嗚呼、我ら地球防衛軍〈5〉




 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第21話

 ボラー連邦軍艦隊がガトランティス帝国軍に大敗を喫し、壊滅したという情報はボラー連邦上層部に衝撃を与えた。
 有利な条件(数で勝り、さらに敵の根拠地である白色彗星を撃破している)にも関わらず、このような大敗北を喫したことはボラーの威信を失墜させるものだった。 

「首相、お待ちを。も、もう一度だけチャンスを!!」
「お前のような無能者は要らん! 連れて行け!!」

 首相官邸に弁明に訪れた軍高官は、べムラーゼの指示を受けた秘密警察の人間によって逮捕され、処刑された。

「機動要塞、それにプロトンミサイルも投入せよ。何が何でもガトランティス帝国軍を撃滅するのだ!
 いや、ここまでコケにされては銀河系にいる奴らを潰すだけでは足りん。アンドロメダ星雲への大遠征も準備せよ!!」

 怒れる独裁者べムラーゼの言葉に逆らえる人間はいなかった。
 尤もべムラーゼの介入で、戦力の結集が終っていない状況で攻勢を余儀なくされた軍の高官達の中には、大敗の責任の幾らかはべムラーゼにあると思っている者も多かった。
 だがそれを口にするのは、自分の処刑執行書類にサインするに等しい。このため彼らは必死にガトランティス帝国軍殲滅のの準備を進めた。

「今度こそは勝利して見せます!」

 だがべムラーゼの機嫌は直らない。
 
「地球人は二度も勝ち星を挙げているというのに、我が連邦はいいところ無し。何故かね?」
「ち、地球人は宇宙に進出前から同族同士で戦ってた、戦闘民族といってもよい連中です。
 それがガミラスにさえ勝ち、このたびの活躍の理由になっているのかと……」
「加えて彼らはこの前までガミラスと戦っており、準戦時体制といってもよい状態です。準備の差は大きいかと」

 軍人達の言い訳を聞いたべムラーゼは「ふん」と鼻を鳴らす。

「我が軍の軍人が得意なのは言い訳だけだな。次は必ず勝利せよ。星ごと破壊してもかまわん」



 一方、地球防衛軍ではボラー連邦軍の敗因を分析していた。

「敵の新型長距離砲。都市帝国の調査で『火炎直撃砲』という名前であることが判明しましたが、これが問題です」

 防衛軍司令部の会議室では多数の名無しキャラ達が、この新兵器にどう対処するかで話し合っていた。
 しかし波動砲の2倍もある長距離砲となると正面からの対処は難しいという結論がそうそうに出た。
 
「幸い、敵空母部隊は壊滅している。我が軍の宇宙空母やムサシを総動員すれば航空攻撃でしとめることは出来るだろう。
 それに鹵獲したデスラー艦についていた瞬間物質位相装置で奇襲することも可能だ」
 
 参謀長の意見に大艦巨砲主義者(特に波動砲を過信していた人達)がムスッとした顔をするが、反論は無かった。
 
「それとプロキオンの攻略作戦を政府に提案したいと思う。何か意見は?」
「参謀長、ガトランティス帝国軍は空母部隊こそ壊滅しましたが、打撃部隊は健在です。危険なのでは?」
「確かに危険な作戦だ。だが、このままだとボラー連邦がこの地域を制圧するだろう。連邦の今後を考えると好ましくない。
 それに……ボラー連邦が態勢を整える前に、奴らが態勢を整えて太陽系に押し寄せないとは断言できないだろう?」
「積極的自衛権の行使……ですか」
「そういうことだ。また今回、ヤマトとムサシを組ませたα任務部隊を結成し、シリウスでの独立任務に当てたいと思う」
「……ヤマトをですか?」

 何人かは嫌な予感しかしないという顔をするが、参謀長はどこぞの特務機関司令官のような黒い笑みを浮かべ言い放った。

「そうだ。ガミラス本星を滅ぼし、白色彗星さえ撃破して見せた、彼らの活躍に期待しようじゃないか」



 ここに至り、参謀長はヤマトの主人公補正を存分に使うことにしたのだ。
 勿論、それだけに頼ることはしないが利用できるものとして作戦に組み込むつもりだった。

(馬鹿とハサミは使いようだ。ガン○ムのホワイトベース隊みたいな活躍を期待するとしよう)
 
