嗚呼、我ら地球防衛軍〈6〉
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第26話
「「「………」」」
密談の席にも関わらず、転生者たちは黙りこくっていた。誰もテーブルに出ている料理に手を出さない。
だが何時までも黙ったままでは話が進まないと思ったのか、一人の男が探るように口を開く。
「どうします?」
「やってしまった以上は仕方ないだろう。
前線部隊の指揮は、土方提督に任せていた……後方でいちいち指示するよりは臨機応変な対応が出来るように。
それにプロキオンを落とした後、ヤマトとムサシの支援、敵軍の追撃を理由に行動されては罰することも出来ん」
参謀長は苦い顔だった。
「だがまさかこうなるとは思わなかった。
まぁヤマトとムサシが大暴れするのは……下手をすればオーバーキルする可能性があることは判っていたが」
「『原作』、いや歴史の修正力と言う奴でしょうか?」
「さぁな。だが問題はボラーの出方だ。プロトンミサイルやワープミサイルを地球に向かって乱打されたら……」
参謀長の台詞に誰もが冷や汗を流す。
「防衛軍はボラー連邦と戦って勝てますか?」
「防衛軍が戦線を支えている間にヤマトとムサシをボラーの首都に殴りこませるなら何とかなる……『かも』知れないが
それをやると多分、いや間違いなく防衛艦隊は壊滅するだろう。ヤマトは勝ったが屍累々といったところが関の山だな」
「「「………」」」
頭痛がしてきた参謀長は眉間を揉むと嘆息する。
「いや勝てるとは思っていたさ。しかし相手を根こそぎ殲滅ってどういうことだ……」
α任務部隊が大暴れしたことで、ガトランティス軍の大部分がシリウスに拘束された。
これによってプロキオンのガトランティス軍守備隊は無縁孤立となり、防衛艦隊の猛攻によって殲滅されることになる。
だがここで終らないのが土方という男だった。
時は遡る。
プロキオン攻略後、土方はα任務部隊のことを気に掛けていた。
「シリウスでの戦いはどうなっている?」
「最新の報告ではガトランティス軍を翻弄しているようです」
幕僚の答えに土方は少し考え込む。
「ふむ……空母部隊の派遣は可能か?」
「空母部隊ですか? 確かに派遣できますが、司令部からの命令には」
「構わん。たった2隻で敵を翻弄しているヤマトとムサシ。彼らを支援するのに何を躊躇う必要があるのだ」
自分達のためにたった2隻で死地に向かったα任務部隊。彼らを見捨てることが出来る宇宙戦士など防衛艦隊にはいない。
まして彼らには今、手持ちの兵力に余裕があるのだ。
「了解しました! ただちに空母部隊に連絡します!!」
青のコートの幕僚はすぐに通信兵に指示を出した。するとすぐに空母部隊から返答が帰ってくる。
『こちら第1航空戦隊。いつでも出撃は可能です』
『第2航空戦隊も同様です』
『護衛部隊も準備は整えています! いつでも発進できます!!』
この言葉に土方は頷く。
「よし出撃せよ。本隊も後始末が終ったら、そちらに向かう!!」
かくして宇宙空母5隻、主力戦艦2隻、巡洋艦4隻、駆逐艦16隻から構成される空母機動部隊(第51任務部隊)が本隊に先行してシリウスに全速力で向かうことになる。
「ヤマトとムサシを支援するんだ!」
第51任務部隊の人間はそう意気込む。
だが彼らは知らない。すでにヤマトとムサシによってガトランティス帝国軍は可哀想な位、フルボッコにされていたことを。
ガトランティス帝国軍がシリウスから撤退する準備を開始した頃、α任務部隊は補給と整備に追われていた。
尤も指揮官である古代守は、これ以上無茶をするつもりはなかった。
「敵の3分の1は削ったんだ。十分だろう。あとは地味な嫌がらせで十分だ」
彼らは『無理』をすることなく哨戒艦、輸送船を通り魔的に撃破、撃沈していった。
そしてその行為はガトランティス帝国軍の撤退を遅延させる効果があった。
バルゼーは甲羅の中に引篭もるかのように防御を固めれば、多少時間が掛かっても何とかなると判断したのだがその判断は些か、いやかなり甘かった。
ガトランティス帝国軍が撤退を本格的に撤退を開始する直前、プロキオンから駆けつけた第51任務部隊がシリウスに着いたのだ。
(さらに土方率いる本隊もプロキオンを完全に片付け、シリウスに向かっていた)
「敵が撤退を?」
