することはない。夢幻会は現状の世界情勢では対英協調が不可欠と判断しており、悪戯にイギリスとの関係にひびを入れかねない行為をする気はなかった。

「(現状では)英国まで敵にして有色人種を解放する戦争を仕掛けるつもりはありません」

 辻経由で夢幻会の意思を聞いていたイギリスは、日本からの視線に気を配りつつもアフリカの植民地から搾取を続けることができた。
 ただし日本も対独政策のためだけに、イギリスの行為を黙認していたわけではない。日本側はイギリスに貸しを作ることでアフリカの遺伝資源収集を容易にしたかったのだ。
 現在、日本側はベルギー領コンゴを拠点としているが、足場は多い方に越したことは無いのだ。その点を考慮すると、アフリカに植民地を持つイギリスとの連携にはメリットがあった。片やベルギー側も英国と共に日本の影響力も利用して旧ポルトガル領『アンゴラ』などに枢軸(特にポルトガル本国を呑みこんだスペイン)の影響力が及ぶのを妨害しつつ、アンゴラを中心とした新ポルトガル連邦(当然、親ベルギー、親英)の構築を進めており、ベルギーも日本を利用することに余念がない。
 このような動きがスペイン人の怒りを煽り、ベルギーとイギリスの背後にいる(と思われる)日本への憎悪を募らせる要因にもなっていたが……。

「現状ではアフリカの現地住民を救うよりも、対独政策で英国やベルギーと連携しながら、遺伝資源の収集の方が国益にかないますからね」

 辻はアフリカ住民の苦難を含めた諸事情を知ってなお、そう断ずる。
 かくして日英双方の事情によって、アフリカ人労働者の苦難の日々は続くこととなった。だがこれでもまだ欧州枢軸勢力圏よりは良いという事実もある。
 夢幻会の人間が聞けば眉をひそめるであろう『アパルトヘイト政策』でさえ、今のアフリカでは『人道的』な政策と称賛されるほどなのだから、アフリカがどのような大陸であるかが窺い知れる。

「いずれにせよ、ソ連軍にはしばらくドイツの目を引き付けてもらわなければならない。ジェットエンジンの売却も考えなければならないだろう」

 だがモズリーはソ連で起きている悲劇に同情するつもりはない。むしろ、それさえ利用するのが為政者の業だった。

(このまま軍備偏重を続ければ、革命の気運はより高まる。日英露三国同盟構想を進めるにも丁度良い)

 日本が東西の経済格差でソ連崩壊を画策する一方、イギリスは現状を憂慮する『良識あるロシア人』に国家の統一を維持したまま現状を打破する方法を吹き込む。
 ただ失敗して、東西で分裂した場合に備えた工作もイギリス政府は進めている。どちらに転んでもイギリスの国益を確保できるように彼らは影で動き回っていた。
 ちなみにイギリスとしては英ソ間の繋がりをあまり表ざたにしたくはないため、英ソの秘密交渉(技術供与含む)に関してはランカスター爆撃機を改造した英ソ間無着陸横断機『ランカストリアン』を利用していた。
 この機体は燃費性能に優れ、高高度飛行に向いている航空用ディーゼルを搭載し、コクピットと客席部分は与圧化されている。また主翼のアスペクト比は長大なものとなっており、高高度巡航に適した機体となっている。当然ながらパイロットも優秀な人間が選ばれており、これまで一度もドイツ空軍に捕捉されたことがない。

「ただ、ソ連軍のテコ入れも行うが、本命は英国軍の再建と再編だ。そのあたりはどうなっている?」

 モズリーたち政治家は「今度こそ、失敗は許さん」という意思を込めた視線を軍人たちに向ける。
 軍人たちも「言われなくてもわかっている」という態度で応じる。実際、これ以上失敗すれば、栄光ある連合王国は滅亡の淵に立たされるのだから、彼らも必死だった。