 藤堂と参謀長は防衛会議の席で、プロキオン攻略作戦を提案した。紆余曲折の末、防衛会議はこれを承認。
 地球防衛艦隊の機動戦力の半数をつぎ込んだ大作戦が行われることが決定された。
 加えて防衛軍のさらなる戦力の強化のために波動砲3門、51センチショックノン砲4連装5基という凶悪な打撃力を持った『改アンドロメダ級』とも言うべき戦艦を速やかに建造することが決定された。

「『しゅんらん』の建造が可能になったな」

 幸いというか参謀長の根回しもあり、アンドロメダ級の建造のために多数の部品が調達されていたので、建造は比較的早くできると考えられていた。
 これによって地球防衛艦隊はアンドロメダ級5隻に加え、来年中には改アンドロメダ級を2隻手に入れることになる。
 戦闘空母の建造も進められており、既存の宇宙空母と併せると原作では考えられないほど充実した戦力を地球防衛軍は持つこととなった。  

「個人的には自分が乗って指揮を取りたいが……くっ何故、私は前線に出れないんだ!?
 いやここで連邦の支配地域が広がれば前線ポストにも増えるはず。諦めるのは早い」

 参謀長は気合を入れて、このたびの作戦を成功させようと決意する。
 だがそれが、さらに自分の希望を遠ざけることに彼は気付くことはなかった。    





 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第22話

 ボラー連邦艦隊は大敗したが、勝利したガトランティス帝国軍も消耗していた。特に空母部隊は壊滅的打撃を受けた。
 航行不能になった艦は機関部を爆破後に遺棄されたが、地球防衛軍からすれば宝の山であった。都市帝国で得られた数々の技術や希少資源で味をしめた防衛軍上層部は、ただちにこれらの回収を命じた。
 勿論、ガトランティス帝国軍の攻撃を受けることを懸念して、反対する意見もあったが参謀長はこう言って退けた。 

「うち(地球)は金と資源が無いんだ。仕方ないだろう」
「「「………」」」

 世知辛かったが、軍というのは金食い虫なので、何かしらの臨時収入があるとなれば見逃せなかった。
  
「ボラーは良いな。金と資源と人的資源が有り余るほどあって……」
 
 密談の席で零れる参謀長のぼやきに、他の転生者が肩をすくめる。

「仕方ないですよ。こちらは零細の恒星系国家。彼らは銀河を支配する超大国。地力が違いすぎます」
「正直、金持ちとはあまり喧嘩したくはないですよ。というか何とかうまく付き合って、旨い汁を吸いたいものです」
「人口が減ったせいで市場も縮小していますからね……復興特需とイスカンダルやガミラスから得られた技術による技術革新で経済成長していますが、ボラーと比べると市場は小さい」

 『ずーん』と重たい空気が漂う。何はともあれ時代は変われど、世の中、金だった。  

「何はともあれ、敵から資源と技術を収奪し、それを連邦の強化に役立てよう」

 こうして防衛軍はデブリ回収業者のごとくガトランティス軍艦艇や航空機の残骸を回収していった。
 この際、一部の将校から懸念されたガトランティス軍による攻撃はなかった。
 彼らもボラー連邦軍との戦いで消耗しており、攻撃に出る余裕がなかったのだ。

「都市帝国や巨大戦艦の残骸、さらに今回回収したデブリを利用すれば1個艦隊以上の艦を楽に揃えられる。
 有人艦隊を計画以上に拡張するのは難しいが、無人艦隊の整備には使える。それに太陽系内の防衛線の構築も捗る」
 
 参謀長は上機嫌だった。



 地球防衛軍はデブリ回収業者の真似事をする傍らでプロキオン攻略作戦を急いだ。
 土方総司令自らが指揮をとるプロキオン攻略艦隊(戦艦24隻、巡洋艦48隻、宇宙空母5隻が中核)とヤマトと共に独立任務に当る予定の機動戦艦ムサシが11番惑星基地に集結していた。
 隻数こそガトランティス艦隊に劣るものの、相手は空母機動部隊が壊滅し、主力部隊も消耗していることから十分に戦えると判断されていた。
 アンドロメダの艦長室で報告を受けていた土方は険しい顔で口を開く。