「はい。α任務部隊の報告によれば敵はすでに総兵力の3分の1を失っているとのことです。これ以上の損害には耐えられないと判断したと思われます」
第51任務部隊司令官兼旗艦レキシントン艦長はヤマトとムサシの暴れっぷりを聞いて驚愕するが、すぐに頭を切り替える。
「α任務部隊は?」
「嫌がらせ程度の追撃をすることを提案しています」
「……そうか。ならばこの際、我々も参加させてもらおう。嫌がらせではなく本格的な追撃に」
α任務部隊の支援……それを名目に第51任務部隊は参戦する。
かくしてバルゼーの受難が始まった。
撤退しようとするバルゼー艦隊に、α任務部隊と第51任務部隊の双方から発進したコスモタイガーが襲い掛かる。
第51任務部隊の攻撃隊は総数も多いが、雷撃機仕様のコスモタイガーも多数含まれていた。
このため、対艦攻撃能力は非常に高かった。加えて対艦ミサイルも波動エネルギーを使った新型ミサイルだった。そんな凶悪なミサイルを叩き付けられたガトランティス帝国軍艦隊は次々に沈んでいく。
「密集隊形をとれ! 対空砲火を密にするんだ!!」
バルゼーは懸命に艦隊を纏めて撤退しようとするが、執拗な攻撃によって思うようにいかない。
「ここを耐え凌げばアンドロメダ星雲へ帰還できる! 踏ん張り時だ!!」
だがそう言った直後、旗艦メダルーザにも3発のミサイルが直撃する。
「左舷に被弾!」
「火炎直撃砲損傷!!」
「ぐぅ……うろたえるな!! 体勢を立て直せ!!」
5度の空襲に耐え切ったバルゼー艦隊は、被害が大きい艦艇を遺棄して再び撤退を開始しようとする。
だがその彼らの前面に信じられない光景が広がる。
「12時の方向に、地球艦隊が!?」
「何?!」
そうプロキオンから駆けつけた地球防衛艦隊が先回りして、彼らの針路を塞ぐように陣取っていたのだ。
後方にはヤマトとムサシ、そして第51任務部隊、前面には地球防衛艦隊の戦艦部隊。袋のネズミだった。
「ええい、こうなれば突撃だ! いくら波動砲が強力でも分散していれば何とかなる!」
ヤマトの波動砲を知るが故の判断だった。彼は不幸なことに拡散波動砲に関する知識がなかった。
「敵、突撃してきます」
「勇敢だ。だが……無謀でもある。拡散波動砲発射!!」
土方の命令を受け、アンドロメダを含む24隻の戦艦から放たれた拡散波動砲によってガトランティス帝国軍艦隊は全滅。
こうして後にガトランティス戦役と呼ばれる戦いは終結した。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第27話
シリウスとプロキオンに展開していたガトランティス帝国軍を、地球防衛軍が撃滅したとの情報は地球だけではなくボラー連邦にも届けられた。
一般大衆が喜ぶ中、参謀長など政治に関わる、又は精通している人間達は今後のボラーの動きに神経を尖らせた。
防衛軍司令部の執務室で報告書を読んでいた参謀長はため息を漏らすと呟くように言った。
「ボラー連邦がどう動くかが問題だ。万が一に備えて改アンドロメダ級。いや『タケミカヅチ』の建造を急ごう」
原作では『しゅんらん』という名になるはずだったこの艦は、世界各地の神話上の軍神から名前を取る事になった。
そして喧々囂々の末、日本で建造されるこの超弩級戦艦の1番艦は『タケミカヅチ』と名づけられたのだ。
「タケミカヅチ、続いて2番艦の建造も準備中だ。各州もヤマトを参考にした新型戦艦の建造を発表している。
空母部隊の実力が示されたことで、機動部隊の整備も急ピッチで進む。本格的な正規空母の建造も認められるはずだ。
あと1年で防衛艦隊は、いや地球連邦の戦力は飛躍的に強化される。しかし問題は……」
「ボラーが指をくわえて待つか、そして我が連邦の政治家達と防衛軍高官ですね」
部下の言葉に参謀長は頷く。
「そうだ。防衛軍は勝ちすぎた。おかげで自信をもってボラーと交渉することを主張する馬鹿が増えている。
まぁガミラスに逆転勝利。ガトランティスには完全勝利(主力艦損失0)。これでは過信してもおかしくない」
「そして強硬派は勝利に献策した参謀長を担ごうと目論み、穏健派は防衛軍の組織を改変し統制を強化。
さらに政府とも仲が良い参謀長を要職に据えて防衛軍の抑えに使おうと目論んでいる」
「……欝になることを言わないでくれ。ただでさえ、華やかな出番がさらに遠ざかる可能性が高いのに」
参謀長の言葉に部下は言葉に出さず突っ込んだ。
(ひょっとしてそれはギャグで言っているんですか?)