「わかっています。我が軍の新兵器開発について説明するためにDMWD所属の士官を呼んでいます」

 第一海軍卿はそう言って、一人の男を円卓会議の席に招き入れる。海軍中佐の階級章を持つ男は円卓会議のお歴々を前にして気おくれすることなく口を開く。

「DMWD(Department of Miscellaneous Weapons Development:多種兵器研究開発部)のネビル・シュートです。我々は日本機動部隊に対処するため、新兵器開発を進めています。中でも滑空魚雷、誘導式ロケット兵器、疾風でも迎撃が不可能な高高度爆撃機の組み合わせは日本艦隊、そしてY型戦艦にも打撃を与えることができるでしょう」

 海軍中佐ネビル・シュートは自信満々にそう言い放つ。
 DMWDはもともと海軍の組織であったが、戦後は陸海空三軍の新兵器開発に関与するために、戦後再編されて国防省の直轄機関となって苦しい台所事情の中で新兵器開発を推し進めていた。
 ただし彼らは独特な発想に定評のあるイギリス人。それが故に、夢幻会からは「英国面」と称される独特な技術と兵器を生み出しつつあった。

「ほう、そこまで自信があると?」
「我々はいつまでも、日本人の後追いをするつもりはありません」

 実際、彼らが提唱して整えようとしている軍備の質は侮れない。

「北米の滅菌作戦では燃料気化爆弾の実戦テストも行う予定です。日本人が流す映像に比べれば多少インパクトに欠けるでしょうが、我々が無視できない実力を有していることを喧伝できます」
「ふむ」

 その後も誘導兵器やロケット、新型爆撃機などの開発状況の報告を聞いた円卓会議の面々は満足げに頷く。尤も円卓会議の文官たちは正式採用が見送られた珍兵器(例:鳩を使った誘導兵器)が多く生み出されていたことを知らない。仮に知ったら「何がしたかったのかはわかるが、どうしてそうなった?」と尋ねることは間違いないだろう。だが幸いなことに彼らはそんな事情を知ることはなく、軍人たちの報告に満足した。

「この調子なら、日本も我々を侮ることは無いでしょう」

 フラーの感想に異を唱える者はいない。しかし他の政治家は陸軍について懸念を示す。

「しかし陸軍が心もとないですな。イギリス本土軍司令部からの報告では、現状の戦力ではドイツ機甲師団相手に分が悪いと聞きますが?」

 従来の歩兵戦車と巡航戦車ではドイツ軍を相手にするのは厳しい。ソ連から得た技術を基に開発を進めた英国版スターリン3型重戦車たる『センチュリオン歩兵戦車』はようやくロールアウトしたが、その高コスト振りから年間70両の調達が関の山と言われている。
 このため英本土防衛の数的主力はセンチュリオン歩兵戦車と同じ90mm砲を搭載したクロムウェル巡航戦車であった。この戦車は車体のバランスが悪い上に、搭載砲弾数が29発という有様で現場からの評判は悪かったが、30トン程度の重量で英国本土のインフラでも十分に運用でき、日本の三式中戦車並の火力を持つために英国陸軍上層部はこの戦車を重宝していた。
 しかしこれだけ努力しても、ドイツの装甲師団と殴り合うのは厳しかった。何分、数が少ない。だが海軍と空軍が優先されている以上、陸軍の取り分は限られるのだ。
 陸軍の実情を理解しているフラーは「止むをえん」と文官たちを宥める。

「確かに正面切って戦うのは厳しい。だがこれだけの戦車を持つという事実は欧州枢軸に英本土進攻を躊躇わせる効果がある。実際、センチュリオン歩兵戦車の情報を仕入れたカエル共はドイツにパンテルの供与を求めるようになり、ドイツ側も英本土侵攻に必要な兵力を上方修正するようになっている。抑止力としては十分だ」