「ガトランティス帝国軍の大機動部隊が壊滅していなかったら、職を賭してでも反対したな」

 土方の座る机の前に立つムサシ艦長の古代守は頷く。

「確かに」
 
 ガトランティス帝国軍が強敵であることはボラー艦隊の敗戦を見れば明らかだった。
 敵旗艦が持つ火炎直撃砲も怖いが、大戦艦が持つ衝撃砲も侮れない。また駆逐艦の機動力も馬鹿にできない。   
  
「しかしヤマトが白色彗星を潰してくれたにも関わらず、これだけ手強いとは……」
「そうだな。もしも敵艦隊がボラー艦隊と戦わずに太陽系に押し寄せていれば、苦戦は免れなかっただろう」
「敵主力だけでも脅威ですが、あれほどの空母部隊と戦うのはぞっとしません。我が軍も航空戦力を強化していますが」

 機動戦艦の指揮を執る故に、古代守は航空戦力の重要性を理解していた。
 
「やはりボラーと手を結ぶという参謀長の考えは外れではなかったな」
「はい。もっとも進はボラーを毛嫌いしているようですが」

 土方は苦笑した。
 
「あの男は頑固だし、少し青いところがある。古代艦長、いやα任務部隊司令官。頼むぞ」
「お任せください」
 
 

 ヤマトとムサシはα任務部隊を形成し、シリウス恒星系でガトランティス軍を撹乱する任務を与えられていた。
 たった2隻で後方撹乱という、どこぞのホワイ○ベース隊のような任務だが、ヤマトは艦隊で動くことに慣れていないのでこの任務は適当と思われていた。
 加えてヤマトは白色彗星を撃破したことで、ガトランティス帝国軍にも名前が轟いている。このため、ヤマトがシリウスに入り込めば、間違いなく食いつくとも予想された。 

「相手からすれば仇敵であるヤマト、そしてその準同型艦であるムサシを何としても討ち取ろうとするだろう。厳しい任務になる」
「判っています。ですがこれほどの重要任務を拒否するつもりはありません。それに我々の任務は敵の撃滅ではなく霍乱。やりようはあります」
 
 古代進こそ目立たないが、古代守はヤマトがイスカンダルから帰ってくるまで、地球を守りきった地球防衛艦隊の一翼を担った一流の、そして歴戦の宇宙戦士だった。
 その男の言葉には重みと説得力があった。

「そうか。期待しているぞ」
「吉報をお待ちください」 

 惚れ惚れとする敬礼をして、古代守はアンドロメダの艦長室を後にする。
 ムサシの初陣はもうすぐだった。





 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第23話


 地球防衛軍は満を満たして、プロキオン恒星系の攻略を開始しようとしていた。

「地球連邦は諸君らの献身に期待している」

 地球連邦大統領が直々に司令部で激励した後、藤堂長官は厳かに作戦の開始を告げる。

「地球人類の興亡はこの一戦にあり。全部隊出撃せよ!!」
『了解しました』
  
 土方は敬礼すると、作戦に参加する全艦隊に出撃を命じた。
 11番惑星基地に集結していた防衛軍艦隊は整然と隊列を整えて地表から離れていく。
 1年前はガミラスによって絶滅寸前に追いやられていた地球人類が作り上げたとは思えないほどの大艦隊だった。

「ヤマトとムサシが出撃しました」 
「続けて土方総司令の攻略艦隊も出撃しました」

 防衛軍司令部でオペレータから報告を聞いた参謀長は「ふむ」と頷くとメインスクリーンに映される宙域図を見上げる。

「プロキオン攻略作戦『アウステルリッツ』の開始だ」
「はい。いよいよガトランティス帝国に対する反攻のときです」
「そして地球が星間国家として飛躍できるかどうかの分岐点でもある。この戦いには勝たなければならない」