一方、ボラー連邦ではべムラーゼ首相の怒りが爆発していた。
「これはどういうことだね?」
べムラーゼの視線を受けた軍高官たちは震え上がった。ちなみに、責任者はすでに問答無用で処刑済みだ。
「我々政府は、一辺境国家の引き立て役にするために軍に予算を与えているわけではないのだ。判っているのかね?」
「も、申し訳ございません」
「言い訳や侘びはいい。何故、こうなったのだ?」
べムラーゼの問いに対して、軍高官は慌てて答える。
「は、はい。ボラー連邦艦隊が敗北したのは予期せぬ敵の新兵器のためです。
これに対して地球は我が軍とガトランティスの戦いから十分な情報を収集して打って出ました。
加えて我が軍との戦いでガトランティス側も消耗していたはずです。この差かと」
「艦隊決戦では『運悪く』旗艦が早期に撃沈され指揮系統が混乱しました。これが無ければうまく混戦に持ち込めました」
「空母戦では互角以上に戦っています。我々が弱いわけではありません」
だがべムラーゼの機嫌は直らない。
「空母戦闘だが、今回は敵に対して数で優勢な戦力をもってしても、辛勝しか出来なかったようだが?」
「彼らはアンドロメダ星雲で侵略戦争をしてきた歴戦の部隊です。地球防衛軍もガミラスと戦ってきました。
一方、我が連邦は偉大な首相閣下による指導の下で平和を謳歌してきました。よって全員が『戦争処女』です。これは大きな差になります」
首相を必死に持ち上げるボラー軍高官。しかしべムラーゼは相変わらず冷たい視線を浴びせる。
「それにしても地球の戦艦はよほど優秀なようだな。我がボラーのものとは比較にならない位に」
「せ、設計思想の差かと。我がボラーの戦艦は単艦の戦闘能力よりも数を揃えることを優先しているので」
ボラー連邦はその広大な領土を維持するために、膨大な数の宇宙船を必要としていた。
勿論、宇宙での覇権を支えるために必要となる宇宙戦闘艦の数もそれ相応の数になる。よって量産性を重視され1隻あたりの性能は抑えられていた。軍はイザとなれば数で質の面の劣勢をカバーするつもりだったのだ。
「ふむ。では我がボラーがその気になれば、彼らに打ち勝てる艦を作れるとでも?」
「勿論です。地球人が作ったものよりはるかに優秀な艦を作ってみせます! 彼らに出来て我々に出来ないことはありません!!」
実際にはボラーの技術は地球に負けるものではないし、機動要塞を建造できることを考えれば一部では地球を凌駕していた。
だがこうまで地球人の戦闘能力の高さを見せ付けられ、さらに自軍の負けが続くと誰もそうは思わなくなる。
「地球との技術交流(というか技術の強奪)も必要なのでは?」
一部の人間からは真剣にそんな声が出ていた。
べムラーゼも、もしもヤマトに匹敵する艦が作れないのであれば、それも必要になると考えていた。
しかし即座に実力行使を含む強硬路線に出ることも躊躇われた。
「狂戦士のような地球人類を屈服させるには、ボラー連邦軍を総動員するしかないのではないか?」
ボラー連邦軍と政府内部ではそんな声さえ囁かれていた。
彼らは戦争に勝てないとは思っていない。やれば勝てる……しかし、そこまでして勝つだけの意味があるのかという疑問が出ていたのだ。地球を滅ぼしたものの、ボラーも疲弊した挙句に内乱に陥るという悪夢は誰もが避けたかった。