 フラーはドイツに英本土侵攻を躊躇させるだけでも、高価な戦車の生産には意味があると考えていた。
 兎にも角にも、軍備については一定のめどがついたと彼らは判断した。

「問題は電子計算機、そして稲荷計画についてだが……」

 このモズリーのセリフに技術者たちは顔をしかめる。イギリスで使用される計算機はいまだに機械式計算機なのだ。

「民間に開放される計算機の現物、関連技術の輸入、あるいは日本で特許、技術情報の収集を進めます。我々も独自の計算機開発を進めますが……短期間で埋められる差ではありませんので、予算と時間、それに人の投入が必要不可欠です。具体的には……」
「「「……」」」

 技術者の要求に、出席者は押し黙る。
 しかし彼らの憂鬱はまだ終わらない。

「日本の稲荷計画で開発されたような新種を作るには10年単位で時間が掛かるでしょう。また日本の発表を見る限り、この計画では新しい化学農薬の導入だけなく、農家への技術指導や流通網の整備もあるため、人員の派遣も必要になります。これに掛かる費用の見積もりですが……」
「「「………」」」

 事前に準備を進めていた日本と違って、一から準備をしなければならないイギリスの負担は重い。しかし指をくわえて見ている訳にもいかない。

「稲荷計画と同様の計画を今から我々だけで一から立ち上げるのは難しい。華南連邦の利権を餌にして、日英共同事業を立ち上げるしかないだろう」

 モズリーの意見に反対する者はいない。
 いまやイギリス連邦の支柱の一つといってもよい華南連邦において日本の影響力が伸長するのは、彼らにとって好ましくないことだったが、日英共同事業という形で繋がりを持ちながら稲荷計画の情報を入手できるとなれば十分に利益になる。
 ただ電子計算機の扱いに関しては揉めた。現在の日英関係から輸入するのは難しく、かといって独自に開発しようにも特許の問題がある。当面は機械式計算機を改良しつつ、打開策を探るしかないと彼らは判断した。
 道は険しかったが、彼らはまだ恵まれていることも理解していた。この荒廃した世界で歩める道があるのだから。
 このようなイギリス政府の動きとは別に、イギリスの上流階級は日本の華族との政略結婚をさらに進めることで日本との繋がりを確固たるものにしようとする動きがより活発なものとなった。

「王族が嫁ぐのは難しいが、貴族なら問題ないはず」

 イギリスの貴族はそう判断して、日本とのコネクションを増やすために各地で攻勢に出た。
 戦前なら極東の有色人種の帝国に嫁ぐなど、何かしらの事情がなければそうそう起こることではなかった。だが今はそれが必要と判断される時代だった。当然ながら日本語教育や日本文化、風習、日本の上流階級のマナーなどの教育は重視されるようになり、英国貴族はその手の教育に長けた人材の確保に奔走することになる。




 日本の発表を受けて動き出したのは独英だけではなかった。
 日本の発表を聞いたムッソリーニは「やっぱり、外洋じゃ勝ち目ないな」と開き直って、対日戦争では地中海での決戦(防衛戦)をより重視するようになった。ムッソリーニはもともとあまり乗り気ではなかった北米進出について更に消極的となり、権益確保だけで済ませる方針を堅持することを決意した。
 イタリア外務省では大西洋を重視するドイツが激怒するのではないかと懸念したが、ムッソリーニは外務省の懸念を一笑に付した。

「『アラビア海に展開する英海軍と戦うための戦力を引き抜くつもりか』と言ってやればいい」

 現在、伊海軍は確かに欧州枢軸随一の規模を持つが、英海軍を圧倒できる程ではない。
 たとえ日本の提案にのって反共の名目で中東での対立を緩和するとしても、紅海に欧州側の主力艦が居るのと居ないとでは外交面での影響力に大きな差が生じる。