 地球連邦はまだ駆け出しの新興国。
 ガミラスを打ち破ったとは言え、その立場は脆弱なものだった。ボラー連邦の気が変わればどうなるか判らないのだ。
 確かにボラーは二度敗れた。二度目に至っては地球防衛艦隊の総数を遥かに超える艦艇を失っていた。
 だがそれでもボラーは立ち上がる余裕がある。それは地球では到底真似は出来ないものだった。

(赤色銀河が現れるまでは我慢だ……)



 11番惑星から出撃した後、土方艦隊と分かれたα任務部隊(といっても2隻だが)はシリウス恒星系に向かった。
 ヤマトはこれまで戦死者が皆無なので戦力低下はなく、ムサシと併せればドリームメンバーが揃っており、2隻の『破壊力』はずば抜けていると転生者たちは考えていた。

「まぁさすがに二重銀河を吹き飛ばすみたいにシリウスを崩壊させることはないだろう」
「ですが参謀長、メンバー的には『二重銀河の崩壊』の面子に近い気が……」
 
 ムサシ艦長は古代守。技術班長は彼の同期であり天才技術者である大山俊郎、機関長は山崎奨。
 コスモタイガー隊にはヤマトから転属した山本明と鶴見二郎が居る。ちなみに戦闘班長を務めるのは沖田艦長の息子だ。
 乗員のスキルは防衛軍指折り。おまけに名前ありの準主役級も多数乗っているという心強さだった。

「山南はいないし、『しゅんらん』も第7艦隊もない。波動融合反応もない。大丈夫だ。大丈夫だろう。大丈夫と思いたい」
「(湯呑みを持つ手が震えていますよ)参謀長、水と胃薬を持ってきます」 

 参謀長とその部下がオーバーキルを心配していることなど露も知らず、2隻の乗員は意気軒昂だった。
 初陣であるはずのムサシでさえ、誰もが不安を見せず、やる(殺る?)気に満ちている。

「また面倒な任務だな」
「いうなよ、トチロー。司令部もこれ以上、戦力は割けなかったんだ」
「やれやれ」

 真田に勝るとも劣らない地球の頭脳。大山俊郎はそういって肩をすくめる仕草をする。
 尤も口ではそう言いつつも、言葉とは裏腹に表情は暗くない。

「まぁ連中の情報は白色彗星の残骸から大方掴んでいる。暗号だって解読してやるよ」
「頼むぞ」




 ヤマトを含む地球防衛艦隊が出撃したとの情報を入手したバルゼー提督は直ちに迎え撃つことを決意する。
 
「地球人め、目に物見せてくれる!」

 旗艦メダルーザでバルゼーはそう言って気炎を挙げた。
 特に大帝と都市帝国を打ち破ったヤマトも居るという情報は、大帝の敵討ちに燃える彼の闘志を掻き立てた。

「提督、他の地球艦隊はどうされます?」
「ヤマト、そして準同型艦のムサシとやらを沈めるのを優先する! 他の船は後回しだ」

 バルゼーは他の艦には目もくれなかった。
 だがこれには大帝の敵討ち以外の理由もあった。
 彼は勇敢果敢な武人であるものの決して無謀な人間ではなかった。彼は現在の自軍の艦隊では地球艦隊を完全に撃滅するのは難しいと判断していたのだ。

(空母部隊は壊滅し、我が艦隊も消耗している。さらに地球人にはこちらの奥の手を知られている。これだけでも不利だ。
 加えて兵の中にはアンドロメダ星雲へ帰りたがっている者も多い)

 大帝の死や都市帝国崩壊はいつまでも隠しきれるものではなかった。このため艦隊ではかなりの情報が出回っていた。
 これによる士気の低下は甚だしかった。

(それに大帝が死んだことで本国では反乱が起こっている。おかげで補給も危うい……この際、大帝の仇であるヤマトを討ち取り、速やかに本国に帰還するのが適当だろう)  

 合理的な判断だった。だが彼は理解していなかった。相手は不可能を可能にしてきた男達だということを。 
 特に真田と大山。地球人類が誇る二大マッドサイエンティストに加え、古代兄弟を敵に回したガトランティス艦隊は散々な目に合うことになる。