「もはやボラーの威信を回復するにはアンドロメダ星雲に攻め込み、ガトランティス軍に痛打を浴びせるしかない。
遠征を始める前までに、必ずボラーの象徴となりえる新型戦艦を、あのヤマトに打ち勝てる艦を建造せよ!」
同時にボラー連邦は本格的に地球を脅威と見做すようになる。
彼らにとって地球は取るに足らない新興国ではなく、小さいながらもボラーと張り合うプレイヤーだった。
「地球人の目に見えるように軍事演習を行え。それと未開発の地域の探索と開発も急がせろ。
反乱分子への締め付けも忘れるな。とくにシャルバート教徒などの宗教狂いの狂信者共は徹底的に取り締まるのだ」
かくして俄かにボラー連邦の動きが活発化することになる。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第28話
ガトランティス戦役終了後、地球連邦政府は地球防衛軍の再編に乗り出した。
シリウス、プロキオンの攻略によって支配地域が急速に拡大したため、従来の組織では軍の有機的運用が難しいと連邦政府が判断したというのが発表された理由だった。
「それで、何故、私が統合参謀本部議長に就任することになるんだ?」
参謀長、もとい新たに創設された統合参謀本部の議長(以後、議長と呼称)に就任することになった男は執務室で嘆息した。
ぶつぶつと不平を漏らす議長を秘書(参謀長と同じく防衛軍司令部から異動した元部下の転生者)が宥める。
「良いじゃないですか、大出世じゃないですか」
「どうせなら、方面軍司令官のほうが良かったよ。私にさらに地味な仕事を増やすつもりか?」
「……いや、まぁ参謀長の能力が買われているってことなのでは?」
「こっちの希望とは真逆だよ。艦隊司令官どころか、一兵も指揮できない立場になるとは」
統合参謀本部は議長、副議長、宇宙軍軍令部長、空間騎兵隊総司令官、地上軍参謀総長の5人から構成される。
彼らは作戦計画の立案や兵站要求などの仕事に当る。しかし彼らに兵を直接指揮する権限はない。
統合参謀本部が出した案を大統領(又は防衛会議)が承認すると、それが正式な命令書となり防衛軍司令長官がその作戦を遂行するという形になった。
といっても現場を指揮する人間は議長と仲が良かったり、議長のシンパが多いので、いざと言うときには統合参謀本部の威光と議長個人のコネで多少は融通が利くと思われた。
「各方面軍を統括する統合軍司令官である防衛軍司令長官……あっちのほうが断然良かった」
防衛軍司令長官は太陽系、シリウス、プロキオンなどの各方面軍(宇宙軍、空間騎兵隊、地上軍の三軍の統合軍)を統括指揮する統合軍司令長官となった。これは実戦部隊の長でもあることを意味する。ちなみに司令長官には藤堂が横滑りしている。
「各方面軍が必要な戦力や物資の分配案。あと今回のシリウスの件から現場と上との意思疎通の徹底。
これにボラーを仮想敵にした戦略の作成。おまけにデザリウム戦役への備えを並行してやれ、だと?
過労死させるつもりか!?」
ボラー連邦はガトランティス戦役以後、地球連邦と交流を深めつつも、露骨に軍事力を誇示するようになった。
よって地球連邦政府はボラーと協調する傍らで、対ボラー戦争計画の策定を決定したのだ。
「まぁ議長一人で仕事をされるわけではないですし」
「一人でなくても死ねる仕事量だ! どいつもこいつも面倒ごとばかり持ってきやがって!