「それに英海軍の後ろには日本海軍もいる。イランで痛い目にあったのだ。あの男もそうそう無茶なことは言わないだろう」

 だが露骨に地中海に引きこもる姿勢を見せるとドイツの不興を買う恐れもあるため、イタリアは大西洋沿岸でも仏海軍を『支援』できる程度の軍備を整えることにした。
 その一方でムッソリーニは「日英を同時に敵に回すことは絶対に避けるべき」と主張するようになる。これに真っ先に賛意を示したのはフランスだった。
 何しろ日本と英国が本格的に組めば、イギリス本土が不沈空母となって欧州枢軸の前面に立ちふさがるのだ。その脅威は北欧の比ではない。おまけにその正面に立つのはフランス本土。大西洋でも日英連合艦隊と正面から戦うことになるのはフランス海軍。どう見ても割に合わない。
 イギリスを敵視している者たちからすれば、日本の力を借りたイギリスに再び負けるなど絶対にあってはならないのだ。
 また仮に負けなくても、フランス軍とフランスは多大な被害をこうむり、植民地の維持が困難になるとの予測もあった。

「アフリカの植民地を守るためには、日英を同時に敵に回す愚は避けなければならない」

 そんな考えを抱くフランス政府は日本との交渉ルートを得ようと、日本と親しい関係にある北欧諸国に接近することにした。このため北欧、特にフィンランドでは各国の有力者と政府関係者、在フィンランド日本大使、駐在武官、フィンランドに進出した日本企業関係者の会食会が連日開かれるようになる。

「ジョンブル共は、日本の華族との政略結婚を進めることで日本との関係を再構築しようとしている。後れを取る訳にはいかん」

 フランスの外務官僚たちは、「イギリス人だけには絶対に負けたくない」と気炎を上げた。
 ただし日本とのコネクションを獲得しようと動いているのは彼らだけではない。イタリア、ハンガリーなど欧州枢軸の有力国にも似たような考えを持つ者は少なくなかった。かくして北欧は様々な勢力の思惑が交差する策謀の大地と化すことになる。
 当然のことだが、日本に最も近い国とされるフィンランドへの工作は激化することになり、フィンランド政府がその対応に大わらわとなるのは言うまでもない。
 日本の発表で色々とあわただしくなったのは別に欧州だけではない。日本とドイツによってかろうじて緩衝地帯として生かされているソビエトも同様だった。

「日本人は我々から得た資源を実に有効活用しているようだな」

 クレムリンの会議室で報告を聞いたベリヤは苦い顔でそう呟く。
 尤も出席者も似たり寄ったりで、少なくとも日本の発表を聞いて喜ぶ者はいない。戦前なら日本の足を引っ張るために策謀でも張り巡らせただろうが、現在それをやればソビエトを破滅させかねない。かといってこのまま指をくわえて見ているのも、ソビエトの利益にはならなかった。

「……情報封鎖は行うが、租界から漏れるのは時間の問題か」

 ソ連政府にとって稲荷計画の「飢えの恐怖からの解放」というフレーズは無視できないものだった。
 労働者の天国であるはずのソビエトで労働者が餓えているのに、労働者が搾取されているはずの資本主義国家では労働者が満足に食事ができるとなれば共産主義の意義が疑われる。まして労働者が餓えなくて済む資本主義国家の帝国は世界最強の軍事力を持ち、共産主義者の仇敵であるロマノフの忘れ形見を守っている。
 その事実がどんな化学反応を示すか……想像するのも恐ろしかった。
 そのような恐怖を振り払ったモトロフは口を開ける。

「確かに日本の計画は素晴らしい。だが日本の負担は決して少なくない。そのあたりに付け入る余地がある」

 この外相の意見に、フルシチョフなどの高官は冷めた目を向ける。

「また日本に富を貢ぐとでも?」
「一連の取引は『貿易』だ」
「この取引が?」
「では、それとも日本から譲歩を引き出せるだけの戦力をすぐに揃えられると? ああ、日本以外で、日本並みに物資を輸出してくれる国の紹介でも構わないが?」