 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第24話

 ヤマトとムサシはシリウス星系に侵入すると、次々にガトランティス帝国軍の拠点を攻撃していった。
 60機も艦載機が搭載できるムサシからは、ヤマト戦闘機隊の倍の数の部隊が発進しようとしていた。

『爆撃隊の護衛頼むぞ』

 ムサシ航空隊隊長である山本は、通信機ごしにムサシ航空隊副隊長である鶴見に念を押す。

『判っています。任せてください。加藤隊長には無様な真似は見せられませんから』
『いや加藤じゃない。ヤマト戦闘機隊に、だ。俺達はいまやムサシ航空隊で、今回はムサシの初陣だぞ』
『了解! ムサシはヤマトの姉妹艦だっていうことを教えてやりましょう』

 ヤマト、ムサシから出撃した戦爆連合70機による猛爆を受けるガトランティス軍は堪ったものではなかった。
 戦闘機隊が応戦したものの、圧倒的な練度と戦意を持つコスモタイガー隊によってあっさり駆逐され制空権を奪われると、あとは一方的な展開だった。

「た、助けてください! バルゼー提督、このままではこの基地は全滅してしまいます!!」
『うろたえるな! 今から救援を出す! それまで持ち堪えよ!!』
「無理です。もう、我が基地には満足に抵抗をする力が……」

 しかし基地司令官は最後まで自分の台詞を言うことはできなかった。
 ガトランティス軍シリウス方面軍第15哨戒基地司令部は、ムサシ航空隊から放たれた波動エネルギーを籠められた新型対地ミサイルによって木っ端微塵に爆砕された。

「第15哨戒基地、音信途絶しました……」 
「戦闘開始後、わずか15分で……」

 だがガトランティス軍にとっての悪夢はこれからだった。



 ヤマトとムサシのコスモタイガー隊による猛爆、そして直後に突進してきたヤマトの一撃離脱攻撃という、まさに通り魔的な攻撃によってバルゼーが築き上げた拠点は叩き潰されていった。運悪く(?)ヤマトと遭遇した輸送船など1隻残らず血祭りだった。
 
「ヤマトから攻撃を受けていると連絡してきた後、第23輸送艦隊からの通信が途絶しました!」
「第10資源採掘施設壊滅!」

 旗艦メダルーザの艦橋では、悲鳴のような声で通信兵が凶報を次々に報告する。

「護衛部隊は何をやっていたのだ!?」
「その護衛部隊も全滅したとの報告が……」
「………」

 次々に壊滅していく拠点と部隊。一方でヤマトとムサシは巧みに姿をくらましていた。

(ガトランティス帝国軍がこれほど愚弄されることになるとは……)

 ヤマトとムサシが巧みにガトランティス軍の警戒網を潜り抜けているのは、真田と大山の功績だった。
 彼らはガトランティス帝国軍の通信を次々に解読。これをもとに警戒網の穴を突いたのだ。
 しかし彼らがそれで満足する訳が無い。
 
「ついでに偽のデータも流して撹乱してやろうぜ」
「だな。あとコンピュータウイルスも混ぜて送ってやろう」

 大山と真田の悪巧みによってガトランティス軍の情報ネットワークは半ば麻痺していった。
 これで古代弟の戦闘指揮能力(?)と島の神業的な操艦能力が加わったヤマトが直接襲ってくるのだ。
 堪ったものではない。

「奴らは悪魔の化身か何かか?!」

 ガトランティス軍の将校はそう言って頭を抱えた。
 シリウス方面のガトランティス艦隊主力がα任務部隊に翻弄されたことで、プロキオン方面は手薄となった。
 その隙を突くように、地球防衛艦隊はワープを使って一気にプロキオンへ侵入していった。




「糞、迎え撃て!」

 慌ててガトランティス軍は迎撃しようとするが、数で劣るガトランティス軍は防衛艦隊によって包囲殲滅されていく。

「撃て!!」

 土方の号令を受けてアンドロメダ以下の戦艦群のショックカノンが火を噴く。
 ガトランティス軍の大戦艦がその砲火に囚われる。地球の主力戦艦を超える大型艦だったが、ショックカノンの集中砲火を受けては一溜まりもなく、轟沈した。