そのくせ、華々しい出番は皆無とは一体全体、どういう了見だ?!」
よほど不満が溜まっているのか、果てしなく愚痴は続く。
(そんなに艦隊指揮がとれないのが不満ですか……)
秘書官は乾いた笑みを浮かべる。
「まぁまぁ。それに防衛会議に手を回して、非常時には内惑星艦隊、いえ地球本土防衛艦隊だけでも統合参謀本部の直接指揮下に入れるというのは?」
「そうだな。あとは実験艦隊、例の試験運用をはじめる予定の無人艦隊。あのラジコン艦隊だけでも当面の指揮下に入れよう。
有人艦は……旗艦と直属の護衛部隊で10隻あれば良い。手持ちの部隊があれば不測の事態があっても手が打てる」
「旗艦と言うことは、無人艦艇を制御できるように?」
「そうだ。地上施設がやられたら即全滅では役に立たん。それに無人艦は有人艦艇と組み合わせてこそ役に立つものだ。
タケミカヅチで本格運用する前に小規模でも良いから試験運用するのが適当だ」
「アンドロメダは各艦隊旗艦になるので実験艦隊に回すのは無理かと」
「主力戦艦を改造すれば良い。武装を減らせば何とかなる。問題があるなら波動砲そのものも撤去して良いだろう。
艦隊旗艦に必要なのは武装ではなく指揮統制能力だ」
かくして議長(元参謀長)の苦闘が始まる。
面子を大いに傷つけられたボラー連邦は、屈辱の倍返しのためにガトランティス帝国本国のあるアンドロメダ星雲への侵攻を目論み準備を進めた。
新型艦の建造や補給基地の整備などやることは幾らでもある。だがそれをやる前にやることも多かった。
その一つが国内の反乱分子の弾圧だった。
「容赦するな!」
各地では中央政府から檄を飛ばされた秘密警察や軍が動き、反体制派を弾圧した。
特にシャルバート教には厳しい弾圧が加えられた。何しろあちこちに勢力が浸透している彼らはボラーにとっても脅威だった。
続いてボラーからの独立を図る各地のゲリラ組織が弾圧された。
「ガルマン人共が歯向かうなら、見せしめに街ごと消しても構わん!!」
ガミラスの先祖であったガルマン民族は、ボラーの支配に抵抗を続けていた。故にこの度、ボラー連邦の激しい弾圧に見舞われた。
一部のボラー人からも「やりすぎでは?」という声が挙がるほどだった。しかし総督府や現場の役人はそんな声を気にしない。
「そんな声を気にして手心を加えたら、ノルマが達成できないだろうが!」
「俺達に死ねと言うのか?!」
彼らも命が惜しかった。
こうして原作ではデスラーが来訪するまで持ち堪えたガルマン人だったが、本気になって押し潰しに来たボラー連邦に歯向かうのは困難を極めた。そしてそれは他の惑星でも同じようなものだった。
「逃げるしかない」
一部のゲリラ、特に宇宙船を保有している勢力の中には未開の惑星に脱出する者も出た。
勿論、ボラー連邦はこれらを追撃したので、各地で戦闘が行われた。だがそれは新たな国家との遭遇と戦いを呼ぶことになる。
「領空を侵犯する愚か者を殲滅せよ!」
「了解しました、父上」
前ヤマト艦長(完結編では地球艦隊司令官)が見たら、顔を引きつらせることが確実な新たな勢力が盤面に出現する。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第29話
銀河で新たな戦乱の機運が高まっている頃、地球連邦は獲得した新たな領地の開発に力を入れていた。
地球本星では開発に必要な船舶や機材が生産され、植民惑星では地球本星から送られてきた資材を使ってテラフォーミングと植民都市が建設される。
「新たなフロンティアは宇宙にある!」
マスコミはそう煽りたて、連邦政府、財界も関連する分野に投資を行った。
宇宙開発はガミラス戦役によって中断を余儀なくされていたのだが、ガミラス、ガトランティス戦役終了に伴い、再開することが出来たのだ。
加えてボラー連邦という巨大な外圧が生まれたこともあり、人類は地球連邦の下で自分達の生存圏の拡大のために団結することが出来た。これによって宇宙開発は急ピッチで進むことになる。
「人口の8割近くを失う戦争が終って、2年もしないうちにでこれだけ復興、いや飛躍できるって……」
「気にしたら負けですよ、議長」
「……そうだな」
某所でそんな会話が行われていたが、そんなことはお構い無しに人類は勢力圏の拡大に勤しんだ。
そして同時に防衛軍の再編も急がれた。各方面軍が創設され、命令指揮系統が変更されていく。
勿論、必要な事務処理は膨大なものとなり、防衛省や防衛軍の官僚達はその処理に忙殺された。議長もその一人だった。
「再編は何とか進んでいる。