 ソ連政府からすれば、もともと日本との貿易レートは業腹ものだった。しかしソ連相手に物資を輸出してくれる国家は今や日本ぐらいしか存在していない。
 そして工業化に失敗し、独ソ戦で国家の屋台骨がへし折れたソ連にとって、日本との貿易は絶対に欠かせないものとなっていた。イギリスとも交易はあるが規模はそう大きくないし、何よりイギリス自身が自国の経済再建に手一杯だった。ソ連に援助するような余裕などない。
 そのような状態で疾風ショックが起きたのだ。ソ連政府は日独によって挟撃されれば呆気なく自国が滅亡することを確信した。故に日本がソ連を容易に切り捨てられないように更に貿易レートを日本側に有利にしたのだ。ソ連を崩壊させるメリットよりも、デメリットを大きくすれば日本側も態度を変えると考えて。
 フルシチョフもその政策は理解できるが、今のレートは暴利だとも考えていた。この考えにモロトフは反論する。

「それに労働力の輸入についての口止め料、それに東トルキスタン軍への軍需物資供給も考慮してもらいたい」

 日本はソ連が中国や朝鮮から労働力を輸入するのを黙認してくれている。それだけもソ連にとっては十分に利益があった。勿論、ドイツはこのソ連の行いを奴隷貿易と言って批判しているが、ソ連側は「出稼ぎ労働者」だの、「弾圧された共産主義者が亡命してきているだけ」だのと反論している。
 実情を知る者は「ドイツとソ連。この2か国の違いは一つだけ。遺体の扱いについてだ」と評しているが……日本政府はこの事実上の奴隷貿易についても口を挟まなかった。
 このためソ連軍と東トルキスタン軍は侵攻先で現地の漢族を次々に強制徴用して好き勝手にしている。日頃から鬱憤が溜まっているソ連赤軍の兵士が人間という名の『戦利品』をどう扱っているかは言うまでもない。ソ連側は強制徴用した者たちが反抗するのを防ぐため、阿片漬けにすることさえした。
 そんな蛮行を続けるソ連軍(正確には義勇軍)と東トルキスタン軍の軍事行動を支える物資を日本はソ連側に良心価格で売却している。日本側は大陸で接収した旧米国製車両など捨て値で構わなかったという事情もある。だがイギリス経由で旧米国の大量生産技術の導入を図っているソ連にとって旧米国製車両の輸入は都合がよかった。
 おまけに日本から輸入した旧米国製車両や兵器の整備工場を作ったのは、崩壊したアメリカからカナダ経由でイギリスに亡命したヘンリー・フォードだった。のちにこれらの事情を知った嶋田は「歴史の神とやらは、流血沙汰と皮肉を愛しているのだな」とつぶやくことになる。

「……疑問だったのだが、日本人は漢族を殲滅したいと思っているのか?」

 大陸に武器と阿片をばら蒔く日本の姿勢を知っているが故のフルシチョフの質問に、モトロフは首を横に振る。

「日本人はあくまで大陸の分断と封鎖を願っているだけだ。彼らは中国人が復活するのを心底恐れているらしい。これは確度の高い情報だ」

 モトロフの視線を受けたベリヤが頷く。これを見たフルシチョフは(日本人に良い様に利用されているのでは?)と思ったが、ひとまず矛を収める。

「で、日本に更に資源を売り込むと?」
「仕方ない。日本の経済界は、まだ我々に対する警戒感が強い。一部の識者が『ロシア人は約束をすぐに反故にするから頼り切るのは危険だ』と主張していることも大きい。彼らから信用を得るにはまだ時間がかかる」
「ふん、戦前のツケか」

 スターリンの阿漕な外交や北米政策によってソ連の外交的信用は地に落ちているどころか、地に潜っている状態なので、反論することもできない。
 そのことをよく知るモトロフは苦い顔をするしかない。

「しかし日本も負担が重くなればなるほど、我が国から得られる安価な資源を手放せなくなる。インドが内戦によって崩壊すれば、日本の負担は確実に重くなる」

 ちなみにこのインド争乱に一役買っているのは旧インド共産党でもあった。  一旦、壊滅したとされる彼らは貧困や飢えに苦しむ市民を取り込み、勢力を回復しようとしていた。
 そして共産党は宗教の否定、そしてカースト制度の破壊を図っていたため、既存の体制とぶつかるのは当然だった。これに藩王国や宗教問題まで加わるのだから、インド政府も堪ったものではなかった。