「敵空母が艦載機を発進させようとしています!」
「発進させてはならん!」

 先の戦いで辛うじて生き残ったガトランティス軍の大型空母(滑走路4本持ち)が攻撃機を発進させようとする。
 しかし発進させる直前に、アンドロメダから放たれた波動カードリッジ弾3発が命中。弾薬の誘爆も起こり、大戦艦の後を追う様に火達磨になった後、宇宙の塵と化した。
 逃げ惑う残った船には、防衛軍の巡洋艦以下の高速艦艇が襲い掛かる。もはや戦闘というよりリンチ状態だ。

「逃げる奴はガトランティス軍だ! 逃げない奴はよく訓練されたガトランティス軍だ!!」

 巡洋艦妙高の艦長(勿論転生者)はそう言って、逃げ惑うガトランティス軍艦隊を蹂躙した。
 プロキオンに地球防衛艦隊が来襲したとの情報を聞いて、バルゼーは自分が嵌められたことを悟った。

「おのれ、地球人どもめ!!」 
 
 何と言うが遅かった。このままではプロキオンは陥落するのは間違いない。
 そうなればバルゼー艦隊は二正面、いや三正面(ボラー軍、太陽系の地球防衛軍、プロキオンの地球艦隊)を強いられる。 

「何としても大帝の仇であるヤマトだけでも沈めておかなければ! 偵察機を出せ! 何としても見つけるのだ!!」

 この彼の願いが天に通じたのがヤマト発見の報告が齎される。  

「よし、艦隊を急行させよ!」

 かくしてシリウスにおける最後の戦いの幕が開ける。






 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第25話

 ヤマト発見の報告を受けたバルゼーは即座に艦隊を差し向けた。だがそこに居たのは大山が用意していたダミーだった。

「おのれ、小癪な!!」
 
 ダミー艦を全力で破壊した後、バルゼーは再び全方位で索敵を命じた。
 しかし帰ってきたのは『複数』の『ヤマトを発見した』という内容の報告だった。
 真田と大山特製のコンピュータウイルスによる情報ネットワークの混乱もあって、バルゼーはどれが本物のヤマトが全く判らなかった。
 さらに一部の偵察部隊からはヤマトと思われる艦がシリウスから脱出しようとしているとの報告さえあった。

「奴らの任務が我々の霍乱であったのなら、用済みと言うことで離脱しても不思議ではない……」
「提督、どうされますか?」
「艦隊を3つに分けて捜索する。兵力の分散になるがしかたあるまい。それに分艦隊とは言っても数では圧倒している。易々とは負けはせん!」 

 しかしそれこそがα任務部隊指揮官である古代守の狙いだった。
 偵察機からの報告を艦橋で聞いたこの男は、不敵な笑みを浮かべる。

「奴さん、罠にかかったな。凝ったダミーを作った甲斐があったぜ」
「ああ。トチローには感謝だな」

 古代進ならここで敵旗艦への突撃……と言う方法をとったかも知れない。だが、彼はさらに辛辣だった。

「攻撃隊発進。だが全力では攻撃するな。こちらも消耗しているように見せかけるんだ。
 それとヤマトにも『予定通りポイントRに待機』と伝えろ」
「了解」
  
 

 ムサシの攻撃隊に襲われたのは旗艦メダルーザ直属部隊から最も離れた第2部隊だった。
 だがムサシ航空隊の攻撃がいつもの精彩に欠けることを見抜いた第2部隊司令官はバルゼーにその旨を報告した後に追撃に入る。

「奴らも疲れているのだ! 追え!!」

 第二次攻撃部隊が少数であったことも、彼らの認識をより強固にした。
 だがそれは、古代守の思う壺だった。

「これだけ暴れたのだから、こっちも疲れているに違いない。いやきっとそうだ……と思い込ませる。辛辣な手だな」
「心理戦も戦術のうちさ」

 この光景を見ていた沖田(息子のほう)は戦慄する。

(これがうちの艦長か……)