あと非常時には地球本土防衛艦隊と地上軍、各州軍を統合参謀本部の直接指揮下に入れることが何とか認められた」
議長はそう呟くと議長室の椅子に背を預けた。
それを見た秘書は議長の疲れを少しでも癒すためにお茶を用意した。
「これで万が一の時に、参謀本部独自に身動きが取れます」
「まぁ、そんな事態がないようにするのが参謀本部と防衛軍司令部の仕事だろう。本土決戦など悪夢でしかない」
地球本土決戦となれば経済に途方もない悪影響が出る。
戦争には勝ったが経済は崩壊しました……では洒落にならない。まぁ種族が絶滅するよりかはマシかもしれないが。
「太陽系で戦うとすれば11番惑星などの外惑星で、最悪でも土星圏で敵を食い止めたいが……」
「しかし次に相手になるのは、暗黒星団帝国。そこまで上手くいくでしょうか?」
「判っている。だからこそ、暗黒星団帝国を敵に回すのを嫌がる人間が多いんだ」
転生者たちの中でも、イスカンダル救援に行くかどうかでは賛否両論があった。
いくら恩人だからといって、二重銀河を支配する怪物国家を悪戯に敵に回すのは危険すぎるという声もあればイスカンダル救援後に先手必勝として二重銀河に攻め込んで逆に彼らを殲滅すれば良いと主張する者もいる。
特にテレサという強力なジョーカー(超能力者)が居ることも好都合だった。
「議長としては?」
「デザリウム戦役は可能な限り避けたいが……放置していて予期せぬタイミングで攻め込まれるのは拙い。それに」
「それに?」
「放置したら、ヤマトが勝手に何かしそうで怖い」
「……た、確かに」
秘書も乾いた笑みしか浮かべられない。
「で、では?」
「原作どおり開戦が適当だろう。ただデスラーと和解していないから、イスカンダルの危機を事前に知るのは難しい。口実がいるだろう」
「どのような口実を?」
「なぁに。丁度良い口実があるじゃないか。アンドロメダ遠征の練習という口実がな」
地球連邦としてはボラーの面子に配慮するために、アンドロメダ星雲への反攻作戦に限定的に付き合うことを考えていた。しかしこれほどまでの長距離遠征。それも艦隊規模での遠征は例がない。
「α任務部隊、そして新たに編成する艦隊でイスカンダルへの表敬訪問を兼ねた練習航海をさせる。
ついでに旧ガミラス星の調査という名目もつければいい。妨害が無ければ片道3ヶ月程度で済むだろう」
「なるほど。そしてその経験を基にして、二重銀河遠征も?」
「そうだ。無駄にはならない。それに二重銀河に行かなかったとしても、防衛艦隊にとっては良い経験になる」
かくして防衛軍は新たな艦隊の整備に着手することになる。
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第30話
ガトランティス戦役と呼ばれる戦いで、地球防衛軍は遺棄されていたガトランティス帝国軍艦艇を多数鹵獲した。
鹵獲した艦艇の多くは調査された後に解体され、資源として再利用された。だが利用する価値があると思われた艦艇については改装された後、防衛艦隊に編入されることになる。
その中でも特に目立ったのが、4本滑走路を持つ大型空母と高速の中型空母であった。
「シナノ建造の前に本格的空母のノウハウを学習できるのは大きい……」
ドックの中で改装を受ける元ガトランティス軍の空母を見て、議長は満足げに頷く。
空母戦力の重要性は理解されたものの、本格的空母の建造と運用となると問題も多かった。
ムサシのデータは蓄積されていたが、やはり本格的な正規空母のデータが取れるに越したことはない。
まぁそれ以外にも問題があったのだが。
「予算の問題もありますからね……宇宙開発で思ったよりも予算が必要でしたし」
秘書の突っ込みを聞いて、議長はジト目で睨む。
「……それを言うな」
地球連邦政府は宇宙開発を重視するにつれて、防衛予算の際限のない増額に歯止めを掛けた。
産業を育成して国と国民を豊かにしたいというのが政治家達の主張だった。
おまけに急速に支配領域が拡大したせいで、防衛軍は質よりも、とりあえずは量を求められていた。
このために決戦を志向した高コストのシナノより、とりあえずは急場を凌げる鹵獲空母の整備が重視されたのだ。正規空母シナノ建造を望んでいた転生者たちは悔しがったが、どうしようもなかった。
「まぁ長距離航海に適したガトランティス軍空母を運用するというのは悪くない。『今後』のことを考えるとな」
議長はそう言って肩をすくめる動作をする。
(シナノ、いや信濃は当面は横須賀基地のドックで放置だな。何とかディンギル戦までには手を付けたいが……)