「そして、いくら日本でも東南アジア、北米、インドと手を広げれば、ロシアの大地に手を入れるのは困難を極めるはず。ここも付け入るスキになる」

 モトロフは『ロシア帝国』という言葉は使わなかったが、その場にいた面々は彼の意図を理解できた。
 ようするに財布として機能するであろうソ連と、政治的理由から再建に手を貸さなければならないロシア帝国。余力があまりない日本にとってどちらが得かを考えさせるというのだ。よってソ連からすると出来るだけインドの情勢が悪化し、それが長引くのが望ましい。
 ただし同時に、「ソ連政府が支援するインドの共産勢力によってインドが内戦状態に陥った」といわれる事態は避けなければならない。

「インド共産党と我々は無関係、そう言い張れるのかね?」

 フルシチョフの問いにモトロフは渋い顔で言い放つ。

「言い張るしかない。場合によっては何かしらの譲歩も必要だと思っている」

 「また何かを切り売りしなければならない」と思った途端、出席者たちは暗澹たる気分になる。

(((日本が方針を転換するのが先か、我が国が分断されるか、それとも国家丸ごと日本の植民地にされるか、それとも英国の目論み通り帝政が復活するか……)))

 戦争が終わっても尚、ソ連は国家存亡の危機に立たされている。戦前の情勢を考えれば、信じられないほど追いつめられていると言ってよい。
 それはこの度の戦争で如何に多くのものをソ連が失ったかを如実に示していた。








 あとがき
 提督たちの憂鬱外伝 戦後編24をお送りしました。
 という訳で主だった国々の反応でした……まるまる一話使ってしましましたが(汗)。
 アメリカは滅び、ソビエトは亡国一歩手前で帝政復活か、東西分割か、或は日本の財布か(もしくは奇跡的に復活?)……トンデモナイ歴史ですね。
 さて次回以降、漸く環太平洋諸国会議に移りたいと思います。
 拙作にもかかわらず最後まで読んでくださりありがとうございました。
 戦後編25でお会いしましょう。



今回採用させていただいた兵器です。

フォレストンさんの作品(支援SSスレ その3の838)
アブロ ランカストリアン
乗員数:4名(パイロット・航法士・機関士・無線士)
全長:21.18m
全幅:37.09m
全高:5.97m
自重:21783kg
発動機:ネイピア ノーマッド1 3000馬力×4基
  最高速度:630km/h (高度12500m時)
実用上昇限度:16000m
航続距離:9500km(フェリー)
武装:非武装


辺境人さんの作品(設定スレ その20の361)
<クロムウェル>巡航戦車
全長:8.5m 全幅:3m 全高:2.6m 重量:29.9t 乗員:4名
エンジン:ロールスロイス<ミーティア>水冷ガソリンエンジン600馬力
サスペンション:トーションバー 最高速度:時速50km 航続距離:180km
装甲:砲塔前面80mm 車体前面90mm、側面34mm 背面31mm
武装:60口径90mm戦車砲×1(29発)、ベサ7.92mm機関銃×1


yukikazeさんの作品(設定スレ その20の379)
センチュリオン歩兵戦車
全長:   9.83m
車体長:  6.67m
全幅:    3.07m
全高:    2.44m
全備重量:  45.8t
乗員:     4名
エンジン: V-2-IS 4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル
最大出力: 600hp/2,000rpm
最大速度: 37km/h
航続距離: 150km
武装:   60口径90mm戦車砲×1
      7.92mmベサ重機関銃×2
  装甲厚   砲塔上部全周110 mm
      砲塔下端最厚部220 mm
      砲塔上面20 mm
      車体前面110 mm
      車体側面上部90+30 mm
      車体側面下部90 mm
      車体後面60 mm
      車体上面20 mm
      車体底面20 mm