 虎の子の艦載機まで出してムサシの居場所を突き止めた第2部隊はムサシだけでも撃沈するべく急進した。
 本来は戦力の結集を待つのが適当なのだが、ムサシが逃げ出したとの報告を受けてはそうは言ってられなかった。

「さて、連中をポイントRに誘導してやろう」

 こうしてムサシは巧みに付かず離れずで第2部隊を引き付け、最初の作戦通りポイントRにまで誘導していった。
加えて小数のコスモタイガーで巧みに第2部隊の動きを牽制する。このため第2部隊はいつの間にか狭い宙域に密集することになった。

「さすが兄さんだ」

 現れた敵艦隊を見て古代進は感嘆し、真田も相槌を打つ。 

「同期でも指折りの指揮官だからな、あいつは。さて古代、いつまでも見ているわけにはいかんぞ」
「勿論ですよ」
「ではいくぞ。岩盤爆破!」




 小惑星帯に隠れていたヤマトは周囲に纏っていた岩盤を爆破して姿を現す。
 ムサシの追撃に夢中になっていた第2部隊にとっては青天の霹靂であった。

「や、ヤマトです。3時の方向からヤマトが現れました!!」
「何?!」

 慌ててヤマトに艦首を向けて攻撃態勢に入ろうとする第2部隊。だがそれは遅かった。

「波動砲発射!!」

 先手必勝とばかりに、ヤマトから放たれた必殺の波動砲が第2部隊を襲う。
 ムサシ航空隊の手によって巧みに一部の宙域に追い込まれていた第2部隊は、その半数以上が波動砲の一撃の前に宇宙の塵と化した。
 
「よし、今だ。反転180度!」 

 第2部隊の多くが消滅したことを見た守はムサシを反転させ、艦首を第2部隊残存艦に向ける。

「全コスモタイガー隊発進! 本艦はこれよりヤマトと共に敵艦隊に突撃。一撃を加えた後に離脱する!!」
「「「了解」」」

 このあとの展開は言うまでもない。
 コスモタイガー隊のミサイルや、ヤマトとムサシの46センチショックカノン、艦首ミサイルが残ったガトランティス艦艇を次々に火球に変えていった。

「何という砲撃精度だ」

 大戦艦の艦長はそう唸った。
 特にヤマトの砲撃の命中率はずば抜けていた。それは古代だけでなく、砲術科チーフの南部の才覚を示すものだった。

「凄い命中率だな。沖田戦闘班長、ヤマトに負けるなよ」
「任せください! 修正、仰角+2! 撃て!!」

 航空機を先頭にして戦艦と戦闘空母が敵艦隊を挟撃するという、後に古代チャージと言われる戦術によって第2部隊は 
20分も経たないうちに1隻残らずデブリに成り果てた。一方的な勝利だった。
 



 第2部隊が文字通り全滅(軍事的な意味の全滅ではなく)したとの報告は、猛将バルゼーをも呆然とさせた。 

「馬鹿な。20分も経っていないのに、第2部隊が全滅だと?!」

 勿論、バルゼーは最初は信じなかった。
 だが急行した宙域にかつて第2部隊の艦船だった物の成れの果てが漂っているのを見ると、それが事実であることを認識せざるを得なかった。

「地球人、恐るべし……アンドロメダ星雲で叩き潰してきた蛆虫共とは比べ物にもならない」

 ガトランティス主力艦隊の3分の1が成す術も無く2隻の戦艦に捻り潰された……この事実は将兵の士気を打ち砕くには十分すぎた。
 白色彗星を砕き、シリウス恒星系の自軍拠点をいいように蹂躙し、さらに次に第2部隊を赤子の手を捻るかのように殲滅する……これまで長きに渡って侵略戦争を続けていた彼らにとっても、このような悪魔のような敵は初めてだった。

「提督……」
「判っている……」

 バルゼーは項垂れてシリウスからの、銀河からの撤退を決断する。このままでは全滅すると判断したからだ。 
 だが彼らにとっての試練はそれで終わりではなかった。
 これから彼らガトランティス帝国軍将兵は、自分達がどんな星に手を出そうとしたかを嫌と言うほど思い知ることになる。