ハードの整備を進める傍らで、政治的意図を考慮しない将校の暴走をどう防止するかで防衛軍上層部は頭をひねった。
土方の行動は政治的には色々と問題が多いが、命令違反ではないし、戦術的に言えば間違っていないからだ。
「死地に向かった味方を支援するな、とは言えんからな……」
ただでさえ人的資源が困窮する地球において土方の行動は当然だったし、下手に叱責したら後が面倒になる。
今後はボラーと付き合う必要があるので、政治的な思惑を理解して動いてもらう必要もあるのだが、どうやって理解して動いてもらうかとなると問題が山済みだった。
当面は政治が苦手な将兵は地球や太陽系防衛に振り向け、政治が理解できる、又は再教育して短期間で校正する可能性がある将兵を新たに獲得した領域、他の勢力と接触する可能性が高い場所に振り向けることになった。
「下手に再教育すると、彼らの特性や長所を殺すことになりかねない」
「ガミラス戦役のときの弊害が出ましたな」
「全くだ。あの時は戦場で勝てばよかったからな」
議長は密談の席で苦い顔で言う。これに他の転生者たち、特に外交部門の人間が噛み付く。
「しかし戦争は政治の延長であることを理解してもらわないと困ります。こっちがどれだけ胃が痛い思いをしたと……」
「だが配慮しすぎて戦闘に大敗したらどうする? まぁ指揮官の苦手分野をサポートするのが幕僚なんだが、現状では満足に艦隊司令部に幕僚を置けない。そんなに人がいない。下手なのを配備しても戦場では邪魔になるだけだ」
「「「………」」」
相変わらず地球防衛軍の懐は苦しかった。
「これ以上、ボラーの機嫌を損なわないように高度な判断ができる提督を、前に出すしかないだろう。
とりあえず土方提督は本土防衛に専念してもらう。あとは気長に政治について理解してもらう。無理なら再教育した若い人間を補佐に付かせる。まぁこちらは少し時間が掛かるだろうが」
「しかし、そんな人材が戦死されたら堪りませんな……」
「勿論、作戦は慎重にする。人を無駄死にさせる余裕は防衛軍にはない」
「それは民間も同じですよ。正直、防衛軍から人を戻して欲しいくらいです。まぁ無理なのは判っていますが」
彼らは原作よりもマシな状況にも関わらず、地球連邦が零細国家であることを改めて思い知った。
「こんな状況でデザリウム戦役に挑むなんて無謀すぎません?」
「しかし、やるしかないだろう。下手に放置して二正面作戦なんてことになったら目も当てられん。
それに奴らが今行っている星間戦争を片付けた後、地球に目を向けないとも限らない。
そしてその時にボラーが地球の味方をするとも限らない」
議長の意見に不満は漏れるが反対意見は出なかった。
「こうなったらヤマトクルーが使えるときに、脅威になる連中は叩いておくに限る。勿論、地球防衛も手は抜かない」
「好戦的過ぎるのでは?」
「いつもオーバーキルするような連中だ。それなら存分に暴れてもらうさ。まぁ今でも十分に無双伝説状態だが」
「確かに」
ガミラス帝国軍の名だたる将兵達(ドメルやシュルツ等)とその艦隊とガミラス本星、白色彗星、ガトランティス帝国軍前衛艦隊の3分の1がヤマト(ガトランティス艦隊はムサシと共同だが)によって葬られている。
第三者からすれば無双といっても過言ではない。
「ではイスカンダルへ?」
「α任務部隊とアンドロメダ級2番艦『ネメシス』、主力戦艦『加賀』、宇宙空母2隻、巡洋艦4隻、パトロール艦4隻、駆逐艦12隻を
考えている」
「ネメシスをつけると?」
「収束型波動砲搭載艦はヤマトとムサシで十分だろう。あとは敵艦隊を効率よく掃討できる艦で良い筈だ。
最悪の場合はガミラスの残党も叩いてもらう必要があるからな。それに、これ以上は出せない……」
「司令官は?」
「山南提督を、と言いたいところだが、ここは彼に出てもらう」
議長が目を向けた先には原作ではヒペリオン艦隊司令官を務めた男の姿があった。
「は? 何の冗談です?」
「冗談じゃない。派遣が正式決定になったらネメシス艦長兼イスカンダル派遣艦隊司令官に任命するから……頑張ってくれ」
こうしてイスカンダルへの艦隊派遣が進められることになる。
しかしそんな中、転生者たちにとっては寝耳に水とも言うべき情報が飛び込む。
「ディンギルだと? 間違いないのか?」
議長は統合参謀本部で何度も確認させたが、虚報ではなかった。
(早すぎる。何が起こっている?)
転生者たちにも全く予期できなかった『ディンギル帝国』とボラー連邦との戦争。
それはボラーの本当の恐ろしさを地球人にはっきりと示すことになる。